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瞥
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べつ
ふりがな文庫
“
瞥
(
べつ
)” の例文
私
(
わたくし
)
は
漸
(
やうや
)
くほつとした
心
(
こころ
)
もちになつて、
卷煙草
(
まきたばこ
)
に
火
(
ひ
)
をつけながら、
始
(
はじめ
)
て
懶
(
ものう
)
い
睚
(
まぶた
)
をあげて、
前
(
まへ
)
の
席
(
せき
)
に
腰
(
こし
)
を
下
(
おろ
)
してゐた
小娘
(
こむすめ
)
の
顏
(
かほ
)
を一
瞥
(
べつ
)
した。
蜜柑
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
箇々の顔に一
瞥
(
べつ
)
以上を投ずることはできなかったが、それでも、その時の私の特殊な心の状態では、その一瞥の短い間にさえ、しばしば
群集の人
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
「話はできません」主人は冷ややかな眼でちらと一
瞥
(
べつ
)
をくれた、「……ことにそういう無礼な態度をなさる以上お断わりします」
花咲かぬリラ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
もう一度彼女は捨吉の方を振返って見て、若かった日のことを
悉
(
ことごと
)
く葬ろうとするような最後の一
瞥
(
べつ
)
を投げ与えたように思わせた。
桜の実の熟する時
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
家の入り口で、あたかもだれかに追っかけられてるかのように、後ろを振り向いて不安な一
瞥
(
べつ
)
を投げた。自然は死んでるかのようだった。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
▼ もっと見る
世上貫一の
外
(
ほか
)
に愛する者無かりし宮は、その貫一と奔るを
諾
(
うべな
)
はずして、
僅
(
わづか
)
に一
瞥
(
べつ
)
の富の前に、百年の契を
蹂躙
(
ふみにじ
)
りて
吝
(
をし
)
まざりき。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
出品をじろりと一
瞥
(
べつ
)
して「
拙
(
まづ
)
いな」と顔を
顰
(
しか
)
めて吐き出すやうに言ふが、さういふ口の下から、落款の「石井柏亭」といふ文字が目につくと
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
が、藤十郎は、今までに、お梶の姿を心にとめて、見たこともない。ただ路傍の花に対するような、淡々たる一
瞥
(
べつ
)
を与えていたに過ぎなかった。
藤十郎の恋
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
看板を一
瞥
(
べつ
)
すれば写真を見ずとも脚色の梗概も想像がつくし、どういう場面が喜ばれているかと云う事も会得せられる。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
たいがいの悪がじろりと一
瞥
(
べつ
)
を食っただけで、思わずお白洲の砂をつかむと言われている古今に絶した凄いすごいお奉行さまにも、
煎
(
せん
)
じつめれば
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
歩廊
(
ほらう
)
の中にづらりと並んだ店から土産物を勧める声に振返りもせず、左に高い鐘楼を一
瞥
(
べつ
)
した
儘
(
まゝ
)
僕はサン・マルコ
寺
(
じ
)
の
煤色
(
すゝいろ
)
をした扉を押して
入
(
はひ
)
つた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
その時己は彼の女の顔に、更に二つの
素的
(
すてき
)
に大きい黒い宝石が輝くのを一
瞥
(
べつ
)
した。二つの大きい黒い宝石と云うのは、それは彼の女の
眼球
(
めだま
)
のことである。
小僧の夢
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
内蔵助が、振向いて、一
瞥
(
べつ
)
をあたえると、図々しく、塀にはりついていたその男は、居たたまれなくなったか、つつつと、角から横へかくれてしまった。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その思ひが私の心をかすめた時、私の眼は彼のと
出逢
(
であ
)
つた。彼はその一
瞥
(
べつ
)
を讀みとつたらしく、その意味を想像した通りに話されでもしたやうに答へた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
一向に無感激な物腰で、ふところ手をやったままのっそり人垣の中へ這入ってゆくと、じろり中の様子を一
瞥
(
べつ
)
したようであったが、殆んどそれと同時です。
旗本退屈男:01 第一話 旗本退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
他郷の風景に一
瞥
(
べつ
)
を与える事もいとわしく、自分の部屋の中にこもりきって、ひたすら発船の日を待ちわびた。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
平次の冷たい一
瞥
(
べつ
)
を喰ふと、暫く佐吉の身體は硬直したやうでしたが、次の瞬間には身を
飜
(
ひるが
)
へして奧へ——。
銭形平次捕物控:050 碁敵
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
二人とも富裕な生活の人とは見えなかったが、劣らず堂々とした立派な
風貌
(
ふうぼう
)
で
脊
(
せい
)
も高く、互に強く信じ合い愛し合っている満足した様子が一
瞥
(
べつ
)
して感じられた。
睡蓮
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
彼は私の焦燥に対して一
瞥
(
べつ
)
を投げようともしなかったが、しかし、彼のうしろ姿が暗い扉のかげに消えていったとき、私の心は急に新しい昂奮に駆り立てられた。
運命について
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
そして、人の反感や憎念をあがなう人物というものは、その行為や人格を別にして、外形を一
瞥
(
べつ
)
したのみで、直に堪らぬ厭味を覚えさせられるものだとおもった。
鬼涙村
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
「
泣
(
な
)
くな、
今
(
いま
)
姉
(
ねえ
)
が
後
(
あと
)
から
來
(
く
)
らあ」
勘次
(
かんじ
)
はかういつて、
與吉
(
よきち
)
に一
瞥
(
べつ
)
を
與
(
あた
)
へたのみで一
心
(
しん
)
に
其
(
そ
)
の
手
(
て
)
を
動
(
うご
)
かして
居
(
ゐ
)
る。
與吉
(
よきち
)
はおつぎが
漸
(
やうや
)
く
近
(
ちか
)
づいた
時
(
とき
)
一しきり
又
(
また
)
泣
(
な
)
いた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
乗っている女の人もただ往来からの一
瞥
(
べつ
)
で直ちに美しい人達のように思えました。何台もの電車を私達は見送りました。そのなかには美しい西洋人の姿も見えました。
橡の花
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
しかし、法水はそれには一
瞥
(
べつ
)
をくれただけで、振綱の下から三尺程の所を不審げに眺めていた。
聖アレキセイ寺院の惨劇
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
先
(
まづ
)
気
(
き
)
を
丹田
(
たんでん
)
に落つけ、
震
(
ふる
)
ふ足を踏しめ、づか/\と青木子の面前にすゝみ出でゝ怪しき目礼すれば、大臣は眼鏡の上よりぢろりと一
瞥
(
べつ
)
、むつとしたる顔付にて答礼したまふ。
燕尾服着初めの記
(新字旧仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
ふと、その青空から現れて来たように、向うの
鋪道
(
ほどう
)
に友人が立っていた。先日、彼の家に
駈
(
か
)
けつけてくれた、その友人は、一
瞥
(
べつ
)
で彼のなかのすべてを見てとったようだった。
死のなかの風景
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
一
瞥
(
べつ
)
するだけで、限りない憂愁の情にとらえられるような傷ましい風景だった。
地底獣国
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
ニューヨークから急行した二人の顔を見知っているウォウリング警部は、一
瞥
(
べつ
)
してこの二個の死体をモスタアとダグラスと確認した。もう駄目だ。事件は、事件として
綺麗
(
きれい
)
に解決したのだ。
チャアリイは何処にいる
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
まず最初に
容貌
(
かおだち
)
を視て、次に
衣服
(
なり
)
を視て、帯を視て
爪端
(
つまさき
)
を視て、行過ぎてからズーと
後姿
(
うしろつき
)
を一
瞥
(
べつ
)
して、また帯を視て髪を視て、その跡でチョイとお勢を横目で視て、そして澄ましてしまう。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
本流を
辿
(
たど
)
る一群は、曲がつ滝の奔流と闘い、上川田村の肩を曲がり、茂左衛門地蔵の前を通って、地獄や青岩に一
瞥
(
べつ
)
をくれ、小松まで泳ぎついて、ほっとするのは、六月も終わりの頃であった。
利根の尺鮎
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
最後の一
瞥
(
べつ
)
を女の黒髮に注いでお光は、さツさと社殿の
後
(
うしろ
)
の方へ行つた。
東光院
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
が、それをじろりと一
瞥
(
べつ
)
して、かの女は僅かにからだを踏みこたへた——
泡鳴五部作:02 毒薬を飲む女
(旧字旧仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
何時自分が東京を去ったか、
何処
(
いずこ
)
を指して出たか、
何人
(
なにびと
)
も知らない、母にも手紙一つ出さず、建前が済んで
内部
(
うち
)
の
雑作
(
ぞうさく
)
も半ば出来上った新築校舎にすら一
瞥
(
べつ
)
もくれないで夜
窃
(
ひそ
)
かに迷い出たのである。
酒中日記
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
男はその上に一
瞥
(
べつ
)
を与えた。亭主はちょっと沈黙の後にまた言った。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
木村先生は制作品にお名残の一
瞥
(
べつ
)
を与えて出てゆかれました。
獄中への手紙:06 一九三九年(昭和十四年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
この題目を一
瞥
(
べつ
)
して見てもその内容を想像することが出来る。
法窓夜話:02 法窓夜話
(新字新仮名)
/
穂積陳重
(著)
と
媚
(
こ
)
びるような一
瞥
(
べつ
)
を浴びせかけた。
恩師
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
私は
漸
(
ようや
)
くほっとした心もちになって、
巻煙草
(
まきたばこ
)
に火をつけながら、始めて
懶
(
ものう
)
い
睚
(
まぶた
)
をあげて、前の席に腰を下していた小娘の顔を一
瞥
(
べつ
)
した。
蜜柑
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
クリストフは彼女の姿を見、怒気を含んだ一
瞥
(
べつ
)
を投げて、それから、なんとも言わずに荒々しくそばを離れ、怒って降りてゆき、外に飛び出した。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
貫一は帽を打着て行過ぎんとする
際
(
きは
)
に、ふと
目鞘
(
めざや
)
の走りて、館の
賓
(
まらうど
)
なる貴婦人を一
瞥
(
べつ
)
せり。
端無
(
はしな
)
くも
相互
(
たがひ
)
の
面
(
おもて
)
は合へり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
ほんの一
瞥
(
べつ
)
、ちらっと見ただけであるが、彼はなにか悪いことでもしたように、胸がどきどきし、ひどく気が
咎
(
とが
)
めた。
女は同じ物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
かの青年は、鉛筆を受け取ると、それを不思議そうに一
瞥
(
べつ
)
して後、なんの躊躇もなく、木片の上に
流暢
(
りゅうちょう
)
に書き始めた。
船医の立場
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
コンメルスの
大通
(
おほどほり
)
に出て土地に過ぎた程立派な二つの大劇場を眺め、美術学校前の
広場
(
プラス
)
を横ぎつてヷン・ダイクの新しい石像を一
瞥
(
べつ
)
して
旅館
(
オテル
)
へ帰つた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
私の方へ向けられる時、彼女の一
瞥
(
べつ
)
は、いまは以前にもまして壓へ切れない、
根強
(
ねづよ
)
い
憎惡
(
ぞうを
)
を表はしてゐたから。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
その人は、
陳文昭
(
ちんぶんしょう
)
といって、なかなかな人物だという市評がある。
陽穀県
(
ようこくけん
)
から廻ってきた公文書を一
瞥
(
べつ
)
すると
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そして、人の反感や憎念をあがなふ人物といふものは、その行為や人格を別にして、外形を一
瞥
(
べつ
)
したのみで、直ちに堪らぬ厭味を覚えさせられるものだとおもつた。
鬼涙村
(新字旧仮名)
/
牧野信一
(著)
恁
(
か
)
うしておつぎもいつか
口
(
くち
)
の
端
(
は
)
に
上
(
のば
)
つたのである。それでも
到底
(
たうてい
)
青年
(
せいねん
)
がおつぎと
相
(
あひ
)
接
(
せつ
)
するのは
勘次
(
かんじ
)
の
監督
(
かんとく
)
の
下
(
もと
)
に
白晝
(
はくちう
)
往來
(
わうらい
)
で一
瞥
(
べつ
)
して
行
(
ゆ
)
き
違
(
ちが
)
ふ
其
(
その
)
瞬間
(
しゆんかん
)
に
限
(
かぎ
)
られて
居
(
ゐ
)
た。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
何気なく近よせて、何気なく打ちのぞいていましたが、じろりと一
瞥
(
べつ
)
するや、まさにその途端です。
旗本退屈男:02 第二話 続旗本退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
私は仕立屋と一緒に、町家の軒を並べた本町の通を一
瞥
(
べつ
)
して、丁度そういう田圃側の道へ出た。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
哄笑
(
こうしょう
)
を揺すりあげながら、言い合わしたように、皆じろりと小気味よさそうな一
瞥
(
べつ
)
を
末座
(
まつざ
)
へ投げると、いよいよ小さくなった神尾喬之助は、
恐縮
(
きょうしゅく
)
のあまり、今にも消え入りそうに
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
役人に引き立てられようとした彼は、名残をしさうに最後の一
瞥
(
べつ
)
を木像の方に投げた。
茶話:11 昭和五(一九三〇)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
瞥
漢検準1級
部首:⽬
17画
“瞥”を含む語句
瞥見
一瞥
流瞥
一瞥驚倒
冷眼一瞥
冷瞥
壮瞥
徳舜瞥
瞥見致候
瞥視