道行みちゆき)” の例文
が、道行みちゆきにしろ、喧嘩けんくわにしろ、ところが、げるにもしのんでるにも、背後うしろに、むらさと松並木まつなみきなはていへるのではない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二部興行で、昼の部は忠信ただのぶ道行みちゆきいざりの仇討、鳥辺山とりべやま心中、夜の部は信長記しんちょうき浪華なにわ春雨はるさめ双面ふたおもてという番組も大きく貼り出してある。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こちとらにしたッて姐御と相良金吾の道行みちゆきを、常磐津ときわずのきれい事か何かのように、指をくわえて拝見しているわけにもまいりません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから道行みちゆきは抜にして、ともかく無事に北海道は札幌へ着いた、馬鈴薯の本場へ着いた。そして苦もなく十万坪の土地が手に入った。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
梶子は旅なれた武家の女房、そういったような扮装をし、道行みちゆきなどを軽やかに着、絹の手甲てっこう脚絆きゃはんなどをつけ、菅笠などをかむっていた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
浪花なには座で『忠臣蔵』をつてゐる鴈治郎なども、おかる道行みちゆきのやうな濡事ぬれごとを実地ひまがあつたら一度青蓮寺に参詣まゐつたがよからう。
相手というのは羅紗らしゃ道行みちゆきを着た六十恰好ろくじゅうがっこうじいさんであった。頭には唐物屋とうぶつやさがしても見当りそうもない変なつばなしの帽子をかぶっていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
でも、とうとうあっしが勝ちましたよ。いよいよ明日はお君を伊賀井様へ連れて行くという前の晩、二人は道行みちゆきをする段取になったのです。
あわせでは少しひやつくので、羅紗らしゃ道行みちゆきを引かけて、出て見る。門外の路には水溜みずたまりが出来、れた麦はうつむき、くぬぎならはまだ緑のしずくらして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お恥かしい話だが、先生が、あんな御新造にかしずかれて道行みちゆきをなさるのを見ると、かんの虫がうずうずしてたまりませんや。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おかる勘平かんぺい道行みちゆきといつたやうな、芝居の所作事しよさごとと、それにともなふ輕く細く美しい音樂とが、しきりに思ひ出されて來た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その道純を識っていた人に由って、道純の子孫の現存していることを聞き、ようよう今日こんにち道純と抽斎とが同人であることを知ったという道行みちゆきを語った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「そのとおり。プリンスとプリンセスと一夜の宿をたのみに来たのだ。どうもこう寒いと、くしゃみばかり出て、せっかくの恋の道行みちゆきもコメディになってしまう」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
祖父は「おのぶと向島に道行みちゆきをして、その後でお染を語るなんざあ、趣向が出来すぎている。」
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
薄茶紬うすちゃつむぎ道行みちゆきに短い道中差、絹の股引に結付草履ゆいつけぞうりという、まるで摘草にでも行くような手軽ないでたち。茶筅ちゃせんの先を妙にへし折って、儒者じゅしゃともつかず俳諧師はいかいしともつかぬ奇妙な髪。
母のない子供があの芝居を見れば、きっと誰でもそんな感じをいだくであろう。が、千本桜の道行みちゆきになると、母———狐———美女———恋人———と云う連想がもっと密接である。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
歌麿が晩年(文化の頃)における「道行みちゆき」の諸板画と春信の作とを比較する時、吾人はまづことなれるこの二種の芸術を鑑賞せんには全然別様べつようの態度を取らざるべからざる事に心付くべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
勘定をすませ丸く肥え太りたるせい低き女に革鞄げさして停車場へ行く様、痩馬と牝豚の道行みちゆきとも見るべしと可笑おかし。この豚存外に心利きたる奴にて甲斐々々しく何かと世話しくれたり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかも道行みちゆきの多い街道筋かいどうすじ、ことに大きな神社や霊場に参詣するみちでは、今も時々は旅客のたもとについてほどこしを求める風儀が残っているぐらいで、もちろん江戸近郊だけの特例ではなかった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鷺阪伴内にひと泡吹かせた道行みちゆきの勘平のようニッコリ圓朝は、見得を切った。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
それもこれも尾島氏に余り面倒見て貰い過ぎ、聖書会社へ迷惑を掛けました神より自分に降した相当の責罰には、自分は今度冤罪の下に斃れなければならぬ道行みちゆきとなりましたものと思います。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
鉄無地の道行みちゆき半合羽はんがっぱ青羅紗あおらしゃ柄袋つかぶくろ浅黄あさぎ甲斐絹かいき手甲脚半てっこうきゃはん霰小紋あられこもん初袷はつあわせを裾短かに着て、袴は穿かず、鉄扇を手に持つばかり。斯うすると竜次郎の男振りは、一入ひとしお目立って光るのであった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「今途中ででつくわしてなあ、道行みちゆきのやうに並んで來た。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
まさか芝居でするお女郎の道行みちゆきのように、部屋着をきて、重ね草履をはいて、手拭を吹き流しにかぶっていたわけでもあるめえが……
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
爪弾つまびきではありますが、手にとるように聞えてくるのは、ここもと、園八節の道行みちゆき桂川かつらがわ恋のしがらみか何かであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
色の取持ちをして小遣をかせいぢや、祖先の惡源太義平に濟まない——見損なつたか畜生、お前が道行みちゆきと出かける時、餞別せんべつをどうして工面したものかと
と足拍子面白く踊り出したから、兵部の娘もそれに合せて、茂太郎の手を引いたまま、道行みちゆきぶりで踊り出しました。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「おやめよおやめよ、道行みちゆきはな! 一句でよろしい、どの辺だな? 感覚でわかる。俺の胸に、ピーンと響くか響かぬか、それが標準。いってごらん」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
上前うわまえ摺下ずりさがる……腰帯のゆるんだのを、気にしいしい、片手でほつれ毛を掻きながら、少しあとへ退さがってついて来る小春の姿は、道行みちゆきからげたとよりは
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて、御化粧が出来上って、流行の鶉縮緬うずらちりめん道行みちゆきを着て、毛皮の襟巻えりまきをして、御作さんは旦那といっしょに表へ出た。歩きながら旦那にぶら下がるようにして話をする。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
毒婦と盗人ぬすびとと人殺しと道行みちゆきとを仕組んだ黙阿弥劇は、丁度羅馬ロオマ末代まつだいの貴族が猛獣と人間の格闘を見て喜んだやうに、尋常平凡の事件には興味を感ずる事の出来なくなつた鎖国の文明人が
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
道行みちゆきノ段
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
道行みちゆきだん
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「これからの道行みちゆき下手へたに長々と講釈していると、却って御退屈でしょうから、もうここらで種明かしをしましょうよ」
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なんでもこの辺の間道ぬけみちを通って、甲州入りをしたものに違いございませんが、あいつが盲目めくらと足弱をつれて、どういう道行みちゆきをするかが見物みものでございます。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おぼろの月、秋近いのに、春めく生温かさが、良い年増と歩くガラッ八を、少しばかり道行みちゆきめかしい心持にします。
「それじゃ親分は、お蝶と一つ舟で大川へ逃げたと言うのか。なんのこった、おれ達は足を棒にして探していると言えば、飛んだ道行みちゆき洒落しゃれていたんだぜ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
編がさをかぶって、道行みちゆきを着て、手甲脚半に手足をよそおい、お粂はスタスタと歩いてゆく。尻端折りをして道中差しを差して、並んで金兵衛が歩いてゆく。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二人が水のりそうな、光氏みつうじと、黄昏たそがれと、玉なす桔梗ききょう、黒髪の女郎花おみなえしの、みすで抱合う、道行みちゆき姿の極彩色。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
稽古本けいこぼんを広げたきりの小机を中にして此方こなたには三十前後の商人らしい男が中音ちゅうおんで、「そりや何をいはしやんす、今さら兄よいもうとといふにいはれぬ恋中こいなかは……。」と「小稲半兵衛こいなはんべえ」の道行みちゆきを語る。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
駈落という言葉が、ふと芝居でやる男女二人なんにょふたり道行みちゆきをお延におもい起させた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう旦那と相談するひまも無しに、おとわは目ぼしい品物や有り金をかきあつめて、無理無体に万吉に引き摺られて、心にもない道行みちゆきをきめたんです。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから、この巻には全く影を見せなかったものに、兵馬と福松——その道行みちゆきも白山に到り着かんとして着かず。
道行みちゆきを着てその裾から、甲斐絹の甲掛こうがけを見せている。武家の娘の旅姿で、歩き方なども上品にしている。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ようやく十九になったばかり、増屋の奉公人には相違ありませんが、女隠居の相手をしている可愛らしくも清らかな娘で、徳之助と並べると、歌舞伎芝居の道行みちゆきを見るような
と苦い顔を渋くした、同伴つれの老人は、まだ、その上を四つ五つで、やがて七十ななそじなるべし。臘虎らっこ皮のつばなし古帽子を、白い眉尖まゆさき深々とかぶって、鼠の羅紗らしゃ道行みちゆき着た、股引ももひきを太く白足袋の雪駄穿せったばき
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
稽古本けいこぼんを広げたきり小机こづくゑを中にして此方こなたには三十前後の商人らしい男が中音ちゆうおんで、「そりやなにはしやんす、今さら兄よ妹とふにはれぬ恋中こひなかは………。」と「小稲半兵衛こいなはんべゑ」の道行みちゆきを語る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「まるで、道行みちゆきだ!」
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美しいお嬢様なり、姫君なりを連れての道行みちゆきではなかったし、あの男自身も、美男で色悪いろあくな若侍とは言えまい。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは万養寺の寺男で、名は忠兵衛……梅川と道行みちゆきでもしそうな名前ですが、年は五十ばかりで、なかなか頑丈な奴でした。生まれは上方かみがたで、大吉の親父です。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)