むさ)” の例文
パアシング将軍は態々わざ/\立つて、その士官の船室ケビンに訪ねて往つた。士官は船酔の果てが、枕につかまつて頻りとむさい物を吐いてゐた。
「お客、むさい夜具だが、ここならもあるし、夜半よなかのどかわけば、湯茶も沸いている。ゆっくりと、この蒲団ふとんへ手足をのばしたがいい」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何か書きものをしてゐるむさい安フロックにくるまつた先生だが、その御面相を見れば唾でもひつかけてやりたいくらゐだが、どうしてどうして
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
ゆる荒熊あらくまと一しょにもつながれう、はかなかにも幽閉おしこめられう、から/\と骸骨がいこつむさくさ向脛むかはぎばんだあごのない髑髏しゃれかうべ夜々よる/\おほかぶさらうと。
もと倉庫か何かであつたむさい地下室を、すつかり白とたんと緑の配色で美しく塗直し、舞台の電灯の装置から卓や椅子までがすべて新しく出来て居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あさ「おっかさんが煩っていてじゞむさくって仕様がないよ、何かする側で御膳をべるのはいやだから、森さんお前さんの知っている所でおまんまを喫べよう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
五時より六時の間なりしが例の如く珈琲館にてたわむたるに、衣類もむさくるしくあやしげなる男一人いちにん
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
日の目を見ない瞳はどんよりと濁り、頬は蒼ざめ、さかやきはのびてむさくるしくなつて居たあの時の囚人の顔が、自分の良人の顔と一つになつて、まざまざと闇の中でも見えて来る。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
溶けた雪路の、風のピウ/\吹く中をザブ/\とんで先に立つて歩かれた。病人があるとでも聞けば、むさい小屋の下へ、臭いと云ふ顔もせずに入り込んで、親切に力を付けてやつた。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「では、どうぞあなたがここへ引移ってくださいませ。こんなむさい所でお気の毒ですが、たとい賃仕事ちんしごとをしてなりとも、わたしはわたしで世過よすぎをして、あなたに御迷惑は懸けませぬ」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
お前の衣類べゞのなくなつたも、お前の家のなくなつたも皆あの鬼めがした仕事、くらひついても飽き足らぬ惡魔にお菓子を貰つた喰べても能いかと聞くだけが情ない、汚いむさい此樣な菓子
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この男は一本の綱の上に懸け渡した種々雑多な襤褸布をむさくるしい幕にして、戸外の冷たい風を防いでいた。そして、穏やかな隠居所にぬくぬく暖まりながら、呑気に烟草をかしていた。
「苦しゅうない。むさいところで恐れ入るが、通れ。ささ、ずうっと通れ。」
で、両掌りょうて仰向あおむけ、低く紫玉の雪の爪尖つまさきを頂く真似して、「やうにむさいものなれば、くど/\お礼など申して、お身近みぢかかえつてお目触めざわり、御恩は忘れぬぞや。」と胸をぢるやうにつえで立つて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私のむさくるしい顔をおかしがって行ったのではあるまいか。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
そのかげにむさ姿なりして
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その又八に続いて、武蔵も茶店へ駈けもどり、彼女の寝床のあったというむさい一間を覗いてみると、老婆のことばに違うところがない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乙給仕 饗應もてなし式作法しきさはふさいを、一人ひとり二人ふたりの、あらひもせぬでしてのくるやうでは、むさいことぢゃ。
くらひついてもらぬ惡魔あくまにお菓子くわしもらつたべてもいかとくだけがなさけない、きたなむさ此樣こん菓子くわしうちくのもはらがたつ、すて仕舞しまいな、すててお仕舞しまい、おまへしくててられないか
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
で、両掌りょうてを仰向け、低く紫玉の雪の爪先つまさきを頂く真似して、「かようにむさいものなれば、くどくどお礼など申して、お身近はかえってお目触めざわり、御恩は忘れぬぞや。」と胸をじるように杖で立って
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巡「いえ、何ういたしまして、斯んなむさ老爺おやじを」
『甚だ恐れ入るが、これは昨夜、兵糧ひょうろうに持参いたしたむさい物でござる。もはや不用になりました故、どこぞお取捨てくだされい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがおそろしい! そのあなむろ呼吸いきつまってはしまやせぬか? そのむさあななかへはきよ空氣くうき些程つゆほどかよはぬゆゑ、ロミオどのがするころにはわしんでしまうてゐねばなるまい。
くらひついても飽き足らぬ悪魔にお菓子を貰つた喰べてもいかと聞くだけが情ない、汚いむさいこんな菓子、家へ置くのも腹がたつ、すててしまいな、捨ておしまい、お前は惜しくて捨てられないか
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ばばたけ持って、おおむさや。」
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
要人かなめは、そこを開けて、しきいごしに眉をひそめた。畳の上へ牛の草鞋わらじでも上げたように、むさい田舎者と、見ている眼だった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老婆としよりの声が聞え、彼女は、あわてて中へかくれた。むさい漁師小屋だった。魚油ぎょゆともすとみえ、臭いのにおいがして、家の中に、黄色い明りがついた。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、天堂一角が、いきなり、前に足を投げだしているひとりの原士はらしをまたいで、その男の側へすすみ、むさいものでもつまむように、グイとえりがみを引き起こした。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほころびてもいたし、雨露や汗にも汚れていたはず、さだめしむさいにおいが畳まれていたであろうと思いながら、袖を通しはかまを着けてみると、意外にも折目が、ぴんとついていて
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仰せにあまえ、今夜はぞんぶん、手足を伸ばしてやすませてもらおう。さらにこの髯が剃れるとは、心うれしい。首となるまでも、むさい髯は落してきたいものよと思うていたのだ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
てまえが会ったのではございませんが、昨晩、大戸をおろしてから、むさい身なりをした眼のするどい旅の男が、かしつえをついて、のっそりはいって来て——武蔵先生にお目にかかりたい。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
討入の夜も下に着てゐたのです。むさい物と、滅多にお取捨て下さいませぬやうに
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
見も知らぬ——そしてむさい姿をした異様な小男が——自分へ向って、家来でもないくせに、わが君、わが君、と呶鳴りながら駈けよって来たのが、ふと信長の眼を注意させたのであった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やあ、それにおるむさき者。朝堂の御賀ぎょがには、楽寮の役人はいうまでもなく、舞人鼓手もみな、浄らかな衣服を着るのに、汝、何ゆえに汚れたる衣をまとい、あたりにしらみをふりこぼすぞっ」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
袁紹は二度目に出てくると、むさいものを見るような眼で、許攸を見やって
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これ。……そのむさい下郎笠を、どこへな取り捨てろ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあ、ともあれ、むさうちじゃが、上がってくれい」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むさやつめッ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)