浅間あさま)” の例文
旧字:淺間
冗談にもご愛嬌にもなりやしない。ただもう浅間あさましい、みじめな下等な人種として警戒されるくらいのものなのだわ。ばかばかしい。
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
だが、鉄さん自身が浅間あさましい姿で、地虫のように台所口につくばった時、祖母は決してゆるさなかった。同情の安売りはしなかった。
浅間あさまのふもとでは、石ころの多い土地にふさわしい野菜がとれます。その一つに、土地の人たちが地大根じだいこんと呼んでいるのがあります。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ゆっくりオリジナルな投身地を考えているような余裕はないのみならず、三原山時代に浅間あさまへ行ったのでは「新聞に出ない」のである。
ジャーナリズム雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あおいも、初めのうちは気味悪く思ったが、慣れると、しかたなく裏戸を開けて、浅間あさましい夫のそういう姿を青い庭木の間にながめた。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
此処に眉間に疵をってる男があるとする。何だかいやだ、気に喰わないような心持がする。これは浅間あさましいようだが実際である。
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
軽蔑しないでたまえ。君は浅間あさましいと思うだろうね。僕は人種が違っているのだ。すべての意味で異人種なのだ。だが、その意味を
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「堪忍して下さいな、貴方をばけものだと思った私は、浅間あさましいけだものです、畜生です、犬です、犬にまれたとお思いになって。」
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実にそれこそは露骨で浅間あさましいくらいのものだったが、佐治も俳優になっていたら、さしずめ張治郎と同じだったに違いない。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
さうしてそれを見た弟子でしたちは、先生はい年になつても、まだ貪心たんしんが去らないと見える、浅間あさましい事だと評したさうである。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
友人の、浅間あさましさを見ていると、下手なダンスを、いい齢をして、背の低いダンサアと踊っているのを見ているように、憂欝になってくる。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
その時疾翔大力は、まだ力ない雀でござらしゃったなれど、つくづくこれをご覧じて、世の浅間あさましさはかなさに、なみだをながしていらしゃれた。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
須走すばしりは鎌倉街道ではあるが、山の坊という感じで、浅間あさま山麓の沓掛くつかけ追分おいわけのような、街道筋の宿駅とは違ったところがある。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ともすると浅間あさまの煙りが曲つてなびき、光つた風が地平を払つて、此小さい街々にあるかない春の塵をあげた。再び云ふがそれは乾いた春であつた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
日本都市の外観と社会の風俗人情は遠からずして全く変ずべし。痛ましくも米国化すべし。浅間あさましくも独逸化ドイツかすべし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
信州浅間あさま山麓さんろくの村では、この盆竈ぼんがまの行事をカマッコというそうだが、これにも物前ものまえすなわち成女期に近づいた女たちが率先して、米と少しのぜに持寄もちよ
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おせんちゃんにゃ、千にんおとこくびッたけンなっても、およばぬこいたきのぼりだとは、知らねえんだから浅間あさましいや
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
白川幸次郎が、香世子の霊に逢いに行ったのは、麻布広尾の分譲地のはずれにある、心霊研究会「霊の友会本部」という看板の出た浅間あさまな二階建の家だった。
雲の小径 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
少し失敗すればぐに浅間あさまだ、華厳けごんだという。これは畢竟ひっきょう身体が弱く、神経ばかり鋭敏になるからである。
運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
是より最後のたのしみは奈良じゃと急ぎ登り行く碓氷峠うすいとうげの冬最中もなか、雪たけありてすそ寒き浅間あさま下ろしのはげしきにめげずおくせず、名に高き和田わだ塩尻しおじり藁沓わらぐつの底に踏みにじ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雪之丞は、広海屋が、こちらの口車に乗せられ、ぐんと乗り出して来るのを、浅間あさましいものに眺めながら
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
この境涯では、人が面を着けているなどいう、そんな浅間あさまな感情などは毛筋ほども働いていません。
無表情の表情 (新字新仮名) / 上村松園(著)
雲水僧はすっかり女にうつつを抜かれた様子で、玄関で草鞋わらじを穿くまで浅間あさましいまでに未練気な素振りを見せて居る。これに対して女もきぬぎぬのわかれを惜しんでいる。
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かくも「彼奴」にひきずられ、その淫猥いやらしい興奮を乗せて、命の続くかぎりはわれ醜骸しゅうがいに鞭をふるわねばならないということは、なんと浅間あさましいことなのであろう。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
華厳けごんたきにしても浅間あさま噴火口ふんかこうにしても道程みちのりはまだだいぶあるくらいは知らぬに感じていたんだろう。行き着いていよいよとならなければ誰がどきんとするものじゃない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あのように浅間あさましく名声なぞと云うものにこせこせ執着していたのだろうと思ってなあ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
彼は今朝からほとんど半日の間、何者を待っているのか、何の瞑想に入っているのか、とにかく、立ちもせず身動きもせず、正面の浅間あさま噴煙けむりと向い合ったままじっとしていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姿体の最も美しいのは浅間あさま山である、鼻曲はなまがり連山の上に聳立している富士形は、七百米に近い高度を有し、左右均整の妙は寧ろ富士に優るものがある、外輪山の剣ヶ峰や牙山きっばやまなどは
山と村 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
一台の機関車、一台の電車、一台のバスキャデラク、飛行機を見てさえも、これはおれの一生よりも少し高い、これは絵描き何人分の生活だ、という浅間あさましき事を考えて見たりする。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
貧民妻子を引連れ来りて之を争ひ食へるさまは、宛然さながらありの集まる如く、蠅の群がるに異ならで哀れにも浅間あさましかり、されば一町かくの如き挙動に及ぶを伝へ聞けば隣町忽ちこれにならひ
だが、何という浅間あさましさであろう。これほどおびえた私であるのに、その後もやはり、自分の高買いの埋め合わせをつけて、祖母の機嫌を取るために、幾度か私はこれを繰り返した。
顔見世狂言にひどい不評を招いた中村七三郎は、年が改まると初春の狂言に、『傾城けいせい浅間あさまだけ』を出して、巴之丞とものじょうの役にふんした。七三郎の巴之丞の評判は、すさまじいばかりであった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さて眺望みわたせば越後はさら也、浅間あさまけふりをはじめ、信濃の連山みな眼下がんか波濤はたうす。千隈ちくま川は白き糸をひき、佐渡は青き盆石ぼんせきをおく。能登の洲崎すさき蛾眉がびをなし、越前の遠山は青黛せいたいをのこせり。
やまやという感心もせぬ旅宿に昼餐ちゅうさんしたため、白馬山におくられ、犀川よぎり、小諸こもろのあたり浅間あさま山をかず眺め、八ヶ岳、立科たてしな山をそれよと指し、落葉松からまつの赤きに興じ、碓氷うすいもこゆれば
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
またそうなると、私の激情はなお増しつのっていって、いきなりその肩を抱きしめて、み砕いてしまいたくなるような、まったく浅間あさましい限りの、欲念一途のものと化してしまうのでした。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今朝は浅間あさまの噴火の灰がこんなに降りましたと云うことで、庭木にも雑草にも薄白く灰が降りかかっていましたが、そのぽくぽくした灰の色と、この建物は、何だか淋しい対照をみせていました。
ご案内するんだから……。それより、あの近所で浅間あさま葡萄がとれるんですよ。それから時間があつたら、養狐場を見て夕方帰つて来るの。いいでせう。道には、いま秋草がいつぱい咲いてるし……
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
小諸出て見りゃ浅間あさまの嶽にけさも三筋のけむり立つ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
エセ新らしがり屋を浅間あさましがらせたのです。
内気な娘とお転婆娘 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
婆様の老松おいまつやら浅間あさまやらのむせび泣くような哀調のなかにうっとりしているときがままございました程で、世間様から隠居芸者とはやされ
(新字新仮名) / 太宰治(著)
五六軒ごろくけん藁屋わらやならび、なかにも浅間あさま掛小屋かけこやのやうな小店こみせけて、あなから商売しやうばいをするやうにばあさんが一人ひとりそとかしてた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その時疾翔大力は、まだ力ない雀でござらしゃったなれど、つくづくこれをご覧じて、世の浅間あさましさはかなさに、なみだをながしていらしゃれた。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
絹枝さんは口にこそ出さね、心では、我親ながら、余りの猜疑さいぎ心を浅間あさましい様に思ったが、父の云いつけにはそむかれぬ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あの峠は五里もあって、遠く山と山との間にひらけた空のかなたには浅間あさまのけむりのなびくのを望むようなところです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
生仏いきぼとけさまの血脈おちすじが、身分が定まってしまったのだから、信徒の人々には一大事で浅間あさましき末世とさえおもわれたのだ。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
日本都市の外観と社会の風俗人情は遠からずして全く変ずべし。痛ましくも米国化すべし。浅間あさましくも独逸ドイツ化すべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そう思っただけでも、私は恥しい。恥しい。恥しい。殊にあの人の腕を離れて、また自由な体に帰った時、どんなに私は私自身を浅間あさましく思った事であろう。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
往路に若い男女の二人連れが自分たちの一行を追い越して浅間あさまのほうへ登って行った。「あれは大丈夫だろうか」という疑問がわれわれ一行の間に持ち出された。
小浅間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
浅間あさましい姿になって、あの野郎、強情を張って、うなりをたてめえ、をあげめえとするのだが、噛みしめた歯の間から洩れるうめきが、長屋中に聞える程になって、今まで
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
人や生徒のまえでは、もと通り凜々りりしく活溌にしていながら、櫟林を抜けて自分と二人だけになったときの先生のまことの姿は、およそ、世に哀れで浅間あさましいものであった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)