)” の例文
と正面よりお顔を凝視みつめて、我良苦多がらくた棚下たなおろし。貴婦人は恥じ且つ憤りて、こうべれて無念がれば、鼻の先へ指を出して、不作法千万。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
而して咬まれる。悲鳴をあげる。二三疋の聯合軍に囲まれてべそをかいて歯をき出す。己れより小さな犬にすら尾をれて恐れ入る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
けれどもやがて何かに心付いた事でもあるのか、ホッと深いため息をいて、かしられて両方の拳を固く握り締めて申しました——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
『あゝ、月がある!』然う言つて私は空を見上げたが、後藤君は黙つて首をれて歩いた。痛むのだらう。吹くともない風に肌がしまつた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あなやと驚くひまもあらせず、赫然かくぜんたる電光は身邊をめぐり、次いで雷聲大に震ひ、我等二人をして覺えず首をれて、十字を空に畫かしめつ。
鳴く虫は音をしのび、荒い獣もこうべれて、茂太郎の傍へと慕い寄る……真紅島田しんくしまだの十八娘、茂太郎のために願かけて、可愛の可愛のこの美竹
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そんな時には常蒼つねあおい顔にくれないちょうして来て、別人のように能弁になる。それが過ぎると反動が来て、沈鬱ちんうつになって頭をれ手をこまねいて黙っている。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼はそこで山々の前に、思わず深い息をつくと、悄然しょうぜんと頭をれながら、洞穴の前に懸っている藤蔓ふじづるの橋を渡ろうとした。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一二一鬼畜きちくのくらきまなこをもて、一二二活仏くわつぶつ一二三来迎らいがうを見んとするとも、一二四見ゆべからぬことわりなるかな。あなたふとと、かうべれてもだしける。
郎女は尊さに、目のれて来る思ひがした。だが、此時を過ぐしてはと思ふ一心で、その御姿から目を外さなかつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
猿は途方に暮た様子で頭をれて視線を船の甲板の上に落してゐて、艦長の顔を一目も仰ぎ見る事が出来なかつた。
(新字旧仮名) / ジュール・クラルテ(著)
見れば男は露一厘身動きなさず無言にて思案のこうべ重くれ、ぽろりぽろりと膝の上に散らす涙珠なみだちて声あり。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼の病はいまだ快からぬにや、薄仮粧うすげしやうしたる顔色も散りたるはなびらのやうに衰へて、足のはこびたゆげに、ともすればかしらるるを、思出おもひいだしては努めて梢をながむるなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
我は彼の語れる間、いたくあやしみてかうべれしも、語るの願ひに燃されて、後再び心を強うし 八八—九〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
商人はかう云つて再びセルギウスの前に跪いて皿のやうに重ねた両手の上に頭をれて、動かずにゐる。
猫属の輩は羞恥という念に富んでいるもので、虎や豹が獣を搏ち損う時は大いに恥じた風で周章あわてて首をれて這い廻り逃げ去るは実際を見た者のしばしば述べたところだ。
「おや、そう、ちっとも知らなかったわ。それじゃ御忙い訳ね。そうですか。そうとも知らずに、飛んだ失礼を申しまして」とうそぶきながら頭をれた。緑の髪がまた動く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いかなる自由の意志を有する動物も、必要の前には必ずその首をれざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
相手にるものが無いので、少時しばし頭をれて黙つて居たが、ふと思出したやうに
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
かくて半晌はんときも過ぎると、いずれも漸くあきが来て、思わず頭をれると、あたかもその途端に石がバラリと落ちるという工合で、どうしても上に物あって下の挙動を窺っているとよりは見えぬ。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
顔をあからめ、しばらく孔子の前に突立つったったまま何か考えている様子だったが、急に雞と豚とをほうり出し、頭をれて、「つつしんで教を受けん。」と降参した。単に言葉に窮したためではない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
斯う言つて、恰も小供の羞かむだ時のように、首をれて笑はれた。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
逆茂木さかもぎがしつらえてあるので、頭をれて、入ろうとしたが、入れそうもないので、恨めしそうに佇んで、ジッと見詰めている、私たちは逆茂木と牛の間に割り込んで、身を平ったく、崖につけて
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
野曠天低樹 野曠うしてそら樹に
閑人詩話 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
眉をれ、手にまかせて 続々と
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
欣弥は頷きたりしかしらをそのままれて、見るべき物もあらぬ橋の上にひとみを凝らしつつ、その胸中は二途の分別を追うに忙しかりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あなたは衷心ちゅうしんに確にソレを知ってお出です。夫人、あなたは其深い深い愛のもとに頭をれて下さることは出来ないのでしょう乎。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その氣高かりし海のむすめの今は頭をれたるぞ哀なる。われ。フランツ帝の下にありて幸ありとはいふべからざるか。ポツジヨ。われは政治を解せず。
郎女は尊さに、目のれて来る思いがした。だが、此時を過してはと思う一心で、御姿みすがたから、目をそらさなかった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
藤田は股栗こりつした。一身の恥辱、家族の悲歎が、こうべれている青年の想像に浮かんで、目には涙がいて来た。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
其勇ましいうめきの声が、真上の空をつんざいて、落ちて四周あたりの山を動し、反ツて数知れぬ人のこうべれさせて、響のなみ澎湃はうはいと、東に溢れ西に漲り、いらかを圧し
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
是君を先にし、臣を後にするなり。汝はやひとの国に去りて害をのがるべしといへり。此の事、一三五と宗右衛門にたぐへてはいかに。丹治只かしられてことばなし。
尺蠖せきくわくは伸びて而もまたかゞみ、車輪は仰いで而も亦る、射る弓の力窮まり尽くれば、飛ぶ矢の勢変りかはりて、空向ける鏃も地に立つに至らんとす、此故に欲界の六天
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
彼はかしられて足の向ふままにみぎはかたへ進行きしが、泣く泣く歩来あゆみきたれる宮と互に知らで行合ひたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こうべれて床のリノリウムを凝視みつめたまま、何回も何回もふるえた溜め息をして、舌一面に燃え上る強烈なウイスキーの芳香においを吹き散らし吹き散らししていたのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『瑣語』に周王太子宜臼を虎にくらわさんとした時太子虎を叱ると耳をれて服したといい
「ふうん」と云って高柳君は首をれた。文学は自己の本領である。自己の本領について、他人が答弁さえ出来ぬほどの説をくならばその本領はあまり鞏固きょうこなものではない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
外の闇夜へ揺ぎいだいたに、如何なこと、河のほとりには、年の頃もまだ十には足るまじい、みめ清らかな白衣びやくえのわらんべが、空をつんざいて飛ぶ稲妻の中に、頭をれて唯ひとり
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
能登守がれた首を上げて、その人の足音を気にすると
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
野曠天低樹 野曠うしてそら樹に
閑人詩話 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
貴僧あなたはほんとうにお優しい。)といって、われぬ色を目にたたえて、じっと見た。わしこうべれた、むこうでも差俯向さしうつむく。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こゝに技倆すぐれたる俳優あり。その所作、その唱歌は萬客の心を奪へり。歌ひてこゝに至りたるとき、姫は頭をれたり。そは我上とおもへばなるべし。
「さにてもなし、」とまだいわけなくもいやしむいろえ包までいふに、皆をかしさにへねば、あかめし顔をソップ盛れる皿の上にれぬれど、黒ききぬの姫はまつげだにうごかさざりき。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
蛇もまた人祖堕落の時まで駱駝らくだごとき四脚を具え、人をけてはエデン境内最も美しい物じゃったが、禁果をぬすみ食った神罰たちまち至って、楽土諸樹木の四の枝がれ下り
舌よりも真実を語る涙をば溢らす眼に、返辞せぬ夫の方を気遣ひて、見れば男は露一厘身動きなさず無言にて思案の頭重くれ、ぽろり/\と膝の上に散らす涙珠なみだちて声あり。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
死人のような青い顔をして、私の寝台の前に突立った彼は、私の顔を真正面まともに見得ないらしく、ガックリと頭をれた。間もなく長い房々した髪毛かみのけの蔭からポタポタと涙をらし初めた。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
対岸には接骨木にわとこめいたがすがれかかった黄葉をれて力なさそうに水にうつむいた。それをめぐって黄ばんだよしがかなしそうにおののいて、その間からさびしい高原のけしきがながめられる。
日光小品 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見れば、直道は手をこまぬき、かしられて、在りけるままに凝然と坐したり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
印度衰亡史は云はずもの事、まだ一册の著述さへなく、茨城縣の片田舍で月給四十圓の歴史科中等教員たる不甲斐なきギボンは、此時、此歴史的一大巨人の前におのづからかうべるるを覺えた。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
頭をれて故郷を思う
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)