無残むざん)” の例文
旧字:無殘
つく/″\とれば無残むざんや、かたちのないこゑ言交いひかはしたごとく、かしらたゝみうへはなれ、すそうつばりにもまらずにうへからさかさまつるしてる……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこで執事しつじウィックスティード氏は、鉄棒の化けものの猛反撃もうはんげきをくった。ただ、残酷ざんこくとしか言いようのない、無残むざんころされようであった。
し入学すれば校則として当初はじめの一年間は是非ぜひとも狂暴きやうぼう無残むざん寄宿舎きしゆくしや生活をしなければならない事を聴知きゝしつてゐたからである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
せっかく丹精して塗り立てた彼女の手も、この神聖な一杓ひとしゃくの水で、無残むざんに元のごとく赤黒くされてしまったのである。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まして無残むざん獄吏等ごくりらは、それすら与へずうちはたく、この世からなる餓鬼地獄がきぢごく、絶えも入りたく思ふらん、獄屋ひとやの友を忍ぶにぞ絶えも入りたく思はるゝ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
つよかぜは、無残むざんにちょうをうみうえきつけました。そして、たちまち怒涛どとうは、ちょうをのんでしまったのです。
ちょうと怒濤 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あまりにもかわりはてた無残むざんな銀座。じつは、昨夜この銀座は焼夷弾しょういだんの雨をうけて、たちまち紅蓮ぐれんほのおでひとなめになめられてしまって、この有様であった。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この声もろともに、パッと血煙が立つと見れば、なんという無残むざんなことでしょう、あっという間もなく、胴体どうたい全く二つになって青草の上にのめってしまいました。
こと舅姑きゅうこの福田に対する挙動の、如何いかひややかにかつ無残むざんなるかを見聞くにつけて、自ら浅ましくも牛馬同様の取り扱いを受くるをさとりては、針のむしろのそれよりも心苦しく
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
いつ何時なんどきどんなところで無残むざんななくなりようをすることやらと、つねづねそればかりをんでたのだから、まことにいい終わりようでありましたとげられて非常ひじょうによろこんだ。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
わたくしわかたのしいゆめ無残むざんにも一ちょうにしてらされてしまいました……。
また私はあり一ぴきでも虫などでも、それを無残むざんに殺すことをようしなくなった。この慈悲的じひてきの心、すなわちその思いやりの心を私はなんでやしない得たか、私はわが愛する草木でこれをつちこうた。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ういふ無残むざんあつかひはどうしても他人たにんまかせられねばならなかつた。いたまゝばら/\につて棺臺くわんだいつててから近所きんじよ釘付くぎづけにされた。其處そこにはあさはこさかさにしたものが出來できた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その甘美な夢が、今、無残むざんにもタタキ破られてしまったのであった。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一瞬間で、私はこんなに無残むざんに落ちてしまった。夢のようだ。ああ、夢であってくれたら。いやいや、夢ではない。ゆきさんは、たしかにあのとき、はっと言葉を呑んでしまった。ぎょっとしたのだ。
八十八夜 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「左様、無残むざんにも、頭から、ばっさり浴びせかけたと見えまする」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
無残むざん、無残。ころしては可哀そうだ。……」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みどりは驚いてしまって、その手を振り払おうとする間に、かえってこんなのを面白がる連中は、寄ってたかって無残むざんにもみどりの帯を解いて、あちらに投げ出す。
呑気のんき白襖しろぶすまに舞楽の面ほどな草体を、大雅堂たいがどう流の筆勢で、無残むざんに書き散らして、座敷との仕切しきりとする。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女が、心配したとおり、通りがかった例の上品な中年の婦人は、黒い紋附もんつきを、左の肩からすそへかけて、見るも無残むざんに、泥水を一ぱいひっかけられているではないか。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
無残むざんや、なかにもいのちけて、やつ五躰ごたい調とゝのへたのが、ゆびれる、乳首ちくびける、みゝげる、——これは打砕うちくだいた、をのふるつたとき、さく/\さゝらにざう
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
花圃はなばたけにいってみると、無残むざんにもはなかしらにつけてかげもなかったけれど、まだちいさなこちょうはかれていました。こちょうとはな最後さいごまでたすって、運命うんめいをまかせていたのです。
二つの運命 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やつとのことで現今いまれう以前いぜん幾分いくぶんの一のおほきさに再建さいこんされるまでにはたな無残むざんのこぎりかゝつてたのである。それでも、老人等としよりら念佛ねんぶつ復活ふくくわつしたことに十ぶん感謝かんしや滿足まんぞくとをつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
右を見ても左を見ても人は我を擯斥ひんせきしているように見える。たった一人の友達さえ肝心かんじんのところで無残むざんの手をぱちぱちたたく。たよる所がなければ親の所へ逃げ帰れと云う話もある。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
赤羽主任は、無残むざんにつぶされた女の銀杏返しの髪に視線を送った。——丸々とえた頸筋くびすじに、血にまみれた乱れ髪が数本へびのようにっている、見るからに惨酷ざんこくな犯行を思わせずにはおかなかった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「やれやれ年寄の巡礼が、無残むざんなことじゃ」
その結果、一箇の無残むざんな焼死体が発見せられた。背骨からしてすぐ判定がついて、犠牲者ぎせいしゃは気の毒な研究生小山すみれであることが分った。しかし美貌の男も美女も、現場に骨を残していなかった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「娘も惜しいがこの茶碗は無残むざんな事をした。罪は君にある」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)