取次とりつ)” の例文
時計が四時を打つと、書生が一枚の名刺を取次とりついできた。それは顧問弁護士の紹介状を持って、私立探偵桂河かつらがわ半十郎が訪ねてきたのだ。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と云うので下男が取次とりつぎますと、清次が重二郎を連れて這入はいって来ましたから、重二郎を見るとお兼が奥へ飛んで来まして。
どこか上品じょうひんで、ものごしのしずかなたびさむらいが、森閑しんかんとしている御岳みたけ社家しゃけ玄関げんかんにたって、取次とりつぎをかいしてこう申しれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしはただ神様かみさまやら守護霊様しゅごれいさまからきかされたところをお取次とりつぎするのですから、これが誤謬あやまりのないものだとはけっしてるつもりはございませぬ……。
聲をきゝつけてお近の取次とりつぐのを待たず、臺所へ出て來たのは年の頃三十前後、髮は縮らしてゐるが、東京でも下町の女でなければ善惡よしあしのわからないやうな
羊羹 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
蛍雪舎は上野広小路ひろこうじに近い上野町の路地の奥にあった。行って見るとそこは新聞取次とりつぎ業をしているところで、「白旗しらはた新聞店」という看板がかかげられていた。
しかるに文部省の内意を取次とりついでくれた教頭が、それは先方の見込みなのだから、君の方で自分を評価する必要はない、ともかくも行った方が好かろうと云うので
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はやく、この十日とをかごろにも、連日れんじつ臆病おくびやうづかれで、るともなしにころがつてゐると、「きやうさんはゐるかい。——なには……ゐなさるかい。」と取次とりつぎ……といふほどのおくはない。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「そんなことでは、先生に取次とりつぎができません」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
取次とりつはゝことばたず儀右衞門ぎゑもん冷笑あざわらつてかんともせずさりとは口賢くちがしこくさま/″\のことがいへたものかな父親てゝおや薫陶しこまれては其筈そのはずことながらもう其手そのてりはせぬぞよ餘計よけいくち風引かぜひかさんよりはや歸宅きたくくさるゝがさゝうなものまことおもひてくものは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一つくちもうしたら、真正ほんとう神様かみさま人間にんげんとの中間ちゅうかんちてお取次とりつぎの役目やくめをつとめるのが人霊じんれい仕事しごと——。まあそれくらいかんがえていただけば、大体だいたいよろしいかとぞんじます。
山内やまのうち里見氏さとみし本姓ほんせい)からましたが、とふのを、わたし自分じぶん取次とりついで、はゝあ、れだな、白樺しらかば支那鞄しなかばん間違まちがへたとふ、名物めいぶつとつさんは、とうなづかれたのが、コツプに油紙あぶらがみふたをしたのに
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「何だそんな事か、そういうわがままはなるべく取次とりつがないが好い」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「もしもし、わたくしはけっしてあやしい人間じゃあございません。この通り秀吉ひでよしさまへ大事なご書面を持ってまいりましたもの、どうぞよろしくお取次とりつぎをねがいます。へい、これでございます」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おたのまうします」といふと、小坊主こばうずが出て取次とりつぎますから、「わたし本所相生町ほんじよあひおひちやう丁目ちやうめ塩原多助しほばらたすけ縁類えんるゐのものでございますが、まだ塩原しほばらはかも知らず、たゞ塩原しほばらのおてら此方こちらだといふことを聞伝きゝつたへて、 ...
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さぐれとおほせらるゝともそれ違背ゐはいはすまじけれど戀人こひびと周旋とりもたんことどう斷念あきらめてもなることならず御恩ごおん御恩ごおんこれはこれなりいつそおふみ取次とりついだるていにしてこのまゝになすべきかや/\それにてはみちがたゝずじつ斯々かく/\なかなりとて打明うちあけなばじようさま御得心おとくしんくべきかわれこそは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それでも取次とりつぎの小娘こむすめにはわたくし言葉ことばがよくつうじたらしく、『承知しょうちいたしました。少々しょうしょうちくださいませ。』とって、きびすをかえしていそいでおくはいってきました。
とて取次とりつふみおもりてもなみだほろほろひざちぬ義理ぎりといふものかりせばひたきこといとおほわかれしよりの辛苦しんく如何いかときはあらぬひとまられてのがればのかりしときみさをはおもしいのち鵞毛がもうゆきやいばりしこともありけり或時あるときはお行衛ゆくゑたづねわびうらみは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)