かたき)” の例文
「きっと太郎たろううみのあっちへいって、自分じぶん味方みかたれてくるんだろう。そして、かたきうちをするんだろう。そうするとおそろしいな。」
雪の国と太郎 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『それは様々さまざまでございます。なかには随分ずいぶんひねくれた、むつかしい性質たちのものがあり、どうかすると人間にんげんかたきいたします……。』
以上の想像が事実とすれば、平吉を殺そうとした酒が却って平吉の味方になって、その場を去らずにかたき二人をほろぼしたのである。
放し鰻 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「うぬ、幽霊船め、こんどは只じゃ通さないぞ。そうだ、そうだ。乗組員の敵だ。かたきうちをしなくちゃ、腹の虫がおさまらないや」
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いかん! いかん! かなわぬ願いだっ。逆賊のたねを世にのこしおけば、やがて予に対して祖父のあだの母のかたきのと、後日のたたりを
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紺野かず子どのは祝言こそあげていないが、杉永とかねてから婚約の仲であり、そのもとを良人おっとかたきとして討つ覚悟でおられる。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
みんなかたきだ、みんな敵なんだ、人を見たら泥棒と思えというふうに、すっかり私は誰をみても信じなくなってしまったんです。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「うむ、うむ。だからやるのさ。一ぺんで、親父のかたきを取って、開墾場の人達みんなを助けて、その上自分の恨みを晴らせるのだもの……」
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
なぜと申しますと、あの平太夫が堀川の御一家ごいっけかたきのように憎んでいる事は、若殿様の御耳にも、とうからはいっていたからでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「あの方と、此處の御主人とは元同じ藩中で、——あの方は、御主人をかたきのやうに思ひ込んでゐる樣子でございますが——」
「御鎮守の姫様、おきき済みになりませぬと、目の前のかたきながら仕返しが出来んのでしゅ、出来んのでしゅが、わア、」
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「間、貴様は犬のくそかたきを取らうと思つてゐるな。遣つて見ろ、そんな場合には自今これからいつでも蒲田が現れて取挫とりひしいで遣るから」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「そうですよ、親のかたきが天誅組から逃げて、たしかにこの竜神村へ入り込んだといって探しにおいでなすったんだとさ」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
母はジナイーダにすこぶる悪意をいだいて、まるでかたきのようにわたしたちを見張っていた。父の方は、大して怖くなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
私は、その時お宮と自分との間が肉体からだはわずか三尺も隔っていなくっても互いの心持ちはもう千里も遠くに離れているかたき同志のような感じがした。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
たとひかたきの子なりとも夫に持ちしうへからは憎からずおもひはべるものを、かゝる恐ろしき復讐を企てぬるは、いかなる前世のやくそくにやあらん。
黄は、俺をばかにしたからかたきだが、それはしばらくおいて、村役人は朝廷の官吏で、権勢家の官吏じゃない。もし争う者があるなら双方を調べるべきだ。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「さあ、どうぞ。かたきの家へ行つても朝茶はのめ、と云ふことがありますよ。お茶ぐらゐはのんでもらはんと——」
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
親のあだ、家のかたき、また自分の敵であるあのドーブレクを命にかけても生かしてはおかないと、ごく秘密の裡にあの児と力を協せて事を計っておりました。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
それで母親のかたきを打ったように考えている兄のばか正直さがいねにはかえって恥さらしに思えるのであった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
其麽そんならです、』と、信吾は今迄の事は忘れて新らしいかたきの前にでも出た様に言つた。其眼は物凄く輝いた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「さあ、殺せるものなら殺せツ!」とか「このかたきは死んでもとつてやるぞツ!」とか「偽善者奴」とか
茜蜻蛉 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
『此処はわしのうちぢや無い、かたきうちぢや。兄さんの家はんな暗い処ぢや無くてあかるい処に有るんだ。』
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
もう一度、一軒店の商売をしなければならぬと、親のかたきをとるような気持で、われながら浅ましかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
で、その口惜しまぎれに、かたきを討たせようと思つたのか、嘘をついてあたしを差し向けたのであつた。
駒台の発案者 (新字旧仮名) / 関根金次郎(著)
「憎き者ども、わが子のかたき、七しょうまでたたりくれん」など囈言たわごとを吐くより、五人は生きたる心地もなく再び南山にとって返し、狐の穴に叩頭百拝こうとうひゃくはいび言よろしくあり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
キットかたきを取って進ぜまするという手紙を添えて、大枚の金子きんすを病身の兄御にことづけた……という事が又、もっぱらの大評判になりましたそうで……まことに早や
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私がどこまでもかたきを狙っていると疑るのだろう、そんな疑りがあって、私を女房にしようというのは余程よっぽど分らない、恐い人だね、もう止しましょう、書付かきつけまで見せて
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「先生のかたきをとるんだ」と、その晩から毎日夜の十二時まで猛勉強を始めるという騒ぎになった。
寺田寅彦の追想 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
よしッ、小池君、このかたきはきっと取ってやるよ。君と木島君と二人の仇は俺が必ず討って見せるよ
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
思い詰めていられるのでしょう? 自分とかたき同然な立場に置かれている身の上ではありませんか?
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ようし、と、おれははらの中で思ったんだ、今にかたきを討ってやるから! おれはそのころ、たいていの場合、おそろしく無作法者だった。それは自分でも気がついていた。
「みんなに相談して来い。この中尉のかたきをとって全滅の覚悟をするか新任の沈大佐殿に従うか」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
百右衛門こそ世にめずらしき悪人、武蔵すでに自決の上は、この私闘おかまいなしと定め、殿もそのまま許認し、女ふたりは、天晴あっぱれ父のかたきしゅうの仇を打ったけなげの者と
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
敵は逃げて行く途中、昭和遊撃潜水隊と衝突して、ついに『信濃』のかたきは討たれたのだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
僕は思いどおりに復讐することができたが、こうなってみるとかたきながらも可哀そうだ
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この場合、世界のあらゆる男の方が来られても、私の真の味方になれる人は一人もない。命掛の場合にどうしても真の味方になれぬという男は、無始の世からさだまった女のかたきではないか。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
シャクの最も熱心な聴手だった縮れっ毛の青年が、焚火に顔を火照ほてらせながらシャクのかたの肉を頬張ほおばった。例の長老が、にくかたき大腿骨だいたいこつを右手に、骨に付いた肉をうまそうにしゃぶった。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それに俺としても家督を追われたうらみがある、親のかたきなどと旧弊な言掛いいがかりも附けようと思えば附けられよう。だがこの男も結局は俺の心をき立ててはれぬ。小さいのだ、下らぬのだ。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
爺様とつさんぞ無念だつたべい。このかたきア、おらア、屹度きつと取つて遣るだアから」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「だから、お上さん、われわれがそのかたきをうってやろうというんです。」
漠然ばくぜんとした階級意識から崖邸の人間に反感を持っている崖下の金魚屋の一家は、復一が小学校の行きかえりなどに近所同志の子供仲間として真佐子を目のかたきいじめるのを、あまりたしなめもしなかった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
然し僕等は、山田君を殺したもののかたきをとることによって、とることによって、山田君を慰めてやることが出来るのだ。——この事を、今こそ、山田君の霊に僕等は誓わなければならないと思う……
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「なるほど善くないね。偶然とは申しながら、あんな事でかたきを打つのは下等だ。こんな真似をして嬉しがるようでは文学士の価値ねうちもめちゃめちゃだ」と高柳君は瞬時にしてまたもとの浮かぬ顔にかえる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
植源の嫁のおゆう、それから自分の姉……そんな人達の身のうえにまで思い及ばないではいられなかった。日頃口に鶴さんをめている女が、片端から恋のかたきか何ぞであるかのように思え出して来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「たかが一小説かきじゃないか、あンまり眼のかたきにするなよ」
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
「内藤さんは照彦のかたきを討ってくだすったのですよ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「おおそうか。さあ、今のかたきを討ってやれ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「よしッ! 兄弟のかたきだ! 来い」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
不倶戴天ふぐたいてんの父のかたきゆえ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)