知己ちかづき)” の例文
女の戸を、からりと出たのは、蝶吉で、仲之町からどこにか住替えようとして、しばらくこの近所にある知己ちかづき口入宿くちいれやどに遊んでいた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勿々なか/\世話にも成難なりがたく如何はせんと思ひし折柄をりから竹本君太夫と云ふ淨瑠璃語じやうるりかたり金七が上方かみがたに在りし頃よりの知己ちかづきにて火事見舞に來りしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「御親切に対する御礼は、わたくしから、致さうと存じてをりますけれど、これはホンのお知己ちかづきになつたお印に差し上げますのよ。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
父も二人を並べて置いて順々に自分で介錯かいしゃくをする気であった。ところが母が生憎あいにく祭で知己ちかづきうちへ呼ばれて留守である。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
志「いや、これは僕のしん知己ちかづきにて、竹馬の友と申してもよろしい位なもので、御遠慮には及びませぬ、何卒どうぞちょっと嬢様にお目にかゝりたくって参りました」
ふびんなリツプは、何んにも悪意はさしはさまず、唯だ何時も此処に来る、近処の知己ちかづきを捜しに来たと答へました。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
女同士ははやくからの知己ちかづきではあつたが、亭主のキチン氏と貴婦人とはまだ一度も会つた事が無かつた。
此時このときフとおもしたのはおきぬのことである、おきぬ、おきぬきみ此名このなにはお知己ちかづきでないだらう。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
其中そのうちに或人が其は既に文壇で名を成したたれかに知己ちかづきになって、其人の手を経て持込むがいと教えて呉れたので、成程と思って、早速手蔓てづるを求めて某大家の門を叩いた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「太夫様が、知己ちかづきのない方に、そう容易たやすくお目にかかるものかいな、出直しておいでなされ」
モ一つには、その二人が自分の紹介も待たずして知己ちかづきになつたのが、訳もなく不愉快なのだ。かくして置いた物を他人ひとに勝手に見られた様な感じが、信吾の心を焦立せてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
久保田君が「朝顏」を書き、自分が「山の手の子」を書いた頃から知己ちかづきになつたのだ。
種彦は知己ちかづきの多い廓の事とて適当の人を頼んで身請みうけや何かの事はおっての相談に
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ハア知己ちかづきといふでもございませねど、兄の家へ時々いらつしやるものですから、お眼にかかつた事はありますの、ちよつと見るとにやけな風の方で、大変気取つてるやうに見へますけれど
当世二人娘 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
その家の人達もやはり別莊へ行ってますんですが、そこでひとつ折入ってお願いと申すのは甚だ不躾ながらあなたに、その一家の人達とお知己ちかづきを願いましたら、じつに光榮至極に存ずる次第なんです。
これ古服は黒し、おれは旅まわりの烏天狗で、まだいずれへも知己ちかづきにはならないけれど、いや、何国いずこはてにも、魔の悪戯いたずらはあると見える。
「御親切に対する御礼は、わたくしから、致そうと存じておりますけれど、これはホンのお知己ちかづきになったお印に差し上げますのよ。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
所がはゝが生憎まつり知己ちかづきうちばれて留守である。父は二人ふたりに切腹をさせる前、もう一遍はゝはしてやりたいと云ふ人情から、すぐはゝを迎にやつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
とり其上彦兵衞より請取うけとりし金もあれば不自由なく消光くらすつけ本夫をつと開運かいうんをぞ祈りける偖彦兵衞は江戸の知己ちかづき便たよりて橋本町一丁目の裏店うらだなかり元來ぐわんらいおぼえたる小間物を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お屋敷奉公は出来ないというとこから、おかみへ願ってお聞済きゝずみになり、名主様のお口入れでありまして、年頃もよし、おえいは江戸表からの知己ちかづきでもあり、丁度宜しいから
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この年増の女、お銀様にはまだ知己ちかづきのない人でしたけれども、これはお君のもとの太夫元、女軽業の親方のおかくであります。ここでムク犬が、お銀様とお角とを引合せる役目をつとめました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なぜツてね、別に躰した訳もないんだがね、旦那様があれの親にお世話、いゑ何ね、世話になんぞおなりあそばしやあしないんだけれど、同じ国でお知己ちかづきであつたもんだから、それでよんどころなく、めんどうを
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「怪我ぐらいはするだろうよ。……知己ちかづきでもない君のような別嬪べっぴんと、こんな処で対向さしむかいで話をするようなまわり合せじゃあ。……」
殊に近頃になつて、所謂政界の名士達なるものと、お知己ちかづきになるに従つて、大抵の方には、殆ど愛想をつかしてしまひました。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
留守るすでは仕方がない。どうしたものだろうと思って、石の上にたたずんで首をかたぶけているところへ、うしろに足音がするようだからふり向くと、先刻さっき鉄嶺丸で知己ちかづきになった沼田さんである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ば知らぬ者なりと申せしが其後に至り三次は知己ちかづきの趣きに申立る等前後ぜんご不都合ふつがふなり且此程より追々おひ/\取調とりしらべる通り八ヶ年以前に弟十兵衞をしばふだつじに於て殺害せつがいに及びめひの文を賣たる金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今日は天気もよろしければ亀井戸の臥竜梅がりょうばいへ出掛け、その帰るさに僕の知己ちかづき飯島平左衞門の別荘へ立寄りましょう、いえサ君は一体内気で入らっしゃるから婦女子にお心掛けなさいませんが
「あれは易者を看板にしているが本当は易者じゃねえんだ、もとは水戸のさむらいよ。御三家の侍だから、こちとらとは格が違わあ。それで本名が山崎譲、うちの旦那の神尾様とは前からのお知己ちかづきだ」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と言うのは、このごろ忙しさに、不沙汰ぶさたはしているが、知己ちかづきも知己、しかもその婚礼の席につらなった、従弟いとこの細君にそっくりで。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ことに近頃になって、所謂いわゆる政界の名士達なるものと、お知己ちかづきになるに従って、大抵の方には、ほとんど愛想をつかしてしまいました。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
角「黙れ、早くかぬか、何時までも兎や斯う無礼のことを申すか、かりそめにも殿様のお側近くを勤むる身の上で、炭屋の下男に知己ちかづきは持たん、ぐず/\してると障子越に槍玉に揚げるぞ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
撫順ぶじゅんは石炭の出る所である。そこの坑長こうちょうを松田さんと云って、橋本が満洲に来る時、船中で知己ちかづきになったとかで、その折の勧誘通り明日あす行くと云う電報を打った。汽車に乗ると西洋人が二人いた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
えゝ、一寸ちよいと引合ひきあはせまをしまする。このをとこの、明日みやうにち双六谷すごろくだに途中とちゆうまで御案内ごあんないしまするで。さあ、ぬし、お知己ちかづきつてけや。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「それぢや、是非湯河原へお泊りなさい。折角お知己ちかづきになつたのですから、ゆつくりお話したいと思ひます。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
何時いつも御無事で、此の人は僕の知己ちかづきにて萩原新三郎と申します独身者ひとりものでございますが、お近づきの一寸ちょっとさかづきを頂戴いたさせましょう、おや何だかこれでは御婚礼の三々九度さかづきのようでございます
今じゃ知己ちかづきだから恐しいとも思わぬわい。おい、おらあ、一番表へ廻って見て来るから、一所に来い。といえども一人として応ずる者無し。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それじゃ、是非湯河原へお泊りなさい。折角お知己ちかづきになったのですから、ゆっくりお話したいと思います。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
以前早瀬氏が東京である学校に講師だった、そこで知己ちかづきの小使が、便って来たものだそうだが、俳優やくしゃの声色が上手で落語もる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いきなり鋳掛屋が話したでは、ちと唐突だしぬけに過ぎる。知己ちかづきになってこの話を聞いた場所と、そのいきさつをちょっと申陳もうしのべる。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いゝえ、お知己ちかづきでも、お見知越みしりごしのものでもありません。眞個まつたく唯今たゞいま行違ゆきちがひましたばかり……ですから失禮しつれいなんですけれども。」
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
風呂敷包を腰につけて、草履穿きで裾をからげた、杖を突張つッぱった、白髪しらがの婆さんの、お前さんとは知己ちかづきと見えるのが、向うから声をかけたっけ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて、知己ちかづきになって知れたが、都合あって、飛騨ひだの山の中の郵便局へ転任となって、その任におもむく途中だと云う。——それにいささかうたがいはない。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と思い返してそばに寄り、倒れし男の面体を月影にてよく見れば、かねて知己ちかづきなる八蔵の歯を喰切くいしばりて呼吸いき絶えたるなり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こう、おめえ一ツ内端うちわじゃあねえか、知己ちかづきだろう、暴れてくれるなって頼みねえ、どうもしやあしねえやな。そして乗られなかったらいて行くさ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と別に何の知己ちかづきでもない女に、言葉を交わすのを、不思議とも思わないで、こうして二言三言、云ううちにも、つい、さしかけられたままで五足六足いつあしむあし
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほかに相談相手といってはなし、交番へ届けまして助けて頂きますわけのものではなし、また親類のものでも知己ちかづきでも
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前様さんは何しに来たのだ。問われて醜顔むくつけき巌丈男の声ばかり悪優しく。「へいへい、お邪魔様申します。ちとお見舞みめえ罷出つんでたんで。「知己ちかづきのお方かね。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっともてまえもまた、床屋の職人というのが、直ぐに気になったから、床屋の職人? 知己ちかづきか、といって尋ねたんで。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうど、そこに立って、電車を待合わせていたのが、舟崎ふなざきという私の知己ちかづき——それから聞いたのをここに記す。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この紙表紙の筆について、お嬢さんが、貸本屋として、先生と知己ちかづきのいわれを聞いたことはいうまでもなかろう。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)