幔幕まんまく)” の例文
紅白の幔幕まんまくが張り渡され、上座には忠直卿が昨日と同様に座を占めたが、始終下唇を噛むばかりでなく、瞳が爛々として燃えていた。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
見物けんぶつはハッといきをのんだが、そのとき、あなたの幔幕まんまくやこなたの鯨幕くじらまくのうちで、しゅんかん、ワーッというさむらいたちの声があがった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足場を払って綺麗きれい掃除そうじを致し、幔幕まんまくを張って背景はいけいを作ると、御玄関先は西から南を向いて石垣になっていて余り広くはありませんから
私は売店で樺太地図を一枚買って、そこで外へ出た。裏の幔幕まんまくの向うでは運動会のおしまい頃で何か騒いでいたがそれも聴き棄てにした。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
竹トンボのように狂ってクルクル廻って、右の上の桟敷に張りめぐらした幔幕まんまくの上へポーンと当って、雨垂あまだれのように下へ落ちてしまいました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
尤も路のほとりに白い幔幕まんまくを張り廻して、御休息所らしいものがしつらえてあるにはあったが、御立寄りにならなかった。
訪れた上皇を迎えて、笛、鐘、太鼓が一斉に乱声らんじょうの楽を奏した。正装の諸卿は列を正してこれを迎え、六衛府の官人が幔幕まんまくを張った門を開けた。
ここは五条松原で、六波羅探題の大屋敷が、篝火かがりび幔幕まんまく、槍、長柄ながえ、弓矢によっていかめしく、さも物々しくよそおわれていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
運命の魔女が織り成す夢幻劇の最後の幕の閉じる幔幕まんまくとしてこの刺繍の壁掛けを垂下したつもりであるかもしれない。
食堂は二十間に八間の長方形にて周囲は紅葉流もみじながしの幔幕まんまくを張詰め、天井には牡丹形のこうおう白色はくしょく常盤ときわの緑を点綴てんてつす。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あなたとこの秋にお目にかかること、そして私たちにとってはお伽噺とぎばなし幔幕まんまくで包まれている輝かしいあなたの国を知ることをよろこばしくもくろみながら
見る見る羅物うすものを染め、幔幕まんまくを染め、床をひたして、その中に倒れたマネキンの肉体は、最後の苦悶にうごめきます。
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
舞台一杯に、「玉井春昇さんへ」と染め抜いた紺の幔幕まんまくが張りめぐらしてある。昔、子分連中がくれたものだ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「さあ、これから切腹の場所を拝見して置こうか」と、幔幕まんまくで囲んだ中へ這入り掛けた。細川藩の番士が
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
船には竹に雀の紋をつけた幔幕まんまくが張り廻されていた。海の波は畳のように平らかであった。この老人たちはをあやつりながら、声を揃えてかの舟唄を歌った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
加賀家ご定紋の梅ばち染めたる幔幕まんまくを張りめぐらしながら、いずれもそろって下町好みの大振りそでに、なぞのしごきのお蘭結びを花のごとくにちらちらさせて
あるほどの智恵嚢ちえぶくろを絞り趣向して、提灯ちょうちんと、飾物かざりものと、旗と幔幕まんまくと、人は花のちまたを練り歩くのであった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
町家は軒へ幔幕まんまくを引廻し、家宝の屏風びょうぶを立てて紅毛氈あかもうせんを店へ敷きつめ、夕方になると軒に神燈をささげ、行水ぎょうずいしてから娘も父親も息子むすこも、丁稚でっち、番頭、女中に至るまで
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
幔幕まんまくりめぐらした、どこぞの御大家ごたいけなかへ、まよんだあたしたちは、それおまえおぼえてであろ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
昨日で辟易へきえきした幔幕まんまく、またぞろ行く手をさえぎる、幕の内連が御幕の内にいるのは当然だ、と負け惜みをいいつつ、右に折れ、巉岩ざんがんにて築き上げた怪峰二、三をすぎ、八時
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
引きめぐらした幔幕まんまくの内、正面には泰松寺の老師、宗右衛門自身の左右には不具の娘が美装して二人並び、ずつと下つて上品な年増盛りの彼の後妻がつゝましく座つた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
もってこれを知ることを得べしといえども、ひとり将来に至りては、寸前暗黒ただ漠々たる幔幕まんまくの吾人が眼前に横たわるを見るのみ。吾人はいかにしてこれを知るを得んや。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
幔幕まんまくを真一文字に張ったような雪雲の堆積たいせきに日がさして、まんべんなくばら色に輝いている。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
織部正則重は居城牡鹿山の奥御殿の庭で花見の宴を催し、折柄満開の桜の木かげに幔幕まんまくめぐらし毛氈もうせんを敷いて、夫人や腰元どもと酒をみながら和歌管絃の興にふけっていた。
お芝居などでもよくるやつでございますが、ず初めにお姫さまが金魚のうんこほどぞろ/\腰元をつれ、花道で並び台詞ぜりふがすみ、正面の床かあるは引廻したる幔幕まんまくのうちへ這入る
むらさき裾模様すそもやうの小そでに金糸の刺繍ぬひが見える。袖からそで幔幕まんまくつなを通して、虫干むしぼしの時の様にるした。そでは丸くてみぢかい。是が元禄げんろくかと三四郎も気がいた。其外そのほかにはが沢山ある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
往還から少し引ッ込んだ門構えに注連しめを張り、あるいは幔幕まんまくをめぐらせ、奥まった玄関に式台作りで、どうかすると、門前に古い年号を刻み入れた頂上三十三度石などが立っている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
満月が無名樹のまばらな梢にかかって湖畔の岡の裾に霧が幔幕まんまくのようにひいている。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
天は万物ばんもつに安眠のとこを与へんが為めに夜テフ天鵞絨びろうど幔幕まんまくろし給ふぢやないか、然るに其時間に労働する、すなはち天意を犯すのだらう、看給みたまへ、夜中の労働——売淫、窃盗、賭博
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
この困難に辟易へきえきし、この忍耐に怖じけづく人々は、プロレタリヤ文藝運動の行列を去つて、紅白の幔幕まんまくでめぐらした運動會場に赴くがいい。そこにはすぐに喝采してくれる群集がいる。
文芸運動と労働運動 (旧字旧仮名) / 平林初之輔(著)
そして、其の周囲まわりには一木家の定紋じょうもんの附いた紫の幔幕まんまくを張りめぐらしてあった。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
よだれも垂れようずばかり笑み傾いて、余念もなく珍陀ちんたの酒をみかはいてあつた所に、ふと酔うた眼にもとまつたは、錦の幔幕まんまくを張り渡いた正面の御座にわせられるみかどの異な御ふるまひぢや。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今では常傭じょうやといの形で、ガラガラ、ゴットン、ガラガラ、ゴットン、廻る木馬の真中の、一段高い台の上で、台には紅白の幔幕まんまくを張りめぐらし、彼等の頭の上からは、四方に万国旗が延びている
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
紅梅に幔幕まんまくひかせ見たまひぬ白尾のかけの九つの雛
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
上高地から見た前穂高の岩の幔幕まんまく
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
昨夜中はそこを将座しょうざとして戦況を聞いたり使番に会ったりしていた所である。幔幕まんまくのまわりにはかがりの燃え殻が散らかっていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
笠ヶ岳、焼岳、乗鞍岳についで、長大なる木曾駒山脈が紫紺の幔幕まんまくを張り渡して、特異な横谷には鋭く光る雪をちりばめている。
天王寺の陣を引いた正成は、数里はなれた櫨子原しどみばらに、幔幕まんまくばかりの陣を張り、悠々と機をうかがっていた。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
馬場の一面には、八幡宮の鳩と武田菱たけだびしとの幔幕まんまくが張りめぐらされてあり、その外は竹矢来たけやらいでありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幔幕まんまくも三蓋松、これも三蓋松、大御番組のあき屋敷に脱ぎ捨てた着物の紋どころも同じこの三蓋松だ。
五、六月頃になると、山桜や躑躅つつじが、一度に咲いて紅白ぜの幔幕まんまくを、山の峡間に張るそうである、それよりも美しいのは、九月の末から十月の半ごろにかけてである、秋とはいえ
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そのお弁当を二つも貰って食べ抹茶も一服よばれたのち、しばらくの休憩をとるため、座敷に張りめぐらした紅白だんだらの幔幕まんまくを向うへね潜って出る。そこは庭に沿った椽側えんがわであった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ひつじの刻(午後二時)をすこし過ぎた頃、比叡ひえの頂上に蹴鞠けまりほどの小さい黒雲が浮かび出した。と思う間もなしに、それが幔幕まんまくのようにだんだん大きく拡がって、白い大空が鼠色に濁ってきた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
にぎやかに、踊りながら、紅白だんだらの幔幕まんまくの内側を、ぐるぐる廻る。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
紫の裾模様の小袖こそで金糸きんし刺繍ぬいが見える。袖から袖へ幔幕まんまくつなを通して、虫干の時のように釣るした。袖は丸くて短かい。これが元禄げんろくかと三四郎も気がついた。そのほかには絵がたくさんある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
皇室の御紋章を染め抜いた紫縮緬ちりめん幔幕まんまくや、爪を張つた蒼竜さうりゆうが身をうねらせてゐる支那の国旗の下には、花瓶々々の菊の花が、或は軽快な銀色を、或は陰欝いんうつな金色を、人波の間にちらつかせてゐた。
舞踏会 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
信長は、屋外に幔幕まんまくを張らせ、そこを参謀本部として、時稀ときたま傍らの茶屋で休息をとるくらいな程度で夜をかしていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば、お角さんの買い切った一ぱいの舟には幔幕まんまくが張り立てられ、毛氈もうせんがしかれて、そこへゾロゾロと芸子、舞子、たいこ末社様なものが繰込んで来るのです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
西には、木曾駒ヶ岳の山脈が天半に紫紺の幔幕まんまくを張り渡して、峰頭は流石さすがに鋸歯を刻んでいる。御岳と白山とが其上から紫地に銀糸を縫い込めた裾をゆたかに曳いて、美しい姿を覗かせる。
大井川奥山の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
張りめぐらしてある幔幕まんまくに、あの三蓋松さんがいまつの紋どころが見えるのです。