蘇生そせい)” の例文
又如何にして菰田の蘇生そせいをほんとうらしく仕組むか、それにつけては本物の菰田の死体を如何に処分するか、という点でありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ああ、このような孤独のただ中での彼女のふしぎな蘇生そせい。——彼女はこう云う種類の孤独であるならばそれをどんなに好きだったか。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
これはいかにむっつり右門が神人に等しい無双の捕物とりもの名人であったにしても、死人をふたたび蘇生そせいさすべきすべでも知っているか
七月の初めからほとんど三カ月に近い、高い山の上の枯淡な僧房生活の、心と体との飢渇から、すっかり蘇生そせいしたような気持になった。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
浅間、黒斑くろふ、その他の連山にはまだ白い雪があったが、急にそこいらは眼が覚めたようで、何もかも蘇生そせいの力に満ちあふれていた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三十年以前の私の心がそろそろ蘇生そせいして来て、父母在世当時の私の生活や静かな日本を思い出し何んとなく哀調にさそわれてしまうのである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
病後の人の謹慎のしかたなども大臣がきびしく監督したのである。この世界でない所へ蘇生そせいした人間のように当分源氏は思った。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
だから得難い経験を通っていたのに、仮死から蘇生そせいの前後は、やはり夢中であった。後の生涯のしになるような何も掴んでいなかった。
しかし縊死することよりも美的嫌悪を与へない外に蘇生そせいする危険のない利益を持つてゐる。唯この薬品を求めることは勿論僕には容易ではない。
或旧友へ送る手記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
結婚から逸作の放蕩ほうとう時代の清算、次の魔界の一ときが過ぎて、わたくしたちは、息も絶え絶えのところから蘇生そせいの面持で立上った顔を見合した。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わしは、一旦死んだ少年の、左胸部を抉って心臓を取替えて蘇生そせいせしめたので、少年の生命は、わしの所有といってよい。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
警戒管制に入ったので、町は少し明るくなって、住民たちは蘇生そせいおもいだった。防護の人々は、交替に休むことになった。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「さような訳なら何でおとどめ申そう、いや、筒井どのが見えられてから我が一家は蘇生そせいの思いが致しておりました。」
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
罐詰かんづめふた」をあけて、外気を室内に吹き入れしめるときに「ああ、目がさめた」と思う代わりに「よくおれは蘇生そせいしたものだ」と思うのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
いまの武蔵野に住むようになってから、この平原の林に訪れる春の微光を、漸く蘇生そせいの思いで眺めるようになった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それで、やっと足をはずしたが、法師はくたくたとなったので、水を吹っかけなどして、やっと蘇生そせいさせた。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この人によって、柳生の先祖が、かかる場合の用にもと、どこかの山間にとほうもない大金をうずめ隠してあると知れて、一ぱん蘇生そせいの色に、どよめき渡った。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
花ばかりでなくいろいろ美しい熱帯の観葉植物の燃えるような紅や、けがれのない緑の色や、典雅な形態を見ればたれしも蘇生そせいするここちのしない人はあるまい。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お町はホッと一息、四辺あたりを見れば谷間々々に少しずつ花が咲いて居ります。始めて蘇生そせいの思いをなして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
よし新熟語が必ずしも新思想を表さなくとも、旧思想が復活ふっかつすることであるとするも、一たび死んだ思想が再び蘇生そせいし来たりて人心を動かすのであることは明らかである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ながく水流中に在りし冷気れいき露営ろえい寒気かんきあはせ来るにひ、此好温泉塲をはじめて蘇生そせいするのおもひあり、一行の内終夜温泉に浴してねむりし者多し、しんに山中の楽園らくえんと謂ふべし
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
宗助そうすけおとうとるたびに、むかし自分じぶんふたゝ蘇生そせいして、自分じぶんまへ活動くわつどうしてゐるやうがしてならなかつた。ときには、はら/\することもあつた。また苦々にが/\しくおもをりもあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
赤ちゃんはお生れになる間際まぎわまで生きておいでになったのですが、分娩の時におくなりになりました、何とかして蘇生そせいなさいますようにと、あらん限りの手を尽しまして
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しょせん蘇生そせいの望みがないと諦めた以上、医者の来るのを待っているまでもなく、一刻も早く黒沼の家へ駈け付けて、この出来事を報告して来なければなるまいと思ったので
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
述べ與惣次村役人同道どうだうなし目出度越後寶田村故郷こきやうへ立歸りしかば同村の人々は死せし者の蘇生そせいせし思ひをなし傳吉夫婦此度無實の罪は速にえ故郷へ歸りし祝也いはひなりとて村中の者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その撮影が、どうにか一くぎりすんで、男爵は、蘇生そせいの思いであった。むし熱い撮影室から転げるようにして出て、ほっと長大息した。とっぷり日が暮れて、星が鈍く光っている。
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕を蘇生そせいさせてくれるエレクシールが、どしどし減つて行くやうな気がした。僕は危ふく大連へ電話を申込まうとさへした。だが例の先輩がまだ帰任してゐないことは明らかだつた。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
蘇生そせいして東京へ出て来たものだったが、気分がお座敷にはまらず、金遣かねづかいも荒いところから、借金はえる一方であり、苦しまぎれの自棄やけ半分に、伊沢にちょっかいを出したものだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
石燈籠いしどうろうや、石橋や、朱塗しゅぬり欄干らんかんにのみ調和する蓮の葉は、自分の心と同じよう、とうてい強いものには敵対する事の出来ない運命を知って、新しい偉大な建築の前に、再び蘇生そせいする事なく
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
予は実に子どもたちの歓呼の叫びに蘇生そせいして、わずかに心の落ちつきを得たとき、姉は茶をこしらえて出てきた。茶受けは予の先に持参した菓子と、胡瓜きゅうりの味噌漬け雷干かみなりぼしの砂糖漬けであった。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
蘇生そせいさせる必要があるというのです。たぶん、彼らはけっして死んではいないのかもしれませんよ。さあ、お茶をいただきましょう。僕はこうしてお話をするのが、とても嬉しいんですよ。イワン
気絶から蘇生そせいした範覚は、とみに気抜けして、白痴ばかのようになった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蘇生そせいしたような気がする。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
蘇生そせいの喜びに胸を躍らせ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
幸いに、二人とも、蘇生そせいした。元より母の楡葉にれはのほうが恢復かいふくは早かった。楡葉は気がつくと、寝食も忘れて、子の枕元に坐ったきりだった。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんなに知らぬ人の介抱かいほうを受けてきたのかと思うと恥ずかしく、そしてしまいには今のように蘇生そせいをしてしまったのであると思われるのが残念で
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
僕は大急ぎで下におりて、介抱かいほうして見ましたが、最早や蘇生そせいの見込みはありません。考えて見れば可哀相な男です。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二人の腕が脱けるようになったとき、やっとミシシッピーふね舷側げんそくへ着いた。二人は、蘇生そせいした思いがした。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
とこう書いていると、いくらでも記憶は蘇生そせいする。ともかくも、かかるすべてのものはことごと下手げての味あるものばかりである。一つとして、高尚、高貴、上品なものはない。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
宗助は弟を見るたびに、昔の自分が再び蘇生そせいして、自分の眼の前に活動しているような気がしてならなかった。時には、はらはらする事もあった。また苦々にがにがしく思う折もあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
致べしとて御いとまを下し置かる是に依て伊豆守殿にはほついきつき漸く蘇生そせいしたる心地して退出たいしゆつなし役宅やくたくへこそ歸られけるさて越前守はあとのこり御懇意こんいの御言葉ことばを蒙り御いとまを給はり面目めんぼく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
山地に近い温泉場での三四日の滞在はひどく疲れて行った岸本に蘇生そせいの思いを与えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
糊本はドクトルの手で、見事に蘇生そせいせしめられた。しかし彼は蘇生したことを悦ぶ前に、身動きならぬほど厳重に手術台の上に縛りつけられている我が身を怪しまねばならなかった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だがそれはまったく僥倖ぎょうこうをあてにしている、まるで昔の物語の筋のように必然性のないものゝようだ。然しこの僥倖をあてにする以外に近頃の自分は蘇生そせいの方法が全く見つからなかった。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ああ、ヒュウマニティという言葉はこんな時にこそ使用されて蘇生そせいする言葉なのではなかろうか、ひとの当然のびしい思いやりとして、ほとんど無意識みたいになされたもののように
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
懺悔録ざんげろくですのよ。トルストイも随分読んだのよ。そのおかげで、私もどうやら蘇生そせいしそうなの。過去の一切を清算して、新らしい生活を踏み出すつもりなの。先生今までのことは御免なさいね。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
つなおろして岩角を攀登はんとし、千辛万苦つゐに井戸沢山脈の頂上てうじやういたる、頂上に一小窪あり、涓滴けんてきの水あつまりてながれをなす、衆はじめて蘇生そせいの想をなし、めしかしぐを得たり、はからざりき雲霧漸次にきた
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
吉川、小早川の援軍が、彼方かなたの山々に到着して、その旗幟はたのぼりをここから望んだときは、全城の士民はみな蘇生そせいの思いを抱いて
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長くわずらったあとで蘇生そせいして、またいろいろな過去の思い出に苦しみ、そして今またこわいともおそろしいとも言いようのない目に自分はあっている
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
右頬を喰いつかれたと見え、ザックリ肉が開いて、顔中が紅酸漿べにほおずきの様に真赤だ。素人目にも到底蘇生そせいの見込はない。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)