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ふりがな文庫
“
脂
(
やに
)” の例文
ええ、おちついているな。
脂
(
やに
)
を
嘗
(
な
)
めさせられた蛇のように往生ぎわが悪いと、もう御慈悲をかけちゃあいられねえ。さあ申し立てろ。
半七捕物帳:05 お化け師匠
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
ええ、おこついているな。
脂
(
やに
)
を
嘗
(
な
)
めさせられた蛇のように往生際が悪いと、もうお慈悲をかけちゃあいられねえ。さあ。申立てろ。
半七雑感
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「どうだね。これからみんなで浅草にくり出して行こうじゃないか。」そういって、煙草の
脂
(
やに
)
で染まった前歯をちらと見せて微笑する。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
疳癪の強そうな縁の
爛
(
ただ
)
れ気味な赤い目をぱちぱち
屡瞬
(
しばたた
)
きながら、獣の皮のように
硬張
(
こわば
)
った手で時々目
脂
(
やに
)
を拭いて、茶の間の端に坐っていた。
躯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
煙草の
脂
(
やに
)
と汗が一緒になつて眼にしみる。からだ中、どこもかしこも脂でべとべとになる。手拭ひでふけば拭いた手拭ひが黄いろに染まる。
続生活の探求
(旧字旧仮名)
/
島木健作
(著)
▼ もっと見る
その折ある地方で、
皮膚
(
はだ
)
の赤茶けた土人が、
地面
(
ぢべた
)
に
蹲踞
(
はひつくば
)
つて
玉蜀黍
(
たうもろこし
)
の
煙管
(
パイプ
)
で
脂
(
やに
)
くさい煙草をすぱすぱやつてゐるのを見かけた。
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
庵りというと
物寂
(
ものさ
)
びた感じがある。少なくとも
瀟洒
(
しょうしゃ
)
とか風流とかいう念と
伴
(
ともな
)
う。しかしカーライルの
庵
(
いおり
)
はそんな
脂
(
やに
)
っこい
華奢
(
きゃしゃ
)
なものではない。
カーライル博物館
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
後の世の語り草にもと老眼の
脂
(
やに
)
を拭いつゝ書き留めておくと云うのであって、前に記す塚守の盲人は即ち老尼の物語の中に出て来るのである。
聞書抄:第二盲目物語
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
八五郎は
脂
(
やに
)
でジワジワする煙管をあわてて仕舞い込みました。どうもこの女とはまともに太刀打ちが出来そうもありません。
銭形平次捕物控:227 怪盗系図
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
残りし
一人
(
ひとり
)
が又々
抜刀
(
ぬきみ
)
を取直し、「無礼なやつ」と打掛る下を潜って
一当
(
ひとあ
)
て当てますと、
脂
(
やに
)
を
甞
(
な
)
めた蛇のように身体を反らせてしまいました。
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
築地本願寺畔の
僑居
(
きょうきょ
)
に稿を起したわたしの長篇小説はかくの如くして、遂に
煙管
(
キセル
)
の
脂
(
やに
)
を拭う
反古
(
ほご
)
となるより外、何の用をもなさぬものとなった。
十日の菊
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
壁には、
脂
(
やに
)
っぽい魚油が灯されていて、その光が、
枢
(
くるる
)
の上の艇長の写真に届いているのだが、その下で、ウルリーケがぼんやりと海を眺めている。
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
彼曰ふ、上なるマーレブランケの濠の中、
粘
(
ねば
)
き
脂
(
やに
)
煮ゆるところにミケーレ・ツァンケ未だ着かざるうち 一四二—一四四
神曲:01 地獄
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
歯のすり減った下駄のようになった
日和
(
ひより
)
を履いて、手の
脂
(
やに
)
でべと/\に汚れた扇を持って、彼はひょろ高い屈った身体してテク/\と歩いて行った。
子をつれて
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
西村はシャアロック・ホルムズの様な口調でこう云うと、少し勿体ぶった手つきでスリーカッスルをつめたマドロスパイプを
脂
(
やに
)
さがりに斜めに銜えた。
象牙の牌
(新字新仮名)
/
渡辺温
(著)
白く輝く
鸚鵡
(
おうむ
)
の
釵
(
かんざし
)
——
何某
(
なにがし
)
の伯爵が心を
籠
(
こ
)
めた
贈
(
おくり
)
ものとて、人は知つて、(伯爵)と
称
(
とな
)
ふる其の釵を抜いて、
脚
(
あし
)
を返して、
喫掛
(
のみか
)
けた
火皿
(
ひざら
)
の
脂
(
やに
)
を
浚
(
さら
)
つた。
伯爵の釵
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
お霜婆の家でも毎年蠶を飼ひましたが、ある時私は婆さんの大切にして居る蠶に煙草の
脂
(
やに
)
を
嘗
(
な
)
めさせました。斯の
惡戲
(
いたづら
)
は非常に婆さんを怒らせました。
幼き日:(ある婦人に与ふる手紙)
(旧字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
旦那はタバコの
脂
(
やに
)
の黒く染み込んだ
反齒
(
そつぱ
)
の口を大きく開いて、さも恩に着せるやうな調子でこんなことを言つた。
兵隊の宿
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
脂
(
やに
)
の多い松やサワグルミの若い林のまんなかにあり、池からは六ロッド〔一ロッドは約五メートル〕で、そこまでほそい小路がだらだらと下りていった。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
彼は病気だと云う父親のことを考えだした。古い古い家の奥の間で、煙草の
脂
(
やに
)
で黒くなった二つ三つ残った歯を出して、
仰向
(
あおむ
)
けに寝ている父親の姿を浮べた。
指環
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
それに夜も昼も火を
焚
(
た
)
きづめにしているので、この小屋の木材は
脂
(
やに
)
を沸き出して
煤
(
すす
)
は
漆
(
うるし
)
みたいに光っていた。
鬼
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
などと
脂
(
やに
)
下った感想を漏らされたとある。やがて彼女は懐妊し、そのため嫉妬と飲酒悪癖は増大に増大、或る夜、吉近侯と
未曽有
(
みぞう
)
の大格闘を実行したあげく
長屋天一坊
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
葉脈が縦に並んでいて、葉の裏には松の
脂
(
やに
)
が出るらしい白い小さい点が細い白線のように見えている。実際
強靭
(
きょうじん
)
で、また虫に食われることのない強健な葉である。
松風の音
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
桜といったら川のほうにだけ、それも若木といえば聞えがいゝ、細い、
脂
(
やに
)
ッこい、みじめな、いえば気ましな枯枝のようなものゝしるしばかり植わった向島の土手。
春泥
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
みんなの顔が黒くなったのは、この煙草の
脂
(
やに
)
がくっついたのだ。だからお酒で洗えばすっかり落ちてしまう。サア、おれたちにもお酒を入れた風呂を
沸
(
わ
)
かしてくれ。
豚吉とヒョロ子
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
三鳥山人
(著)
垣の中に
簇
(
むらが
)
った松は
疎
(
まば
)
らに空を透かせながら、かすかに
脂
(
やに
)
の
香
(
か
)
を放っている。保吉は頭を垂れたまま、そう云う静かさにも
頓着
(
とんじゃく
)
せず、ぶらぶら海の方へ歩いて行った。
文章
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
まだ
脂
(
やに
)
っこいこの自分に
真打
(
とり
)
をとらせてくれる以上は、せめて師匠くらいのところを
助
(
す
)
けさせなければ看板
面
(
づら
)
花やかに客が呼べないものとおもっているくらいのことは
小説 円朝
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
九女八は、
莨
(
タバコ
)
の
脂
(
やに
)
の流れた筋が、
飴
(
あめ
)
色に
透通
(
すきとお
)
るようになった、
琥珀
(
こはく
)
のパイプを
透
(
すか
)
して眺めて
市川九女八
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
ところどころに
交
(
まざ
)
る
女松
(
めまつ
)
の木地などには、たらたらと赤黄色い
脂
(
やに
)
が流れて居るのであった。
かやの生立
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
脂
(
やに
)
を拭いた紙を寝覚の端へまるめ込んで、手を
手巾
(
はんけち
)
でもんで居るその手巾は、
過日
(
このあいだ
)
の白茶地ではないが、貞之進はそれに妙なことが思い出されて、じっと小歌の顔を
看上
(
みあ
)
げると
油地獄
(新字新仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
何か下等な材木の木の
香
(
か
)
ばかしが生々しいが、スリッパでも
穿
(
は
)
かねばとても
脂
(
やに
)
っぽくて歩けそうにもない薄汚さで、そのうえ、廊下の突き当りにはきまって
凸凹
(
でこぼこ
)
の姿見ばかりが
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
また煙草飲みはこの糠味噌汁を食べぬと
脂
(
やに
)
が咽に詰るなどといい慣わしていた。
鳴雪自叙伝
(新字新仮名)
/
内藤鳴雪
(著)
この物煙草汁に
中
(
あた
)
って死するは、人がこの物の毒に中って死するより速やかだから、ホッテントット人これを見れば、煙草を噛んでその面に吹き掛け、あるいは杖の
尖
(
さき
)
にその
脂
(
やに
)
を塗りて
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
悉皆
米松
(
べいまつ
)
で長く柱に
倚
(
よ
)
りかゝっていると洋服に
脂
(
やに
)
のつくことは言わなかった。
好人物
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
薄黒い唇が
淫
(
みだら
)
がましく開いて、そこから
脂
(
やに
)
に染まった長い歯が覗いていた。
五階の窓:01 合作の一(発端)
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
或る時、母堂の心配そうな打明話によると、眼や顔をふくハンケチが茶色くなり、便所の朝顔も茶色くなり、襯衣も茶色くなり、つまり全身から煙草の
脂
(
やに
)
が吹き出してるらしいとのことだった。
十一谷義三郎を語る
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
と鼠谷と名乗る男は、煙草の
脂
(
やに
)
で真黒に染まった歯を
剥
(
む
)
きだして笑った。
火葬国風景
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
焚火で
髭
(
ひげ
)
を焼いたり、その焚火の煤煙や、偃松の
脂
(
やに
)
で、手も頬も黒くなったり、誰を見ても、化かされたような顔をしている、谷へ下りたい、早く谷へ下りて、自由に奔放する水音が聞えたら
白峰山脈縦断記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
仁右衛門は
脂
(
やに
)
のつまった大きな眼を手の甲で子供らしくこすりながら
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
便所へ入ってしゃがんでいると直ると云われてそれを実行したことはたしかであるが、それがどれだけ利いたかは覚えていない。それから、飯を食うと米の飯が妙に苦くて
脂
(
やに
)
を
嘗
(
な
)
めるようであった。
喫煙四十年
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
それで
脂
(
やに
)
の多い松を選んで、それを焚いて煤を採ったのである。
硯と墨
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
オリエントの
脂
(
やに
)
をペツと袖へ吐く。
茗荷畠
(新字旧仮名)
/
真山青果
(著)
ゝゝゝつく
脂
(
やに
)
に松の暑さかな 神櫻
俳句の作りよう
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
と
脂
(
やに
)
っこい口調で語りだした。
うすゆき抄
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
古びた壁の
脂
(
やに
)
の色
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
その茶店の前の往来へ、例の
袢天
(
はんてん
)
とどてらの
合
(
あい
)
の
子
(
こ
)
が出て、
脂
(
やに
)
だらけの歯をあらわに
曝
(
さら
)
しながらしきりに自分を呼んでいる。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「だが君はいいね。そうやって年中
常綺羅
(
じょうきら
)
でもって、それに内儀さんは綺麗だし……。」と新吉は
脂
(
やに
)
ッぽい
煙管
(
きせる
)
をむやみに火鉢の縁で
敲
(
たた
)
いて
新世帯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
嗅いで見るが宜い、少し
脂
(
やに
)
臭いやうだ。ね、その通り。そこで、その鏑の中へ、松前のアイヌが熊狩りに使ふといふ、毒を
銭形平次捕物控:315 毒矢
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
半七 なんだ、なんだ、どいつもこいつも
脂
(
やに
)
を嘗めさせられた
蝦蟇
(
ひきがえる
)
のような
面
(
つら
)
をするな。ねえ、もし、大和屋の旦那。
勘平の死
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
齒のすり滅つた下駄のやうになつた
日和
(
ひより
)
を履いて、手の
脂
(
やに
)
でべと/\に汚れた扇を持つて、彼はひよろ高い屈つた身體してテク/\と歩いて行つた。
子をつれて
(旧字旧仮名)
/
葛西善蔵
(著)
脂
常用漢字
中学
部首:⾁
10画
“脂”を含む語句
樹脂
脂肉
臙脂
松脂
脂肪
凝脂
脂臭
浮脂
豚脂
脂下
脂粉
雲脂
血脂
脂気
煙脂
脱脂綿
脂染
生臙脂
脂光
嚥脂
...