一先ひとまづ)” の例文
女組は一先ひとまづ別室に休息した。富江一人は彼室あつちへ行き此室こつちへ行き、宛然さながら我家の様に振舞つた。お柳はあさつから口喧しく台所を指揮さしづしてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
利を受取る訳に行かなかつたから、書替をして来たと言へば、それで一先ひとまづ句切が付くのでありますから、どうぞ一つさう願ひます
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
検死事件で一寸手離されず、彼方此方あつちこつちへと駈走つて居たが、やうやく何うにかなりさうになつたので、一先ひとまづ体を休めに帰つて来たとの事であつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
老人等としよりら一先ひとまづ自分じぶんいへかへつた。卯平うへいとなりもり陰翳かげが一ぱいおほうてせまにはつたときは、勘次かんじはおつぎをれて開墾地かいこんちあとであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「十月朔日。晴。朝六時石原御門前より川崎屋船に乗組、南新堀万屋よろづや正兵衛方へ一先ひとまづ落著、黄昏和歌山蒸汽明光丸へ乗組。船賃九両茶代金二百疋。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その時分じぶんには丁度ちやうどきう正月しやうぐわつるので、一先ひとまづ國元くにもとかへつて、ふるはるやまなかして、それからまたあたらしい反物たんもの脊負しよへるだけ脊負しよつてるのだとつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「明日の晩だ。間違ひはなからうな。僕達が直ぐフンガイする者だといふことはよく知つてゐるから大丈夫だ。」「兎に角看いたら一先ひとまづ僕の家へ陣取らう。」
〔編輯余話〕 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
出やうがはやいと魔劫まごふれないから何時いつかはこれをもつて居るものにわざはひするものじや、一先ひとまづ拙者が持歸もちかへつて三年たつのち貴君あなた差上さしあげることにたいものぢや
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
起りは、何処にあらうとも、一先ひとまづ民間の話になつてゐたものを、やゝ潤色して書いたのだらうと思ふ。
信太妻の話 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
案内に致し當十二月廿二日のおくへ忍び入り藤五郎ならびに藤三郎の兩人を一先ひとまづぬすみ出し候にまぎれ御座なく候然る處當主主税之助より其夜居間ゐまの金子百兩紛失の由申立候は其身の惡事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
予は函館から予よりも先に来てゐた家族と共に、姉のうちにゐたが、幸ひと花園町に二階二室貸すといふ家が見付つたので、一先ひとまづ其処に移つた。
よろ/\と身体からだをよろめかしながら、なほ其相手に喰つてかゝらうとするので、相手の若者は一先ひとまづ其儘次の間へと追遣られた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
美禰子からかねりた翌日あくるひもう一遍訪問して余分をすぐに返すべき所を、一先ひとまづ見合せた代りに、二日ふつかばかりつて、三四郎は丁寧な礼状を美禰子に送つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
見る間になんといふヘボ石の行列ぎやうれつが出來た。けれども靈妙れいめうなる石はつひかげをも見せないので流石さすが權勢家けんせいか一先ひとまづ搜索さうさくを中止し、懸賞けんしやうといふことにしていへかへつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
如此かくのごとやから出入でいりせしむる鴫沢の家は、つひに不慮のわざはひを招くに至らんも知るべからざるを、と彼は心中にはかおそれを生じて、さては彼の恨深くことばれざるをさいはひに、今日こんにち一先ひとまづ立還たちかへりて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さぐり若し引取ずんば其時は何をてなりとも繁華はんくわの江戸ゆゑ親子二人渡世とせいのならぬ事は有まじもしうんよく立身りつしんいたしなは今の難儀なんぎせしおもて見返みかへさん何は兎もあれ一先ひとまづ江戸へ出べしとて夫より世帶せたい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さて夜が明けてから、一成、内藏允が黒田家の行列を立てゝ品川口に掛かると、番所から使者が來て、阿部對馬守つしまのかみの申付である、黒田殿には御用があるによつて一先ひとまづ東海寺へ立ち寄られたいと云つた。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
今出すから、まア一先ひとまづ坐んなさいとなだめられて、兎に角再び席にいたが、前の酒を一息にあふつて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
『御苦労も糞もえが、なす、先生、然う言ふ訳だハンテ、何卒どうか一先ひとまづ戻して貰つてござれ。』
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
安井やすゐ一先ひとまづ郷里きやうり福井ふくゐかへつて、それから横濱よこはまつもりだから、もし其時そのときには手紙てがみして通知つうちをしやう、さうしてるべくなら一所いつしよ汽車きしや京都きやうとくだらう、もし時間じかんゆるすなら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
貴下方あなたがたがそれまで遊佐さんの件に就いて御心配下さいますなら、かうすつて下さいませんか、ともかくもこの約束手形は遊佐さんから戴きまして、この方のかたはそれで一先ひとまづ附くのですから
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
爲難なしがたし依て一先ひとまづ江戸表へ御旅館ごりよくわん修繕しつらひとく動靜やうす見計みはからひ其上にて御下り有て然るべし其あひだには江戸表の御沙汰ごさたも相分り申さんへんおうじて事を計らはざれば成就じやうじゆほど計難はかりがたしといふに然ば江戸表に旅館りよくわん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)