木瓜ぼけ)” の例文
それから何かのおりに、竹の切れはしで、木瓜ぼけの木をやたらにたたきながら、同じ言葉を繰り返し繰り返しどなっていた姿を思い出す。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
桜にはちと早い、木瓜ぼけか、何やら、枝ながら障子に映る花の影に、ほんのりと日南ひなたかおりが添って、お千がもとの座に着いた。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その居酒屋の上には木瓜ぼけの実を描いた板が出ていて、ボン・コアン屋(上等木瓜屋)という看板で、酒場の食卓と墓石との間を仕切っていた。
ケンブリッジでは木瓜ぼけを同じように仕立てたのを見たけれども、こんな大きな古い木を壁に這わせたのは初めてだった。
シェイクスピアの郷里 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
雨に悩める、露にうるほへる、いづれ艶なるおもむきならぬは無し。木瓜ぼけはこれの侍婢こしもとなりとかや。あら美しの姫君よ。人を迷ひに誘ふ無くば幸なり。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
すゝきは今もえてゐる。探せば木瓜ぼけの花もあらう。我は足痿あしなへて二十二年、夢でなくては堤に遊ぶおもひ出も見ぬ。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
「お貰いに行くのも結構ですが、今日は二人で遊びましょう。色々の花が咲きました、桜に山吹に小手毬こてまり草に木瓜ぼけすもも木蘭もくらんに、海棠かいどうの花も咲きました」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その牡丹は、けふもまだあちこちに咲き殘つてゐる椿、木瓜ぼけ海棠かいだう、木蓮、蘇芳すはうなどと共に、花好きの妻の母が十年近くも一人で丹精した大事な植木です。
行く春の記 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
「お庭の木瓜ぼけの実よ」と佳奈は云った、「先月のいまごろでしょうか、お留守にみつけて、あんまりみごとだから摘み取って、砂糖漬けにしてみたんです」
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二人が塵払はたきの音のする窓の外を通った時は、岩間に咲く木瓜ぼけのように紅い女の顔が玻璃ガラスの内から映っていた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
厨子ずしは、木瓜ぼけ厨子、正念しょうねん厨子、丸厨子(これは聖天様を入れる)、角厨子、春日かすが厨子、鳳輦ほうれん形、宮殿くうでん形等。
向う側の老人は、木瓜ぼけの花みたいに真っ赤な顔はしているが、容貌は奇古きこ清潔で、どこか風格がある。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日は木瓜ぼけ筆架ひつかばかり気にして寝た。あくる日、眼がめるやいなや、飛び起きて、机の前へ行って見ると、花はえ葉は枯れて、白い穂だけが元のごとく光っている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
客間へやの装飾は、日本、支那、西洋と、とりあつめて、しかも破綻はたんのない、好みであった、室のすみには、時代の紫檀したんの四尺もあろうかと思われる高脚たかあしだいに、木蓮もくれん木瓜ぼけ椿つばき
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
蓮華れんげつゝじは下葉したばから色づき、梅桜は大抵落葉し、ドウダン先ず紅に照り初め、落霜紅うめもどきは赤く、木瓜ぼけは黄に、松はます/\緑に、山茶花さざんかは香を、コスモスは色を庭に満たして
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
桜の開落は少しあつけないが、その頃になると、椿だの、木瓜ぼけだの、山吹だの、躑躅だの、段々に咲いて行くので、二十四番の春を一つ一つ楽しんで行くことが出来るやうな気がした。
花二三ヶ所 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
やからうからうち寄りて花の下に酒もりするもまた栄ある心地す。桜の下に石榴ざくろあり。花石榴とて花はやや大きく八重にして実を結ばず。その下の垣根極めて暗き処に木瓜ぼけ一もとあり。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そのとき書斎の窓から木瓜ぼけ花梢はなうれが見えていたが、その長い対坐の間に文女は
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
僕の母の実家の庭には背の低い木瓜ぼけの樹が一株、古井戸へ枝を垂らしていた。
点鬼簿 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
寒い夜半、ふと六畳の方の窓辺にある木瓜ぼけの木と芙蓉の木が思い出された。
忘れがたみ (新字新仮名) / 原民喜(著)
博士はつと立つて、南側の障子をけて庭を見てゐる。木瓜ぼけ杜鵑花さつきつつじとの花が真赤に咲いて、どこか底にぬるみを持つた風が額に当る。細君の部屋では又こと/\音がする。着更をするのであらう。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さてこれは外題げだい心眼しんがんまうす心のといふお話でござりますが、物の色をで見ましても、たゞあかいのでは紅梅こうばい木瓜ぼけの花か薔薇ばら牡丹ぼたんわかりませんが、ハヽア早咲はやぎき牡丹ぼたんであるなと心で受けませんと
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
木瓜ぼけの花とすみれの花とが櫟林の下に咲き乱れている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
黄いろなる真赤なるこの木瓜ぼけの雨
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
落さうな神鳴雨や木瓜ぼけの花 路青
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
木瓜ぼけの花咲く
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
シェイクスピアの作品に現れた花卉樹木の類を集めた庭園で、月桂樹ベイペア山櫨メドラ木瓜ぼけに似た花を付けている榲桲クインス、ホーソーン、えにしだ、等々。
シェイクスピアの郷里 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
しゆ木瓜ぼけはちら/\とをともし、つゝむだ石楠花しやくなげは、入日いりひあはいろめつゝ、しかまさなのである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つて、近所きんじよ子供こども手造てづくりにしたたこげにます。田圃側たんぼわきれたくさなかには、木瓜ぼけなぞがかほしてまして、あそまはるにはたのし塲所ばしよでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
木瓜ぼけの花が咲いている。しどみの花が咲いている。※花こごめの花が咲いている。そうして畑には麦が延びて、巣ごもりをしているうずら達が、いうところのヒヒ鳴きを立てている。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ごろりとる。帽子がひたいをすべって、やけに阿弥陀あみだとなる。所々の草を一二尺いて、木瓜ぼけの小株が茂っている。余が顔はちょうどその一つの前に落ちた。木瓜ぼけは面白い花である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
へやの隅には二枚折りの金屏きんびょうに墨絵、その前には卓に鉢植の木瓜ぼけが一、二輪淡紅のつぼみをやぶっていた。純白な布の上におかれた、小花瓶の、猖々緋しょうじょうひの真紅の色を、見るともなく見詰めていた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
木瓜ぼけの陰に顔たくひすむきぎすかな
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
はだ脱いで髪すく庭や木瓜ぼけの花
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
知るは堤の木瓜ぼけはな
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
木瓜ぼけの花咲く
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「巌の根の木瓜ぼけの中に、今もの、来ていますわ。これじゃ寂しいとは思いませぬじゃ。」
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小供のうち花の咲いた、葉のついた木瓜ぼけを切って、面白く枝振えだぶりを作って、筆架ひつかをこしらえた事がある。それへ二銭五厘の水筆すいひつを立てかけて、白い穂が花と葉の間から、隠見いんけんするのを机へせて楽んだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
木瓜ぼけかげに顔たぐひすむきぎすかな
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
知るは堤の木瓜ぼけの花
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
木瓜ぼけの花咲く
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
二人のの母親で、その燃立つようなのは、ともすると同一おなじ軍人好みになりたがるが、あか抜けのした、意気のさかんな、色の白いのが着ると、汗ばんだ木瓜ぼけの花のように生暖なまあたたかなものではなく
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
根岸の里の雪のの花、水の紫陽花あじさいの風情はないが、木瓜ぼけ、山吹の覗かれる窪地の屋敷町で、そのどこからも、駿河台するがだいの濃い樹立の下に、和仏英女学校というのの壁の色が、こがらしの吹く日も
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)