経文きょうもん)” の例文
旧字:經文
また大床のすみにすえてあった大般若だいはんにゃ経唐櫃きょうからびつのまえに立ち、中の経文きょうもんをつかみ出して、その底までをしらべていたが、やがてのこと
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
繰拡くりひろげたペイジをじっ読入よみいつたのが、態度ようす経文きょうもんじゅするとは思へぬけれども、神々こうごうしく、なまめかしく、しか婀娜あだめいて見えたのである。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
どうか平易にして読み易い仏教の経文きょうもんを社会に供給したいという考えから、明治二十四年の四月から宇治の黄檗山おうばくさん一切蔵経いっさいぞうきょうを読み始めて
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これでこの話はおしまいに致します。古い経文きょうもんの言葉に、心はたくみなる画師えしの如し、とございます。何となく思浮おもいうかめらるる言葉ではござりませぬか。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
古代研究所は、ついこのごろ、世界にたった一つという、古代エジプトの経文きょうもんを書いた巻き物を手に入れたのです。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わたくしは帰る時に、あの和尚さまはなんの罪で呵責かしゃくを受けているのですかと訊きましたら、あれは斎事にあたって経文きょうもんをぬかして読むからだと言いました
やがて愚僧二十歳に相なり候頃より、ふと同寮の学僧に誘はれ、品川宿しながわじゅく妓楼ぎろうに遊び仏戒ぶっかいを破り候てより、とかく邪念に妨げられ、経文きょうもん修業も追々おろそかに相なり
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その廚子の上には経文きょうもんと一しょに、阿弥陀如来あみだにょらいの尊像が一体、端然と金色こんじきに輝いていました。これは確か康頼やすより様の、都返りの御形見おかたみだとか、伺ったように思っています。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで、法師をはだかにして、ありがたい、はんにゃしんきょうの経文きょうもんを、あたまからむねどうからからあし、はては、あしのうらまで一めんすみくろぐろときつけました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
さっそくそんなまちがった命令を取消とりけしたという話で、これも我邦わがくにへは支那からはいってきたらしいが、もとの起こりは印度いんどであり、『雑宝蔵経ぞうほうぞうきょう』という仏法の経文きょうもんのなかに
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
仕事の合間、与八は海蔵寺の東妙和尚について、和讃わさんだの、経文きょうもんの初歩だのというものを教わります。それと共に、東妙和尚の手ずさみをみよう見真似みまねで彫刻をはじめました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
赤い紙をって十字を作り、それを西の壁に貼りつけてあるのが、くらがりを通して、おぼろげに見えた。シロオテはそれにむかって、なにやら経文きょうもんを、ひくく読みあげていた。
地球図 (新字新仮名) / 太宰治(著)
朝と晩とには、父はこの神棚を必ず拝んで廻るのだが、それが相当の時間をついやした。われわれ子供らは空腹と飯の香に興奮している時、父はゆるゆると長い経文きょうもんを唱えているのである。
父が一時めていた酒を再びたしなむようになったこと、依然として佛間にこもってはいたけれども、もうその壁には普賢菩薩ふげんぼさつの像が見えなくなっていたこと、そして経文きょうもんを読む代りに
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
長崎のふうに、節分の晩に法螺ほらの貝をふいて何か経文きょうもんのような事を怒鳴どなってわる、東京でえば厄払やくはらい、その厄払をして市中の家のかどに立てば、ぜにれたり米を呉れたりすることがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と云って、死霊除しりょうよけのおまもりをかしてくれた。それは金無垢きんむくで四寸二分ある海音如来かいおんにょらいのお守であった。そしてそれとともに一心になって読経どきょうせよと云って、雨宝陀羅尼経うほうだらにきょうという経文きょうもんとおふだをくれた。
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
正統の茶室の広さは四畳半で維摩ゆいま経文きょうもんの一節によって定められている。その興味ある著作において、馥柯羅摩訶秩多びからまかちった(二七)文珠師利菩薩もんじゅしりぼさつと八万四千の仏陀ぶっだ弟子でしをこの狭い室に迎えている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
青々としたり立ての頭、目鼻立ちも醜くはなく、念珠を爪繰つまぐって仏の御名を口から絶やさないのと、竪川べりを通る時は、贅沢な素人釣の後ろに立って、一くさりの経文きょうもん手向たむける癖があるので
母さまはそのひたいあまあついといって心配しんぱいなさいました。須利耶さまはうつしかけの経文きょうもんに、を合せて立ちあがられ、それから童子さまを立たせて、紅革べにがわおびむすんでやりおもてへ連れてお出になりました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
また、自分のことにかえるが、わしが御房の年ごろには、畏れ多いが、仏陀ぶっだ御唇みくちも女に似て見え、経文きょうもんそう文字も恋文に見えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから暗記の経文きょうもんもありますので、この三科はまあチベットで中等の科目を卒業した者ならばちょうどその中に入れるようになって居るのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
何か漢詩か経文きょうもんなどに関係していないかと思って調べて見たが、そうでもない。色々やっている内に、僕はふと二字丈け抹消した文字のあるのに気附いた。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
図中の旅僧は風に吹上げられし経文きょうもんを取押へんとして狼狽ろうばいすれば、ひざのあたりまですそ吹巻ふきまくられたる女の懐中よりは鼻紙片々へんぺんとして木葉このはまじわり日傘諸共もろとも空中に舞飛まいとべり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし尼提は経文きょうもんによれば、一心に聴法ちょうほうをつづけたのち、ついに初果しょかを得たと言うことである。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
盲目めくら垣覗かきのぞきよりもそッと近い、机覗つくえのぞきで、読んでおいでなさった、書物しょもつなどの、お話もうかがって、何をなさる方じゃと言う事も存じておりますが、経文きょうもんに書いてあることさえ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「して、これまでに経文きょうもんなど読誦どくじゅせられたこともござるかな」と、阿闍梨はまた訊いた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ですから、経文きょうもんの世界は、大覚者にとっては夢の世界ではなくして、現実の世界です。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いや、それはわしの手落ておちじゃった。おまえの耳ばかりへは、経文きょうもんを書くのをわすれたのじゃ。これはあいすまぬ。が、できたことはしかたがない。このうえは、早くきずをなおすことじゃ。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
やがて定めの作法によってとなえごとがあり、または経文きょうもんが読まれるが、初夜しょやすなわち十時頃にはもう終って、神酒を下げて少しずつ戴き、ゆるりと一同が食事をしてもまだ夜中にはならない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
師の慈円をはじめ弟子僧たちは、誰からともなく、経文きょうもんを口にして、それが、音吐高々と、雪と闘いながら踏みのぼってゆくのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるいは経文きょうもんとか仏像とかいうものに至っては、余程よほど持出すようにインドの方から求めても、そういう物は途中で見付けられると没収されるから、余り輸出されて居らない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
おれはびょうたる一平家へいけに、心を労するほど老耄おいぼれはせぬ。さっきもお前に云うた通り、天下は誰でも取っているがい。おれは一巻の経文きょうもんのほかに、つるまえでもいれば安堵あんどしている。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
数珠と経文きょうもんと、それらの品々がことごとく時光寺の住職の持ち物に符合するばかりか、その経文の折本のうちには時光寺と明らかに書いてあるので、誰もそれをうたがうことは出来なかった。
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
朝暮に経文きょうもんのように唱えて胸へ刻みこむのでなければならない。従って、辞句も詩のように口で唱え易いことが必要であった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから、——それから如来のを説いたことは経文きょうもんに書いてある通りである。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そんなことは釈迦しゃか経文きょうもんをそらんじているより、百も千も合点がてんしている万吉にしてこの失策は遺憾至極いかんしごくといわねばならぬ。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊吹も見えず、野も見えず、そして丘のぐるりに、十人ほどの黒法師の影が薄く立木みたいな裸足はだし姿を立ちならべて……何か、経文きょうもんを誦しはじめている。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はははは、坊主に説教は逆さまだが、俺の経文きょうもんは生きた人間へのあらたかな極楽の近道なのだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、尼院なので、経文きょうもんに親しんだ。亡き右大臣信長への供養に、毎日毎日、写経もした。
滝つぼの辺へ行ってみたところ——荒繩あらなわの腹帯を巻き、れいを振り鳴らし、しぶきの中に、声も出ぬまで、経文きょうもんとなえている姿は、身の毛もよだつばかりであったとか、語っておりました。
或る年の、或る月の夜には、ここで念仏講の部落の男女が、かねをたたき、経文きょうもんふうし、念仏踊りに夜すがら法楽してもいたろうにと、正成は、ここを自分らの死所に借りることの罪深さを痛感した。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
経文きょうもんのようでもあるし、自分をののしり怒っているようにも見えた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の懐中ふところから落ちていた——一部の経文きょうもんへ、手をのばして
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんだ、お経文きょうもんを写しているんだな」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——お経文きょうもんです」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)