薄紅うすくれない)” の例文
と、するすると寄った、姿が崩れて、ハタと両手を畳につくと、麻のかおりがはっとして、肩に萌黄もえぎの姿つめたく、薄紅うすくれないが布目を透いて
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金剛石ダイヤモンドがきらりとひらめいて、薄紅うすくれないそでのゆるる中から細いかいなが男のひざの方に落ちて来た。かろくあたったのは指先ばかりである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
毎年初夏の頃になると、薄紅うすくれない色の合歓の花が咲く。その頃になるとこのやしろの祭があるので、村祭同様に村中の者が家業を休む。
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
矢倉の前、逆茂木の下は、山のように重なり合った人馬の死体で埋まり、一の谷の戦場は薄紅うすくれないに染まるほどだった。
卑弥呼ひみこの足音が高縁たかえんの板をきしめて響いて来た。君長ひとこのかみ反耶はんやは、竹の遣戸やりどを童男に開かせた。薄紅うすくれないに染ったはぎの花壇の上には、霧の中で数羽の鶴が舞っていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
御迷惑かけてはすみませぬ故どうか御帰りなされて下さりませ、エヽ千日も万日も止めたき願望ねがいありながら、とあとの一句は口にれず、薄紅うすくれないとなって顔にあらわるゝ可愛かわゆ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
二人ふたりの間には、一脚の卓ありて、桃色のかさかけしランプはじじと燃えつつ、薄紅うすくれないの光を落とし、そのかたわらには白磁瓶はくじへいにさしはさみたる一枝の山桜、雪のごとく黙して語らず。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
僕は石原の目をかすめるように、女の顔と岡田の顔とを見較みくらべた。いつも薄紅うすくれないにおっている岡田の顔は、確に一入ひとしお赤く染まった。そして彼は偶然帽を動かすらしくよそおって、帽のひさしに手を掛けた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
春雨霏々ひひ。病牀徒然とぜん。天井を見れば風車かざぐるま五色に輝き、枕辺を見れば瓶中へいちゅうの藤紫にして一尺垂れたり。ガラス戸の外を見れば満庭の新緑雨に濡れて、山吹は黄ようやく少く、牡丹は薄紅うすくれないの一輪先づ開きたり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
二つ三つまた五つ、さきは白く立って、却って檐前のきさきを舞う雪の二片ふたひら三片みひらが、薄紅うすくれないの蝶にひるがえって、ほんのりと、娘のまぶたを暖めるように見える。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
代助はその頬の肉と色が、著じるしく後の窓からす光線の影響を受けて、鼻の境に暗過ぎる影を作った様に思った。その代り耳に接した方は、明らかに薄紅うすくれないであった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ごく若い。この間までお酌というひよこでいたのが、ようよう drueドリュウ になったのであろう。細面の頬にも鼻にも、天然らしい一抹いちまつ薄紅うすくれないみなぎっている。涼しい目のひとみに横から見れば緑色の反射がある。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かごける、と飜然ひらりと来た、が、此は純白ゆきの如きが、嬉しさに、さっ揚羽あげはの、羽裏はうらの色は淡く黄に、くち珊瑚さんご薄紅うすくれない
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たちまち障子のさんの三つ目が雨に濡れたように真中だけ色が変る。それをすかして薄紅うすくれないなものがだんだん濃く写ったと思うと、紙はいつか破れて、赤い舌がぺろりと見えた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
諸羽もろはねつと、ひらりと舞上る時、緋牡丹の花の影が、雪のうなじに、ぼっとみて薄紅うすくれないがさした。そのまま山のを、高く森のこずえにかくれたのであった。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄紅うすくれないの一枚をむざとばかりに肩より投げ懸けて、白き二の腕さえ明らさまなるに、もすそのみはかろさばたまくつをつつみて、なお余りあるを後ろざまに石階の二級に垂れて登る。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
地を坤軸こんじくから掘覆ほりかえして、将棊倒しょうぎだおしせかけたような、あらゆる峰をふもといだいて、折からの蒼空あおぞらに、雪なす袖をひるがえして、軽くその薄紅うすくれないの合歓の花に乗っていた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その一本を軽く踏まえた足を見るといかにも華奢きゃしゃにできている。細長い薄紅うすくれないの端に真珠をけずったような爪が着いて、手頃な留り木をうまかかんでいる。すると、ひらりと眼先が動いた。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
社殿の雪洞ぼんぼりも早や影の届かぬ、暗夜やみの中にあらわれたのが、ややかがみなりに腰をひねって、その百日紅のこずえのぞいた、霧に朦朧もうろうと火が映って、ほんのりと薄紅うすくれないしたのは
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みなぎり渡る湯煙りの、やわらかな光線を一分子ぶんしごとに含んで、薄紅うすくれないの暖かに見える奥に、ただよわす黒髪を雲とながして、あらん限りの背丈せたけを、すらりとした女の姿を見た時は、礼儀の、作法さほう
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほっと吹く息、薄紅うすくれないに、折鶴はかえって蒼白あおじろく、花片はなびらにふっと乗って、ひらひらと空を舞って行く。……これが落ちたおおきな門で、はたして宗吉は拾われたのであった。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
衣は薄紅うすくれないに銀の雨を濃く淡く、所まだらに降らしたような縞柄しまがらである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手をあげて黒髪をおさえながらわきの下を手拭でぐいと拭き、あとを両手で絞りながら立った姿、ただこれ雪のようなのをかかる霊水で清めた、こういう女の汗は薄紅うすくれないになって流れよう。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暗い底にあいを含むく春の夜をかして見ると、花が見える。雨に風に散りおくれて、八重に咲く遅きを、夜にけん花の願を、人の世のともしびが下から朗かに照らしている。おぼろ薄紅うすくれない螺鈿らでんる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、燃立もえたつようなのは一株も見えぬ。しもに、雪に、長くとざされた上に、風の荒ぶる野に開く所為せいであろう、花弁が皆堅い。山吹は黄なる貝を刻んだようで、つつじの薄紅うすくれない珊瑚さんごに似ていた。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤に白く唐草からくさを浮き織りにした絹紐リボンを輪に結んで、額から髪の上へすぽりとめた間に、海棠かいどうと思われる花を青い葉ごと、ぐるりとした。黒髪の薄紅うすくれないつぼみが大きなしずくのごとくはっきり見えた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
紫の矢絣やがすり箱迫はこせこの銀のぴらぴらというなら知らず、闇桜やみざくらとか聞く、暗いなかにフト忘れたように薄紅うすくれないのちらちらするすごい好みに、その高島田も似なければ、薄い駒下駄に紺蛇目傘こんじゃのめそぐわない。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かたなしのしわになりましたが、若い時は、その薄紅うすくれないはれぼッたいまぶたが恐ろしく婀娜あだだった、お富といって、深川に芸者をして、新内がよく出来て、相応に売った婦人おんなでしたが、ごくじみなたち
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白きは脚絆きゃはんの色ならず、素足に草履穿占はきしめた、爪尖の薄紅うすくれない
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きらきらと、薄紅うすくれないに、浅緑に皆水に落ちた。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きらきらと、薄紅うすくれないに、浅緑あさみどりに皆水に落ちた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まぶたさっ薄紅うすくれない
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)