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薄紅
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うすくれない
ふりがな文庫
“
薄紅
(
うすくれない
)” の例文
と、するすると寄った、姿が崩れて、ハタと両手を畳につくと、麻の
薫
(
かおり
)
がはっとして、肩に
萌黄
(
もえぎ
)
の姿つめたく、
薄紅
(
うすくれない
)
が布目を透いて
草迷宮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
金剛石
(
ダイヤモンド
)
がきらりとひらめいて、
薄紅
(
うすくれない
)
の
袖
(
そで
)
のゆるる中から細い
腕
(
かいな
)
が男の
膝
(
ひざ
)
の方に落ちて来た。
軽
(
かろ
)
くあたったのは指先ばかりである。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
毎年初夏の頃になると、
薄紅
(
うすくれない
)
色の合歓の花が咲く。その頃になるとこの
祠
(
やしろ
)
の祭があるので、村祭同様に村中の者が家業を休む。
稚子ヶ淵
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
矢倉の前、逆茂木の下は、山のように重なり合った人馬の死体で埋まり、一の谷の戦場は
薄紅
(
うすくれない
)
に染まるほどだった。
現代語訳 平家物語:09 第九巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
卑弥呼
(
ひみこ
)
の足音が
高縁
(
たかえん
)
の板をきしめて響いて来た。
君長
(
ひとこのかみ
)
の
反耶
(
はんや
)
は、竹の
遣戸
(
やりど
)
を童男に開かせた。
薄紅
(
うすくれない
)
に染った
萩
(
はぎ
)
の花壇の上には、霧の中で数羽の鶴が舞っていた。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
▼ もっと見る
御迷惑かけては
済
(
すみ
)
ませぬ故どうか御帰りなされて下さりませ、エヽ千日も万日も止めたき
願望
(
ねがい
)
ありながら、と
跡
(
あと
)
の一句は口に
洩
(
も
)
れず、
薄紅
(
うすくれない
)
となって顔に
露
(
あらわ
)
るゝ
可愛
(
かわゆ
)
さ
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
二人
(
ふたり
)
の間には、一脚の卓ありて、桃色のかさかけしランプはじじと燃えつつ、
薄紅
(
うすくれない
)
の光を落とし、そのかたわらには
白磁瓶
(
はくじへい
)
にさしはさみたる一枝の山桜、雪のごとく黙して語らず。
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
僕は石原の目を
掠
(
かす
)
めるように、女の顔と岡田の顔とを
見較
(
みくら
)
べた。いつも
薄紅
(
うすくれない
)
に
匀
(
にお
)
っている岡田の顔は、確に
一入
(
ひとしお
)
赤く染まった。そして彼は偶然帽を動かすらしく
粧
(
よそお
)
って、帽の
庇
(
ひさし
)
に手を掛けた。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
春雨
霏々
(
ひひ
)
。病牀
徒然
(
とぜん
)
。天井を見れば
風車
(
かざぐるま
)
五色に輝き、枕辺を見れば
瓶中
(
へいちゅう
)
の藤紫にして一尺垂れたり。ガラス戸の外を見れば満庭の新緑雨に濡れて、山吹は黄
漸
(
ようや
)
く少く、牡丹は
薄紅
(
うすくれない
)
の一輪先づ開きたり。
墨汁一滴
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
二つ三つまた五つ、
灯
(
ほ
)
さきは白く立って、却って
檐前
(
のきさき
)
を舞う雪の
二片
(
ふたひら
)
三片
(
みひら
)
が、
薄紅
(
うすくれない
)
の蝶に
飜
(
ひるがえ
)
って、ほんのりと、娘の
瞼
(
まぶた
)
を暖めるように見える。
薄紅梅
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
代助はその頬の肉と色が、著じるしく後の窓から
射
(
さ
)
す光線の影響を受けて、鼻の境に暗過ぎる影を作った様に思った。その代り耳に接した方は、明らかに
薄紅
(
うすくれない
)
であった。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
極
(
ごく
)
若い。この間までお酌という
雛
(
ひよこ
)
でいたのが、ようよう
drue
(
ドリュウ
)
になったのであろう。細面の頬にも鼻にも、天然らしい
一抹
(
いちまつ
)
の
薄紅
(
うすくれない
)
が
漲
(
みなぎ
)
っている。涼しい目の
瞳
(
ひとみ
)
に横から見れば緑色の反射がある。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
と
籠
(
かご
)
を
開
(
あ
)
ける、と
飜然
(
ひらり
)
と来た、が、此は純白
雪
(
ゆき
)
の如きが、嬉しさに、
颯
(
さっ
)
と
揚羽
(
あげは
)
の、
羽裏
(
はうら
)
の色は淡く黄に、
嘴
(
くち
)
は
珊瑚
(
さんご
)
の
薄紅
(
うすくれない
)
。
印度更紗
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
たちまち障子の
桟
(
さん
)
の三つ目が雨に濡れたように真中だけ色が変る。それを
透
(
すか
)
して
薄紅
(
うすくれない
)
なものがだんだん濃く写ったと思うと、紙はいつか破れて、赤い舌がぺろりと見えた。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
諸羽
(
もろはね
)
を
搏
(
う
)
つと、ひらりと舞上る時、緋牡丹の花の影が、雪の
頸
(
うなじ
)
に、ぼっと
沁
(
し
)
みて
薄紅
(
うすくれない
)
がさした。そのまま山の
端
(
は
)
を、高く森の
梢
(
こずえ
)
にかくれたのであった。
灯明之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
薄紅
(
うすくれない
)
の一枚をむざとばかりに肩より投げ懸けて、白き二の腕さえ明らさまなるに、
裳
(
もすそ
)
のみは
軽
(
かろ
)
く
捌
(
さば
)
く
珠
(
たま
)
の
履
(
くつ
)
をつつみて、なお余りあるを後ろざまに石階の二級に垂れて登る。
薤露行
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
地を
坤軸
(
こんじく
)
から
掘覆
(
ほりかえ
)
して、
将棊倒
(
しょうぎだおし
)
に
凭
(
よ
)
せかけたような、あらゆる峰を
麓
(
ふもと
)
に
抱
(
いだ
)
いて、折からの
蒼空
(
あおぞら
)
に、雪なす袖を
飜
(
ひるがえ
)
して、軽くその
薄紅
(
うすくれない
)
の合歓の花に乗っていた。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
その一本を軽く踏まえた足を見るといかにも
華奢
(
きゃしゃ
)
にできている。細長い
薄紅
(
うすくれない
)
の端に真珠を
削
(
けず
)
ったような爪が着いて、手頃な留り木を
甘
(
うま
)
く
抱
(
かか
)
え
込
(
こ
)
んでいる。すると、ひらりと眼先が動いた。
文鳥
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
社殿の
雪洞
(
ぼんぼり
)
も早や影の届かぬ、
暗夜
(
やみ
)
の中に
顕
(
あらわ
)
れたのが、やや
屈
(
かが
)
みなりに腰を
捻
(
ひね
)
って、その百日紅の
梢
(
こずえ
)
を
覗
(
のぞ
)
いた、霧に
朦朧
(
もうろう
)
と火が映って、ほんのりと
薄紅
(
うすくれない
)
の
射
(
さ
)
したのは
茸の舞姫
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
漲
(
みな
)
ぎり渡る湯煙りの、やわらかな光線を一
分子
(
ぶんし
)
ごとに含んで、
薄紅
(
うすくれない
)
の暖かに見える奥に、
漾
(
ただよ
)
わす黒髪を雲とながして、あらん限りの
背丈
(
せたけ
)
を、すらりと
伸
(
の
)
した女の姿を見た時は、礼儀の、
作法
(
さほう
)
の
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ほっと吹く息、
薄紅
(
うすくれない
)
に、折鶴はかえって
蒼白
(
あおじろ
)
く、
花片
(
はなびら
)
にふっと乗って、ひらひらと空を舞って行く。……これが落ちた
大
(
おおき
)
な門で、はたして宗吉は拾われたのであった。
売色鴨南蛮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
衣は
薄紅
(
うすくれない
)
に銀の雨を濃く淡く、所まだらに降らしたような
縞柄
(
しまがら
)
である。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
手をあげて黒髪をおさえながら
腋
(
わき
)
の下を手拭でぐいと拭き、あとを両手で絞りながら立った姿、ただこれ雪のようなのをかかる霊水で清めた、こういう女の汗は
薄紅
(
うすくれない
)
になって流れよう。
高野聖
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
暗い底に
藍
(
あい
)
を含む
逝
(
ゆ
)
く春の夜を
透
(
す
)
かして見ると、花が見える。雨に風に散り
後
(
おく
)
れて、八重に咲く遅き
香
(
か
)
を、夜に
懸
(
か
)
けん花の願を、人の世の
灯
(
ともしび
)
が下から朗かに照らしている。
朧
(
おぼろ
)
に
薄紅
(
うすくれない
)
の
螺鈿
(
らでん
)
を
鐫
(
え
)
る。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
が、
燃立
(
もえた
)
つようなのは一株も見えぬ。
霜
(
しも
)
に、雪に、長く
鎖
(
とざ
)
された上に、風の荒ぶる野に開く
所為
(
せい
)
であろう、花弁が皆堅い。山吹は黄なる貝を刻んだようで、つつじの
薄紅
(
うすくれない
)
は
珊瑚
(
さんご
)
に似ていた。
七宝の柱
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
赤に白く
唐草
(
からくさ
)
を浮き織りにした
絹紐
(
リボン
)
を輪に結んで、額から髪の上へすぽりと
嵌
(
は
)
めた間に、
海棠
(
かいどう
)
と思われる花を青い葉ごと、ぐるりと
挿
(
さ
)
した。黒髪の
地
(
じ
)
に
薄紅
(
うすくれない
)
の
莟
(
つぼみ
)
が大きな
雫
(
しずく
)
のごとくはっきり見えた。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
紫の
矢絣
(
やがすり
)
に
箱迫
(
はこせこ
)
の銀のぴらぴらというなら知らず、
闇桜
(
やみざくら
)
とか聞く、暗いなかにフト忘れたように
薄紅
(
うすくれない
)
のちらちらする
凄
(
すご
)
い好みに、その高島田も似なければ、薄い駒下駄に
紺蛇目傘
(
こんじゃのめ
)
も
肖
(
そぐ
)
わない。
妖術
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
方
(
かた
)
なしの
皺
(
しわ
)
になりましたが、若い時は、その
薄紅
(
うすくれない
)
に
腫
(
はれ
)
ぼッたい
瞼
(
まぶた
)
が恐ろしく
婀娜
(
あだ
)
だった、お富といって、深川に芸者をして、新内がよく出来て、相応に売った
婦人
(
おんな
)
でしたが、ごくじみな
質
(
たち
)
で
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
白きは
脚絆
(
きゃはん
)
の色ならず、素足に草履
穿占
(
はきし
)
めた、爪尖の
薄紅
(
うすくれない
)
。
わか紫
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
きらきらと、
薄紅
(
うすくれない
)
に、浅緑に皆水に落ちた。
伯爵の釵
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
きらきらと、
薄紅
(
うすくれない
)
に、
浅緑
(
あさみどり
)
に皆水に落ちた。
伯爵の釵
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
瞼
(
まぶた
)
に
颯
(
さっ
)
と
薄紅
(
うすくれない
)
。
女客
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
薄
常用漢字
中学
部首:⾋
16画
紅
常用漢字
小6
部首:⽷
9画
“薄紅”で始まる語句
薄紅梅
薄紅色
薄紅葉