御幣ごへい)” の例文
世に御幣ごへいかつぎと称して、なにごとにも縁起の吉凶をいうものがある。ことに婚礼、葬式などにはいろいろの忌み物、忌みごとがある。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
殊に塙団右衛門直之はきん御幣ごへいもの十文字じゅうもんじやりをふりかざし、槍のつかの折れるまで戦ったのち、樫井の町の中に打ち死した。
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「会社のものばかりなら何うでも構いませんが、わきからも大勢見えるのです。しかしさい御幣ごへいを担ぎますから、仰せに従いましょうかな」
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
神の思召おぼしめしだと云えばそれまでだが、もしそう云う御幣ごへいかつがずに考えて見ると、三分の二は僥倖ぎょうこうで生れたと云っても差支さしつかえない。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おッ」と叫ぶと柄を下げて、つばを眼もとまで引きつけたが、さながら太刀を御幣ごへいかのように、左右へピューッと振り立てた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あまり御幣ごへいはかつがない曹操だが、着陣したその日なので、「はてな?」と、しばし馬上に瞑目し、独り吉凶を占うていたが、なお試みに
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御幣ごへいをこしらえるやら、色々な品物をそなえるやらして、いざ御祈祷ごきとうとなると、村中の人が男も女も子供も集まって来ました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それが為に時々は小さな流れの岸などに、御幣ごへいを立て五色の糸を張って祭ってあるのを、見かけることがあったという話です。(郷土研究二編)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
白い御幣ごへいを砂の上にたて、そのまはりを取りまいて、アイヌの神様にむかつて『どうぞ私達の村の酋長を悪い小男が連れて行きませんやうに——』
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
そうして、鈴と、御幣ごへいとを、無雑作むぞうさに小さな両の手で振りかざしたところに、なんともいえないたくまざるの妙味がある。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これで腕斬りが三年つづく事になるのであるから、御幣ごへいかつぎの者でなくても、又かと顔をしかめるのが人情である。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
張りめぐらされたしめ縄に、御幣ごへいがたくさん垂らしてある——その山笠が、ゆさゆさ、はげしく揺れながら、恐しい勢で、こちらの山笠に近づいて来た。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ある家庭で歳末に令嬢二人母君から輪飾りに裏白うらじろとゆずり葉と御幣ごへいを結び付ける仕事を命ぜられて珍しく神妙にめったにはしない「うちの用」をしていた。
雑記帳より(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
五月雨の濁水滔々たる桂川の上流から、新しい長持に錠を卸して、上に白い御幣ごへいを置いたものが流れて来た。
おまけに、あの人は御幣ごへいかつぎで、三本蝋燭ろうそく(訳注 死人のほとりを照らす習慣)をこわがる、十三日と聞くと顔いろを変える。しかも、けちんぼときている。
中は薄暗く、鏡が光って、大きな太鼓とさかきに白紙の結び付けられた生花と、御幣ごへいと、白い徳利とくりとが目に入って、それに賽銭さいせん箱がぐ格子戸のきわに置かれてあった。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
御幣ごへいはるかに、不思議に、段々みぎわへだたるのが心細いやうで、気もうっかりと、紫玉は、便たより少ない心持ここちがした。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
公卿くげ大僧正だいそうじょうをはじめ約五百人からの大集団で、例の金の御幣ごへいを中心に文字通りの大嵐のような勢いで、四月六日には落合泊まりで馬籠の宿場へ繰り込んで来た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その男は余程の御幣ごへいかつぎとみえて、その日の新聞紙の上にくもが一ぴきとまつてゐるのを見て、気にかゝつてならないから、幸運か悪運か、どつちの前兆しるしなのか
町内氏神うじがみの祭礼も七五三の祝儀も、自由主義を迎える世には遠慮しなくてはならなくなる。心配は参詣さんけいをする氏子うじこよりも御幣ごへいを振る神主かんぬし提灯屋ちょうちんやのふところ都合であろう。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
泰文はでたらめな箴言しんげんに勿体をつけるつもりか、拍手かしわでをうって花世の女陰ほとを拝んだり、御幣ごへいで腹を撫でたり、たわけのかぎりをつくしていたが、おいおい夏がかってくると
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「御本尊と言ってはない。祠の中には、御幣ごへいが一本立っているきりだ。その御幣も雨漏りでひどく汚れたが、その御幣の前の台の上に、これが畳んだまま置いてあったのじゃ」
神道の御幣ごへいは「神棒」から出来たものとされている。この舟はまるで指物細工みたいに出来ていた。合目あわせめは実に完全で、私が注意深く写生せざるを得ぬ程清潔で奇麗であった。
洋服を着て抱え車に乗る、代言人の、わたしの父の家でさえ、毎月晦日みそかそうじがすむと、井戸やおへっついを法印ほういんさんがおがみに来て、ほうろくへ塩を盛り御幣ごへいをたてたりしても
白木の祭壇には、さかきに似た木の枝が立てかけられ、御幣ごへいの紙が白く風にゆれている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
こんな水商売を始めてみると、新子もいつの間にか、御幣ごへいかつぎになっていた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
前に張られた七五三かざりが、縄は見えないで、御幣ごへいの紙だけ白く並んでさがって居るのが見える、社殿の後は木立が低いので空があらわれた、左右の松木立の隙間にあらわれた空の色が面白い
八幡の森 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そのほか言うもけがらわしいような、さまざまの汚ない罪を犯したものたちをいちいちさがし出させて、御幣ごへいをとって、はらい清めて、国じゅうのけがれをすっかりなくしておしまいになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
あとでおじいさんからうけたまわるところによると、わたくしというものはそのときすっかり御幣ごへいなかはいってしまったのだそうで、つまり御幣ごへい自分じぶんか、自分じぶん御幣ごへいか、その境界さかいすこしもわからなくなったのでございます。
その女が中津に来て、お稲荷様いなりさまを使うことをしって居ると吹聴ふいちょうするその次第は、誰にでも御幣ごへいを持たして置て何か祈ると、その人に稲荷様が憑拠とっつくとか何とかいって、しきりに私のうちに来て法螺ほらふいて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「いいえ、あたし、そんな御幣ごへいかつぎじゃないの」
また御幣ごへいかつぎ! 今日けふんといふだらう。
魚たちは、よろこんで美しい御幣ごへいをくわえて
アイヌ神謡集 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
お前の御幣ごへいかつぎにもあきれるよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
御幣ごへいをかついでいた。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
「こんな例はままありがちなこと。いちいち御幣ごへいをかついでいたら、そのたび部下の士気を沮喪そそうさせるばかり。お案じあるな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大島の神社の境内に、御幣ごへいを木の下に立て、かやをもってこれを囲んであるものがある。これは島内の安全を祈るためのほこら代用であるとの話だ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
と、十数間離れたあなたに——もと来た方の家ののきに、その軒よりも高いほどに、身長たけ高い一本の御幣ごへいのようなものが、風に靡いて立っていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで、方々の村では、鎮守ちんじゅやしろに集まって雨乞あまごいをしました。御幣ごへいをたくさん立て、いろんなものをそなえて、雨が降るようにと鎮守の神に祈りました。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
二人は、拙者の振り廻す御幣ごへいをまぶしがって、恐れちぢんで逃げ出したが、逃げ出して暫くたつと、またあの森かげへ隠れて、くっつき合っていましたよ。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『胸算用』には「仕かけ山伏」が「祈り最中に御幣ごへいゆるぎいで、ともし火かすかになりて消」ゆる手品の種明かし、樹皮下に肉桂にっけいを注射して立木を枯らす法などもある。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すなわち祭の日の神座しんざ御幣ごへいや後世の鏡などに該当するものだったということで、家で田の神の祭をするようになってからは、ただその三把の苗を洗って持って来て
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
れば平日ひごろまでに臆病おくびやうならざるはいも、船出ふなでさいかく縁起えんぎいはひ、御幣ごへいかつぐもおほかり。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
御幣ごへいで娘の腹を撫でたり、たわけのかぎりをつくしていたが、おいおい夏がかってくると、素ッ裸で邸じゅうを横行し、泉水で水を浴びてはすぐ二階へ上って行ったりした。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「御本尊と言つてはない。祠の中には、御幣ごへいが一本立つてゐる切りだ。その御幣も雨漏りでひどく汚れたが、その御幣の前の臺の上に、これが疊んだまゝ置いてあつたのぢや」
皆金偏の名をつけて貰う。師匠の鐘太夫にちなむこと無論だが、金が儲かるようにという御幣ごへいも充分いている。鐙太夫は大阪の文楽座から逃げて来た。銀さんよりも一つ若い。
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
御幣ごへいを肩にしたる老婆、風呂敷包ふろしきづつみ背負ひたる女房、物売りの男なぞ乗合ひたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なんでも高い段のようなものを築いて、そこへ御幣ごへいさかきをたてて、座敷の四方には注連しめを張りまわして、自分も御幣を持っていて、それを振り立てながら何かいのりのようなことをするんだそうです
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何も御幣ごへいを担ぐんじゃありませんがね。そんな篦棒べらぼうな話がるかって反対もしてみたんですがね。今まであの小僧が乗った船が一艘残らず沈んだのが事実だったら、今度沈むのも事実に違いない。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
御幣ごへい棚の神様と話し合いながら
アイヌ神謡集 (新字新仮名) / 作者不詳(著)