はかり)” の例文
彼は病気発見当時、毎日病院へ通うと同時に、食料を一々はかりにかけていたものだが、その当時は日に幾度となく自身で検尿もやった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
店の隅では、たばこの葉を鉋台かんなだいにかけている者があるし、はかりにかけて五十きん箱に詰めて、江戸へ出す荷ごしらえをしている者もある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
へたな見透みとおしなどをつけて、右すべきか左すべきか、はかりにかけて慎重に調べていたんでは、かえって悲惨なつまずきをするでしょう。
新郎 (新字新仮名) / 太宰治(著)
従って、遂に切出された葛岡の話し振りも、無駄を省いて直ぐ中身を相手のはかりにかける内輪話の性質を帯びています。葛岡は言いました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
屠手は二人掛りで大きなはかりを釣して、南部牛や雑種や赤い牝牛の肉の目方を計る。肉屋の亭主は手帳を取出し一々それを鉛筆で書留めた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それつ切りでございます。もつとも、私のはかりは死骸のそばにも見えませんでした。あわてて何處かへ振り落したのでございませう」
老人は立上ってはかりを持って来た。それから、百箇の環の目方を測ると、次に箱全体の環を秤にかけた。全体を百で割ると、七百箇であった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
「こつちなんぞぢや、あといくらでも出來できらあな」といひながらたどりをつた。たまごすこうごくとはかりさをがぐら/\と落付おちつかない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それをはかる様な精密なはかりを持っていないので、分量の点は遠藤の言葉を信用して置く外はありませんでしたが、あの時の遠藤の態度口調は
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
男はおかみさんの袋を両手に持上げて重みを計り、あたりに一寸ちよつと気を配りながら自転車の後に縛りつけた袋と、棒のついたはかりとを取りおろした。
買出し (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのような効果が、はかりますではかれるように判然とわかるものだったら、医師はさぞ喜びもしまた困る事だろうと思った。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これは心のはかりから見れば、云わば一毫いちごうを加えたほどの吊合つりあいの狂いかもわかりませぬ。けれども数馬はこの依怙のために大事の試合を仕損しそんじました。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今日はいち立つ日とて、はかりを腰に算盤そろばんを懐にしたる人々のそこここに行きかい、糸繭の売買うりかいに声かしましくののしわめく。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこになって彼はおびえた。彼のはかりははずれてしまった。一方の皿は深淵しんえんのうちに落ち、一方の皿は天に上がった。
濱萵苣はまさじ、すました女、おまへには道義のにほひがする、はかりにかけた接吻せつぷんの智慧もある、かしの箪笥に下着したぎが十二枚、をつ容子ようす濱萵苣はまさじ、しかも優しい濱萵苣はまさじ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
晝夜平分の頃日月の一白羊宮に一天秤宮にありて同時に地平線に懸ればそが天心を距ること共に相等しきが故にあたかも天心のはかりその平準を保つ如し
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「ここに眼隠しの布があるし、ここにはかりがある。だが、かかとに翼が生えていて、飛んでいるんじゃありませんか?」
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「そうさ。一々の詞をはかりの皿に載せるような事をせずに、なんでも言いたい事を言うのは、我々青年の特権だね」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「とてもはかり誤魔化ごまかすんですよ。薪屋はどうしても二十四斤半というのだけれど、私は二十三斤半で勘定してやればいいと思います。どうでしょうかね?」
幸福な家庭 (新字新仮名) / 魯迅(著)
お婆さんははかりで芋を計ってくれてから、焙じ茶の入った薬鑵を僕のそばに置いて、田舎なまりのある口調で、「勝手に注いであがって下さいよ。」と云う。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
医者の診察室にはいると、患者は言われぬ先に自分から、十進法の目盛りのついた小型なはかりの台座に立った。
十銭白銅貨は十銭貨幣であると同時に、重量はかりであり、標的ひょうてきであり、爪磨きであり、交換手呼出器であり、切符押出機おしだしきであり、煙草キャラメル押出機でもある。
白銅貨の効用 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
いわば両方が五分五分ではかりにかけたら重い軽いはないはずである。殿様に死ぬようなことがあればわたしも死ぬ。わたしに死ぬようなことがあれば殿様も死ぬ。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はかりの一方のさらに僕の生命をのせ、他の皿に思想をのせるとすれば……思想なんか鬼に食われてしまえだ!
ばりばりいて捨てちゃうのさ、およそ六、七枚も剥いちゃったろうかね、それからあとのキャベツを店の人に渡して、これをはかりにかけておくれと云うじゃないの
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「君は例によって、なんにも気がつかなかったらしいが、僕は一言一言はかりにかけて量っていたんだよ」
街のまん中で、肥大な黒白のまだらの豚が生きたまま二人の壮夫にかつがれ、はかりに掛けて取引されてゐる。
そしてこの種の泡は、広い海面よりも、入江や、彎曲した吹き溜りと云うような岸近い特殊な区域に溜っているものだよ。——ところで、この邸にははかりがありますか?
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
サヴォナロラはメディチの勢力と戦った。芸術の歓びが官能の歓びを伴なうとすれば、芸術がこの種の信仰に対して「あれかこれか」のはかりにかかるのは当然であろう。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
此夕台所だいどこで大きな甘藍きゃべつはかりにかける。二貫六百目。肥料もやらず、移植いしょくもせぬのだから驚く。関翁が家の馳走ちそうで、甘藍の漬物つけもの五升藷ごしょういも馬鈴薯じゃがいも)の味噌汁みそしるは特色である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わかっている目方のものを鄭重にはかりにかけて見てやっと受取るようなのとは大変な相違である。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
つぶりて折節橋の上で聞くさわぎ唄も易水えきすいさぶしと通りぬけるに冬吉は口惜くやしがりしがかの歌沢に申さらくせみほたるはかりにかけて鳴いて別りょか焦れて退きょかああわれこれを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
贔屓ひいきなさるゝかと言しかば越前守殿大いにいかられナニ婦人ふじんを贔屓するとは不屆の一言天地てんち自然しぜん淨玻璃じやうはりかゞみたて邪正じやしやうたゞごふはかりを以て分厘ふんりんたがはず善惡を裁斷する天下の役人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その証拠に、はかりの一方に一分銀を一方にドル銀をのせて、三百十一個対百枚という比率が双方で確認され、この条約を継承した明治政府も、これに従うほかはないことになる。
明治の五十銭銀貨 (新字新仮名) / 服部之総(著)
試験はかえる筋肉きんにくを取ってこまやかな糸のごとき一部分をはかりにかけて、この筋肉をもっておのれの重量の何倍ある物質をささえうるか。すなわち筋肉きんにくの力を証明する主意と心得た。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
余程お口惜くやしかったって、そうでしょうとも。……新しいはかりをね、膝へかけて二ツにポッキリ。もっともお足に怪我をしておいでなすった、そこいらぞッとするような鼻紙さア。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
即ちその心臓をはかりにかけられて罪の軽重をはかられ、罪無き者は神とがっし、罪の軽いものは禽獣草木に生れ換り、悪業の深い者は魔神のために喰ってしまわれる事になっておりました。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
屑屋の朴がはかりでトントン首筋を叩きながら、枳の門の戸を蹴飛ばして這入って来た。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それでもはかりおもりの方がはね上った。すると肉屋はまたそれを俎の上におろして、ほんの少しばかり端っこを切りとった。そしてもう一度秤にかけた、今度は錘の方がやや低目になった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼がオスロかどこか北方の首府に仕事と地位を持っている希臘ギリシャの若い海軍武官であることも、いつも小さなはかりを携帯していて、それで注意深くフィリップ・モウリスの上等の刻煙草きざみたばこを計って
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
こと神戸こうべ停車場ステーションにて、このかばんはかりにかけし時の如き、中にてがらがらと音のしたるを駅員らの怪しみて、これは如何いかなる品物なりやと問われしに傷持つ足の、ハッと驚きしかど、さあらぬていにて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
頬鬚ほおひげの生えた角帯の仲買いの四十男がはかりではかって、それからむしろへと、その白い美しい繭をあけた。相場は日ごとに変わった。銅貨や銀貨をじゃらじゃらと音させて、景気よく金を払ってやった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そこで受け取ってはかりにかけてみると、五両あまりすくなくなっているので、珊瑚にいいつけて鏡台を質に入れて足りないだけの金をこしらえ、それを足して任の家へいって田地を取り戻そうとした。
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
そうしたら慎九郎にはいい見せつけになる、それよりは力を男選みのはかりにかけた治部太夫の娘が、非力者の勇気を聞き知ったら、さぞ事の案外におどろくだろうことを、宮内はまず空想して愉快に思った。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
ある微妙な均衡の上に 翼ををさめて はかりのやうに搖れてゐた
南窗集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
罪を計るはかりをすてよ——そは汝には許されないのだ。
はかりで銀をはかっているところが描いてある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
はかりで掛けて見ない物は目方がない
はかりで秤つたらば二十二斤あつた。
山遊び (旧字旧仮名) / 木下利玄(著)
まさに 現象のはかりのうへで
(新字旧仮名) / 高祖保(著)