たた)” の例文
ああ神は人に空気を与えたもう、しかも法律は人に空気を売る。私は法律をとがむるのではありません。しかし私は神をたたえるのです。
漠北ばくほくからの使者が来て李陵の軍の健在を伝えたとき、さすがは名将李広りこうの孫と李陵の孤軍奮闘をたたえたのもまた同じ連中ではないのか。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
人生に悩みながらほそい腕に悪戦苦闘して、切抜け切抜けしてゆく殊勝さを見ると、涙ぐましいほどにその勇気をたたよみしたく思う。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
とはわらわなかった。むしろわしの自慢以上に、たたえてくれた。世辞でなく、穴馬の町民や土民は皆、光秀様に心服していた。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三ヶ津の総芸頭そうげいがしらとまで、たたえられた坂田藤十郎は傾城買けいせいかい上手じょうずとして、やつしの名人としては天下無敵の名をほしいままにしていた。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「十字架上のキリストの如く、リストは彼自身よりも、むしろ他の人を救うために、いつも準備をしていた」とその岳父がくふの人格をたたえている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
青空の灝気こうきしたたり落ちて露となり露色に出てこゝに青空を地によみがえらせるつゆ草よ、地に咲く天の花よとたたえずには居られぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それは、「思いつくままに書き下す」というスタンダールの秘訣をたたえ、それとはおよそ対蹠的な例として、飜訳という仕事を挙げたものであった。
翻訳の生理・心理 (新字新仮名) / 神西清(著)
不自由だと嘆くのは人間の我儘わがままな嘆きであって、むしろ自然の仕組みの不思議さをたたえる方がいい。陸中の竹細工はどこにもない独自の存在である。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それは「べれんの国の若君様、今はいずこにましますか、御褒おんほたたえ給え」と云う、簡古素朴かんこそぼくな祈祷だった。
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ということを思った——いま晩秋をたたえるその言葉の裏に、どのような想いが去来しているであろうか、と。
晩秋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ジイドが、「ルナアルの日記」刊行に際し、この作家の優れた業績を一応たたえながら、なおかつ、「ルナアルの庭には、もうすこし水を撒いてやる必要がある」
からみ合った昼と夜との微笑ほほえみ。愛と憎悪とのおごそかな結合、その諧調かいちょう。二つの強き翼をもてる神を、われは歌うであろう。生をたたえんかな! 死を讃えんかな!
たたうべきかな神よ。神はまことにして変り給わない、神はすべてをつくり給うた。美しき自然よ。風は不断のオルガンを弾じ雲はトマトのごとく又馬鈴薯ばれいしょの如くである。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
書紀にも「いくさやしなひ衆をつどへて、つひともに謀を定めたまふ」と壬申の乱における内助の功をたたえ、また大海人皇子登位して天武天皇となられて後、崩御さるるまで
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
たたえて、韻律的に朝起を奨励している。而も私は一ヵ月間実践躬行じっせんきゅうこうの結果、壮健にも富裕にも賢明にもならない。神経衰弱は以前もとのまゝである。金は少し損をした。
朝起の人達 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
どんなにか、なつかしさに熱して、母をたたえ、母をこの画家夫妻に立派に話しているかも判らない。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たたえる意味にこそなれあなどる心ではなかったけれども遊里の悪洒落わるじゃれれない春琴は余りよい気持がしなかったいつも眼明きと同等に待遇たいぐうされることを欲し差別されるのを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この娘の舞を見た者は、優雅な姿態と、さす手、ひく手の巧みさに魅せられて、異口同音いくどうおんに、その素晴しさをたたえるので、たちまち京の街の人気をかっさらってしまった。
風間九十郎の節操を褒めたたえていた、そして、法水麟太郎のりみずりんたろうの作「ハムレットの寵妃クルチザン」を
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
文学史上でハイヤームの詩人的才能をたたえた例はなかったもので、したがってヨーロッパのペルシア学者も、フィツジェラルドや彼にオマルを推称した友人の東洋学者以前には
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
それにしてもともかくニュートンはイタリヤのガリレイにいで科学の正しい道をふみ進めた人としてたたえられていることは、今では誰もが認めていることにちがいないのです。
ニュートン (新字新仮名) / 石原純(著)
まず鉤の霊の尊く正直なことをたたえて、それからいよいよその指定を求め、これによって疑いを決しようとしていたので、少なくとも方式だけは、昔の神を祭った人々の所作しょさ
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
呪詛のろい悲しんでいるのではなく、否々いないなそれとは正反対に、喜び歌い、たたえ——すなわち何者かに帰依きえ信仰し、欣舞きんぶしているのだということが、間もなく知れたからであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おそらくこのほかにまだ象徴詩の領分があるのだろうと思っていたらしい事は、考えられる。何よりもたたうべきは、若い時代にすぐれた感受を持った詩人たちの多かった事である。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
以前この二村の娘年頃になると皆特種の勤めを稼ぎ父兄をたすけ、遠近これをたたえて善くその勤めを成した娘を争いめとったが、維新以後その俗すたれ家のみ昔の構造のまま残るといった。
後世になつてみれば、墓場の上に花環をささげ、数万の人が自分の名作をたたへるだらう。ああしかし! だれがその時墓場の中で、自分の名誉を意識し得るか? 我我は生きねばならない。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
アクロンもメーコンも、飛行船という飛行船は、遂に飾りものに終ったらしい。愛国機や愛国高射砲を献納した国民は、勇敢に戦った精悍な帝国軍人と共に、永く永くたたえられるべきだ。
空襲下の日本 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが目をうつすと、この貧しい寡婦が、老齢と悲しみに腰をかがめて神の祭壇のところで、悲嘆にうちくだかれた心の底から、なお信仰あつく、祈りと、神をたたえることばをささげている。
太閤秀吉も、出でて仕えんことを以て招いたけれども辞して仕えず、関ヶ原の時、石田三成は美濃半国を与えることを以て招いたけれども行かず——その深慮をたたえられた名家だということ。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
屡々しばしば、その教会の中から聖母をたたえる甘美な男女の合唱がれてきて、それが通行人の足を思わず立ち止らせたりしたものだったが、今年の夏はどういうものか、低いオルガンの音のほかには
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
わがはいが往年じゅくにあったとき、食堂で茶碗類をこわすものがあると、人に強いやつと思われ、自分もまたそう思うらしく、あるいは洋燈ランプでもたたきこわすと、強いやつたたえられた時代もあった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しらぬひ筑紫つくしのはてにわれ居れどをしへのおやたたへざらめやあふがざらめや
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼は神の大智をたたえつつヨブのほこりを責めているのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
たたごとうち擧げむよはまのあたり今日をさやけき白梅の花
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
かつそれを断行している勇気をたたえることは忘れない。
語呂の論理 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
わが知れる一柱ひとはしらの神の御名みなたたへまつる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ここより日本の全景を眺めたたふべし。
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
霜の菊たたへていまらずをり
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
シンデレラをたた
シンデレラ (新字新仮名) / 水谷まさる(著)
「今、聞いておると、其方どもは、口を極めて、宮本武蔵をたたえておるが、左様な出たらめを申し触らすと、以後承知せぬぞ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『国民の友』の春季附録には、江見水蔭えみすいいん星野天知ほしのてんち後藤宙外ごとうちゅうがい、泉鏡花に加えて彼女の「別れみち」が出た。評家は口をそろえて彼女をたたえた。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
悟浄は、この庵室にひと月ばかり滞在した。その間、かれも彼らとともに自然詩人となって宇宙の調和をたたえ、その最奥さいおうの生命に同化することを願うた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
誰か天才をののしり凡庸をたたえる不明を犯す者があろう。だが私は大衆の見捨てられた一生に仕組まれている驚くべき摂理を明るみに出そうとするのである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「フィンランディア」はフィンランドの郷土をたたえた音詩で、シベリウスの代表作だ。レコードはストコフスキー指揮のが良かろう(ビクター七四一二)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ああみなさん、こう云ったとたんのかな女の眼が想像できるでしょうか、詩人共が何千年このかたたたえて来、何万年の将来も讃え飽かぬであろうそのまなざしが。
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
過てるを知ってはばか事勿ことなかれとは、唐国からくにの聖人も申された。一旦、仏菩薩の妖魔たる事を知られたら、匇々そうそう摩利の教に帰依あって、天上皇帝の御威徳をたたえ奉るにくはない。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このトルストイの「勇敢と権威」は、いたくチェーホフの心を揺すぶった。彼はこの老人を「神のようだ」とまでたたえたが、さりとて善意も権威もそのまま実行とはなり得ない。
『万葉集』に美髪をたたえてミナのワタとあるを面妖に思い、予試みにミナという溝中の小螺を割って見るとその腸が美しい碧黒色だったので、昔の日本人もインド人と同好だったと知った。
此歌とは比較にもならぬ、とぼけ歌や英雄主義——子規の外生活に著しく見えた——をおもかげにしたたかくくりの歌などの「はてなの茶碗」式な信仰をつないで居る類と、一つことにたたえられて居る。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)