さまたげ)” の例文
ひと口に自由といえば我儘わがままのように聞こゆれども、決してしからず。自由とは、他人のさまたげをなさずして我が心のままに事を行うの義なり。
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
若い者の事だから、決して責めるではないが、身分違ひの者とさういふ事をすると、出世のさまたげになるからせと書いてあるのです。
反古 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
ましてや貴人は今は世に亡き御方おんかたである。あからさまにその人をさずに、ほぼその事をしるすのは、あるいはさまたげがなかろうか。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
想ふに羅馬市には、黄金こがね耳環みゝわを典して、客人をあがなひ取ることををしまざる人あるならん。拿破里ナポリ旅稼たびかせぎは、その後の事とし給はんもさまたげあらじ。
同時に、渠等かれら怪しきやからが、ここにかかる犠牲いけにえのあるを知らせまいとして、我を拒んだと合点さるるにつけて、とこう言う内に、追って来てさまたげしょう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いざけ、我は汝の尚長く止まるを願はず、我泣いて汝のいへるところのものをましむるに汝のこゝにあるはそのさまたげとなればなり 一三九—一四一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
其頃そのころ事務じむにもれるし、信用も厚くなるし、交際も殖えるし、勉強をするひまが自然となくなつて、又勉強が却つて実務のさまたげをする様に感ぜられてた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一、一味のおのおの存寄ぞんじより申出もうしいでられ候とも、自己の意趣をふくみさまたげ候儀これあるまじく候。誰にても理の当然に申合すべく候。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
一茶一流の自嘲の気が強過ぎるためである。従ってこの句の裏には、御覧の通りの屑家ではあるが、名月を見るには何のさまたげもない、という底意が窺われる。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「読書はなるたけ黙読せよ。昼日は時ありて朗読すとも可なり。唯隣座の凝念思索のさまたげをなすことを得ず」「人の傘笠さんりゅういただき、人の履物をはくことを許さず。 ...
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
掘るには木にて作りたるすきを用ふ、里言にこすきといふ、すなわち木鋤なり。(中略)掘たる雪は空地あきちの、人にさまたげなき処へ山のごとく積上る、これを里言に掘揚ほりあげといふ。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
掘たる雪は空地あきちの、人にさまたげなきところへ山のごとくつみ上る、これを里言りげん掘揚ほりあげといふ。大家は家夫わかいものつくしてちからたらざれば掘夫ほりてやとひ、いく十人の力をあはせて一時に掘尽ほりつくす。
よしや我身の妄執もうしゅうり移りたる者にもせよ、今は恩愛きっすて、迷わぬはじめ立帰たちかえる珠運にさまたげなす妖怪ようかい、いでいで仏師が腕のさえ、恋も未練も段々きだきだ切捨きりすてくれんと突立つったち
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自ら未成の旧稿について饒舌じょうぜつする事の甚しく時流におくれたるが故となすも、また何のさまたげがあろう。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
八犬伝や巡島記じゆんたうきの愛読者である事は云ふまでもない。就いてはかう云ふ田舎ゐなかにゐては、何かと修業のさまたげになる。だから、あなたの所へ、食客に置いて貰ふ訳には行くまいか。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
仮令たとい居たとて役にも立たず、お政は、あの如く、娘を愛する心は有りても、その道を知らんから、娘の道心を縊殺しめころそうとしていながら、しかも得意顔したりがおでいるほどゆえ、もとよりこれはさまたげになるばかり
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
たゞに書のことごとく信ずべからざるのみではない。古文書と雖、尽く信ずることは出来ない。漳州の牽牛花の種子は何年に誰から誰に伝はつても事にさまたげは無い。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
如何いかんとなれば現行法律の旨にそむくが故なり。其れも小説物語の戯作げさくならば或はさまたげなからんなれども、家庭の教育書、学校の読本としては必ず異論ある可し。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その頃は事務にも慣れるし、信用も厚くなるし、交際も殖えるし、勉強をする暇が自然となくなって、又勉強がかえって実務のさまたげをする様に感ぜられて来た。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
われら一類がわざおびやかされて、その者、心を破り、気をきずつけ、身をそこなえば、おのずから引いて、我等修業のさまたげとなり、従うて罪のさわりとなって、実はおおいに迷惑いたす。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兎も角も一たび此場内にはぬちに入りて、美しき女優のおもを見ばや。若し興なくば、曲の終るを待たで出でんもさまたげあらじとおもひぬ。入場劵を買ふに、小き汚れたるふだを與へつ。
しからばすなわち教育の目的は平安にありというも、世界人類の社会に通用してさまたげあることなかるべし。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
有体ありていに云うと、読書ほど修業のさまたげになるものは無いようです。私共でも、こうして碧巌などを読みますが、自分の程度以上のところになると、まるで見当けんとうがつきません。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我等は倒れたる一圓柱のの上に踞したり。ジエンナロの力に頼りて、乞兒かたゐの群を逐ひ拂ふことを得たりしかば、我等の心靜に四邊あたりの風景をもてあそぶには、復た何のさまたげもあらざりき。
山陽が最後に手を政記に下して、「それに昼夜かゝり、生前に整頓」しようとした以上は、「猶著眼鏡、手政記、刪潤不止、(中略、)乃閣筆、不脱眼鏡而瞑」と書するも或はさまたげなからう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
意外なる待遇もてなしかな、かかりし事われは有らず。平時いつもはただ人の前、背後うしろわきなどにて、さまたげとならざる限り、処定めず観たりしなるを。おおいなる桟敷の真中まんなか四辺あたりみまわして、ちいさき体一個ひとつまず突立つったてり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを好加減いゝかげん揣摩しまするくせがつくと、それがすわときさまたげになつて、自分じぶん以上いじやう境界きやうがい豫期よきしてたり、さとりけてたり、充分じゆうぶん突込つつこんでくべきところ頓挫とんざ出來できます。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
書物しよもつむのはごくわる御座ございます。有體ありていふと、讀書どくしよほど修業しゆげふさまたげになるものはやうです。私共わたくしどもでも、うして碧巖へきがんなどみますが、自分じぶん程度ていど以上いじやうところになると、まる見當けんたうきません。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
人の運動のさまたげをする、ことにどこの烏だかせきもない分在ぶんざいで、人の塀へとまるという法があるもんかと思ったから、通るんだおいきたまえと声をかけた。真先の烏はこっちを見てにやにや笑っている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)