“妄(みだ)” の例文
顧(おも)ふに生や師恩に私淑し、負ふところのものはなはだ多し。しかるに軽挙暴動、妄(みだ)りに薫陶の深きに負(そ)むく。その罪実に軽しとせず。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
宿舎は隊の方から指定してくれた所に宿泊することになっていて、妄(みだ)りに宿所を更(か)えることは出来ません。大抵は村落の農家でした。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
分割して私地となし、百姓に売与して年々にその価(あたい)を索(もと)む。今より後、地を売ることを得じ。妄(みだ)りに主となつて劣弱を兼併すること勿(なか)れ
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それと共に、妄(みだ)りに自分で拵(こしら)えたこの一場(いちじょう)の架空劇をよそ目に見て、その荒誕(こうたん)を冷笑(せせらわら)う理智の力が、もう彼の中心に働らいていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これを以て余は自から吾(わ)が不学短識を忘れ、妄(みだ)りにその員に具(そな)われり。唯(ただ)余や不学短識、本校に補う所なかるべし(否々)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
自然は一定の法則に遵(したが)ひて行はる。何物をも妄(みだ)りに侵し滅さず。然れども早晩これに対して債を求む。自然は何物をも知らず。善悪を知らず。
「本員は決して悪意で申したのではない。しかし故(ゆえ)なく淑女の名誉を傷(きずつ)けたるのみならず、妄(みだ)りに議場を騒がしたる罪は謹んで陳謝いたします」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
妄(みだ)りに猪突するは危険で第二線決戦主義が有利となる。それ故この二種類はその時代の軍隊の性格に依る事が最も多い。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
王道をもって、新政の要義としている朝廷が、妄(みだ)りに陪臣の命を取るようなことは、万に一つもないと考えようとした。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
同じ獅子(しし)の穴(あな)に入るにしても、相手が己(おの)れを食らうなど思えばおそろしくなるが、この獅子(しし)は妄(みだ)りに人を食(く)わぬことが分かれば、恐怖の念が去る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
罪業(ざいごう)の深い彼などは妄(みだ)りに咫尺(しせき)することを避けなければならぬ。しかし今は幸いにも無事に如来の目を晦(くら)ませ、——尼提ははっとして立ちどまった。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
更に其の意を得んことゝ心得ます、何ういう次第で遠慮の者が妄(みだ)りに外出をいたして宜しいか、其の儀のお咎めも無くって宜しい儀でござるなれば
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この愛別離苦のうちから私が人人におくる贈り物は「律法を妄(みだ)りに人情の自然のうえにおくな」という忠告である。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
「ここはわれわれの事務所だ。妄(みだ)りに他人の入ることは許されない。——さア、準備ができたら早く出発しよう」
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
妄(みだ)りに外語(ぐわいご)を濫用(らんよう)して得意(とくい)とするの風(ふう)が、一日(にち)は一日(にち)より甚(はなは)だしきに至(いた)つては、その結果(けつくわ)は如何(いかゞ)であらう。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
代つて洋風の紙が妄(みだ)りに蔓延つたからである。純和漉ならどんな紙でも醜くはない。だが多くの人はそれを後れた品とのみ判じたのである。改良は急がれて了つた。
和紙の美 (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
もし妄(みだ)りにこれを告げて当国の官吏なり国民なりがチベットの知人のごとく不幸な有様に陥(おちい)るような事があったならば、私はいかに悲しい思いをするか知れませぬ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかし、五億万円の金塊が一ヶ所に納まってあるのではない、十二ヶ所に分けて隠してあるが、それを武田一門の霊が大切に保管していて、妄(みだ)りに手をつけさせないのだ。
心霊の抱く金塊 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
妄(みだ)りにして低調なる行動を常として、なすところの所作は一から十までが嘘のかたまりであり、虚礼ならざるものはないとまでいってみても、あえて過言ではない今日のお茶
現代茶人批判 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
例之(たと)へば妄(みだ)りに咳なんぞをしないが好いです。その外色々注意の為やうもありませう。さてそのドイツ人ですが、わたしの考ではその男の申立には、十分の理由がありますね。
しかるに産業の問題について、レッセ・フェール、レッセ・パッセを高調することで満足せず、これを所有権の問題にまで故なく妄(みだ)りに適用しようとしている経済学者がある。
しかしながらすでに妄(みだ)りに人の居ない座敷の中に出現して、箒(ほうき)の音を発した為に、その音に愕(おど)ろいて一寸のぞいて見た子供が気絶をしたとなれば、これは明らかな出現罪である。
不浄身もて妄(みだ)りに施さば死後欲色餓鬼に生まれ、随意に美男美女に化けて人と交会すという(『正法念処経』一七)、一六三一年ローマ板ボルリの『交趾(こうし)支那伝道記』二一四頁に
妄(みだ)りにやってもらいたくないと希望するのは、ひとり外国人のみではないだろう。
レンブラントの国 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
妄(みだ)りに昔からの道だから歩かないと主張するやうな人は無智な皮相な人であると云はなければならない。殊に結婚をして子供を産むと云ふことは一番真実な女の使命であると思ひます。
男性に対する主張と要求 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
吾(わ)れ死して光あり、一、二の措置をなす能わざるも、また赤心(せきしん)を諒し一死を許せば、吾(われ)生きて名あり、また酷烈の処置に出で、妄(みだ)りに親戚朋友に連及せば、吾言うに忍びずといえども
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
何等(なにら)かの知識を女房が得たらしいとは認めても、その知識の範囲を測り知ることが出来ぬので、なんとも云うことが出来ない。末造は妄(みだ)りに語って、相手に材料を供給するような男ではない。
雁 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
安南都統の阮敬という者が「日本人、当国海岸に漂流し来たり、当国人を妄(みだ)りに殺戮す」と申し来たに対し「凶徒は貴国の法律に照して処罰されたし」と返書を与えたことから始まり、翌七年
既に之を所有すれば其安全を謀り其用法を工夫し、世間の事情を察し又人の言を聞き、妄(みだ)りに疑う可らず妄りに信ず可らず、詰り自分一人の責任にこそあれば、之に処するの法決して易からず。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
妄(みだ)りに反抗するものではないのである。然(しか)るに何故に反抗するかというと、忍び得るだけは忍んで、忍ぶべからざるに至って、初めて窮鼠(きゅうそ)猫を噛むの勇を起して、反抗を始めるのである(拍手)。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
なんとなく妄(みだ)りに近づき難いものを感じさせる。彼の門戸にはいつも清浄な砂が敷きつめてあるために、砂上に足跡をつけるのは何かはばかられるような気持を時の蜀人も抱いていたにちがいない。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妄(みだ)りにこれを春の七種の一つだと称なえスマシ込んでいる。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
われに思ふ所あり、なんぞ妄(みだ)りに汝(なんじ)の渦中(かちゅう)に落ち入らんや。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
或拗レ枝妄抛 或は枝(えだ)を拗(お)りて妄(みだ)りに抛(なげす)て
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
母上は妄(みだ)りにゆくを許したまはず。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
今日(こんにち)まで下女の人望を繋(つな)いだのも全くこの自覚に基(もと)づく。小野さんは下女の人望をさえ妄(みだ)りに落す事を好まぬほどの人物である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
当人がしいて行きたいと望めば格別、さもなければ妄(みだ)りにこれから先へは案内するなと、警察から案内者に云い渡してあるのだそうです。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
英雄の心事を妄(みだ)りに忖度(そんたく)することは出来ないにしても、此の場合は事に依ると、後者の方が一と際強く彼の行動を促進したのであるかも知れない。
相手の人にお世辞(せじ)を述べるか、あるいは妄(みだ)りに自分を卑下(ひげ)して、なさずともよいお辞儀(じぎ)をなし、みずから五尺(しゃく)四寸(すん)の体躯(からだ)を四尺三尺に縮(ちぢ)め、それでも不足すれば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
日本(にほん)古來(こらい)の地名(ちめい)を、郡町村等(ぐんてうそんとう)の改廢(かいはい)と共(とも)に變更(へんかう)することは、或(ある)場合(ばあひ)にはやむを得(え)ないが、古(いにしへ)の地名(ちめい)に古(いにしへ)の音便(おんびん)によつて當(あ)て篏(は)められた漢字(かんじ)を妄(みだ)りに今(いま)の音(おん)に改讀(かいどく)せしめ
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
「何ゆえに憂い何ゆえに恐れて居ったか。」「この事は妄(みだ)りに発言出来ぬ一つの理由があります。 ...
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
度朔山上の章桃樹下に百鬼を簡閲し、道理なく妄(みだ)りに人の禍害を為(な)す鬼を、荼と鬱と、葦縄で縛りて虎に食わす。故に県官常に臘除夕(じょせき)を以て桃人を飾り、葦索を垂(た)れ、虎を門に画くとあり。
僕はこの鉄道会社の社長の次男の友達だつたから、妄(みだ)りに人を入れなかつた「お竹倉」の中へも遊びに行つた。そこは前にも言つたやうに雑木林(ざふきばやし)や竹藪のある、町中(まちなか)には珍らしい野原だつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「うん。お前は、最(もっとも)明らかな出現罪である。依って明日より二十二日間、ムッセン街道の見まわりを命ずる。今後ばけものの世界長の許可なくして、妄(みだ)りに向側に出現いたしてはならんぞ。」
以テ彼ノ大学企図ノ大業ニ従フヲ以テ我畢生(ひっせい)ノ任トナシ其任ヲ遂グルヲ以テ我無上の娯楽トナスノ外敢(あえ)テ富貴ヲ望ムニ非ズ今ヤコノ書ノ発刊ニ臨ミテ之ヲ奇貨(きか)トシ又何ゾ妄(みだ)リニ巧言(こうげん)ヲ弄(ろう)シテ世ヲ瞞(あざむ)キ以テ名ヲ干(もと)メ利ヲ射ルノ陋醜(ろうしゅう)ヲ為サンヤ敢テ所思ヲ告白シテ是ヲ序ト為ス
人を見て妄(みだ)りに笑うものは必ず人に求むるところのある証拠である。この下女はたしかに小野さんからある報酬を求めている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それもみんな病いのなす業(わざ)じゃ。就いては又しても陣触れなど仰せ出さりょうも知れぬが、師冬が沙汰するまでは一人たりとも妄(みだ)りに動くな。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なかんづく一國民(こくみん)の有(いう)する固有名(こいうめい)は最(もつと)も神聖(しんせい)なもので、妄(みだ)りに他(た)から侵(おか)されてはならぬ。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
競うのは持ち前の負けじ魂に発しているのでその目的に添(そ)わぬ限りは妄(みだ)りに浪費することなくいわゆる死に金を使わなかった気紛(きまぐ)れにぱっぱっと播(ま)き散らすのでなく使途を考え効果を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かかる饗応(きょうおう)の前で妄(みだ)りに食うものでないと言い聞かされ、男(だん)は定(さだ)めし岩倉公の御不興(ごふきょう)を受けたであろうと思いしが、翌日にいたり公(こう)より昨日(さくじつ)来た青年は菓子が嗜(すき)だと見えるというて
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)