ゆる)” の例文
「杉丸さまからうかがいました」と松野伊太夫は云った、「あのときは無礼なことを申上げましたが、どうぞおゆるし下さいますよう」
葦は見ていた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私は、愛やゆるしやいやしや労働やのキリスト教的徳を尊ぶ心は深くなるばかりです。けれどそれだけではキリスト信者ではありません。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「どうぞお願いいたします、それにつきまして、てまえ主人にちょっと申したいことがございますから、ちょっとおゆるしを願います」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
きつと彼は私によつて起された怒りを征服する爲めに聖靈の助力を願つたのだ。そして今は彼が再び私をゆるしてくれたものと信じた。
一同の話が罷業の臆測をゆるさぬ流れに不安の空気を流しているときとて、話につれてしとやかな彼女の顔もどことなく沈んでいった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
秦王しんわうのちこれい、ひとをしてこれゆるさしむれば、すでせり。申子しんし韓子かんしみなしよあらはし後世こうせいつたふ、(一二一)學者がくしやおほり。
それから、あなたがわたしの附き添い人のリザヴェッタ・イヴァノヴナと結婚して下されば、私はあなたに殺されたことをゆるしましょう
敵のなしたすべてのことを心おきなくゆるすことに非常に近づいた人々の耳には、さほどの説得力をもってひびかなかったのである。
されど我今喜びて自らわが命運の原因もとゆるし、心せこれになやまさじ、こは恐らくは世俗の人にさとりがたしと見ゆるならむ 三四—三六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
けれど祖母は私をゆるさなかった。そうした場合、私はどうすべきであるか。今までの経験上、私は二つの方法しかないのを知っていた。
「あなたはあまり気が早いじゃありませんか。私にはお父様もお母様もいるじゃありませんか。ゆるしてくれなかったらどうするのです。」
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
金を取られた上にられてたまるものか、さつきてめえの方のつつみにちちうが有つたらゆるさねえと云つたろう、有つたか、有りやあしめえ
そこで乃公は一緒にく、この時未荘の村烏むらがらす、一群の男女こそは、いかにも気の毒千万だぜ。『阿Q、命だけはどうぞおゆるし下さいまし』
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
当時の彼の心では、どうやら自分の一生の失敗も葬り得られたつもりであった。国に帰ることは、彼にはゆるされることであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ゆるしてくれと謂ふのだらう。その外には、見なければ成らん用事の有る訳は無い。し有ると為れば、それは見る可からざる用事なのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もしハリイがこの女を恋し、この女に心を燃やし、この女のために悩み苦しんだとしても、自分はそれをゆるし諒解し同感したことであろう。
ある幸福 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
余程よっぽどやッつけて遣ろうかと思ッたけれども、シカシあんな奴の云う事を取上げるも大人気おとなげないト思ッて、ゆるして置てやッた」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「お杉……堪忍してれ。俺が悪かった。お杉……お杉……重太郎……。熊吉、ゆるしてれ。熱い、熱い、地獄の火が……。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天平十二年罪をゆるされて都に帰った人には穂積朝臣老ほづみのあそみおゆ以下数人いるが、宅守はその中にはいず、続紀しょくきにも、「不赦限
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
童子ははじめからおしまいまでにこにこわらっておられました。須利耶さまもお笑いになりみんなをゆるして童子をれて其処そこをはなれなさいました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ゆるしてください、暇がないんです。……(笑う)あなたはね、世間で言う「人の痛い肉刺まめ」を、ぐいと踏んづけなすった。
「もういいんだっていうのにさ。ゆるしてあげるっていってるじゃないか。母さんは、そんなに意地悪いじわるだと思ってるのかい?」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
地位から云っても、性質から見ても、また彼に対する特別な関係から判断しても、夫人はけっして彼をゆるす人ではなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
イエスが十字架につく前に死罪をゆるされる囚人である。ところで批判する者は、ちょうどこのバラバの話を捕えてイエスの非歴史性を立証する。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
只今にも出家して主君の菩提ぼだいを弔うであろうものを、おゆるしのないのが残念であると、そう云って涙にむせんだので、それでは是非に及びませぬ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「仙台の御牢内へ帰るんですが、ほかの罪人と違って、わしゃ仏扱いをされるくらいなんだから、そのうちおゆるしが出るにきまっているんだね」
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただ眼は大勢おおぜいの見物の向うの、天蓋てんがいのように枝を張った、墓原はかはらの松を眺めている。その内にもう役人の一人は、おぎんの縄目をゆるすように命じた。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ゆるすことはできません。軍紀はあくまで厳然たる軍紀ですが、思し召のまま暫時、処断は猶予しましょう。関羽の罪は、おあずけしておきます」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大理少卿たいりしょうけい嵓をりて、燕王及び諸将士の罪をゆるして、本国に帰らしむることをみことのりし、燕軍を散ぜしめて、而して大軍をもっそのあとかしめんとす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
神の怒をなだめてそのゆるしを乞うために、罪を悔改め、自己を犠牲に献げて神の愛と隣人愛とを実践する新約の立場に進み、死復活を説いたのである。
メメント モリ (新字新仮名) / 田辺元(著)
渡邊さんや秋月さんが取做とりなすと殿様もゆるすだ、秋月さんは槍奉行を勤めているが、成程つよそうだ、身丈せいが高くってよ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
見よ彼は三友のすべての悪罵あくばと無情とをゆるして、彼らのために祈るに至った。この大なる愛はいかにして生れしぞ。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
父と共に幕府の御とがめを受けた出雲守頼門(後の頼元)は、明和三年に改めてゆるされ、それまで待って居てくれた桂と、三十八歳で夫婦になりました。
致し江戸表へ參り親子しんし對面たいめんする上は是迄の舊惡きうあくは殘らずゆるつかはすべしとの言葉に大膳は有難く拜伏はいふくし茲に主從しうじうの約をなし左京をもすゝめてこれも主家來の盃盞さかづき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
狗われ寝た間に比丘を入れたは残念だ。彼れ長者が供えた物を一人食ったら出て来る所を噛み殺して腹中の美膳を食おう、我に食を分ったらゆるそうと思うた。
僕は机の上にあっただれかのハンカチをとって、お母さんの膝の上に甘えかかりながら、ゆるしを乞うように、そのハンカチでお母さんの瞼を拭いてあげたのだ。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
ゆるして貰ひたいと云つて、青年の切に願ふのを聞かずに、いつもの時刻よりずつと早く飛び出して帰つた。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
其処そこみかどが白い高張たかはり提灯を二つけた衛士ゑいじ前駆ぜんくにして行幸になり、四十七士の国法を犯した罪をゆるおの/\の忠義を御褒おほめに成ると云ふ筋である。(四月十五日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
復讐ふくしゅうすることができ、しかも怨恨えんこんのためと身の安全のために復讐するのが至当でありながら、私の生命を助け、私をゆるしたが、それはいったいなぜであったか。
ってゐやるとほりの、執拗ねぢくれた、この罪深つみふかこゝろを、神樣かみさまゆるしてもらふため、いろ/\とおいのりをせねばならぬ。
お父さん、ゆるしてね。とみえの生き方はこれ以外にはなかったのです。お父さんも、太宰さんが息子であったなら、好きで好きでたまらなくなるようなお方です。
しかしイエス様は、かくまでしてこの手足のえた若者をいやそうとする親たちの愛と信仰とに感ぜられて、「子よ汝の罪ゆるされたり」と言われた(二の一—五)。
賞なくばあらじとて、十両の金を給ひ、二二かたなをもゆるして召しつかひけり。人これを伝へ聞きて、左内が金をあつむるは、二三長啄ちやうたくにして飽かざるたぐひにはあらず。
目をつぶると、まぶたの奥に、恋しい顔——恋しいが憎らしい顔、恨みの顔、どうあっても、ゆるしてはやれぬ顔——さまざまに二人の顔が、ちらちら映って来る。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
佐伯も処分するかんげえであつたが、良心の呵責かしやくを感ずて、今こゝで泣いだがら、と、と、特別にゆるす!
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
鶴さんに着物を融通したり何かしたと云うことが、植源へ片着かない前からの浮気っぽいおゆうを知っている父親には、ゆるすことのできぬ悪事としか思えなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
またもやしずかにあいたので、監禁をゆるされた二人はそうそうに階段のあがり場へ逃げ出した。
始めからゆるされる事を当てにして、きりしと様のお像でも何でも踏めと云はれれば平気で踏むのですもの。切支丹でないと誓へと云はれれば平気で偽の誓ひも立てますしね。
し、梅子さん、御気にさはつたならゆるして頂戴ちやうだいな、わたし只だ気になつて堪らないもんですから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
私は母に謝罪もしなかった。「学校なんか落第したって、大丈夫だよ、大丈夫だよ。」そんなことをぶつぶつ云っただけだった。母はただゆるしてくれた。私を叱りもしなかった。
前途なお (新字新仮名) / 小山清(著)