観音かんのん)” の例文
旧字:觀音
浅草の観音かんのんさまのお堂にさがっている大ちょうちんを、いくつも集めたような、ギョッとするほど、でっかい、まっかなものでした。
魔法博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と源十郎が前方の栄三郎をみつめているうち、花川戸はなかわどのほうへ下らずに、栄三郎はまっすぐに仁王門から観音かんのんの境内へはいりこむ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それで夫婦ふうふ朝夕あさゆう長谷はせ観音かんのんさまにおいのりをして、どうぞ一人ひとり子供こどもをおさずけくださいましといって、それはねっしんにおねがもうしました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「そうそう、藺笠いがさをかぶっておりましたが、年は十五、六、スラリとして、観音かんのんさまがお武家ぶけになってきたようなおすがた」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こちらでは道祖神どうそじん・山の神またはほうきの神、或いは地蔵じぞう観音かんのんを誘いにくるともあって、土地ごとに少しもまっていない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大辻助手は、うなりたいのを、こえをだしてはたいへんと、口の中にのみこんで、一生けんめい観音かんのんさまを心の中でおがんだ。すると、しばらくたって
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは一つは、私をどうかして中学の入学試験に合格させたいと、浅草の観音かんのんさまへ願掛けをされて、平生たしなまれていた酒と煙草を断たれたためでもあった。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あの観音かんのん様の像は、またどういうことで、悪者どものために、よくないことに使われるかわからないから、琵琶湖びわこに捧げて沈めることにしよう、というのです。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
山門の外の石段の降り口は小高い石垣いしがきの斜面に添うて数体の観音かんのんの石像の並んでいるところである。その辺でも彼は荒町や峠をさして帰って行く村の人々に別れた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一週とか、十日間とかの間に、仏師はその注文品を仕上げるのであるが、たとえば、厨子ずしに入れて、たけ五寸の観音かんのんを注文するとすれば、仏師屋では見本を出して示す。
伊香保より水沢みさわ観音かんのんまで一里あまりの間は、一条ひとすじの道、へびのごとく禿山はげやまの中腹に沿うてうねり、ただ二か所ばかりの山の裂け目の谷をなせるに陥りてまたい上がれるほかは
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
四日目の朝いつものように七時前にうちを出て観音かんのん境内けいだいまで歩いて来たが、長吉はまるで疲れきった旅人たびびと路傍みちばたの石に腰をかけるように、本堂の横手のベンチの上に腰をおろした。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし自然の方で、少しは事情を斟酌しんしゃくして、自分の味方になって働らいてくれても好さそうなものだ。そうなる事は受合だと保証がつけば、観音かんのん様へ御百度を踏んでも構わない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さりとて山の中に人家じんかはない筈である。亭主は不図ふと思ひあたつた。この女は久圓寺くえんじに住んでゐるに相違ない。山のとうげには観音かんのんまつつた寺がある。女はなにかの仔細があつて其寺に隠れてゐるか。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
観音かんのん釈迦しゃか八幡はちまん天神てんじん、——あなたがたのあがめるのは皆木や石の偶像ぐうぞうです。まことの神、まことの天主てんしゅはただ一人しか居られません。お子さんを殺すのも助けるのもデウスの御思召おんおぼしめし一つです。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこでその頃の人だから、神仏に祈願を籠めたのであるが、観音かんのんか何かに祈るというなら普門品ふもんぼんちかいによって好い子を授けられそうなところを、勝元は妙なところへ願を掛けた。何に掛けたか。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし童子や観音かんのん勢至せいしなどの乗っている雲は、型に堕しかけた線でかなり固く描かれている。二十五菩薩来迎図らいごうずの雲のようにひどくはないが、しかしその方向に進みかけているという感じがする。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「おお、マリア観音かんのん!」
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
まえがこのうんわるいのは、みんなまえわるいことをしたむくいなのだ。それをおもわないで、観音かんのんさまにぐちをいうのは間違まちがっている。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
出外れると加藤大蔵おおくら、それから先は畦のような一本路が観音かんのん浄正じょうしょうの二山へ走って、三川島村の空遠く道灌山の杉が夜のとばりにこんもりと——。
ぞくに推古仏すいこぶつといって、今から千四、五百年まえにつくられた観音かんのんさまだ。銅でできているんだが、ごらん、このへんに、金がまだのこっている。
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
竹童ちくどうがわれをわすれて立ったとたんに、ヒョイと手をかけると格子こうしのとびらが、観音かんのんびらきにサッといた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう折にはいつも観音かんのん様とその裏の六地蔵様とにおまいりするだけで、帰りには大抵並木町なみきちょうにある母方のおばさん(其処そこのおじさんはきん朝さんというはなだった。……)
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「心配しないで、観音かんのんさまへ、お願い申しときなさい。きっと守って下さるから……」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これから先の一年一年は自分の身にいかなる新しい苦痛を授けるのであろう。長吉は今年の十二月ほど日数ひかずの早くたつのを悲しく思った事はない。観音かんのん境内けいだいにはもうとしいちが立った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし蒲鉾かまぼこの種が山芋やまいもであるごとく、観音かんのんの像が一寸八分の朽木くちきであるごとく、鴨南蛮かもなんばんの材料が烏であるごとく、下宿屋の牛鍋ぎゅうなべが馬肉であるごとくインスピレーションも実は逆上である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
数体の観音かんのんの石像の並ぶ小高い石垣いしがきの斜面に沿うて、万福寺の境内へ出た。そこにひらける本堂の前の表庭は、かつて彼の発起で、この寺に仮の教場を開いたころの記憶の残る場所である。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
観無量寿経かんむりょうじゅきょう観音かんのん)というごとく
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「浅草の観音かんのん様がそう言ったの。」
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども観音かんのんさまはかわいそうにおぼしめして、すこしのことならしてやろうとおっしゃるのだ。それでとにかくはやくここをていくがいい。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
明智はその前に近づいて、鍵をカチカチさせたかと思うと、観音かんのんびらきの戸を、サッと左右にあけて見せました。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いや話せば長いことになる。……どうだ、そこまで歩いてくれないか。あれに見える馬頭観音かんのんほこらに酒がおいてある。一つ聞いてももらおうし、そっちの身の上も聞きたいし……」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実高夫婦さねたかふうふはさっそく長谷はせ観音かんのんさまにおれいまいりをして、こんどまれたひいさんの一生いっしょうを、ほとけさまにまもっていただくようにおたのみしてかえってました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それから、観音かんのんびらきのとびらを、中からしめる。その次がちょっとむずかしい。これは繩抜け奇術を逆にやるようなものだからね。しかし、だれにでも出来ることだ。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おそろしい、はしッこさで、かれがねらってきたのは鉄砲火薬てっぽうかやくをつめこんである一棟ひとむねだった。見ると、戦時なので、煙硝箱えんしょうばこも、つみだしてあるし、くらの戸も、観音かんのんびらきにいている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若者わかものはだんだん心細こころぼそくなったものですから、これは観音かんのんさまにおねがいをするほかはないとおもって、長谷寺はせでらという大きなおてらのおどうにおこもりをしました。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
観音かんのんびらきのとびらを、おしあけてはいっていったとき、とびらのうしろにかくれていて、みんなが書庫のおくをさがしているときに、あとからきたような顔をして、姿をあらわしたのです。
妖星人R (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのおれいまいりに、平生へいぜい信心しんじんする長谷はせ観音かんのんさまへ、うちじゅうのこらずれて、にぎやかに御参詣ごさんけいをなさいました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
山姥やまうばのやつ、おれが上にいるのをって、がってきてべるつもりだろう。ああ、もうどうしようもない。観音かんのんさま、観音かんのんさま、どうぞおたすくださいまし。」
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
馬吉うまきちなんだかぞくぞくしてきましたが、しかたがないので、こころの中に観音かんのんさまをいのりながら、一生懸命いっしょうけんめいうまって行きますと、ちょうど山の途中とちゅうまでかけたとき、うしろから
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)