下総しもうさ)” の例文
旧字:下總
……今度結城ゆうきの織元で、鶴屋仁右衛門つるやにえもんといって下総しもうさ一の金持なんですが、その姉娘と縁組ができ、結納がなんでも三千両とかいう話。
また『古語拾遺こごしゅうい』によれば、その天日鷲命が東国経営の際に、穀の木をえられた地方が今の下総しもうさ結城ゆうきであったとも言われている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「おめえと同じ時に、天童谷から這い上がって、あれから中仙道を下総しもうさの方へ突ッ走っていたのだが、どうも弱ったことになったよ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
句風以外の特色をいはんか、鳥取の俳人は皆四方太しほうだ流の書体たくみなるに反して、取手とりで下総しもうさ)辺の俳人はきたなき読みにくき字を書けり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
また男を取り殺した例も出でおる。わが国に古くミヅチなる水のばけものあり。『延喜式』下総しもうさ相馬そうま郡に蛟蝄みづち神社、加賀に野蛟のづち神社二座あり。
実は今日こんにちまで先祖の菩提所ぼだいしょなる下総しもうさ在所ざいしょに隠れておりましたが是非にも先生にお目にかかり、折入ってお願い致したい事が御座りまして
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もとより田舎の事とて泥臭いのは勿論もちろんだが、に角常陸から下総しもうさ利根川とねがわを股に掛けての縄張りで、乾漢こぶんも掛価無しの千の数は揃うので有った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
東京を中心にして関東の地図を見ますと、その中には相模さがみ武蔵むさし安房あわ上総かずさ下総しもうさ常陸ひたち上野こうずけ下野しもつけなどが現れます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
産後体の悪かった淑子は、隠家に来てから六箇月目に、十九で亡くなった。下総しもうさにいた夫には逢わずに死んだのである。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
西北から、大きな緑の帯のような隅田川すみだがわが、武蔵むさし下総しもうさの間を流れている……はるかに、富士と筑波を両方にひかえて。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
第一、目録が目線であります。下総しもうさが下綱だったり、蓮花れんげよもぎの花だったり、鼻がになって、腹がえのきに見える。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
井戸屋の主人も神仏の信心を怠らず、わざわざ下総しもうさの成田山に参詣して護摩ごまを焚いてもらった。ありがたい守符まもりふだのたぐいが神棚や仏壇に積み重ねられた。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いずれも戦にかけては恐ろしく強い者等に武蔵、上野、上総かずさ下総しもうさ安房あわの諸国の北条領の城々六十余りを一月の間に揉潰もみつぶさせて、小田原へ取り詰めた。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
下総しもうさの五味左衛門方を襲い、天国の剣と財宝とを奪い、さらに甲州の鴨屋を襲って、巨額の財宝を手に入れたのを最後として、全然まったく組を解散したっけ)
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
下総しもうさの中田宿じゅくでございました」喜兵衛は旅嚢りょのうの中から文箱ふばこを取り出して、甲斐の前へ差出した。その手はふるえていた、「まず御書面をごらん下さい」
十一代目を継いだ——下総しもうさあたりのお百姓から出て、中村翫右衛門がんえもんと名のった、あまり上手でない役者が座元の養子になり、その子の十二代目守田勘弥もりたかんや
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
『荒鷲』の姉妹機『はやぶさ』爆撃機が一隊ずつ、二百四十機、翼をはって、下総しもうさの空をにらんでいるではないか。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
「でも、親分、首っ縊りのブラ下がったのはちょうど橋の真ん中ですぜ。東風ひがしが吹けば死骸のすそ武蔵むさしへ入るし、西風にしが吹けばびんのほつれ毛が、下総しもうさへなびく」
幾千年の昔からこの春の音で打ちなだめられてきた上総かずさ下総しもうさの人には、ほとんど沈痛な性質を欠いている。秋の声を知らない人に沈痛な趣味のありようがない。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「向うは下総しもうさ葛飾郡、前を流るる大河は、雨さえ降るなら濁るるなれど、誰がつけたか隅田川ドンドン」
下総しもうさ佐原町さわらまちには、忠敬の旧宅が今でも残っていて、これらの書物や、測量に使った器械道具なども保存されているので、これはまことに貴重な記念物であります。
伊能忠敬 (新字新仮名) / 石原純(著)
下総しもうさの一月寺、京都の明暗寺と相並んで、普化ふけ宗門の由緒ある寺。あれをあのままにしておくのは惜しいと、病床にある父が、幾たびその感慨を洩らしたか知れない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この人は下総しもうさ松戸まつどの先の馬橋まばし村という所の者で、私より六ツほど年長、やっぱり年季を勤め上げて、師匠との関係はまことに深いのでありましたが、どういうものか
下総しもうさの松戸が道中の泊り納めであった。——そこまでは急いで来た。そこからは、平野のま近に、目と鼻との間に東京があって、阿賀妻の心は何故か重くなるのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
わたしが下総しもうさの店から東京へ帰って、浅草あさくさ三谷堀さんやぼり、待乳山のすそに住っていたころで、……それにしても八人のうちでわたし一人が何んの仕事も持たない風来坊ふうらいぼうだったから
しかし雪華の研究をした人としては唯一人、今より百余年前即ち西暦一八三二年に『雪華図説』なる一書を著した、下総しもうさ古河こがの城主土井大炊頭利位どいおおいのかみとしつらに指を屈するばかりである。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
浅草あさくさの或る寺の住持じゅうじまだ坊主にならぬ壮年の頃あやまつ事あって生家を追われ、下総しもうさ東金とうかねに親類が有るので、当分厄介になる心算つもり出立しゅったつした途中、船橋ふなばしと云う所である妓楼ぎろうあが
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
「海上潟」は下総しもうさ海上うなかみ郡があり、即ち利根とね川の海に注ぐあたりであるが、この東歌で、「右一首、上総国かみつふさのくにの歌」とあるのは、いにしえ上総にも海上郡があり、今市原郡に合併せられた
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
下総しもうさの国山梨村大竜寺の長老、ある年江湖ごうこを開きたるに、少し法門の上手なるによりて慢心を生じ、多くの僧侶のおる前にて急に鼻が八寸ほども高くなり、口は耳の根まで切れたれば
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
奥利根川へは、大正十五年の春まで、下総しもうさ国の銚子河口の海から遡ってきた。
鱒の卵 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
門はいているが玄関はまだ戸閉りがしてある。書生はまだ起きんのかしらと勝手口へ廻る。清と云う下総しもうさ生れのほっペタの赤い下女がまないたの上で糠味噌ぬかみそから出し立ての細根大根ほそねだいこんを切っている。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此村から外国がいこく出稼でかせぎに往った者はあまり無い。朝鮮、北海道の移住者も殆んど無い。余等が村住居の数年間に、隣字の者で下総しもうさの高原に移住し、可なり成功した者が一度帰って来たことがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
旅姿の下総しもうさの博徒突き膝の喜八と宮の七五郎、往来へきて立ちどまる。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
下総しもうさくに葛飾郡かつしかのこおり真間ままさとに、勝四郎という男があった。
快生が今まで居た下総しもうさのお寺は六畳一間の庵室で岡の高みにある、眺望ちょうぼうは極めて善し、泥棒の這入る気遣はなし、それで檀家だんかは十二軒
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
だからバエバエゴクも御飯をたくわざということに解せられるのである。下総しもうさ海上うなかみ郡ではオミツチャゴというのがこの遊びの名である。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おらの生れた下総しもうさには海はあるけれど船には乗ったことがない。——それに乗れるんならほんとにうれしいなあ。と他愛もなくいいつづける。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お玉の内へも或る日印絆纏しるしばんてんを裏返して着た三十前後の男が来て、下総しもうさのもので国へ帰るのだが、足を傷めて歩かれぬから、合力ごうりきをしてくれと云った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
下総しもうさの分だが、東葛飾ひがしかつしかだから江戸からは遠くねえ。まあ、行徳ぎょうとくの近所だと思えばいいのだ。そこに浦安うらやすという村がある。その村のうちに堀江や猫実ねこざね……」
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
刀根川とねがわや荒川の上流から山水が押し出し、下総しもうささるまたのほか多くの堤が欠壊したため、隅田川の下流は三日の深夜からひじょうな洪水にみまわれたのであった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
下総しもうさ飯篠いいざさ長威斎に天真正伝神道流を学び、出藍しゅつらんほまれをほしいままにしたのは、まだ弱冠の頃であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
下総しもうさ古河こがへ下男の権八を追わせたのは、三輪の万七の指図ですが、本当に主人を殺して金を取ったのなら、自分の故郷へノメノメ帰るかどうか、それも怪しいものです。
立川中将は、下総しもうさの山かげへ消えて行く『富士』の姿を見おくって、いかにも痛快そうに
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
仮名垣魯文かながきろぶんの門人であった野崎左文のざきさぶんの地理書にくわしく記載されているとおり、下総しもうさの国栗原郡勝鹿かつしかというところに瓊杵神ににぎのかみという神がまつられ、その土地から甘酒のような泉が湧き
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
下総しもうさ香取郡かとりぐん飯篠村いいしのむら飯篠山城守いいしのやましろのかみ家直入道長威斎いえなおにゅうどうちょういさいが開いたもの、「此流このりゅう勝負を以仕立教也もってしたつるおしえなり
下総しもうさの小金ヶ原の一月寺いちげつじというのへ行くことになるかも知れません、それはまだきまったわけじゃあございませんから、当分は法恩寺に御厄介になっているつもりでございます
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたしは子供を離さずに転々していた燁子さんを、あんなに好いたことはなかった。昨日は下総しもうさに、明日あすは京都の尼寺にと、行衛ゆくえのさだまらないのを、はらはらして遠く見ていた。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかしそれでもなかなかその方に向うことなどは思いもよらない処であったので、十八歳になった際には、下総しもうさ佐原町さわらまちの伊能家に婿養子に遣られ、その時忠敬と名のることとなったのでした。
伊能忠敬 (新字新仮名) / 石原純(著)
近くは上総かずさ下総しもうさ、遠い処は九州西国さいこくあたりから、聞伝ききつたえて巡礼なさるのがありますところ、このかたたちが、当地へござって、この近辺で聞かれますると、つい知らぬものが多くて、大きに迷うなぞと言う
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
太郎吉 下総しもうさだ。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)