代物しろもの)” の例文
元来この方面に棲息する地震鯰は大した代物しろものではない。世界中の地震計に記録されるような大規模の地震を起こすほどの威力はない。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
大小というが、その大なるも三分立方はなく、以下順次四粒、中なると小なるはそれに準じて、小豆あずきに似たような代物しろものまであります。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二つ三つ穴の明いた古薄縁ふるうすべりを前へひろげましたが、代物しろものならべるのを見合せ、葛籠に腰をかけて煙草を呑みながら空を眺めて居ります。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とうてい美食家の口には問題にならぬ代物しろものである。しかし、まぐろの少ない時季には、三流どころの刺身として盛んに用いられている。
鮪を食う話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「拜借なんて代物しろものぢやないのよ。この裏を見てごらん」とお銀ちやんは、枯れた芭蕉の葉のやうに横切れのした裏を返して見せた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
「これアすくなくとも四五百円にはなる代物しろものだ」と折井刑事は目をみはって、「仙太の持ち物としては、たしかに異状いじょう有りだネ、山城君」
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
永代橋傍の清住町というちょっとした町に、代物しろものの新しいのと上さんの世辞のよいのとで、その界隈かいわいに知られた吉新という魚屋がある。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「わが輩がもっとも憎むべき奴としている代物しろものだ。よしッ。行って来るからな。貴公は山泊やまとの連絡もあること。ここにいてくれ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小劇場によつて試演される劇は、高價な場代を拂つて樂しむ見物にはあまりよろこばれない代物しろものだと、いはゆる黒人筋くろうとすぢは樂觀するだらう。
むぐらの吐息 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
虚無僧の兼吉が、さやごと出した一刀、平次は引っこ抜いてみると、これは紛れもない銀紙貼りの竹光、人など斬れる代物しろものではありません。
その種を割って世間へ吹聴すれば、折角の代物しろものに疵が付く、人気も落ちる。由兵衛はそれを匂わせて、幾らかいたぶるつもりで来たのだ。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
日本美人や活動によく出てくる聖林ハリウッドあたりの亜米利加アメリカ美人に優る代物しろものが黒サンの国に見出されようとは考えられぬことであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
たんあたまからした、あたかにかいたもちやう代物しろものつて、義理ぎりにも室中しつちゆうらなければならない自分じぶん空虚くうきよことぢたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これで見ると、どうしても、二百年ぐらいった代物しろものとしか思えない。フィリップのおかみさんは、その点、気がひけるらしい。
我国で見るような、長くて細い塚は見当らず、また石屋の芸術品である所の見栄みえを張った、差出がましい代物しろものが無いので大いに気持がいい。
要するに「何もも要らずの映画」と云っても差支ないという……とても独逸ドイツ製の無字幕映画なぞいう時代遅れな代物しろものが追付く話ではない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
オランダの東印度会社がお上に献上しようという臼砲なるものは、いかにもひとを馬鹿にした代物しろもので、図体こそは厖大だが
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
とてもこの辺や○○町で見られる代物しろものじゃない。三人いるぜ。明日大滝へ行って待っていれば親しく咫尺しせきすることが出来る」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
先生この二台半ばかりの代物しろものを六台くらいに引のばして、ページ半分も埋まるようなでかでかの標題をつけて、五十カペイカで売り出すんだ。
私は子供の時分に八幡やわた藪知やぶしらずの見世物で、型ばかりの代物しろものではありましたが、鏡の部屋を経験したことがあるのです。
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのミシンは、支払うべき金がなかったために、お島が機転をかして、機械の工合がわるいと言って、新しく取替えたばかりの代物しろものであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ネー、今夜はモロッコのつばめの巣をお前にやろう。ダントンがそれを食いたさに、椅子から転がり落ちたと云う代物しろものだ」
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
勤勉、怠慢はとにかくとして、日本の文化人はまったく困った代物しろものだ。桂離宮も見たことがなく、竹田も玉泉も鉄斎も知らず、茶の湯も知らない。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
早い話が、近松門左衛門ちかまつもんざゑもんの「国姓爺こくせんや」のうちゑがかれてゐる人物や風景を読んで見れば、やはり、日本とも支那ともつかぬ、甚だ奇妙な代物しろものである。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
親父おやじのジャン・ミシェルは大して金を出して手に入れたのでもないと、メルキオルは言った、焚付たきつけ同様の代物しろものであると。
「あばれたにも何も、一体名代の代物しろものでごぜえしょう、そいつがおさん、盲目めくら滅法界に飛出したんで、はっと思う途端に真俯向まうつむけのめったでさ。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
テナルディエはその「いい代物しろもの」を内隠しにしまい込んで、ほとんどびるようにおとなしくマリユスをながめていた。
申せしかば彦兵衞は彌々いよ/\こまはて當人が出ぬ時は新町へ立替たてかへねばならず依ては氣の毒ながらみぎ代物しろものだけしな才覺さいかくあるべしと申を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
…………今日は誰も来ないと思ったら、イヤ素的すてきな奴が来た。蘭麝らんじゃかおりただならぬという代物しろもの、オヤ小つまか。小つまが来ようとは思わなかった。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
近頃は別れた女が、以前関係のあつた男を棚卸しをする事が流行はやる。棚卸しの対象あひてとしては、男は恰好の代物しろものである。
という代物しろものを缶詰にこしらえて全国へ売り出したから、鯨はまことにおいしくない、ということになってしまった。
海豚と河豚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
あの物識ものしりのところへっていって、てもらおうかしらん。どうせつまらないものでも、もともとだ、まん一いい代物しろものであったらおもわぬもうけものだ。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この気味の悪い代物しろものの頭蓋骨の中には、火をつけた木炭が少しあって、それがこのシーン全体に、ちらちらする、しかしはっきりした光を投げている。
そのうちでもつめほうは、三日みっかなけりゃ目立めだってびる代物しろものだ。——ゆびかずで三百ぽん糠袋ぬかぶくろれてざっと半分はんぶんよ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
が、天の生せる麗質で、爺と潮来に行った時、女郎屋の亭主お光を見て「これは大したものだ、三百両の代物しろものだ」
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
諫言というその代物しろもの、うまい味のものででもあると見える……がしかしどのようなご馳走ちそうでも、満腹以上に詰め込まれてはせっかくの味も消えてしまう。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とうていのみこめる代物しろものではないと知り、すばやくナフキンに吐き出して卓子の下へ捨て、「世間の人たちがみんな捨ててしまう」のは当然の理であり
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
罵倒号など、僕の死ぬ迄、思い出させては赤面させる代物しろものらしいのである。どんな雑誌の編輯後記を見ても、大した気焔きえんなのが、羨ましいとも感じて居る。
喝采 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それはいわば大野暮とでも云うべき代物しろものであった。もともと私は手工は幼稚園時代から苦が手だったのだ。私は小屋を離れの戸口の前の柿の木の下に置いた。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
たとえば警察で手におえぬ代物しろものが田辺町へ滞在すると警官がその者を捉えて町から定規の里程外へ送り出す。
じっさい、大西洋の一方から他方へ、およそ三千マイルにちかい長さの代物しろものをひっぱってゆくという前代未聞の仕事には、まことにうってつけの彼女であった。
黒船前後 (新字新仮名) / 服部之総(著)
最も多く交易せられるのは羊毛、バタ、ヤクの尾というような先に申した類の物で、チベット内地人の買うのもやはり先に申し上げたるような代物しろものに過ぎない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
自由に引っくりかえしたり持ち運んだりは出来ないのであるから、練習用として決して適当な代物しろものでない。
すべてが、腐った沼水にうつる水際のように、なんともいえぬ陰気な代物しろものばかりだったのである。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
葡萄酒ぶどうしゅ一壜ひとびんきりで、それもあやしげな、くびのところがふくれ返ったどす黒い代物しろもので、中身はプーンと桃色ももいろのペンキのにおいがした。もっとも、誰一人それは飲まなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
いや、お蓮さまにかぎらず、だいたい女というものは、そう簡単に割りきれる代物しろものではないんで。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これを廝に告げんとすれど、悲しや言語ことば通ぜざれば、かれは少しも心付かで、阿容々々おめおめ肴を盗み取られ。やがて市場に着きし後、代物しろもの三分みつひとつは、あらぬに初めて心付き。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ことに学問の道にはげむものにはああ云うものは何の益もない代物しろものだ。「芸術」と云うものか何と云うものかわしにはよく分らんが、お父さんに云わせればあんなものは不潔だ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
何獣といおうか、何のおばけといおうか、とにかくほとんど名のつけようもない代物しろものでした。
何やらこう尻尾しっぽはねも失せたような生活、何やらこうたわけきった代物しろものだが、さりとて出て行きも逃げ出しもできないところは、癲狂院てんきょういんか監獄へぶち込まれたのにそっくりだ!