ひく)” の例文
(ハルトマンが「ダルヰニスムス」の論を見よ)類想のひくきは模型に盡くる期ありといひしハルトマンが言を見ても知るべからむ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
諸侯も礼を厚うして、辞をひくうしなければ教えを乞うことのできぬ人だから、高杉もこの人に逢っては、油を絞られるのもぜひがない。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これより家声を興すべき当主はまだ年若にて官等もひくき家にあることもまれなれば、家運はおのずからよどめる水のごとき模様あり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
今にして思へば政海の波浪はおのづから高く自からひくく、虚名を貪り俗情にはるゝの人にはさをつかひ、かいを用ゆるのおもしろみあるべきも
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
彼を選びてかゝるさいはひに到らしめ給ひし者、彼を召し、身をひくうして彼の得たるむくいをば與ふるをよしとし給へる時 一〇九—一一一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
この群は祭の間のみ王侯に同じき權利を得たる工人と見えたり。その假裝には價極めてひくきものをえらびたれど、その特色は奪ふべからず。
言葉をひくうして頼みに来たものだそうですが、その時に正木先生は、用向きの返事は一つもしないまま、済ましてこんな事を云われたそうです。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大帝其前に立ち、辞をひくうして云ふやう、我が尊敬する哲人よ、君し何等か欲する所あらば、願くは我に言へよかし。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私は心の中で今日は不思議に調子が柔かいなと思いながら、座敷の入口の方でわざと腰をひくうしていると、女主人はわだかまりのない物の言い振りで
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
この時頼義が、いかに辞をひくうし礼を厚うして清原氏を誘ったかは、後に清原氏の方で頼義を見ること、家人けにんのごとく心得ていたのによっても解せられる。
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
博文館はくぶんかんにても何かの挿画を桂舟に頼みしに期に及んで出来ず、館主自ら車を飛ばして桂舟を訪ひ頭を下げ辞をひくうし再三繰返して懇々に頼み居たる事あり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
れわが罪の自覚に達し(勿論もちろん友の想像せる如き有形的罪悪の意にあらず)神の前に己をひくうするに至って彼の救は成立し、彼の知識は全きに至るのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
我はただ菊五郎ほどの名優が人の視聴を引かんため劇にのぼすべからざる動物を劇に上ぼし、愁歎場をして滑稽場とならしめてごうも顧みざる志のひくきに驚くのみ。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
同時に、此おくれた気の出るのが、自分をひくくし、大伴氏を、昔の位置から自ら蹶落けおとす心なのだ、と感じる。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
泉水の末を引きて𥻘々ちよろちよろみづひくきに落せるみぎはなる胡麻竹ごまたけ一叢ひとむら茂れるに隠顕みえかくれして苔蒸こけむす石組の小高きに四阿あづまやの立てるを、やうやう辿り着きて貴婦人はなやましげに憩へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
桝田屋の旅籠屋はたごやというふうに、追い追いと転業するものができ、身分としてはひくい町人に甘んじたものであるが、いつのまにかこれらの人たちが百姓の上になった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「運を主義に委す男」——これは、本来、通俗雑誌の読み物として書いたもので、戯曲としての野心的な試みなど少しもなく、テーマも常識的だし、調子も誠にひくい。
「浅間山」の序に代へて (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
と。(二三)れいくだすこと流水りうすゐみなもとごとく、民心みんしんしたがはしむ。ゆゑ(二四)ろんひくうしておこなやすし。
ひくきはよしや衣と食を、姦淫に仰げばとて、新平ならぬを栄とする、世の人口ひとびとに何として、穢多ばかりかは、人口の心の汚れ、それこそは、実に穢多なりとたださるべき。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
苛刻ノ法令ヲ出スごとニ、余輩、言ヲひくフシ謹テ願訴シタレドモかつテ之ヲ聴カズ、随テ願訴スレバ随テ之ニ報ユルニ惨毒ヲ以テシ、一令出ル毎ニ其暴政タルヲ証スルニ足レリ。
いわゆる我のひくきに非ずなんじの高きなり、筑波山の低く見ゆるは、畢竟ひっきょう富士山の高きなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
もししからずして、倨傲きょごう自ら処り、唯我独尊、他を視る事ひくく、従って自己の短を補うに他の長を以てするの工夫を怠らんか、ただに限り無く実生活を向上するあたわざるのみならず
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
何故なにゆゑなれば高貴なる婦人を最も近く観る時はすべて偽造的である。すべ贅沢ぜいたくの陳列及び事事ことごとしき嬌飾けうしよくそれ等よりも、卓越した機敏と貞淑な点をかへつてひくい階級の婦人に見いだすのです。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
クリストフは、世話をされたのにたいして、こちらで身をひくくしたりまた自由を捨てたり——その二つは彼にとっては同一事だった——しなければならないとは、考えていなかった。
さア済まぬ事をしたと云うので左様に驚きましたか、左様か、うだろう、然うでなければ然う驚く訳はない、誠にきん貴様は迷惑だ…のう山平殿、役こそひくいが威儀正しき其のもと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
目標とするものはひくいものであつてはならぬと云ふ覚悟を語つて居るのである。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
我は何事にも、かの大使徒たちに劣らずと思う。われ言葉につたなけれども知識には然らず、凡ての事にて全く之を汝らにあらわせり。われ汝らを高うせんために自己みずからひくうし、価なくして神の福音を
パウロの混乱 (新字新仮名) / 太宰治(著)
俗世界はいぜんとしてひくく、教育法はますます高く、学校はあたかも塵俗外じんぞくがいの仙境にして、この境内に閉居就学すること幾年なれば、その年月の長きほどにますます人間世界の事を忘却して
慶応義塾学生諸氏に告ぐ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もつとも身分のひくい一人である宅子やがこといふ伊賀の采女うねめの腹で、そんな関係から幼いころは伊賀ノ王などと呼ばれてゐた人物であるが、妙に男の子に運のうすい中ノ大兄の王子たちのなかでは
鸚鵡:『白鳳』第二部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
隗の帽子は巡回して渠の前に着せるとき、世話人はことばひくうして挨拶あいさつせり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひくうして以て みづからす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ひくきなやみをいかにせむ
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
咄さん拙者は九條家の家來なり一體公家方は官位高く祿ろくひくきもの故に聊か役にたつものあれば諸家方より臨時お雇ひに預る事あり拙者九條家に在勤中ざいきんちうは北の御門みかど御笏代おしやくがはりに雇れ參りし事折々なり此きた御門みかどとは四親王の家柄にて有栖川宮桂宮かつらのみや閑院宮かんゐんのみや伏見宮ふしみのみや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
人間を高うするものも、人間をひくうするものも、義人をたゝすものも、盗児を生ずるものも、その原素に於ては、この熱意の外あることなし。
熱意 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
神の子己をひくうして肉體となり給はざりせば、ほかのいかなる方法てだてといふとも正義に當るに足らざりしなるべし 一一八—一二〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
たけきもののふの心をやわらげなどいへど、猛きもののふといふ者、多くは趣味卑しき者なれば、彼らを感動せしめたりといふ歌は、趣味ひくく取るにも足らぬぞ多き。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
竜之助は面、籠手をはずした後、虎之助の前に膝行にじり出でて言葉をひくうして申し入れると、島田虎之助は
こちらから辞をひくうして挨拶あいさつをしてもそれに応答しようともせず、変に、自分ほど偉い者はないといった、の高い調子で、いつまでも、ちびりちびり飲んでいる。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
普通の武士ならば、相手が誰であらうと、身分のひくいものであればあるほど、無礼の程は容赦をしなかつた時代であります。武士の自尊心がこれをゆるさないのです。
同時に此おくれた気の出るのが、自分をひくくし、大伴氏を昔の位置から自ら蹶落す心なのだと感じた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
目証めあかし弥平やへいはもう長いこと村に滞在して、幕府時代のひくい「おかっぴき」の役目をつとめていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
居所高ければもって和すべく、居所ひくければ和すべからざるのあるのみ。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
たとへば高きに登るに、ひくきよりし、遠きに至るに近きよりするが如く、小学を治め字句を校讐するは、細砕さいさい末業まつぎょうに似たれども、必ずこれをなさざれば、聖人の大道微意を明むることあたはず。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今にがっかりするのが、私にはわかっています。おのれを高うする者はひくうせられ、おのれを卑うする者は高うせられると、あの人は約束なさったが、世の中、そんなに甘くいってたまるものか。
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
土地は全體極めてひくしとおぼしく、岸の水より高きこと僅に數寸なるが如し。偶〻數戸の小屋の群を成せるあれば、指ざしてフジナと云ふ。こゝかしこには一叢ひとむらの木立あり。其他はすべて是れ平地なりき。
高い処から次第にひくき地位に移り、ついに中心を失ってしまった。
或ものは又、見えざる絲に吊らるる如く、枝に返らず地に落ちず、つやある風に身を揉ませて居る。空に葉の舞、地の人の舞! 之を見るもの、上なるを高しとせざるべく、下なるをひくしとせざるべし。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
なほひくし、今立つ所
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ひくふして頼けるに三郎兵衞は碌々ろく/\耳にも入ず合力は一向なり申さず勿論もちろんむかしは借用致したれども夫は殘らず返濟したりすれば何も申分有べからずとの返答に四郎右衞門成程なるほど其金は受取たれども仕舞しまひの百兩は大晦日おほみそかの事にてちやうへは付ながら金は見え申さず不思議の事と思へども最早もはやそれむかしの事我等が厄落やくおとしと存じ思切てすましたり夫を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そも/\人は、その限りあるによりて、あがなひをなす能はざりき、そは後神にしたがひ心をひくうしてくだるとも、さきに逆きて 九七—
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)