床几しやうぎ)” の例文
細い俎板まないたの様な簡単な手術台に黒い桐油紙を布いたのが二脚、捨て床几しやうぎの様に置かれてあるきりで、広い其の室はがらんとして居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
床几しやうぎしたたはらけるに、いぬ一匹いつぴき其日そのひあさよりゆるもののよしやつしよくづきましたとて、老年としより餘念よねんもなげなり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うぞ此方こつちへお上りやはつとくれやす。』と、土間どま床几しやうぎに腰をかけてゐる二人をひて、奧まつた一室に案内した。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
平次とガラツ八は、其處から少し離れて、蟲聽き臺の捨石や床几しやうぎに思ひ/\に腰を掛けて、三河島の淺吉の監視の下に居る十五六人の人數に近づきました。
中には人がいつぱいで、そのまん中に先生らしい、小さな人が床几しやうぎに座り、しきりに一人の眼を診てゐる。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
平八郎は難波橋なんばばし南詰みなみづめ床几しやうぎを立てさせて、白井、橋本、其外若党わかたう中間ちゆうげんそばにをらせ、腰に附けて出た握飯にぎりめしみながら、砲声のとゞろき渡り、火焔くわえんえ上がるのを見てゐた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そして其左右には与力が向ひ合ひに床几しやうぎに腰を卸し、一々の者の「踏み方」を疲れた眼できつと睨み見てゐた。二千人以上の其日の「踏み方」はをはつて、もう日暮に近かつた。
内田氏はひどく当惑したやうな顔つきをしてもぢ/\してゐたが、学生達が無雑作に帽子を脱いでそこらにおつぽり出してゐるのを見ると、やつと気がいたやうにそつと床几しやうぎの上に置いた。
折からとある茶屋の床几しやうぎに腰掛けゐたりし、廿五六の優男、ふし結城の羽織に糸織の二枚袷といふ気の利きたる衣装いでたちにて、商家の息子株とも見ゆるが、お糸を見るより馴れ馴れしげに声かけて
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
正面はたかき石段にて、上には左右に石の駒寄こまよせ、石灯籠などあり。桜の立木の奥に社殿遠くみゆ。石段の下には桜の大樹、これに沿うて上のかたに葭簀張よしずばりの茶店あり。店さきに床几しやうぎ二脚をおく。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
樫材かし床几しやうぎにちよこなんと、は一斉に
四五軒筋違すじかいの向う側に、真赤まっか毛氈もうせんをかけた床几しやうぎの端が見えて、氷屋が一軒、それには団扇うちわが乗ってるばかり、涼しさは涼し、風はあり、月夜なり。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
床几しやうぎに腰を掛け、紫のつゐの小袖に、赤い帶を締め、お松は三味線を鳴らし、お村は篠笛しのぶえを吹いて居ります。
平八郎は夢をさまされたやうに床几しやうぎつて、「い、そんなら手配てくばりをせう」と云つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
(六郎を見かへりて。)床几しやうぎを持て。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
お猿に呉れた床几しやうぎだと
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
こゑなかあツ一聲ひとこゑ床几しやうぎからころちさう、脾腹ひばらかゝへてうめいたのは、民子たみことも與曾平親仁よそべいおやぢ
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と平次、赤い毛氈まうせんを掛けた床几しやうぎを引寄せ加減に、腰から煙草入を拔きます。
床几しやうぎまへにはつめたさうな小流こながれがあつたから手桶てをけみづまうとして一寸ちよいとがついた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
床几しやうぎ——といふところだが、(——親類しんるゐいへで——)用意よういがないから、踏臺ふみだい嵬然くわいぜんとしてこしけた……んぢや、とわらつて、當人たうにんわたしはなした。夫人ふじんおよ學生がくせいさんがたには内證ないしようらしい。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひさししたにあのかたはら床几しやうぎに、飛石とびいし石燈籠いしどうろうのすつきりした、綺麗きれいいてちりめず廣々ひろ/″\した、團子屋だんごや奧庭おくには背後うしろにして、ひざをふつくりと、きちんとすわつて、つむり置手拭おきてぬぐひをしながら
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
床几しやうぎいこ打眺うちながむれば、きやく幾組いくくみ高帽たかばう天窓あたま羽織はおりかたむらさきそでくれなゐすそすゝきえ、はぎかくれ、刈萱かるかやからみ、くずまとひ、芙蓉ふようにそよぎ、なびみだれ、はなづるひとはなひとはなをめぐるひと
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
障子しやうじはひつて、やつこちか土間どま床几しやうぎにかけて、……二包ふたつゝみあつらへた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
燒芋屋やきいもやまへ床几しやうぎして、日向ひなたぼつこをしてばあさんがあつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
備中びつちうおどろたんじ、無事ぶじわたてた按摩あんまを、床几しやうぎちか召寄めしよせて
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)