ごう)” の例文
仲平ちゅうへいさんはえらくなりなさるだろう」という評判と同時に、「仲平さんは不男ぶおとこだ」という蔭言かげことが、清武きよたけごうに伝えられている。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ごうに入れば郷に従うのが最も滞りがなくてよいかも知れぬ。しかし果して彼らはいつまでも今のパン屋で暮らしてゆけるものか。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
空想は道のりを忘れさせて、いつかごうくち、程なく静かな村をぬける。禅定寺の山門と真ッ黄色な銀杏いちょうこずえがあなたに見えた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれでごうることに慣れているから、その辺ははなはだ鈍感ではなく、ぶっきらぼうに、お世辞ともつかず、自己釈明ともつかず言いました
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ごうに入っては郷に従ってもらう主旨しゅしで、友愛塾の簡単な日常生活の方式、つまり「いただきます」と「ごちそうさま」のあいさつだけですまし
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
と申すはほかでもないが、当大和田のごうに、みめよき女子と見ればよからぬ病の催す不埓ふらちな旗本がひとりおるのじゃ。
夜ももう五ツ(午後八時)に近いと思うころに、本所なかごう瓦町かわらまちの荒物屋の店障子をあわただしく明けて、ころげ込むようにはいって来た男があった。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
八ヶ岳の大傾斜スロープ、富士見高原の木地師のごう! 囲繞しているのは森林である。杉、ひのきというような喬木ばかりがそびえている。その真ん中に空地がある。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
或る人がなかごう枳殻寺からたちでらの近所を通ると、紙の旗やむしろ旗を立てて、大勢が一団となり、ときの声を揚げ、米屋をこわして、勝手に米穀をさらって行く現場を見た。
走田はしだごうへかかる頃には、とっぷりと暮れかかった。すると、その部落を通りぬけようとした時である。
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しからばなぜ雑戸ざっこを「あまべ」といったかという理由はよくは分りませぬけれども、思うに普通のごうの仲間に這入らず、余った村落と云う事ででもありましょう。
処々ところどころたてぬしの伝記、家々いえいえの盛衰、昔よりこのごうおこなわれし歌の数々を始めとして、深山の伝説またはその奥に住める人々の物語など、この老人最もよく知れり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかるに翌朝吉野十八ごう荘司しょうじ等が追撃して来て奮戦するうち、埋められた王の御首が雪中より血をき上げたために、たちまちそれを見附みつけ出して奪い返したと云う。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一寸法師は大通りからなかごうのこまごました裏道へ入って行った。その辺は貧民くつなどがあって、東京にもこんな所があったかと思われる程、複雑な迷路をなしていた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そりゃわかるとも」と、病気の水兵が低音バスを出す、「死ねば当直日誌へ書き込むんだ。オデッサへ着くと司令官に報告を出す。そこからごうかどこかへ報らせが廻る……。」
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
瀬戸と大泉のほかに、北川きたがはといふ建築家、津留つるといふ婦人科医、ごうといふ騎兵大尉である。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
近いところは物の影がくっきりと地を這って、なかごうのあたり、いらかうろこ形に重なった向うに、書割かきわりのような妙見みょうけんの森が淡い夜霧にぼけて見える。どこかで月夜がらすのうかれる声。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
着飾った若い花見の男女をせていきおいよく走る車のあいだをば、お豊を載せた老車夫はかじを振りながらよたよた歩いて橋を渡るや否や桜花のにぎわいをよそに、ぐとなかごうへ曲って業平橋なりひらばしへ出ると
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
牧狩の時の仮家かりやを、同家の先祖、大外河美濃守がもらい受けて住家として、旧吉田のごうに置いたのを、元亀三年、上吉田の本町に移し、慶長十五年、更に現在のところに転じたのだそうで
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
まだある、秋の末で、その夜は網代あじろごうの旧大荘屋の内へ療治を頼まれた。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その前に入られたのは、なかごう長源寺ちょうげんじという寺、これも手口は同じことですが、られたのはほんの二三両、住職がつましいので、金があるという評判に釣られた泥棒の失敗しくじりとわかりました。
「それは羨ましい美風だね。ごうに入ったら郷に習おうじゃないか?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
其の頃本所なかごうに杉の湯と云うのがありました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
新小梅町となかごうとの間、一渠東に入るもの
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ごうを辞していそむき三春さんしゅん
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ごうの北に八ツ面山おもてやまというのがある。そこから雲母きららを産するので、遠い昔からこの地方を、吉良きらあがたとよび、吉良の庄とも唱えてきたのじゃ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
米友がこう言い出したのは、宮川をズンズンさかのぼって、川口というところからなかごうへ来かかった時分でありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
半七はまた舌打ちをしながら、向う河岸へ渡ってゆくと、その頃の小梅のなかごうのあたりは、為永春水ためながしゅんすいの「梅暦」に描かれた世界と多く変らなかった。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし他家に仕えようという念もなく、商估しょうこわざをも好まぬので、家の菩提所ぼだいしょなる本所なかごう普賢寺ふけんじの一房に僦居しゅうきょし、日ごとにちまたでて謡を歌って銭をうた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鏡石君は話上手はなしじょうずにはあらざれども誠実なる人なり。自分もまた一字一句をも加減かげんせず感じたるままを書きたり。思うに遠野ごうにはこの類の物語なお数百件あるならん。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その村落も、新たに土地を開墾して、農業を行った農村ならば、普通のごうとなって、班田にもあずかったでありましょうが、雑戸ざっこであってみれば班田の典にも預からない。
なかごう瓦町かわらまち、その前が細川能登守ほそかわのとのかみ松平越前様まつだいらえちぜんさまの門、どっちもこれがお下屋敷でございまして、右手、源兵衛橋げんべえばしを渡った向うに、黒々と押し黙る木々は、水戸様みとさまの同じくお下屋敷。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
丹生川平にゅうがわだいらという一つのごうへ、参りました旨語りましたので、早速お耳に入れたく存じて、お邸へ参上いたしましたところ、ご外出にてご不在とのこと、そこで止むなくお約束の場所の
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なるほど、これは面白い。去年の九月が長崎町、十月が松倉町、十一月はなかごう、十一月は飛んで森下、それから海辺大工町、それから浅草へ行って——これは驚いた、人さらいは執念深く施米の後を
大坂おおさかはまだ三ごうとも、城下じょうかというほどな町を形成けいせいしていないが、急ごしらえの仮小屋かりごやが、まるでけあとのようにできている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
漂浪を生活としている自分は、習い性となって、これでおのずから、ごうっては郷に従うのコツを覚え込んでいる。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
足利氏の末の頃まで山田ごうの山田殿というような武士は、たくさん全国にあったのであります。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
どこまで行こうとするのだろう! かれらはごうへ帰るのであった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
平次とガラッ八は、引返してなかごうへ飛びました。
で、ささやかな舟世帯は、三ごうの川や掘割を縫って出没し、夜は、人目の立たぬ芦の中に、浮寝うきねの鳥と同じ夢を結んでいた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四方山よもやまの話をもちかけたのは、一つは、これから仙台郷へ入って、なるべくごうに従わんとする用意としての、奥州語の会話の練習を兼ねんがためでありました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
本荘ほんじょうに対する新荘も同じく追加開墾地である。その本荘が公田すなわち国の領地である時には荘と言わずにごうまたはという。新郷しんごう別保べっぽ新保しんぽなどは本郷ほんごう本保ほんぽに対する別符である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
落合両部おちあいりょうぶ、中野ごう一円、ずっと離れて多摩川の武蔵境むさしざかいにしたところで、足達者というほどなら、もう七刻ななつごろには帰って来てもいいはずです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「結構なものでございますな、お作は何でございますか、ごうですか、なるほど、郷の義弘でございますか」
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(若狭郡県志。福井県大飯おおいあおごう村関屋)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
とばしてみても見当らぬ。それに国府津のごうから先は、岡本勝政の陣所となる。いったい、この密告は、何者から出たのか
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ナニ、詮索せんさくするがものはがあせんよ、土地の習わしですから、ごうっては郷に従えといってね」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そしてその道順にも多少の異同はあるが、だいたい江見、ごうを経て、勝間田附近をすぎ、やがて津山の院ノ庄へと、泊りをかさねたものと思われる。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村とはいうものの、ここは十津川ごうの真中で名にし負う山また山の間です。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もしやあなたは、但馬たじま宗彭しゅうほう沢庵どのではありませぬか。美作みまさかの吉野ごうでは七宝寺に長らく逗留しておでた……
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)