やか)” の例文
それが一週間に二三度くらい出てきた先生も毎日来なければならぬようにやかましくなり、総て官吏服務規則にって勤めることになった。
美術学校時代 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
全体人の風儀が変つて、見慣れた、眠むさうな、静かな性は迹もなく、誰も彼も忙しさうに、やかましく、争を好むといふやうに見えます。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
何うかちょいと顔を出して来ておくんなさいよ、お部屋へ知れるとやかましくって私らまでが叱られなくっちゃアならないからね
水際には、蜀葵たてあおいやひるがおのあいだにアカシヤがたっている。水は、一面に瑠璃るり色の百合をうかべ肉色のペリカンがやかましい声で群れている。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
うたごえと撥の音と、あちこちに出来た塊りではやかましい話しごえがたぎり立って、はるか下座のこの老人の言葉などは揉みくたにされていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
かしらの上がりで木やり上手として知られているこの御隠居はまた、雷親爺と仇名されたやかまし屋として文字通りの雷名を仲間うちに轟かせていた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
いき伝法でんぽう市井しせいの風俗を好んで、父や兄にいくらやかましく云われても、はかまが嫌いで、着流しで出るといった風な彼だった。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かすかに聞える伝通院でんずういん暮鐘ぼしょうに誘われて、ねぐらへ急ぐ夕鴉ゆうがらすの声が、彼処此処あちこちに聞えてやかましい。既にして日はパッタリ暮れる、四辺あたりはほの暗くなる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何と言つたつて外国人だからね。友達も負けずに深くは思つてゐるにはゐるのだけれども、周囲がやかましくつてね。
アンナ、パブロオナ (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
その猫は平常吉田の寝床へ這入って寝るという習慣があるので吉田がこんなになってからはやかましく言って病室へは入れない工夫をしていたのであるが
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
二階の窓ガラス越しに、煙害騒ぎのやかましい二本の大煙筒が、硫黄臭い煙を吐いているのがいつも眺められた。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
つまり、魚心堂先生の釣りは、先生の哲学てつがくであり、ぜんであり、思索しさくであり、生活である——こういうやかましいいわれから来て、魚心堂先生の名もある訳……。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鸚鵡は一そうやかましく人真似ひとまねをしだした。かの女はときどきその鸚鵡を見るために脊なかを動かした。その度毎たびごとに彼はかの女の脊なかから彼の眼をそらした。
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「それに何だか我が折れて愚にかえったような風も見えるだ。それを見ると私も気の毒でならん、やかまし人は矢張やっぱり喧しゅうしていてくれる方がえと思いなされ」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
じれッたい。父様ア。とばかり果ては耳を引っ張る。善平はうるさげに、ええやかましい、黙っていろ。考えごとの邪魔になる。チョッ、湯にでもはいって来るがいい。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
雨はやかましく板屋根を敲きながら、さざめく小川のように傍らの天水桶へ流れ落ちている。そのかん、一方では犬どもがありとあらゆる声を振りしぼって吠え立てていた。
平生ふだんなれば大広間、たまりの間、雁の間、柳の間なんて、大小名の居る処で中々やかましいのが、丸で無住のお寺を見たようになって、ゴロ/″\箕坐あぐらかいて、怒鳴る者もあれば
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
蝉時雨せみしぐれは、一しきりさかりになって山のみどりるるかと思われるやかましさ、その上、あいにくと風がはたと途絶えてしまったので周囲を密閉した苫船の暑さは蒸されるようです。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
うべなるかな。已にそれらの能書は、多くある高僧墨蹟の中から特にやかましい存在となっている。しかるにそれらの書が、今の書道界に果して喧ましい存在となっているであろうか。
春屋の書について (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
あるいは口やかましい派出婦人会だけを除くと、まず周囲はいゝ方と云わなければなるまい。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
しきりにやかましくいって「下らぬ戯作などを読む馬鹿があるか」と叱られるたんびには坪内君を引合ひきあいに出しては「文学士でさえ小説を書く、戯作戯作と軽蔑するようなものではない」
なかんずく太平洋の彼岸なる北米合衆国は、我が国の勃興に最も驚愕し、猜疑し、戒心せる国で、近時その太平洋岸の防備をしきりにやかましく騒ぎ立てるのは、実にこれがためである。
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
先代の重和という人も、気短かなやかましい人だった。どうも二川家の遺伝らしい。
叔父はずいぶん口やかましいのでうるさいが、又やさしい人情もある。もう少し仕置きを延ばして、当人の成り行きを見届けるというような意見で、ほかの親類共もまず見合せたらしい。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お絹が少し動き出した時分に、下の方でやかましい人の声、上の方でもまた人の声。
だが、このビルディングの奥深く這入はいり込んだ蟋蟀は容易に出て来てはくれなかった。やかましゅうて寝られんやないかと父が怒るびに、私は全く、蟋蟀が自殺をしてくれたらいいと思った。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
「いづれ又お訪ね申上げます。それでは親分、おやかましう御座いました」
本所ほんじょ茅場町かやばちょうの先生の家は、もう町はずれの寂しいところであった。庭さきのかきの外にはひろい蓮沼はすぬまがあって、夏ごろはかわずやかましいように鳴いていた。五位鷺ごいさぎ葭切よしきりのなく声などもよく聞いた。
左千夫先生への追憶 (新字新仮名) / 石原純(著)
鳥よ、もっとやかましく啼き立てておくれ。わたしの足音が聞えぬように。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
煉瓦を運ばされるやうになつてからは、番頭がやかましくて、もう娘の分まで働いてやれなくなつたが、其代り娘がつまづきはせぬか、煉瓦の重味おもみつぶされはせぬかと、始終其様そんな事ばかり気にしてゐた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
ことにクツワ虫のあの一匹でもやかましいがちゃがちゃ声が無数に集まる騒々しさ、客があっても話が出来ぬくらい、よんどころなく提灯を手にして虫退治、みるみる十匹以上毎夜のようにつかまえて
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
やかましい、鶏頭、鶏頭、俺の肝の虫がもう弾ぢぎれさうだ。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
やかましい。お身と同道はお断りじゃ。」
新訂雲母阪 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
口々にやかましくしゃべり合ったりしていた。
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
やかましい!」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
翕然きゅうぜんとして、非難は彼を中心にやかましい。——が、誰がという、火元の弾劾者だんがいしゃの知れないのも、こういう場合の常である。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新「わたし孫店まごだなに住んで居る、白翁堂勇齋はくおうどうゆうさいという人相見にんそうみが、万事わたくしの世話をしてやかましい奴だから、それに知れないように裏からそっとお這入り遊ばせ」
昨夜ゆうべもアレから下へ降りて、本田さんがアノー『慈母おっかさんがきくきっやかましく言出すに違いない、そうすると僕は何だけれどもアノ内海が困るだろうから黙ッていてくれろ』
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
藩論もおのずから面目を改め、世間一般西洋流のやかましい今日、福澤もマンザラでなし、あるいこれを近づけて何かの役に立つこともあろうとうような説がチラホラとわいて来たその時に
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
犬公方いぬくばう下々した/″\仇口あだくちに呼ばれた位だから無法に我々同類に御憐愍ごれんみんを給はつたものだ。公の生類せいるゐ御憐愍を悪くいふ奴があるが、畢竟つまり今の欧羅巴ヨウロツパやかましくいふ動物保護で人道の大義にかなつてるものだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「困ったものだナ、先生は相変らずやかましく言うかね?」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「叔父とかゞやかましい事を云ったそうですね」
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
その代り校正もやかましかったので有名だ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
僧「はい、お隣座敷へ泊ってな、坊主は経をむのが役で、おやかましいことですが、夜更よふけまで誦みはいたしません、貴方も先刻さっきから御回向をしていらっしったな」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とすじの流れは川の姿をなして、淀川よどがわそそぎこんでいるが、附近はよしあしにおおわれた一帯の沼地である。そして常ならば行々子よしきりの声がやかましく聞えるのだが、きょうは一鳥の声すらない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ソンナにしなくてもい、れまで通りろうといいて、その押問答がなか/\やかましい。妙なもので、此方こっちが貰おうと云うときには容易に呉れぬものだが、要らないと云うと向うがしきりにうる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
サアそうなるとはたやかましい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
圓「これ青や、どうしたゞ、これあと退しやるか足でもどうか成ってるか、痛む気遣きづけえはねえが、多助の母様かゝさまやかましい人だから早く往ってやれ、青どうした、われ塩梅あんべいでも悪いか」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「門前で、何かやかましい声がするではないか。何ぞ見かけなかったか」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけえ同志で斯ういう訳になって、女子おなごを連れて己の家へ来て見れば、家もおさまらねえ訳で、是もさきの世に定まった縁だと思って、あんまやかましく云わねえで、己が媒妁なこうどをするから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)