一所いっしょ)” の例文
俺と一所いっしょに静かに、二三度うなずいた船長は伊那少年を顧みて、硝子ガラスのような眼球めだまをギラリと光らした。決然とした低い声で云った。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
祖母おばあさん、一所いっしょに越して来ますよ。」当てずッぽに気安めを言うと、「おお、そうかの。」と目皺めじわを深く、ほくほくとうなずいた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
哀れに思ったが、ただ仮の世の相であるから宮も藁屋わらやも同じことという歌が思われて、われわれの住居すまいだって一所いっしょだとも思えた。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
笑談じょうだん半分入って見た傷害保険が役に立つ訳だが、アヴァランシュの騒ぎで、金入れと一所いっしょに証書までどこかへ落したのは滑稽だ。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
降っても構わないからともかくも連れて行ってくださいと強請せがんで、伊坂君と一所いっしょに宿を出ると、冷たい雨がびしょびしょ降っていました。
米国の松王劇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「矢張り道楽でさアハッハッハハッ」と岡本は一所いっしょに笑ったが、近藤は岡本の顔に言う可からざる苦痛の色を見て取った。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それから清はおれがうちでも持って独立したら、一所いっしょになる気でいた。どうか置いて下さいと何遍もり返して頼んだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私とゲーテのような二人の人物が一所いっしょにいれば、われわれ二人において偉大な価値として認められるそのものにこれらの紳士たちも、注目すべきである。
そこで二人は一所いっしょにくるまって寝た小さな一枚の布団から起き出しました。そして火のそばに行きました。楢夫はけむさうにめをこすり一郎はじっと火を見てゐたのです。
ひかりの素足 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
神様も恋しらずならあり難くなしと愚痴と一所いっしょにこぼるゝ涙流れてとどまらぬ月日をいつも/\憂いにあかうらみに暮らしてわがとしの寄るは知ねども、早い者お辰はちょろ/\歩行あるき
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
近頃の新劇と昔の黙阿弥もくあみの芝居と一所いっしょに並べて見せられても何とも思わない見物なのである。
国民性の問題 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と、お為派の死んで行った人々に憐さと——同時に腹立たしさとを、一所いっしょに感じていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
こうして数日すぎたところで、夜半比よなかごろになって玉音が急に苦しみはじめた。一所いっしょに寝ていた名音は驚いてび起きた。玉音は両手で虚空こくうつかみ歯を喰いしばって全身を痙攣けいれんさせた。
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
道友会は心のいものを集めて一所いっしょに話をしようという趣意でったものと承知している、今も出かけに、家内がドコへ行くと聞くから、道友会へ行くと答え、道友会とはんだというから
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
私が夜網よあみにゆく道で逢ったところが、なんでも一所いっしょにゆくというので出かけて、だんだん夜がけてから、ふと気がつくと、今までそこに立って網をもっていたなにさんの姿がなくなっている。
人魂火 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
兄弟五人中津の風に合わずさて中津に帰てから私の覚えて居ることを申せば、私共の兄弟五人はドウシテも中津人と一所いっしょ混和こんかすることが出来ない、その出来ないと云うのは深い由縁も何もないが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし実際をいうと私も憶病なので、丁度ちょうど前月の三十日の晩です、十時頃『四谷』のお岩様の役の書抜かきぬきを読みながら、弟子や家内かないなどと一所いっしょに座敷に居ますと、時々に頭上あたまのうえの電気がポウと消える。
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
胃吉驚き「オヤオヤ何か来たぜ、妙なものが。ウムお屠蘇とそだ。モミの布片きれへ包んで味淋みりんへ浸してあるからモミの染色そめいろ一所いっしょに流れて来た。腸蔵さんすぐにそっちへ廻してげるよ」腸蔵「イヤ真平まっぴらだ」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「あそこではいつも一所いっしょに出かける。」
一所いっしょに這入ッて見よう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そこでいよいよ驚きながら、何はともあれ子供と一所いっしょに舟へ収容して、シクシク泣いている奴に様子を聞いてみると、こんな話だ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一体誰でも昔の事は、遠くへだたったように思うのですから、事柄と一所いっしょに路までもはるかに考えるのかも知れません。そうして先ずみんな夢ですよ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小児こどもの時に友達と一所いっしょに、一度ばかり登ったことが有るように記憶するが、今となってはその方角もすこぶ覚束おぼつかないものであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
土と一所いっしょにセヴィラで買った名木の杖は、敢なく最後をとげてしまった、もうゴルフも已めにして、今度は芝生で歌の稽古だ。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
しかしながら煙はもとより一所いっしょとどまるものではない、その性質として上へ上へと立ち登るのだから主人の眼もこの煙りの髪毛かみげもつれ合う奇観を落ちなく見ようとすれば
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浮立つばかりその輪郭を鋭くさせていたので、もし誇張していえば、自分は凡て目に見る線のシンメトリイからは一所いっしょになって、或る音響が発するようにも思うのであった。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
生物の最下等の奴になるとなんだかロクに分らないのサ、ダッテ石と人間とは一所いっしょにならないには極ッてるが、最下等生物の形状はあんまり無生活物とちがいはしないのだよ。
ねじくり博士 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「どうぞ、一所いっしょてつかわされませ、みょうな物がおるといいますきに」
怪譚小説の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから空の方からはいろいろな楽器の音がさまざまのいろの光のこなと一所いっしょかすかに降ってくるのでした。もっともっとおどろいたことはあんまり立派な人たちのそこにもこゝにも一杯なことでした。
ひかりの素足 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
たとい金丸長者の死に損いが、如何に躍起となったにしたところが、とても大阪三輪鶴の千両箱を三十も一所いっしょに積みはせまい。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今度も、別荘の主人が一所いっしょで、新道の芸妓お美津みつ、踊りの上手なかるたなど、取巻とりまき大勢と、他に土地の友だちが二三人で、昨日から夜昼なし。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の家の周囲まわりにも秋の草花が一面に咲き乱れていて、姉と一所いっしょざるを持って花を摘みに行ったことをかすかに記憶している。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
食事の後、私達はみんなヴェランダに集まって、シップレイ夫人も一所いっしょに、いろいろな話に時を費やした、私はことに、つくづくと世間の狭いのに驚いた。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
ず此の中から湯銭の少しも引き去れば、後の残分は大抵小遣こづかいになったので、五円の金を貰うと、直ぐその残分けを中村是公氏の分と合せて置いて、一所いっしょに出歩いては
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
学校はもう昨日きのうから始っている。朝早く母親の用意してくれる弁当箱を書物と一所いっしょに包んでうちを出て見たが、二日目三日目にはつくづく遠い神田かんだまで歩いて行く気力がなくなった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お辰を女房にもってから奈良へでも京へでも連立つれだって行きゃれ、おれも昔は脇差わきざしこのみをして、媼も鏡を懐中してあるいたころ、一世一代の贅沢ぜいたく義仲寺ぎちゅうじをかけて六条様参り一所いっしょにしたが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お前のこれからの一生涯の幸福は、お前の財産全部を持って俺と一所いっしょに外国に逃げることだ。その準備もちゃんと出来ていることを忘れるな。
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ころげた首の、笠と一所いっしょに、ぱた/\とく口より、眼球めだまをくる/\と廻して見据みすゑて居た官人が、此のさまにらゑて
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
昨日も丁度ちょうどここで逢ったから、腕を掴んで引摺ひきずり上げてろうと思ったんだけれど、生憎あいにく阿父おとっさんが一所いっしょだったから、まあ堪忍して置いてったのさ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
汐のさし引きで当てもなく曳かれてゆく塵あくた、犬猫の屍骸まで一所いっしょになって、ぶくりぶくり無気味な泡を立てながら、さすでも無く曳くでもなくただようて居る。
わずかの間とはいいながら、遠い国で一所いっしょに暮したその人の記憶は、健三に取って淡い新しさを帯びていた。その人は彼と同じ学校の出身であった。卒業の年もそう違わなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう返らない幾年か前蘿月らげつの伯父につれられお糸も一所いっしょとりいちへ行った事があった……毎年まいとしその日の事を思い出す頃からもなく、今年も去年と同じような寒い十二月がやって来るのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
葭簀張よしずばりの茶店が一軒、色の黒いしなびた婆さんが一人、真黒な犬を一匹、膝にひきつけていて、じろりと、犬と一所いっしょに私たちをながめましたっけ。……
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一所いっしょになる位の女だったので、ただ子供に対する愛情だけが普通と変っていないのが、むしろ不思議な位のものであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
妹山の家には古風な大きい雛段が飾られて、若い美しい姫が腰元どもと一所いっしょにさびしくその雛にかしずいている。
島原の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「金のる時も他人、病気の時も他人、それじゃただ一所いっしょにいるだけじゃないか」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一本ストンと投出なげだした、……あたかよしほかの人形など一所いっしょに並んだ、中にまじつて、其処そこに、木彫にうまごやしを萌黄もえぎいた、舶来ものの靴が片隻かたっぽ
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
マドロス煙管パイプをギュウと引啣ひっくわえた横一文字の口が、旧式軍艦の衝角しょうかくみたいな巨大おおきあご一所いっしょに、鋼鉄の噛締機バイトそっくりの頑固な根性を露出むきだしている。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
い天気だな。うだ。運動ながら吉岡のうち一所いっしょに行かないか。吉岡の阿母おっかさんに逢って、お前の婚礼をのばすことを一応ことわって置こうと思うから……。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
従って学校の成績は次第に悪くなるばかりで、予科入学当時は、今の芳賀はが矢一氏などと同じ位のところで、可成かなり一所いっしょにいた者であるが、私の方は不勉強の為め、下へ下へと下ってゆくばかり。
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)