鎌首かまくび)” の例文
俺が鎌首かまくびをあげると、その敷蒲団を若紫は手早くひょいとめくって、その下に草履を隠そうとして、ピストルが眼にはいったらしく
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
見返しますがな、極りが悪そうに鎌首かまくびを垂れて、向うむきに羞含はにかみますよ。憎くないもので、ははははは、やはり心がありますよ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ガチャリと、膳へ盃が落ちてわれる——ともう、小六の脇の下から、急所を狙うまむし鎌首かまくびにも似た太刀の柄頭が、ピタリと向ッていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのような大事のときでも、その緊張をほぐしたい私の悪癖が、そっと鎌首かまくびもたげて、ちらと地平の足もとをのぞいて、やられた。
喝采 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大蛇おろちは人形を見ると、それを生きた人間と思ったのでしょう、いきなり大きな鎌首かまくびをもたげて、おそろしいいきおいってきました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
恐竜がぐいと鎌首かまくびをもたげると、うなり声をあげて怒り出した。仲間の恐竜も目をさまして、びっくり半分、さわぎだした。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
山かゞしは蛇の中でも精悍せいかんなやつである。蛙のももを啣えながら鎌首かまくびをたてゝ逃げて行く。竹ぎれを取ってもどると、玉蜀黍とうもろこしの畑に見えなくなった了うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
錢形平次は鎌首かまくびをもたげました。相變らず日向に不景氣な植木鉢を竝べて、物のをなつかしんでゐたのです。
見なければならない。と、不平やら、不満やらが、すぐに鎌首かまくびを持ち上げて来る。いやだいやだ、人間はいやだ
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うろこのぎらぎらした細長い胴と、さじの先に似た短かい頭とを我知らず比較して、胴のない鎌首かまくびだから、長くなければならないはずだのに短かく切られている
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鎌首かまくびを持ち上げた。山下さんは先輩という関係から、自分のことかと思ったが、斎藤さんが引き取って
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
が、それでも春重はるしげ返事へんじをしずに、そのまま鎌首かまくびげて、ひそかにあがりはなのほうってった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その燃えるような紅い空の下で音楽の響きが更に調子を高めると、花のかげから無数の毒蛇がつながって現われて来て、楽の音につれて一度にぬっと鎌首かまくびをあげた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし肉漿にくしょうや膿血は拭ひ得てもその欲情のくるしみのしんは残つてゐる。この老いにしてなほ触るれば物をむさぼり恋ふるこころのたちまち鎌首かまくびをもたげて来るのに驚かれた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
その音に初めて気づいたように蛇は、うろこに包まれた鎌首かまくびをもたげた。小さなまるい眼で高倉祐吉の顔をのぞきこみ、口をあけないで赤い舌をちろちろと動かしていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
さうして、鎌首かまくびをもたげながら、池のはうへ眼をやつて、まだ眠むさうに舌なめづりをした。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼のいきどおりと恨みとが、胸の中で煮えくり返った時だった。その憤りと恨みとのあらしの中に、徐々に鎌首かまくびもたげて来た一念があった。それは、云うまでもなく、復讐ふくしゅうの一念だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
まざまざとした煩悩ぼんのう勃然ぼつぜんとしてその歯がみした物すごい鎌首かまくびをきっともたげるのだった。それもよし。近くいても看視のきかないのを利用したくば思うさま利用するがいい。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
画面の前景ににしきへびが写る。ジャングルのなにかのからみついていて、おとなの腕ほどもある鎌首かまくびをあげ、葉の茂み越しに、向うから近づいて来る探検家夫妻をねらっている。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
和上のきづ二月ふたつきで癒えたが、其の傷痕きづあとを一目見て鎌首かまくびを上げたへびの様だと身をふるはせたのは、青褪あをざめた顔色かほいろの奥方ばかりでは無かつた。其頃在所ざいしよ子守唄こもりうたに斯う云ふのが流行はやつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
初七日しょなぬかの晩でございました。奥さんが線香を上げに、仏壇をのぞかれますと、大きな蛇のとぐろを巻いていましたのが、鎌首かまくびを上げて、じっと奥さんのお顔を見たそうでございます。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
蛇は勢よく鎌首かまくびを立て、赤い舌を吐いてあちこちします。その気味の悪いこと。その辺の子供たちや、通りがかりの人が立止って見ています。蛇は蛙を追い追い水を伝わって遠退とおのきます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
いやわしの魂をつくっている要素、わしそのものが不幸なのだ。わしの魂は鎌首かまくびをもたげていつもうろうろしている。心のが定まらない。わしは失われる人間なのか。地獄じごくにおちる人間なのか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
うとましの怪物けもの鎌首かまくび
しやうりの歌 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
手でも叩かうと思ひましたが、この部屋は母屋おもやから離れて居て、それも少し氣の毒、水差しくらゐは來てゐさうなものと、鎌首かまくびをもたげてそつと見廻すと
私は自身に鎌首かまくびをもたげたへびを意識した。敵意。それにちかい感情で、私は自分のからだを固くしたのである。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もう少しで失恋になるからしばらく辛抱しんぼうしていらっしゃい。すると一分立つか立たないうちに蓋の穴から鎌首かまくびがひょいと一つ出ましたのには驚ろきましたよ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時はまず人助けにずるずると尾を引いて、向うで鎌首かまくびを上げたと思うと草をさらさらと渡った。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
単にそれだけならば別に子細もないのであるが、その唐蜀黍のあいだから一匹の青い蛇が鎌首かまくびをもたげたので、他の乗客はおどろいて飛びあがった。女たちは悲鳴をあげて騒いだ。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
病室からながめられる生理学教室の三階の窓、密閉された部屋へや、しごき帯、……なんでもかでもが自分の肉を毒蛇どくじゃのごとく鎌首かまくびを立てて自分を待ち伏せしているように思えた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
阿賀妻は茫漠ぼうばくとした顔でその話を聞いていた。高机にのせた自分の腕を斜め前のところに置き、両手の指をからませてぴくりぴくりと動かしている。拇指おやゆびが蛇の鎌首かまくびのように突っ立つ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「あッ——」と、つかんですてると、それは小さな白蛇しろへびである。こんどはたおれている竹童の胸へのって、かれのふところへ鎌首かまくびを入れ、スルスルと襟首えりくびへ、銀環ぎんかんのように巻きついた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその蔓草の先が、蛇のように鎌首かまくびをあげてヒトミの肩へはいあがった。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と野崎君が鎌首かまくびもたげた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
鎌首かまくびはかぼそくしびれ
しやうりの歌 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
呼吸を計らんでひやかせばかえって自分がほうり出されるばかりである。彼らは蛇のごとく鎌首かまくびを持ち上げて待構えている。道也先生の眼中には道の一字がある。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兼吉が聲を掛けると、床を敷いて横になつてゐたらしい、柿の市は、ムクムクと鎌首かまくびをもたげて
其時そのとき人助ひとたすけにずる/″\といてむかふで鎌首かまくびげたとおもふとくさをさら/\とわたつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とおい動揺どよみが、失神の耳にも通じたものか、そのとき竹童ちくどうは、ピクリと鳩尾みぞおちをうごかして、すこし顔を横にふった。そのくちびるへ、白蛇しろへびは銀の鎌首かまくびをむけて、緋撫子ひなでしこのようなしたをペロリとく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四頭の恐竜が、鎌首かまくびをもたげて、じろりと、こっちを見た。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのくせこわいもの見たさに立留たちどまって見ていると、なんじゃないか、やがて半分ばかり垣根へ入って、尾を水の中へばたりと落して、鎌首かまくびを、あの羽目板はめいたへ入れたろうじゃないか。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同時に鎌首かまくびは草の中に消えた。叔父さんはあおい顔をして、へびを投げた所を見ている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
へその上へ鎌首かまくびをヒヨイともたげて、赤いほのほのやうな舌をいて居る蛇の文身ほりもの
講釋師かうしやくしふ、やりのつかひてにのろはれたやうだがと、ふとると、赤煉蛇やまかゞしであらう、たそがれに薄赤うすあかい、およ一間いつけん六尺ろくしやくあま長蟲ながむしが、がけ沿つた納屋なやをかくして、鎌首かまくびとりせま
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それが暗い雨のふりしきる中に、重たいなわのような曲線を描いて、向うの土手の上に落ちた。と思うと、草の中からむくりと鎌首かまくびを一尺ばかり持上げた。そうして持上げたままきっと二人を見た。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おほきへびがのたりとて、わたしはう鎌首かまくびもたげた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)