いなずま)” の例文
見て居ると、其おびただしい明光あかりが、さす息引く息であるかの様にびたり縮んだりする。其明りの中から時々いなずまの様なひかりがぴかりとあがる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
爆発の火か、それともいなずまか、いずれともわかりませんが、目もくらむような光がきらめき、そのものすごいことといったらありません。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いままで五時五十分をしていた長い針がにわかにいなずまのようにんで、一ぺんに六時十五分のところまで来てぴたっととまりました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ギラリ、一瞬間鏡の表がいなずまの様に光ったかと思うと、真っ赤なものが、まるで鏡の表面を伝う様に、タラタラと流れました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
説文せつもん』に曰くいなずまは陰陽の激曜するなりとはちと曖昧あいまいであるが、要するに陰陽の空中電気が相合する時に発する光である。
歳時記新註 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
日の本の東西にただ二つの市の中を、徐々しずしずと拾ったのが、たちまちいなずまのごとく、さっと、照々てらてらとある円柱まるばしらに影を残して、鳥居際からと左へ切れた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じっと、みずそこしずんで、くらうえほうで、ひとところだけが、あかく、いなずまのように、ちらちらと火花ひばならしているのを、おそろしげにながめていました。
魚と白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『もしかあの女は遠からず死ぬるのじゃアあるまいか』という一念がいなずまのように僕の心中最も暗き底にひらめいたと思うと僕は思わずおどり上がりました。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
浪士たちの眼からいなずまが発するようですけれど、竜之助の眼は少しくえているばかりで、その面は例の通り蒼白い。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ひらめくいなずまに、高社たかやしろの山の肩がありありと二度ほど見えた。七はしばらく雲を見つめて、雨の小やみを待っていた。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大風が俄に起って、火の柱は巻き上ってうなり、青や色々な石は一様に赤くなり、飴のように、裂目に流れ込んだが、それは一条の不滅のいなずまのようである。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「噛め」はまるでいなずまのように、洞穴の外へ飛び出して、何の苦もなく土蜘蛛を噛み殺してしまいました。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は菊太の顔をみるとすぐ自分等が、菊太の子供達がいやがって居る地主だと云う感じがいなずまの様に速く胸を横ぎって、たまらなく不愉快な、いやあな気持になった。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
父が返事をしない事にって、瑠璃子は、目がくらむほど恐ろしい不安に打たれた。彼女は、ふと気が付いて、窓から入ろうと、いなずまのように、ヴェランダへ走って出た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いなずまのごとき眼光を浪子のおもてに射つつ、千々岩は身を転じて、してそこらの草花を摘み集めぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
船は左舷さげんへぐいとなかばまわり、それからその新たな方向へいなずまのようにつき進みました。
どこともなくするどきところありて。いわゆる岩下のいなずまともいわまほし。口はむしろ小さすぎたるほどなるに。いささか八の字のひげをたくわえたり。身長みたけは人並みすぐれたるが。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
口に尾をふくみて、たがなりになり、いなずまほど迅く追い走ると言ったが、全くうそで少しも毒なし、しかし今も黒人など、この蛇時に数百万広野に群がり、眼から火花を散らして躍り舞う
いなずまが時々白い水のうえを走った。笹村は長くそこに留まっていられなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
七郎の腰につけている刀が壁際にかけてあったが、それが不意にひとりでに抜けて、さやから二、三寸ばかり出て、ちゃりんという響と共に、その光がぎらぎらといなずまのように光った。武は驚いた。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
赤い髯を動かし、目をいなずまのようにきらきらと光らすので、皆が恐れて魂のぬけた人のようになり、歯の根もあわずにふるえていたが、座にたえられないので一人帰り二人帰りしていなくなってしまった。
陸判 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
先頭戦隊の四艦がいなずまのような砲火をひらめかした。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
あるいは三角形、或いは四辺形、あるいはいなずまくさりの形、さまざまにならんで、野原いっぱい光っているのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ただ見るたけ四尺あるやなしの小兵こひょうの男。竿に仕かけた槍を遣うこと神の如く、魔の如く、いなずまの如く、はやぶさの如し。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かぜをよけて、自分じぶんをかばってくれた、あのやさしいおじさんの大木たいぼくも、あるとしなつ晩方ばんがたのこと、もくらむばかりの、いなずまといっしょにちた、かみなりのために
ぴかぴかする夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今まではさも殊勝なりし婦人おんないなずまのごとき眼を新聞に注ぐとひとしく身をそらし、のびを打ち、冷切ひえきったる茶をがぶり、口に含み、うがいして、絨毯じゅうたんの上に、どっと吐出はきいだ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いなずまの様に避病院の黒馬車と、白い床の中に埋まって居る瘠せほうけた宮部を一様に思い浮べて居た。
黒馬車 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
筑波の頭からくういて湖に落込むいなずまぴかりぴかりと二筋三すじ、雷が鳴る、真黒の雲見る見る湖のそらに散って、波吹き立つる冷たい風一陣、戸口の蘆のそよと言い切らぬ内に
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
現在わたしの母が彼のことを持出したので、わたしのあの時の記憶がいなずまの如くよみがえって来て、本当に自分の美しい故郷を見きわめたように覚えた。わたしは声に応じて答えた。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
その時に、勝平の心に先刻の二人の様子が浮かんだ。睦じく語っている恋人同士としての二人が浮かんだ。それと同時に、いなずまのように、彼の心にある悪魔的な考えが思い浮かんだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この時もしや今のは彼人あれではないかという考えがいなずまのように自分の胸に浮かんだ。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
紫色や桃色のいなずまがぱっ/\と一しきり闇に降る細引ほそびきような太い雨を見せて光った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そうしてなにか、いなずまのような白い光が、小浜兵曹長の眼をさっと射しました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、その刹那に、白いいなずまのような光が、彼の眼をさっと射た。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは白い美しい顔であったが、眼がいなずまのように鋭かった。
雪女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すばしっこそうな『吹雪ふぶき』『いかずち』『いなずま
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
あれはと認むるひまも無く、いなずま? ふっと暗中やみに消え、やがて泰助の面前に白き女の顔あらわれ、ぬぐいたらむ様にまた消えて、障子にさばく乱髪のさらさらという音あり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日暮方から鳴出なりだした雷は益々ますますすさまじくなって、一天いってん墨を流したようで、篠突しのつく大雨、ぴかりぴかりといなずまが目のくらむばかり障子にうつって、そのたびに天地もくつがえるようにいかずちが鳴り渡る
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
遠いものはだいだいや黄いろではっきりし、近いものは青白く少しかすんで、あるいは三角形さんかくけい、あるいは四辺形しへんけい、あるいはいなずまくさりの形、さまざまにならんで、野原いっぱいに光っているのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ああこの時、わが目と二郎の目とはいなずまのごとく貴嬢が目を射たり、あおざめし貴嬢が顔はたちまち火のごとく赤く変わり、いそぎハンケチもておおいたまいし後はしばしわれらの言葉も絶えつ。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
『電報!』と云う声を聴く度に、私はいつも国に居る年の寄った両親の事が、いなずまのように、頭の中に閃くのです。そして『父キトク』だとか『母キトク』などと云う文句が、ハッと胸を衝くのでした。
たちあな姫 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
自分の脊髄せきずいをあるものがいなずまのごとく走った。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
靴足袋で青い足が、柵を踏んで乗ろうとするのを、一目見ると、懐中ふところと手を入れて、両方へ振って、しごいて、投げた。既に袋を出ていた蛇は、二筋いなずまのごとく光って飛んだ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それもまるきりいなずまのような計算だ。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いなずまとなって壁にひらめき、分れよ、退けよ、とおっしゃる声は、とどろに棟に鳴渡り、涙は降って雨となる、なさけの露は樹にそそぎ、石に灌ぎ、草さえ受けて、暁のあさひの影には瑠璃るり紺青こんじょう
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
垂れ下したる日蔽ひおおいは、これ究竟くっきょう隠所かくれどころと、泰助は雨戸とその幕の間に、いなずまのごとく身を隠しつ。と見れば正面の板床に、世に希有めずらしき人形あり。人形の前に坐りたる、十七八の美人ありけり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足拍子踏んで大手を拡げ、さっ退いて、と進む、きこといなずまのごとき時あり、見物は喝采かっさいしき。かろきこと鵞毛がもうのごとき時あり、見物は喝采しき。重きこと山のごとき時あり、見物は襟を正しき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)