鎧櫃よろいびつ)” の例文
「しかし、その覆面の男が、何で好きなお雪を、ああまでむごく斬り殺して、その上、鎧櫃よろいびつに入れて唖男に運び出させたのであろうか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨日、飯たきの久七という者に車をひかせて、商売用の大切な品を入れた鎧櫃よろいびつと、お得意へ届ける九谷焼きの花瓶とを持たして出した。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
七兵衛はそういいながら、後ろの壁に押付けてあった鎧櫃よろいびつを引き出して来ました。いつの間にか、お賽銭箱さいせんばこが鎧櫃にかわっている。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
トランクというのは、内地の旅行などには滅多に使用せぬ、鎧櫃よろいびつの様な極大型ごくだいがたのもので、人一人這入れる程の大きさである。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
菊女は階段から二階へ上がり、部屋の隅にあった鎧櫃よろいびつをあけ、鎧を引き出して押し入れへ入れ、櫃の中へ萩丸を坐らせた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「馬の前飾りじゃ。菊、存じておろう。鎧櫃よろいびつと一緒に置いてある筈じゃ。大切だいじな品ゆえ粗相あってはならぬぞ」
支那の古塚に、猥褻わいせつの像をおさめありたり。本邦で書箱鎧櫃よろいびつ等に、春画まくらえを一冊ずつ入れて、災難除けとしたなども、とどの詰まりはこの意に基づくであろう。
鎧櫃よろいびつも有る、鎗も是に懸り居ります、かたわらにはこの通り種子ヶ嶋の鉄砲に玉込もして有る、狼藉者が来てゴタ/″\致す時は、止むを得ずブッ払う積りで
さて、ところで、矢をつらぬいた都鳥を持つて、大島守登営とえいに及び、将軍家一覧の上にて、如法にょほう鎧櫃よろいびつに納めた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「そんな端金はしたがねが、どうなるものかね」と、いいながら、今度は自分で、やけに引出しを引掻き回した。しまいには鎧櫃よろいびつの中まで探したが、小判は一枚も出てきはしなかった。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
杉之助は口をつぐみました。貧しい住居ですが、机も本箱も鎧櫃よろいびつも槍もあり、本箱にはむずかしい四角な文字の本が一パイ詰っている様子が、ひどく平次を頼母たのもしがらせます。
ふたを開けたままにしてある長持がある。色々な物が取り散らしてある。もっと小さい時に、いつも床の間に飾ってあった鎧櫃よろいびつが、どうしたわけか、二階の真中に引き出してあった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何を言っても取り合わないばかりか、あべこべに主人をり込めるような調子に、外記はむっとした。彼は黙って起ちあがって、床の間の鎧櫃よろいびつから一領の鎧を引き摺り出して来た。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、室の一方には蒲団を畳んで積み、衣類を入れた葛籠つづらを置き、鎧櫃よろいびつを置き、三尺ばかりの狭い床には天照大神宮てんしょうだいじんぐうの軸をかけて、其の下に真新しいさかきをさした徳利を置いてあった。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
八郎太は、こういって、小走りに部屋へはいると、小者に、鎧櫃よろいびつの一つを背負わせ、自分もその一つを背にして、垣根から、益満の廊下へ運んだ。益満は留守らしく、勝手口から、爺が出て来て
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
栗毛くりげの馬に平文ひらもんくらを置いてまたがった武士が一人、鎧櫃よろいびつを荷なった調度掛ちょうどがけを従えながら、綾藺笠あやいがさに日をよけて、悠々ゆうゆうと通ったあとには、ただ、せわしないつばくらが、白い腹をひらめかせて、時々
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ここにもある」と云って、左側の据具足すえぐそく鎧櫃よろいびつの上に据えたもの)の一列のうちで、一番手前にあるものを指差した。その黒毛三枚鹿角立つのだちかぶとを頂いた緋縅錣ひおどししころの鎧に、何の奇異ふしぎがあるのであろうか。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
というまくかげの答え。主命しゅめいによって、いまそこへ、ひかえたばかりの福島市松ふくしまいちまつ、一鎧櫃よろいびつをもって、秀吉と伊那丸いなまるの中央にすえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
単に主膳の前だけのいとまだか、これから例の以前の鎧櫃よろいびつの一間にこもって、悠々ゆうゆう、夜の疲れを休めようとするのだか、或いはまた、これから
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうっとあけると、鎧櫃よろいびつ以来おなじみの飯たき久七が、おびえたような恰好できちんと板の間にすわっている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
やりが来たり鎧櫃よろいびつが来たりするから、近辺では大したお方だととうとむことで、小左衞門は金も沢山持って居りましたろうが、坐してくらえば山もむなしのたとえでございますから
正面奥の中央、丸柱のかたわら鎧櫃よろいびつを据えて、上に、金色こんじきまなこ白銀しろがねきば、色はあいのごとき獅子頭ししがしら萌黄錦もえぎにしき母衣ほろ、朱の渦まきたる尾を装いたるまま、荘重にこれを据えたり。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祖先伝来の丹塗にぬりの長持ながもちや、紋章もんしょうの様な錠前じょうまえのついたいかめしい箪笥たんすや、虫の食った鎧櫃よろいびつや、不用の書物をつめた本箱や、そのほか様々のがらくた道具を、滅茶苦茶めちゃくちゃに置き並べ積重ねた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
陣刀、鎧櫃よろいびつ胡簶やなぐいなどを、いかめしく飾った大床を背にし、脇息にもたれている兄六郎の、沈思する顔を見守りながら、舎弟の七郎は色白下膨しもぶくれの、穏かな顔を少しひそめて火桶の胴をすっていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いや、わしは身軽でつかれはしない。おまえこそ、その鎧櫃よろいびつをしょっているので、ながい道には、くたびれがますであろう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ねえ、あなた、今日は七兵衛の奴が珍しくどこかへ出かけてしまいました、その後に鎧櫃よろいびつが置きっ放しにしてありますから、見るだけでも見て下さい」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この不知火道場のしきたりとして、何かあらたまった式事の場合にはかならず家重代に伝わる鎧櫃よろいびつを取り出して、その前でおごそかにとりおこなうということになっている。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
権現様ごんげんさま戦場お持出もちだしの矢疵やきず弾丸痕たまあとの残つた鎧櫃よろいびつに納めて、やりを立てて使者を送らう。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
階段をあがったすぐの所に、まるで生きた人間の様に鎧櫃よろいびつの上に腰かけている、二つの飾り具足ぐそく、一つは黒糸縅くろいとおどしのいかめしいので、もう一つはあれが緋縅ひおどしと申すのでしょうか、黒ずんで
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
隣室へ駈け込むと鎧櫃よろいびつをあけ、四郎二郎へ打ちかけた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ぐわらぐわらとすさまじい物音が、飾り壇の下へ種々さまざまな物を落した。鎧櫃よろいびつ、血みどろな片腕、白いぶらぶらなはぎかんざし、立て札——
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつて根岸の目錐めぎりの屋敷で、裏宿の七兵衛が、鎧櫃よろいびつに詰めて置いて、神尾主膳に思い切って突き破らせたあの程度とは、規模も、内容も、おのずから違うのです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
正面、奥とのさかいに銀いぶし六枚折りの大屏風おおびょうぶ、前に花梨かりんの台、上に鎧櫃よろいびつが飾ってある。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
武士さむらい這奴しゃつの帯の結目ゆいめつかんで引釣ひきつると、ひとしく、金剛杖こんごうづえ持添もちそへた鎧櫃よろいびつは、とてもの事に、たぬきが出て、棺桶かんおけを下げると言ふ、古槐ふるえんじゅの天辺へ掛け置いて、大井おおい、天竜、琵琶湖びわこも、瀬多せた
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鎧櫃よろいびつの上に、ドッカと腰かけた形に飾ってある、中味はがらんどうの陳列品だ。黄金仮面の小雪は、その鎧櫃に倒れる様に凭れかかっていた。早鐘はやがねの動悸は静めようとて静まるものではない。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「じいさん。つかねえことを訊くようだが、眼のするどい、ひょろッとせた野郎が、朱革あかがわ鎧櫃よろいびつを背負って通るのを見かけなかったかい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仕出し弁当で鎧櫃よろいびつの傍に頑張っていながら、今日という日になると、朝から出かけて、正午ひる時分になっても、夕方になっても、とうとう夜になっても帰って来ない。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鎧櫃よろいびつからとびだした丹下左膳のために、かなりのおもだった連中が斬られてしまったので、今この深夜の部屋に、短気丹波を取りまいている不知火十方流の弟子どもは、約二十人ばかり。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すると、同時に、鎧櫃よろいびつを背負ったままうでじ上げられている百姓男は、耀蔵の手を振り放ッて、猛然と、杖みたいな棒を、横に構えた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と言って老人は立ち上り、砂上に置き据えた鎧櫃よろいびつに手をかけた時、お雪が急に、そわそわとして
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鎧櫃よろいびつ
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
よく使い込んである九尺の槍を杖にしてである、背に鎧櫃よろいびつを負い、はかま股立ももだちを高くからげて草鞋穿わらじばきの浪人者が昨日もここの長屋門を訪れた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
砂の上へ鎧櫃よろいびつをどさり落した途端に、腰が砕けてまた立て直すところの呼吸なんぞ、ちい高の舞台でする調子そっくりでしたから、お雪ちゃんはわけのわからないながら
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いいや、むこ入りと共に、わしの鎧櫃よろいびつも、おもとの部屋に納められてある。鎧櫃のすえてある所がいつでも帰り場所じゃ。……では、後から来い」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鎧櫃よろいびつの中にあって、返答もなく、表情もなく、微動もなく、ろうのようにかおの色の白かった人。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
弥右衛門やえもんの持っていた古い鎧櫃よろいびつか、短刀のさやだかに、そんな紋を見た気がするので、案内してくれた中間に向って、ともかくそういってしまった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、七兵衛が、例の鎧櫃よろいびつたくわえた古金銀の全部を、惜気もなく提供したところから来る景気で、これがあるゆえに、ばけもの屋敷に、一陽来復の春来れりとぞ思わるる。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「……ふ、ふ、ふ。……あるぜ、あるぜ。朱革しゅがわ鎧櫃よろいびつが、ちゃんと、天井に吊ッてあら。帰命頂来きみょうちょうらい、鼻の先だよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鎧櫃よろいびつへ納めようとして、一応鎧櫃の中を探ってみると、勇仙が手に触れた一冊の古びた書物を探り出し、妙に眼をかがやかして、それを二三枚繰って見たが、ニヤニヤと笑って
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いや出るが早いか、鎧櫃よろいびつには必ず付いている荷担革にないがわ双手もろてをさしこみ、それを背に負ったと思うと、もう例の破風はふあしがかりとして、大屋根の天ッ辺に立ち
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)