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薄墨
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うすずみ
ふりがな文庫
“
薄墨
(
うすずみ
)” の例文
その三は太く黒き
枠
(
わく
)
を施したる大なる書院の窓ありてその
障子
(
しょうじ
)
は広く明け放され桜花は模様の如く
薄墨
(
うすずみ
)
の
地色
(
じいろ
)
の上に白く浮立ちたり。
江戸芸術論
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
頃は
長月
(
ながつき
)
の
中旬
(
なかば
)
すぎ、入日の影は雲にのみ殘りて野も出も
薄墨
(
うすずみ
)
を流せしが如く、
月
(
つき
)
未
(
いま
)
だ
上
(
のぼ
)
らざれば、星影さへも
最
(
い
)
と稀なり。
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
幸助五六歳のころ妻の百合が里帰りして貰いきしその時
粘
(
は
)
りつけしまま
十年
(
ととせ
)
余の月日
経
(
た
)
ち今は
薄墨
(
うすずみ
)
塗りしようなり、
今宵
(
こよい
)
は風なく波音聞こえず。
源おじ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
夜霧と明りの
滲
(
にじ
)
み合っているところに、観音堂の法城が一まつの
薄墨
(
うすずみ
)
をはいているほかはすべてこれ、目まぐるしい交響とうごきでありました。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
明日
(
あす
)
午前
会
(
あ
)
ひたし、と
薄墨
(
うすずみ
)
の
走
(
はし
)
り
書
(
がき
)
の簡単極るもので、表に裏神保町の
宿屋
(
やどや
)
の
名
(
な
)
と
平岡常
(
ひらをかつね
)
次郎といふ差出人の姓名が、表と同じ乱暴さ加減で書いてある。
それから
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
▼ もっと見る
ぽつぽつ帰り支度にかかろうかと
漸
(
ようや
)
く白みかけた
薄墨
(
うすずみ
)
の中に
胡粉
(
ごふん
)
を溶かしたような梅雨の東空を、
詰所
(
つめしょ
)
の汗の浮いた、ガラス戸越しに見詰めていた時でした。
穴
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
蜩
(
ひぐらし
)
が谷になって、境は杉の
梢
(
こずえ
)
を踏む。と峠は近い。立向う雲の峰はすっくと胴を
顕
(
あら
)
わして、灰色に
大
(
おおい
)
なる
薄墨
(
うすずみ
)
の
斑
(
まだら
)
を交え、動かぬ稲妻を
畝
(
うね
)
らした
状
(
さま
)
は
凄
(
すさま
)
じい。
星女郎
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
思はず里言葉の出るお染の
薄墨
(
うすずみ
)
太夫は、此處まで來る前に、この無法な
企
(
くはだ
)
てをどんなに止めたことでせう。
銭形平次捕物控:237 毒酒薬酒
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
ただぽかんと
海面
(
うみづら
)
を見ていると、もう海の
小波
(
さざなみ
)
のちらつきも段〻と見えなくなって、
雨
(
あま
)
ずった空が
初
(
はじめ
)
は少し赤味があったが、ぼうっと
薄墨
(
うすずみ
)
になってまいりました。
幻談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
駕籠
(
かご
)
なんぞに
窮屈
(
きうくつ
)
な
思
(
おも
)
ひをして
乘
(
の
)
つてゐるよりは、
輕
(
かる
)
い
塵埃
(
ほこり
)
の
立
(
た
)
つ
野路
(
のぢ
)
をば、
薄墨
(
うすずみ
)
に
霞
(
かす
)
んだ
五月山
(
さつきやま
)
の
麓
(
ふもと
)
を
目當
(
めあ
)
てに
歩
(
ある
)
いてゐた
方
(
はう
)
が、どんなに
樂
(
たの
)
しみか
知
(
し
)
れなかつた。
死刑
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
僕
一人
(
ひとり
)
先
(
ま
)
づ目覚めて
船甲板
(
ボウトデツキ
)
を徘徊して居ると、水平線上の
曙紅
(
しよこう
)
は乾いた
朱色
(
しゆしよく
)
を染め、
他
(
た
)
の三
方
(
ぱう
)
には
薄墨
(
うすずみ
)
色を重ねた幾層の
横雲
(
よこぐも
)
の上に早くも
橙色
(
オランジユいろ
)
や
白金色
(
プラチナいろ
)
の雲の峰が肩を張り
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
そこで屋形の船のひとつを私は
小手招
(
こてまね
)
く、そこここの
薄墨
(
うすずみ
)
の、また朱のこもった上の空の、霧はいよいよ薄れて、この時、雲のきれ間から、怪しい
黄色
(
おうじき
)
の光線が放射し出した。
木曾川
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
『汝、掠奪者よ』かう
薄墨
(
うすずみ
)
にかいた
端書
(
はがき
)
が来たとき、私は実に熱鉄をつかんだ様な心持がしました。私は友に背き同志を売つた、と思ふと私は昼夜寝る目も寝られなかつたんです。
計画
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
寝よげに見える東山の、
円
(
まろ
)
らの姿は
薄墨
(
うすずみ
)
よりも淡く、霞の奥所にまどろんでおれば、
知恩院
(
ちおんいん
)
、
聖護院
(
しょうごいん
)
、
勧修寺
(
かんじゅじ
)
あたりの、寺々の僧侶たちも
稚子
(
ちご
)
たちも、安らかにまどろんでいることであろう。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
七曲りも曲りのぼつて、第一の實際トンネルを拔けると、十勝原野の秋色は、遠く義雄の視線と直角に横たはつた
薄墨
(
うすずみ
)
の低山の一直線に限られ、近い野山はゆふ空と共にほの赤くかすんで見える。
泡鳴五部作:04 断橋
(旧字旧仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
能登守教経は、今までの度重なる合戦で一度も不覚をとったことのない武将であったが、この度はどう思ったか
薄墨
(
うすずみ
)
という馬を駆って西に落ち、播磨の高砂から船に乗って讃岐の屋島へ渡っていった。
現代語訳 平家物語:09 第九巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
聞くならく、こんどの合戦に、鎌倉殿のお厩から曳き出された逸物には、義経の料にとて
薄墨
(
うすずみ
)
——
乗更
(
のりかえ
)
駒に青海波。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
など書き
聯
(
つら
)
ねたるさへあるに、よしや墨染の衣に我れ哀れをかくすとも、心なき君には
上
(
うは
)
の空とも見えん事の
口惜
(
くちを
)
しさ、など硯の水に
泪
(
なみだ
)
落
(
お
)
ちてか、
薄墨
(
うすずみ
)
の
文字
(
もじ
)
定かならず。
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
兎角
(
とかく
)
するうちに
節
(
せつ
)
は
立秋
(
りつしう
)
に
入
(
い
)
つた。
二百十日
(
にひやくとをか
)
の
前
(
まへ
)
には、
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
いて、
雨
(
あめ
)
が
降
(
ふ
)
つた。
空
(
そら
)
には
薄墨
(
うすずみ
)
の
煑染
(
にじ
)
んだ
樣
(
やう
)
な
雲
(
くも
)
がしきりに
動
(
うご
)
いた。
寒暖計
(
かんだんけい
)
が二三
日
(
にち
)
下
(
さ
)
がり
切
(
き
)
りに
下
(
さ
)
がつた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
「吉原の玉屋小三郎の店で、お職を張って居た
薄墨
(
うすずみ
)
という
大夫
(
たゆう
)
を親分御存じですかえ」
銭形平次捕物控:237 毒酒薬酒
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
夜久野
(
やくの
)
の
山
(
やま
)
の
薄墨
(
うすずみ
)
の
窓
(
まど
)
近
(
ちか
)
く、
草
(
くさ
)
に
咲
(
さ
)
いた
姫薊
(
ひめあざみ
)
の
紅
(
くれなゐ
)
と、——
此
(
こ
)
の
菖蒲
(
しやうぶ
)
の
紫
(
むらさき
)
であつた。
城崎を憶ふ
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
図を見るに
川面
(
かわづら
)
籠
(
こむ
)
る朝霧に両国橋
薄墨
(
うすずみ
)
にかすみ渡りたる
此方
(
こなた
)
の岸に、幹太き一樹の柳少しく
斜
(
ななめ
)
になりて立つ。その
木蔭
(
こかげ
)
に
縞
(
しま
)
の
着流
(
きながし
)
の男一人手拭を肩にし
後向
(
うしろむ
)
きに水の流れを眺めている。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
巴里
(
パリイ
)
全市は並木も家も
薄墨
(
うすずみ
)
色の情調に満ちて居る。
正午
(
ひる
)
前に石井
柏亭
(
はくてい
)
が来た。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
とかくするうちに
節
(
せつ
)
は立秋に入った。二百十日の前には、風が吹いて、雨が降った。空には
薄墨
(
うすずみ
)
の
煮染
(
にじ
)
んだような雲がしきりに動いた。寒暖計が二三日下がり切りに下がった。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「吉原の玉屋小三郎の店で、お職を張つてゐた
薄墨
(
うすずみ
)
といふ太夫を親分御存じですかえ」
銭形平次捕物控:237 毒酒薬酒
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
左右
(
さいう
)
の
山々
(
やま/\
)
は、
次第次第
(
しだいしだい
)
に、
薄墨
(
うすずみ
)
を
合
(
あは
)
せ、
鼠
(
ねずみ
)
を
濃
(
こ
)
くし、
紺
(
こん
)
を
流
(
なが
)
し、
峰
(
みね
)
が
漆
(
うるし
)
を
刷
(
は
)
く。
十和田湖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
竹童と鷲の身辺だけが、
薄墨
(
うすずみ
)
をかけたように、
円
(
まる
)
くぼかされてしまった。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「相手? どんな相手ですか」と
訊
(
き
)
かれたら、お延は何と答えただろう。それは
朧気
(
おぼろげ
)
に
薄墨
(
うすずみ
)
で描かれた相手であった。そうして女であった。そうして津田の愛を自分から奪う人であった。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
処々
(
ところどころ
)
汽車の窓から
視
(
み
)
た桜は、奥が暗くなるに従って、ぱっと
冴
(
さえ
)
を見せて咲いたのはなかった。
薄墨
(
うすずみ
)
、
鬱金
(
うこん
)
、またその
浅葱
(
あさぎ
)
と言ったような、どの桜も、皆ぽっとりとして曇って、暗い紫を帯びていた。
七宝の柱
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
内儀お染——
薄墨
(
うすずみ
)
太夫の説明はなか/\行屆きます。
銭形平次捕物控:237 毒酒薬酒
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
薄
常用漢字
中学
部首:⾋
16画
墨
常用漢字
中学
部首:⼟
14画
“薄墨”で始まる語句
薄墨色
薄墨華魁
薄墨附立書