なり)” の例文
は、如何いかにも、こんななりをしてをるので、貴方は吃驚びつくりなすつたか、さうでせう。自分にも驚いてをるのぢやけれどどうも為方が無い。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お通はまたたきもせずみまもりながら、手も動かさずなりも崩さず、石に化したるもののごとく、一筋二筋頬にかかれる、後毛おくれげだにも動かさざりし。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘や家内は浴衣がけてゐるといふに、これはまた尚だ木綿の黒紋付の羽織に垢づいた袷で、以前の通り堅くるしいなりをしてゐた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
予期に反して彼は「尾羽打ちからし」た、見るも哀れななりをしていた。しかし不思議——でもないか知らんが、とにかくAは女房をつれていた。
沼畔小話集 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
「なんて無邪気な性質なんだろう。なりは立派な娘だけれど、心は全然まるで赤ちゃんだよ」微笑ほほえみたいような心持ちをもって、彼女は姫のことを考えた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『私なりも何もいりまへんわ。兄様がかまはぬなら追いて行きますよ。併しお金は?』
ただの旅人にいたせ、かようななりを見れば、何かと眼をそばだてて行くに相違ない。万一、蜂須賀家の者と知られて、世間へ噂いたされては後日の不為ふためであろう。とにかく、銀五郎の体を
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「大きななりして、そつたらわらしと、さわいでればえゝ!」母親が、叫んだ。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
くわざと源次郎のなりをして貴様の手にかゝり、なお委細の事は此の書置にしたゝめ置いたれば、跡の始末は養父相川新五兵衞と共に相談せよ、貴様はこれにてうらみを晴してくれ、しかる上はあだは仇恩は恩
さういふ心を抱きながら其処から立上つて歩み出さうとすると、ふと目に入つたのは、その白樫の幹に道化たなりをして、牙のやうな形の大きな前足をそこへ突立ててかじりついて居る蝉の脱殻であつた。
するわけじゃねえ。石童丸のなりで歩くだけの話だ。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
少時しばらく——主税ももう口を利こうとは思わない様子になって、別に苦にする顔色かおつきでもないが、腕をこまぬいたなりで、夫人の一足後れにいてく。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宵暗よいやみでも、貴女あなたのそのなりじゃ恐しく目に立って、どんな事でまたその蠣目の車夫なんぞが見着けまいものでもありません。ちょいと貴女手巾ハンケチを。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「馬鹿だわねえ。……大きななりをして。……先生、おつきあい遊ばすのに、貴方あなた、さぞお骨が折れましょう。」そのりんとした眉が、雨に霞むように優しかった……
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
い月夜なんぞに来ると、身体からだあおい後光がさすように薄ぼんやりしたなりで、樹の間にむらむら居る。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トはっと気を返して、恍惚うっとり目をく。夢が覚めたように、起上って、取乱したなりもそのまま、おんな同士、お綾の膝に乗掛のりかかって、くびに手をからみながら、切ない息の下で
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仕丁 (揚幕あげまくうちにて——突拍子とっぴょうしなるさるの声)きゃッきゃッきゃッ。(すなわ面長つらなが老猿ふるざるの面をかぶり、水干すいかん烏帽子えぼし事触ことぶれに似たるなりにて——大根だいこん牛蒡ごぼう太人参ふとにんじん大蕪おおかぶら。 ...
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うっかりひとと口でも利きゃ、直ぐに何のかのと言われよう。それで二人がつながって、光ったなりでもして歩行あるけば、親達は緋縅ひおどしよろいでも着たようにうぬが肩身をひけらかすんだね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうど段々中継なかつぎの一土間、向桟敷むこうさじきと云った処、さかりに緋葉した樹の根に寄った方で、うつむきなりに片袖をさしむけたのは、すがれ、手を取ろう身構えで、腰を靡娜なよやかに振向いた。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なりに似合わず悠然ゆうぜん落着済おちつきすまして、いささ権高けんだかに見えるところは、土地の士族の子孫らしい。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卓子台ちゃぶだいの前へ、右のその三角帽子、外套のなりで着座して、左褄ひだりづま折捌おりさばいたの、部屋着をはだけたのだのが、さしむかいで、盃洗が出るとなっては、そのままいきなり、泳いでよろしい
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婀娜あだたる声、障子を開けて顔を出した、水色の唐縮緬とうちりめん引裂ひっさいたままのたすき、玉のようなかいなもあらわに、蜘蛛くもしぼった浴衣ゆかた、帯はめず、細紐ほそひもなりすそ端折はしょって、布の純白なのを
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婀娜あだたるこゑ障子しやうじけてかほした、水色みづいろ唐縮緬たうちりめん引裂ひつさいたまゝのたすきたまのやうなかひなもあらはに、蜘蛛くもしぼつた浴衣ゆかたおびめず、細紐ほそひもなりすそ端折はしよつて、ぬの純白じゆんぱくなのを
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かっと瞳を張って見据えていたまなこを、次第にふさいだ弥次郎兵衛は、ものも言わず、火鉢のふちに、ぶるぶると震う指を、と支えたなりの、巻莨まきたばこから、音もしないで、ほろほろと灰がこぼれる。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほっとした草臥くたびれたなりで、真中まんなかに三方から取巻いた食卓ちゃぶだいの上には、茶道具の左右に、真新しい、擂粉木すりこぎ、および杓子しゃくしとなんいう、世の宝貝たからものの中に、最も興がった剽軽ひょうきんものが揃って乗っていて
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤大名の城が落ちて、木曾殿打たれたまいぬ、とどぶの中で鳴きそうな、どくどくのあわせつま、膝を払って蹴返した、太刀疵たちきず、鍵裂、弾疵たまきず、焼穴、あられのようにばらばらある、なりも、ふりも、今の先刻さき
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
樹立こだちともなく、むぐらくぐりに、晴れても傘は欲しかろう、草の葉のしずくにもしょんぼり濡々とした、せぎすな女が、櫛巻くしまきえり細く、うつむいたなりで、つまを端折りに青い蹴出けだしが、揺れる、と消えそうに
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(いいえ、おもしろうござんすよ。こんなうまなりをして。)
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)