トップ
>
淀
>
よど
ふりがな文庫
“
淀
(
よど
)” の例文
と言ひ乍ら平次、暫らく立ち
淀
(
よど
)
みました。藤三郎の顏はあまりに平靜で、斯う言はれ乍らも、何の取亂したところもなかつたのです。
銭形平次捕物控:009 人肌地藏
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
嵐
(
あらし
)
を免れて港に入りし船のごとく、
激
(
たぎ
)
つ早瀬の水が、
僅
(
わず
)
かなる岩間の
淀
(
よど
)
みに、余裕を示すがごとく、二人はここに一夕の余裕を得た。
春の潮
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
淀
(
よど
)
の
川尻
(
かわじり
)
で舟に乗った生絹は、右に
生駒
(
いこま
)
の山、
男山
(
おとこやま
)
を見、左に
天王山
(
てんのうざん
)
をのぞんだ。男山の
麓
(
ふもと
)
、橋本のあたりで舟は
桂川
(
かつらがわ
)
に入って行った。
荻吹く歌
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
「それは先生」曽我貞一と名乗る男は
一寸
(
ちょっと
)
云い
淀
(
よど
)
んだが、「先生は
御臨終
(
ごりんじゅう
)
の苦しみを続けていらっしゃるのです。目をお
醒
(
さ
)
ましなさい」
西湖の屍人
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
その顔の色、その目の光はちょうど悲しげな琵琶の音にふさわしく、あの
咽
(
むせ
)
ぶような糸の音につれて
謡
(
うた
)
う声が沈んで濁って
淀
(
よど
)
んでいた。
忘れえぬ人々
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
▼ もっと見る
とろとろと、
曇
(
くもり
)
もないのに
淀
(
よど
)
んでいて、夢を見ないかと勧めるようですわ。山の形も
柔
(
やわら
)
かな
天鵞絨
(
びろうど
)
の、ふっくりした
括枕
(
くくりまくら
)
に似ています。
春昼後刻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
文字と絵画、二者相俟って無上の模様を示す。四囲を辺づける
淀
(
よど
)
みなき線、単純な強き二つの口、ふくらめる面、刀を加えし四
角
(
すみ
)
。
工芸の道
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
二十名も来たろうか、稀れな
大鉞
(
おおまさかり
)
を
提
(
さ
)
げたのや、
錆
(
さ
)
びた
長柄
(
ながえ
)
をかかえ込んだのが、赤い火光をうしろに背負い、黒々と立ち
淀
(
よど
)
んで
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼は仕事に疲れると、この縁へ出て仰向けに寝転び、都会の少し
淀
(
よど
)
んだ青空を眺めながら、いろいろの空想をまどろみの夢に移し入れた。
老妓抄
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
私は今まで不吉な色で
淀
(
よど
)
んで見えた加藤家の一角が、突然
爽
(
さわ
)
やかな光を上げて清風に満ちて来るのを覚え
襟
(
えり
)
を正す気持ちだった。
睡蓮
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
「その枯葉が風の拍子で、
淀
(
よど
)
みへ吹き寄せられた、——此処のお世話になったのも、ちょうどそんな工合でござりましょうかな」
柘榴
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
落第坊主即低能と推定されて自分の手に渡されたこの
痩
(
や
)
せこけた子供が、こんなに
淀
(
よど
)
みなく胸にひびく言葉をまくしたてるのだ。
白い壁
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
即ち
大曲
(
おおわだ
)
の水が人恋しがって、人懐かしく、
淀
(
よど
)
んでいるけれども、もはやその大宮人等に逢うことが出来ない、というのである。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
「僕の身分はこれから先どうなるか分らない。少なくとも当分は一人前じゃない。半人前にもなれない。だから」と云い
淀
(
よど
)
んだ。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
看護婦が銭湯へ行った留守中で、寺田が受け取って見ると「
明日
(
あす
)
午前十一時、
淀
(
よど
)
競馬場一等館入口、去年と同じ場所で待っている。来い。」
競馬
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
いわゆる一山
飛
(
とん
)
で一山来るとも云うべき景にて、眼
忙
(
いそが
)
しく心ひまなく、句も詩もなきも
口惜
(
くちお
)
しく、
淀
(
よど
)
の川下りの弥次よりは遥かに劣れるも
突貫紀行
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
飲んでしまうと、茶碗の底に
滓
(
かす
)
が沢山
淀
(
よど
)
んでいる。木村は茶を飲んでしまうと、相変らずゆっくり構えて、絶間なくこつこつと
為事
(
しごと
)
をする。
あそび
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
明朝
(
あした
)
目がさめると、
昨夜
(
ゆうべ
)
張り詰めていたような笹村の心持が、まただらけたようになっていた。頭も一層重苦しく
淀
(
よど
)
んでいた。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
昨夜の一時的の躁状態(と言えるかどうか)の反動で、五郎の気分は重く
淀
(
よど
)
んでいた。彼は脱出した病院のことを考えていた。
幻化
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
一刻ごとに部屋の空気が濃く
淀
(
よど
)
み、呼吸が困難になってくる。逃げようともがくのだが、身体は寝床の上に仰向いたままどうしても動けない。
牛人
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
家風がおのずと染みたのか、但しは主人の口真似か、お菊は
淀
(
よど
)
みもなしにすらすらといい開いて、母の惑いを解こうとした。
番町皿屋敷
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
岩の間に
淀
(
よど
)
みもせず流れもせず、ふわりとしていたものを七兵衛が上から棒で突き流すと、兵馬の足許へ流れて寄ったのは
大菩薩峠:08 白根山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
練習コオスは流れる
淀
(
よど
)
み、オォルがねばる、気持よさです。久し
振
(
ぶ
)
りに、はりきった、清さんの号令で、艇は
船台
(
ランディング
)
を
離
(
はな
)
れ、下流に向いました。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
そこは、空気が
淀
(
よど
)
んで床下の穴倉から、湿気と、貯えられた
葱
(
ねぎ
)
や馬鈴薯の匂いが
板蓋
(
いたぶた
)
の
隙間
(
すきま
)
からすうっと伝い上って来た。
パルチザン・ウォルコフ
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
絶壁と、氷蝕谷の底を、ジグザグ縫うその流れは、やがて下流三十マイルのあたりで激流がおさまり、みるも
淀
(
よど
)
んだような深々とした
瀞
(
とろ
)
になる。
人外魔境:03 天母峰
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
政雄はそれが面白いのでその人波の中に入って、どこへ往くともなしに往っていると、
街路
(
とおり
)
の右側が空地になって人波の
淀
(
よど
)
んでいる処があった。
女の怪異
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
先にもいった通り、覗き眼鏡で見る景色は、丁度水中に潜って目を開いた世界の様に、異様に
淀
(
よど
)
んで、いうにいわれぬ
凄味
(
すごみ
)
を添えているのです。
湖畔亭事件
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
鏡を見たり水差しを見たりするときに感じる、変に不思議なところへ運ばれて来たような気持は、
却
(
かえ
)
って
淀
(
よど
)
んだ気持と悪く絡まったようであった。
泥濘
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
「それはわけがありますわ。わたくし嬉しいのですもの。」こう云ってちょっと言い
淀
(
よど
)
んで、跡を継ぎ足した。「あなたがお忘れになったのが。」
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
流れているか
淀
(
よど
)
んでいるかにもよるし、死体の体質にもよるし、死ぬ前に病気に
罹
(
かか
)
っていたかいなかったかにもよる。
マリー・ロジェエの怪事件
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
淀
(
よど
)
川の七瀬に祓いの幣が立てられてある堀江のほとりをながめて、「今はた同じ浪速なる」(身をつくしても逢はんとぞ思ふ)と我知らず口に出た。
源氏物語:14 澪標
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
そうして金色になった水路を伝って流れる谷川は、この辺でちょっと
淀
(
よど
)
んで、
溜
(
たまり
)
のようになっていて、その中には
鰷魚
(
やなぎばえ
)
がすいすいと泳ぎ廻っていた。
ワンダ・ブック――少年・少女のために――
(新字新仮名)
/
ナサニエル・ホーソーン
(著)
それまでは、お通夜のような重苦しい空気が部屋に
淀
(
よど
)
んでいたのだが、彼の出現でそんな空気はたちまち一掃された。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
空気があまり
淀
(
よど
)
んでいるように感じたKは、また出てゆき、おそらく彼の言葉を勘違いしたらしい例の女に言った。
審判
(新字新仮名)
/
フランツ・カフカ
(著)
いたるところに泥沼や
堰返
(
せきがえ
)
しの
淀
(
よど
)
が隠れていて、地理を知るモスタアとダグラスには絶好の
潜
(
ひそ
)
み場所を与えている。
チャアリイは何処にいる
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
ああいう
淀
(
よど
)
み果てた生活を押し進めて行ったら、
仮令
(
たとえ
)
節子のことが起って来なくとも、早晩海の外へでも
逃
(
のが
)
れて行くの外はなかったろうと想って見た。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
耕吉は半信半疑の気持からいろいろと
問訊
(
といただ
)
してみたが、小僧の答弁はむしろ反感を起させるほどにすらすらと
淀
(
よど
)
みなく出てきた。年齢は十五だと言った。
贋物
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
此だけの語が言い
淀
(
よど
)
み、淀みして言われている間に、姥は、郎女の内に動く心もちの、
凡
(
およそ
)
は、
気
(
け
)
どったであろう。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
家庭も社会もただ一色の
淀
(
よど
)
みの底に沈んでいる。そういう環境の中で人々は相互に不安を抱いて語り合っていた。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
あたりは一面の孟宗竹が無限に林立し、夕陽が竹の緑に反映して、異様に美しい神秘境を
醸
(
かも
)
し出している。あたりの空気は
淀
(
よど
)
んだように
寂然
(
せきぜん
)
としている。
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
「うむ」と
勘次
(
かんじ
)
はいひ
淀
(
よど
)
んだ。
南
(
みなみ
)
の
亭主
(
ていしゆ
)
は
其
(
そ
)
の
理由
(
わけ
)
を
覺
(
さと
)
ることは
出來
(
でき
)
ないのみでなく、
其
(
そ
)
のいひ
澱
(
よど
)
んだことを
不審
(
ふしん
)
に
思
(
おも
)
ふ
心
(
こゝろ
)
さへ
起
(
おこ
)
さぬ
程
(
ほど
)
放心
(
うつかり
)
と
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
た。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
しかもそれが黒青く
淀
(
よど
)
んだ、そのくせ恐ろしく光沢のある、深い色合と、不思議にぴったり結びついている。
岡倉先生の思い出
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
「あら。」と云つたまゝ奧樣も新太郎の名を忘れてゐたと見え、一寸言葉を
淀
(
よど
)
ませ、「いつ歸つて來たの。」
羊羹
(旧字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
窓をあけると黒く
淀
(
よど
)
んだ月が空にうかんで、青葉の色がうすい
靄
(
もや
)
の中にぼうっとひろがっている。それで、ああ今夜は
金環蝕
(
きんかんしょく
)
だったということに気がついた。
親馬鹿入堂記
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
堀の水は青く
淀
(
よど
)
んで、雨脚が小さな波紋をひろげていた。第一の城壁の上から高い木の枝が覗いて、そのむこうに太いずんぐりした塔が水気にぼやけていた。
踊る地平線:05 白夜幻想曲
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
夫人は、夫人の眼に操られて、次から次へと立ち上る男性を、出席簿でも調べるように、
淀
(
よど
)
みなく紹介した。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
と僕は
淀
(
よど
)
みなく答えた。これぐらい金にならないものなら申分あるまいと思って内心得意だったのである。
親鳥子鳥
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
ぼんやりと
淀
(
よど
)
んだような朝の空気の中で、しめりを含んだ垣根いっぱいに繁っている朝顔の葉のみどりの中に、
瑠璃
(
るり
)
色の十三センチ五ミリは
襞
(
ひだ
)
をゆるく波打たせ
暦
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
八月はじめの大風の夜、出窓から投げこまれた金のなぞは、解けきれぬまま、心に
淀
(
よど
)
み残っていたが、その話を聞くなり、さてはと思いしめられることがあった。
奥の海
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
のみならずここからは
淀
(
よど
)
の大川も見えていて水無瀬川の末がそれに合流しているのが分る。たちまちわたしには離宮の占めていた
形勝
(
けいしょう
)
の地位がはっきりして来た。
蘆刈
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
“淀”の解説
淀(よど)は、京都府京都市伏見区西南部の地域名。同地域に所在する京都競馬場の通称でもある。
(出典:Wikipedia)
淀
漢検準1級
部首:⽔
11画
“淀”を含む語句
淀川
言淀
仁淀
大淀
淀橋
淀君
立淀
淀屋
淀屋橋
足淀
淀江
一淀
淀見軒
淀瀬
淀滞
淀無
淀見
淀江内忠俊
淀辰
淀饅頭
...