以来このかた)” の例文
旧字:以來
「……なれども只今のような不思議な御方おかたが、この街道をお通りになりました事は天一坊から以来このかた、先ず在るまいと存じまするで……」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
丈「いや実にどうもしばらくであった、どうしたかと思っていたが、しちねん以来このかたなん音信おとずれもないから様子がとんと分らんで心配して居ったのよ」
「捨さんも、どちらかと言えば小柄な方でしたのに、この二三年以来このかた急にあんなに大きく成りました」と姉さんも言葉を添えた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
後にはそれとうなずかせた、異様な予感が触れてきたと云うのは、数十年以来このかたこの室に君臨していて、幾度か鎖され開かれ、また
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「はて、昨夜からの騒ぎというのはそれァ何事だ。お前たちも知っての通りわしは先月以来このかた外へ出るのは今日が初めて……。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「素人稽古の時はよく褒められたが、本気に遣り出してから以来このかた、さっぱり褒めてもらえぬと悄気しょげていましたよ。そんなものでしょうかね。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しかし保元、平治以来このかたの戦つづきに、歌人などは、まったく、無用の長物と忘れ去られて、ことに、為政者いせいしゃの眼からは
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊予の松山は日露戦争以来このかた俘虜の収容地になつてゐるので、そんな事から彼地あすこの実業家井上かなめ氏は色々いろんな方面の報道を集めて俘虜研究をつてゐる。
保雄の妻と成つて以来このかた良人おつとと一緒に貧しい生活に堪へて里家さとから持つて来た丈の衣類は皆子供等の物に縫ひ換へ、帯と云ふ帯は皆売払つて米代に
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
道庵の右に出でる者は無え……道庵が長者町へ巣を食って以来このかた、道庵のさじにかかって命を落した者が二千人からある
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……つらの皮は、雨風にめくれたあとを、幾たびも張替えたが、火事には人先に持ってげる何十年以来このかた古馴染ふるなじみだ。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「五年以来このかた松倉屋の様子が、何となく変に変わって来た。わしの屋敷へ出入りをするごとに、私におかし気な謎をかける。……がまあまあそれもよかろう」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
村人は、一年以来このかたこの村に振りかかって来た災難を除いてくれたことを大に感謝して、その後白を通じてお蝶さんに食物を届けるものが多くなりました。
狂女と犬 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
雪に埋りたる泉水せんすゐほりいだせば、去年初雪より以来このかた二百日あまり黒闇まつくらの水のなかにありし金魚きんぎよ緋鯉ひこひなんどうれしげに浮泳うかみおよぐものいはゞやれ/\うれしやといふべし。
近江屋始まりてより以来このかた、始めて帳場の車は呼ばれつ、値段の高下を問ふに及ばず急げツとばかり乗出しぬ。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
本田のぼると言ッて、文三より二年ぜんに某省の等外を拝命した以来このかた吹小歇ふきおやみのない仕合しあわせの風にグットのした出来星できぼし判任、当時は六等属の独身ひとりみではまず楽な身の上。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
清国皇帝は英国の貴婦人を皇妃こうひに貰うて以来このかた、英国と非常に親密になって居るために清国がみだれるのであるという風説がチベットに流布るふして居るのみならず
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
弦を離れしの如く嵯峨さがの奥へと走りつき、ありしに代へて心安き一鉢三衣いつぱつさんえの身となりし以来このかた、花を採り水をむすむでは聊か大恩教主の御前に一念の至誠をくう
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「我が国家開闢かいびやくより以来このかた、君臣の分定まりぬ。臣を以て君とることいまらざるなり。あまツ日嗣は必ず皇緒を立てよ。無道の人は宜しく早く掃除はらひのぞくべし。」
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
二百五十年前、豊公攻め入りの節、火焔の破頂にて和と判じて大功を立てて以来このかた、代々の兵道方、先師達、一人として、その偉効を顕現したことはござりませぬ。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
神経衰弱に悩まされて以来このかたは、それも畢竟此等のてあひの醸し出す酒場の妖気に当てられた所為でもあらうかと思ひ、堅く禁酒を声明して森に足を向けなくなつた。
霓博士の廃頽 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
まず言う「汝生まれし日より以来このかたあしたに向いて命を下せし事ありや、また黎明よあけにその所を知らしめこれをして地のふちとらえて悪き者を地の上より振落ふりおとさしめたりしや」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「今度は当選る、」と懸賞小説家は得意な微笑を口辺くちもとに湛へつ断乎たる語気で、「三月みつき以来このかた思想を錬上げたのだから確に当選る。之が当選らぬといふ理由は無い……」
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
頑児矩方のりかた、泣血再拝して、家厳君、玉叔父、家大兄の膝下しっかもうす。矩方稟性ひんせい虚弱にして、嬰孩えいがいより以来このかたしきりに篤疾とくしつかかる。しかれども不幸にして遂に病に死せざりき。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
万治以来このかた話でも位置の知れた両国橋を、あすこですなと新しそうに指さして居るのもある。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
大槻は年ごろ五十歳あまり、もと陸軍の医者で、職をめてからは目黒の三田村にうつり住んで、静かに晩年を送ろうという人、足立駅長とは謡曲の相手で四五年以来このかた交際つきあいであるそうだ。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
妾達わたしたちも時々に町へ出るから、お前さんともかねてお馴染だが、妾達は二十年以来このかたこのいわやに棲んで、山𤢖と一所いっしょに暮している。けれども、妾の倅の重太郎は𤢖じゃアない。これでも立派な人間だ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
未亡人の亡くなる前後から以来このかたの事は野村にも確乎しっかりした記憶があるのだ。
「三遊亭圓生」と改めて以来このかたも、古今亭新生、金原亭きんげんてい馬生、司馬龍生、三升亭小勝と名人上手は続々とあらわれいで、ついほんのこの間まで三遊派の大いなる流れは随分滔々と派を唱えていたのに。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「其れは長二や、だお前には早過ぎるやうだよ」と伯母はかうべを振りぬ「私も結局孤独ひとりの方が好いと、心から思ふやうになつたのは、十年以来このかたくらゐなものだよ——今だから洗ひさらひ言うて仕舞ふが、 ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
此河岸をばもう四年以来このかた歩いた事がないのである。
上田の停車場ステーションで別れてから以来このかた小諸こもろ、岩村田、志賀、野沢、臼田、其他到るところに蓮太郎がくはしい社会研究を発表したこと
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
造船所の掛員は、葬式とむらひの帰りに、一度こんなお辞儀に出会でくはして以来このかた久し振の事なので、ひどく度胆を抜かれてしまつた。
と御維新以来このかた江戸児えどッこの親分の、慶喜様が行っていた処だ。第一かく申すめの公も、江戸城を明渡しの、落人おちうどめた時分、二年越居た事がありますぜ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雪に埋りたる泉水せんすゐほりいだせば、去年初雪より以来このかた二百日あまり黒闇まつくらの水のなかにありし金魚きんぎよ緋鯉ひこひなんどうれしげに浮泳うかみおよぐものいはゞやれ/\うれしやといふべし。
「さよう、拙者は存じております。と云うよりもこれはこう云った方がよろしい。——その『何か』を手に入れようとして、五年以来このかた探しておりましたとな」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは実に寛政かんせいの末つころ、ふとおのれがまだ西丸にしのまる御小姓おこしょうを勤めていた頃の若い美しい世界の思出されるまま、その華やかな記憶の夢を物語に作りなして以来このかた
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
和尚の与へし切支丹煙草、唖妣烟オヒエムを吸ひしより以来このかた、魂虚洞呂うとろの如くなりて心獣の如く、行ひ白痴の如し。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
重「ヘイ/\此奴でございますか、畜生ちきしょうめ、四年以来このかた一通りならない苦労をさせやアがって、此ん畜生め」
この窟地理の書によるに昇降のぼりくだりおよそ二町半ばかり、一度は禅定することすたれしが、元禄年中三谷助太夫というものの探り試みしより以来このかたまた行わるるに至りしという。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
致しておりましたが、殿が、御帰国遊ばされて以来このかた、急に、会合が劇しくなりまして、何か企んでおります模様でござりますで、手をつくして、調べましたところ——
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それより以来このかた、当人は右足の自由を失いまして片足の芸当、高いところは十丈のはりの上を走り、低いところは水の底をくぐる、馬に乗りましてこの槍を使いますれば馬上の槍
彼はこの旅に出て以来このかたといふもの、この夜ほど深い満足と共に杯を把りあげたことは無かつたので、盛んに饒舌を吐きちらしながら盃を重ねてゐたが、遂ひには軽快な泥酔状態に落ちて
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
兎角する内に、横山の城中の者も後詰ごづめなきを恨み降参して敵へ加はるまじきにもあらず、信長当方へ打入りしより以来このかた、心のまゝに働かせ候ふこと余りに云甲斐なし、早く御陣替然るべし。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
渠女かれは、銀が三年以来このかたの惨澹たる経歴と、大酒飲みになつた事と、真面目まじめに働くがいやになつた事と、この世には望みもなければ、楽しみといふものの光明も認められぬやうになつた事など
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
去りてより以来このかた 江口の空舟を守れば
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例のように彼は部屋の茶戸棚ちゃとだなの側に陣取って膳にむかって見た。懺悔ざんげを書き始めてから以来このかた閉居する身には庭の草木も眼についた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
下枝さんを。「三年以来このかた辛抱して、気永になびくのを待っていたが、ああ強情では仕様がえ。今では憎さが百倍だ。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが気力の著じるく衰へ来りしより以来このかた、彼の馬十の顔を見る毎に、怪しく疑ひ深き瞋恚しんにの心、しきりに燃え立ちさかりて今は斯様かうよと片膝立つる事屡々しば/\なり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あぶないところを助けられて以来このかた、香具師の群の中へ投じて、諸々方々を流浪したが、その間にどれほど梶太郎のために、愛されいたわられ大事がられたことか。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)