叔母おば)” の例文
もう叔母おばの所には行けませんからね、あすこには行きたくありませんから……あのね、透矢町すきやちょうのね、双鶴館そうかくかん……つがいのつる……そう
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ただいま。叔母おばさんのいえからだいぶはなれていましたから、いきませんでした。三けんばかりけて、やっといましがたえました。」
火事 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ジャックリーヌは、呑気のんきな楽しいとき——初めはいつもたいていそうだったが、そのときには、叔母おばへほとんど注意を向けなかった。
先生はその上に私の家族の人数にんずを聞いたり、親類の有無を尋ねたり、叔父おじ叔母おばの様子を問いなどした。そうして最後にこういった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
永逗留のために大急ぎでパリへ立ったので、子供は、この人の又叔母おばの一人で、モスクワに住んでいるある夫人のところに預けられた。
彼の父方の叔母おばは、故郷ふるさとの真宗の寺の住持の妻になって、つい去年まで生きて居たが、彼は儒教実学の家に育って、仏教には遠かった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「お婆さんでは、なんぼなんでも可哀そうだ——そうだ叔母おばさんがい——この人は姉さんじゃなくて、岸本の叔母さんだよ——」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
八月の暑い午後、九歳ここのつのあんぽんたんは古帳面屋ふるちょうめんやのおきんちゃんに連れられて、附木店つけぎだなのおきんちゃんの叔母おばさんの家へいった。
顔を赤くした洋一は、看護婦の見る眼を恥じながら、すごすご茶のへ帰って来た。帰って来ると浅川の叔母おばが、肩越しに彼の顔を見上げて
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そんなふうにして、やっと人間を発見したのでございます。侍従の叔母おばで少将とか申しました老人が昔の声で話しました」
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
鹿児島県南海の奄美大島あまみおおしまでは、十三歳になる女の子には十三袴じゅうさんはかまといって、叔母おばさんから赤い腰巻をやることになっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「おばあさんにも逢えるでしょうね。もう、九十ちかい筈ですけど。それから、五所川原の叔母おばにも逢いたいし、——」
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
若い時から、諸所を漂泊さすらったはてに、その頃、やっと落着いて、川の裏小路に二階がりした小僧の叔母おばにあたる年寄としよりがある。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ま「叔母おばさんがおでなさらないとわたくしはどう仕ようかと思いました、毎度種々いろ/\御贔屓ごひいきになりまして有り難うございます」
「榎本の叔母おばです」と仰しゃいます。老女に髪を結ってもらいに来たとのお話でした。品のよい太り気味のお方でした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
翌日は一日、寒さを恐れて外にも出ずにそこで遊んでいたが、彼女は机にもたれて、遠くの叔母おばにやるのだといってしきりに巻紙に筆を走らせていた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
武は上がってふすまをあけると、座敷のまん中で叔父おじ叔母おばさし向かいの囲碁最中! 叔父はちょっと武を見て、微笑わらって目で挨拶あいさつしたばかり。叔母は
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
叔母おばルウスタン夫人に音楽的才能を見出みいだされ、しばらくはイタリー人からピアノの手ほどきを受けたこともあった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
また、祖母の妹(私の父の叔母おば、私の大叔母)は、私もよく知っていたが、これがなかなかただの女でなかった。
私の母 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
多勢おおぜいの美人の踊る音頭おんどを見せられ、ある時はまた川向いにある彼女の叔母おばの縁づき先であった町長の新築の屋敷に招かれて、広大な酒蔵へ案内されたり
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それじゃあおまえあんまりというものだよ、何もわたし達あおまえの叔母おばさんに告口いつけぐちでもしやしまいし、そんなにかくだてをしなくってもいいじゃあないか。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お葬式でおはかにいったときにね、あたしが叔父おじさんや叔母おばさんたちの間で立ってたら、白いちょうちょうが舞ってきて、あたしの肩のこの花にとまったのよ。
病む子の祭 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
隣家の大原も前日までは来会のつもりなりしが今朝に至りて大阪より電報達し両親と叔父おじ叔母おばが帰り来るとの知らせにおだい嬢のため引留められて出る事かなわず。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
叔父おじ叔母おばの見物の案内や、またある先輩の用事の手伝いなどして、謙さんのもてなしができなかったこともあり、そのようにして謙さんを七条に送った時には
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
叔母おばさん」僕もここの家族の言いならしに従って、お貞婆アさんをそう呼ぶことにしたのだ!——
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
近江屋の叔父おじさんや叔母おばさんにも困るな。いつまできつねつかひの行者なんかを信仰してゐるのだらう。
幼なかりしころよりみだりに他人にしたしまず、いはゆる人みしりをせしが、親しくゆきかよへる人などにはいと打解けてませたる世辞などいひしと叔母おばなる人常にの給ひき。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
なんでも夏の初めのことで父は妹の夫婦、わたくしの叔父おじ叔母おばにあたります人と道頓堀どうとんぼりの芝居に行っておりましたらお遊さんがちょうど父のまうしろの桟敷さじきに来ておりました。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
れから私はかねて母との相談が済んでるから、叔父おじにも叔母おばにも相談は要りはしない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
陸軍大将りくぐんたいしょうになった本間ほんまさんなんか三人扶持ぶち足軽あしがるだった。実業界ではばをきかしている綾部あやべさんがせいぜい五十石さ。溝口みぞぐち叔母おばさんのところが七十石。おまえのおかあさんの里が百石
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
千々岩安彦はみなしごなりき。父は鹿児島かごしまの藩士にて、維新の戦争に討死うちじにし、母は安彦が六歳の夏そのころ霍乱かくらんと言いけるコレラにたおれ、六歳の孤児は叔母おば——父の妹の手に引き取られぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「ハア、それはあの……」夫人はどぎまぎしながら「あちらに三千子の大好きな叔母おばさんがいますものですから、主人はもしやそこに隠れているのではないかと申すのでございます」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私の母よりズッと若い叔母おばは、皆が、『××直彦万歳ばんざあイ』を三度云って、在郷軍人の服を着た叔父を真中まんなかにして、うち露路ろじを出ようとしたら、あがかまちのとこで、ワッと大声で泣き出した。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「ね、よくって、わたしあなたよりずっと年上なんだから——叔母おばさんにだってなれるはずよ、ほんとに。また、叔母さんでないまでも、姉さんになら立派になれるわ。そこであなたは……」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
叔母おば跫音あしおとだけには何時いつも注意を置いていたが、その叔母ももうとうに寝ていることが判っているので、ほとんど持ち前の暢気のんきをさらけ出して眼をつむってとりとめのないことを考えてみたり
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
こんなふうにして歳子は婚約中の良人おっとの家と兄の家の間を愛撫あいぶされながら往復した。幸ひ兄はまだ独身だし、良人の家には叔母おばがゐたが、この中年寄ちゅうどしより寄人よりうどの身分を自認して、何にも差出なかつた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
他日両親のいきどおりを受くるとも、言いすべのなからんやと、事にたくして叔母おばなる人の上京を乞い、事情を打ち明けて一身いっしんの始末を托し、ひたすら胎児の健全を祈り、自ら堅く外出をいましめしほどに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
『しかもこの男の叔母おばさんは、この男のことを喜びとしているんです。その叔母さんていうのは、編集長さん、あなたのこのあいだの翻訳ほんやくにあんなに大勢の予約者を集めてくれた人なんですよ——』
その年玉をくれた若い叔母おばもその一座にあったこと、その時姉の貰ったお年玉は大きな手毬てまりであったこと、その手毬が縁に転がって行った時にき込んである縁にその大きな丸い影法師の映ったこと
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
叔母おばちゃん、ひどく疲れてんのね。いびきかいてる。」
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
私は大方叔母おばさんの所だろうと答えました。Kはその叔母さんは何だとまた聞きます。私はやはり軍人の細君さいくんだと教えてやりました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのばんは、わか叔母おばさんも、あそびにきておられて、うちなかあかるくにぎやかでありました。むすめは、二つの人形にんぎょう叔母おばさんにせました。
気まぐれの人形師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしそれが問題だった。母は宗教上の務めを行なっていたが、叔母おばのマルトはそれを行なっていなかった。比較してみざるを得なかった。
兵部卿の宮は上品なえんなお顔ではあるがはなやかな美しさなどはおありにならないのに、どうして叔母おば君にそっくりなように見えたのだろう
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
東京に帰ってから叔母おば五十川いそがわ女史の所へは帰った事だけを知らせては置いたが、どっちからも訪問は元よりの事一言半句いちごんはんく挨拶あいさつもなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
下婢が台所の戸を開ける頃は、早起の隣家の叔母おばさんは裏庭を奇麗に掃いて、黄色い落葉の交ったごみ竹藪たけやぶの方へ捨てに行くところであった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小さな絵本をもらって寝ながらていたが、しきりに母に向かって神戸には叔母おばさんがあるかと尋ねたそうである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
『そうね』とお絹がこたえしままだれも対手あいてにせず、叔母おばもお常も針仕事に余念なし。家内やうちひっそりと、八角時計の時を刻む音ばかり外は物すごき風狂えり。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「あなた欲しけりゃ、家へ帰って、叔母おばさんに洋食を取ってもらってお食べなさい。おいしいのがあってよ」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
黄昏たそがれのころ私は叔母おばと並んで門口に立っていた。叔母は誰かをおんぶしているらしく、ねんねこを着ていた。その時のほのぐらい街路の静けさを私は忘れずにいる。
苦悩の年鑑 (新字新仮名) / 太宰治(著)