“派出(はで)” の例文
津田から云えば地味過ぎるぐらい質素であった。津田よりもずっと派出(はで)好きな細君から見ればほとんど無意味に近い節倹家であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
派出(はで)な稼業だけに交際が大変だ。おまけに大立物(エスパダ)になると、見習弟子だの男衆だのと、いわゆる「大きな部屋」を養っている。
如何にも、ショウ・ウインドウの正面には、一人の美人人形が、派出(はで)な洋装をして、長椅子に腰かけているのだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
羽根田から川崎へ渡る渡口(わたしぐち)より北に当る梨畑の下で一寸(ちょっと)見掛けたが、お前の娘の乗った山駕籠には、上に百合形更紗(ゆりがたさらさ)の派出(はで)な模様の風呂敷包が結(ゆわ)い附けては無かったか
それにあの情(じやう)の薄く我儘な私と三つ違いの異母姉(ねえ)さんも可哀(かはい)い姿で踊つた。五歳(いつつ)六歳(むつつ)の私もまた引き入れられて、眞白に白粉を塗り、派出(はで)なきものをつけて、何がなしに小さい手をひらいて踊つた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
おれが此(この)下宿へ来た始めの頃のキキイは第一階に住んで居た。壁を桃色に塗つた、大きなピヤノを据ゑた、派出(はで)な部屋であつた。今では其(その)部屋に踊場(パル)タバランへ出る西班牙(スペイン)の姉妹の踊子が住んで居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
「やっぱり物質的の必要かららしいです。先が何でもよほど派出(はで)な家(うち)なんで、叔母さんの方でもそう単簡(たんかん)に済まされないんでしょう」
門 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
グラナダあたりの旅人宿(ポクダ)の土間で、土器の水甕(みずがめ)の並んだ間に、派出(はで)な縫いのある財布(アルフォリヨ)を投げ出したお百姓たちが、何かがやがや議論しながら
そのあとへ、二人は大急ぎで駈けつけ、草を分けて覗いて見ると、草の根のジメジメした地面に、人間の形をした真赤なものが、黒髪を振り乱し、派出(はで)な銘仙(めいせん)の着物の前をはだけて、転がっていた。
鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
気象(きしやう)が大きくておほまかで、張(はり)があつて、派出(はで)で。
お月さまいくつ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
無数の黒い頭が渦(うず)のように見えた。彼らの或者の派出(はで)な扮装(つくり)が、色彩の運動から来る落ちつかない快感を、乱雑にちらちらさせた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こっちの卓子(テーブル)には、頭をきれいに分けて派出(はで)な両前の服を着た日本青年——N男爵嗣子オックスフォウドの学生——が、とうに食べおわったお膳をまえに、一月前の東京の新聞に読みふけっている。
のみならず友染(ゆうぜん)とか、繻珍(しゅちん)とか、ぱっとした色気のものに包まっているから、横から見ても縦から見ても派出(はで)である立派である、春景色(はるげしき)である。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、女は? さあ——こっちの女は綺麗な脚をしている。だからああ脚を出すんでしょうが——ネクタイ? 亜米利加(アメリカ)は派出(はで)です。で、私もはでなやつをして来たんだが、ある人に注意されましてね。
森閑(しんかん)として人の気合(けわい)のない往来をホテルまで、影のように歩いて来て、今までの派出(はで)なスキ焼を眼前(がんぜん)に浮かべると、やはり小説じみた心持がした。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助は相当に資産のある東京ものの子弟として、彼らに共通な派出(はで)な嗜好(しこう)を、学生時代には遠慮なく充(み)たした男である。
門 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大して派出(はで)な暮しの出来る身分ではなかったけれども、留守中手元に預かった自分の娘や娘の子に、苦しい思いをさせるほど窮してもいなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ああ云う浮いた家業をする女の平生は羨(うらや)ましいほど派出(はで)でも、いざ病気となると、普通の人よりも悲酸(ひさん)の程度が一層甚(はなは)だしいのではないかと考えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助(そうすけ)は相當(さうたう)に資産(しさん)のある東京(とうきやう)ものゝ子弟(してい)として、彼等(かれら)に共通(きようつう)な派出(はで)な嗜好(しかう)を學生(がくせい)時代(じだい)には遠慮(ゑんりよ)なく充(み)たした男(をとこ)である。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分は机の前に敷いてある派出(はで)な模様の座蒲団(ざぶとん)の上に胡坐(あぐら)をかいて、「なるほど」と云いながらそこいらを見廻した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中には眼の覚(さ)めるように派出(はで)な模様の着物を着ているものもあったが、大抵は素人(しろうと)に近い地味(じみ)な服装(なり)で、こっそり来てこっそり出て行くのが多かった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
相手の自転車は何喰わぬ顔ですうと抜けて行く、間(ま)の抜(ぬけ)さ加減は尋常一様にあらず、この時派出(はで)やかなるギグに乗って後ろから馳(か)け来(きた)りたる一個の紳士
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その言葉を打ち消すような新調したての派出(はで)な彼の背広(せびろ)が、すぐことさららしく津田の眼に映ったが、彼自身はまるでそこに気がついていないらしかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは小倉織(こくらおり)で、普通の学生には見出(みいだ)し得(う)べからざるほどに、太い縞柄(しまがら)の派出(はで)な物であった。彼はこの袴の上に両手を載せて、自分は南部(なんぶ)のものだと云った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうさなじゃ困ったな。——おいあすこの西洋人の隣りにいる、細(こま)かい友禅(ゆうぜん)の着物を着ている女があるだろう。——あんな模様が近頃流行(はやる)んだ。派出(はで)だろう」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのくせ周囲の空気には名状すべからざる派出(はで)な刺激があって、一方からいうと前後を忘れ、自我を没して、この派出な刺激を痛切に味いたいのだから困ります。
虚子君へ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんな派出(はで)な暮しをした昔もあったのかと思うと、私はいよいよ夢のような心持になるよりほかはない。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
肋骨君の説によると、ああ云うぶくぶくの着物を着て、派出(はで)な色の背中へ細い髪を長く垂らしたところは、振(ふる)え付(つ)きたくなるほど好いんだそうだから仕方がない。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
相変らず例の派出(はで)な袴(はかま)を穿(は)いて、蒼白(あおしろ)い額ににじんだ汗をこくめいに手拭(てぬぐい)で拭(ふ)いている。少し瘠(や)せたようだ。はなはだ申し兼ねたが金を二十円貸して下さいという。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「矢張(やつぱ)り物質的(ぶつしつてき)の必要(ひつえう)かららしいです。先(さき)が何(なん)でも餘程(よほど)派出(はで)な家(うち)なんで、叔母(をば)さんの方(はう)でもさう單簡(たんかん)に濟(す)まされないんでせう」と何時(いつ)にない世帶染(しよたいじ)みた事(こと)を云(い)つた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
柘榴(ざくろ)の花(はな)は、薔薇(ばら)よりも派出(はで)に且つ重苦(おもくる)しく見えた。緑(みどり)の間(あひだ)にちらり/\と光(ひか)つて見える位、強い色を出(だ)してゐた。従つて是(これ)も代助の今の気分には相応(うつ)らなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
幸(さいわい)と藤尾がいる。冬を凌(しの)ぐ女竹(めだけ)の、吹き寄せて夜(よ)を積る粉雪(こゆき)をぴんと撥(は)ねる力もある。十目(じゅうもく)を街頭に集むる春の姿に、蝶(ちょう)を縫い花を浮かした派出(はで)な衣裳(いしょう)も着せてある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっとも私の家も侍分(さむらいぶん)ではなかった。派出(はで)な付合(つきあい)をしなければならない名主(なぬし)という町人であった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
聖書と関係の薄い余にさえ、檜扇(ひおうぎ)を熱帯的に派出(はで)に仕立てたような唐菖蒲は、深い沈んだ趣(おもむき)を表わすにはあまり強過ぎるとしか思われなかった。唐菖蒲はどうでもよい。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女は約束の時間を違(たが)えず来た。三(み)つ柏(かしわ)の紋(もん)のついた派出(はで)な色の縮緬(ちりめん)の羽織を着ているのが、一番先に私の眼に映った。女は私の書いたものをたいてい読んでいるらしかった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
多くの松を通り越して左へ折れると、生垣(いけがき)に奇麗な門がある。果して原口といふ標札が出てゐた。其標札は木理(もくめ)の込(こ)んだ黒(くろ)つぽい板に、緑(みどり)の油(あぶら)で名前を派出(はで)に書(か)いたものである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私の友達に横浜(よこはま)の商人(あきんど)か何(なに)かで、宅(うち)はなかなか派出(はで)に暮しているものがありましたが、そこへある時羽二重(はぶたえ)の胴着(どうぎ)が配達で届いた事があります。すると皆(みん)ながそれを見て笑いました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
洋書というものは唐本(とうほん)や和書よりも装飾的な背皮(せがわ)に学問と芸術の派出(はで)やかさを偲(しの)ばせるのが常であるのに、この部屋は余の眼を射る何物をも蔵していなかった。ただ大きな机があった。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
又事件があまり派出(はで)に並んでゐるために、(其(その)調子は厭(いや)に陰鬱ではあるけれども)
『煤煙』の序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
向う側の椿が眼に入(い)った時、余は、ええ、見なければよかったと思った。あの花の色はただの赤ではない。眼を醒(さま)すほどの派出(はで)やかさの奥に、言うに言われぬ沈んだ調子を持っている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分はまた五六人と共に、大きな食卓を囲んで、山鳥の羹(あつもの)を食った。そうして、派出(はで)な小倉(こくら)の袴(はかま)を着けた蒼白(あおしろ)い青年の成功を祈った。五六人の帰ったあとで、自分はこの青年に礼状を書いた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
派出(はで)な色を肉の上に重ねるものだぐらいの漠(ばっ)とした観察はあったのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
影の隣りに糸織(いとおり)かとも思われる、女の晴衣(はれぎ)が衣紋竹(えもんだけ)につるしてかけてある。細君のものにしては少し派出(はで)過ぎるが、これは多少景気のいい時、田舎(いなか)で買ってやったものだと今だに記憶している。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
乗合は少ない。向側に派出(はで)ななりをしている若い女が乗っている。すると我輩の随行しているレデーが突然あなたはメリー・コレリのマスタークリスチアンを御読みなさいましたかと大きな声で聞た。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
派出(はで)な色の絹紐(リボン)がちらりと前の方へ顔を出す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
派出(はで)を好む藤尾の贈物かも知れない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)