目的めあて)” の例文
それも、忌日や法事などでなく、どうも兵庫をつかまえて、兵法を談じたいのが目的めあてらしいのだ。そしてあわよくば、故人石舟斎が
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そは思ひ湧き出でて思ひに加はることあれば、後の思ひ先の思ひの力をよわめ、人その目的めあてに遠ざかる習ひなればなり。 一六—一八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
長者は老僧のことばに驚いて、其の日から家を出て、弘法大師の巡錫していると云う四国八十八箇所の納経ふだ所納経所を目的めあてに尋ねて往った。
長者 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
両側の家から、紙にひねったお賽銭を投げるのが、誰を目的めあてであろうはずはない、みんな米友の身体をめがけて投げられるのだから
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あかつきころになつてやうやみづきたので、二人ふたりそのなかり、いま何處いづく目的めあてもなく、印度洋インドやう唯中たゞなかなみのまに/\漂流たゞよつてるのである。
しかし君、いくら窮境に陥つたからと言つて、金を目的めあてに結婚する気に成るなんて——あんまり根性が見えいて浅猿あさましいぢやないか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
女が妙齢としごろになれば、いろんな男が訪ねて来るもので、この作家の応接間には、娘を目的めあての若い男が次ぎから次へとやつて来た。
だから目的めあての場所に来るころには、惣兵衛ちやんは疲れてしまつた。ほつぽこ頭巾の下で、はあはあとあへいでゐるのが聞えた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
彼は何をする目的めあてもなくへやの中に立ち上がった。障子しょうじを明けて表へ出て、門前をぐるぐるまわって歩きたくなった。夜はしんとしていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今年の乾雲丸はぜひとも拙者が——いや、それがしは坤竜をなどと、門弟一同はそれを目的めあてに平常の稽古けいこを励むのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
茫々ばう/\たる雪上何を目的めあてにしてかくはするぞとひしに、目あてとする事はしらず、たゞ心にこゝぞとおもふ所その坪にはづれし事なしといへり。
「さあ、そこでございます。それを伺いたいのが何より目的めあてで参りましたが、何か、その御研究でもなさりたい思召おぼしめしで。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
教育家や宗教家は、ぜひとも、この「人格ひとがら」を、目的めあてとせねばなりません。次に薬とは信仰です。養生とは修養です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
N村を目的めあてに綺麗な海辺へ飛び出して来たのだつたが、二日酔ともつかない胸苦しさが蟠つてゐてならなかつた。
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
と、いづこを目的めあてに行くでもなく、ふらふらと赤坂離宮の裏手まで来かかりしに、背後うしろより肩をソと突く者あり。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
大黒屋の小火ぼやはそれだよ。二度目の小熊屋も同じ店造り、同じ炭薪だ。これは思う通りに燃えた。そこでいよいよ三軒目に、目的めあての三村屋を焼いたのさ。
路はやがてくだりになったようですが、わたしはその「もう少し」というところを目的めあてに、ただ夢中で足を早めて行きましたからよくは記憶していません。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
丈「明後日あさって晦日みそかで少し金の入る目的めあてがあるから、人に知れんような所で渡してえが、旨い工夫はあるまいか」
三日、四日と少しは慣れたものの、腹に一物も無くなつては、「考へて見れば目的めあての無い旅だ!」と言つた様な、朦乎ぼんやりした悲哀かなしみが、粘々ねばねばした唾と共に湧いた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そも人、何を望み何を目的めあてに渡りぐるしき戀路こひぢを辿るぞ。我も自ら知らず、只〻朧げながら夢とうつゝの境を歩む身に、ましてや何れを戀の始終と思ひ分たんや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
永くやしなひしむすめ死骸しがいなれば見覺みおぼえが有ん何ぞ目的めあてはなきやと申さるゝに九郎兵衞答へてかれ現在げんざい一人の娘なれば何見違ふことの候べき姿すがたと申又衣類と云と申を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、男はお梶の傍を、影のようにすりぬけると、灯のないやみを、手探りに廊下へ出たかと思うと、母屋の灯影を目的めあてけもののように、足速く走り去ってしまったのである。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
毎日毎日、何の目的めあても楽しみもないカラッポの世の中を、切れるような風に吹かれたり、ゴミダラケの太陽に焼かれたりして、生命いのちがけで駈けずりまわるようなもんよ。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「何処へゆくという目的めあてはありません。私は日本人の画家で、先刻停車場ステーションへ着いたばかりです。」
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
私は目的めあてなく散歩するうちおのずからこの寺の多い町の方へとのみ日和下駄ひよりげた曳摺ひきずって行く。
それは、一年前に、あの夏の夕方——この場所に私が降りたと同じ馬車であつた——どんなにか寂しく、希望もなく、目的めあてもなかつたことか! 私が合圖あひづするとそれは止つた。
その賞金なぞは何らの目的めあてでもなかったが、この品評会へ出して審査を受ける資格を持つというそのことが、すでに所有者が富んで豊かなる階級に属することを示し、審査を受けることそれ自体が
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
貴嬢をお連れなすつての宮寺みやでらまゐり——貴嬢をおれ遊ばして奥様の御遊山ごゆさんは、私初めてお見受け申すので御座いますよ、是れはお嬢様、上野浅草はかこつけで、大洞様の御別荘が目的めあてに相違御座いません
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
昔は大抵な家では自宅へ職人を呼んで餅をかしたもんで、就中、下町したまちの町家では暮の餅搗を吉例としたから淡島屋の団扇はなければならぬものとなって、毎年の年の市には景物目的めあてのお客が繁昌し
目的めあては間の岳にある、残んの雪は、足許の岩壁に白いぶちを入れている、偃松はその間に寸青を点じている、東天の富士山を始めて分明に見ながら、岩や松を踏み越えて、下りると、誰が寝泊したのか
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
目的めあて知らねば運命さだめのまゝに
小曲二十篇 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
われの目的めあて御意みむねをば
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
もつぱ目的めあては不尽の山
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
見ゆるかぎり彼のあとを追ひしわが目は、これを見るをえざるに及び、さらに大いなる願ひの目的めあてにかへり來りて 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
これから兵馬の落ちて行こうとする目的めあては、長禅寺を脱けて道もなき裏山伝いを、ひとまず甲斐の恵林寺へと行くのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かれなにをする目的めあてもなくへやなかがつた。障子しやうじけておもてて、門前もんぜんをぐる/\まはつてあるきたくなつた。はしんとしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「医は仁術なりと申してな、お礼など目的めあてには参り申さぬ。つてとの御意なら、記念のために老先生の扇面が戴きたい。」
茫々ばう/\たる雪上何を目的めあてにしてかくはするぞとひしに、目あてとする事はしらず、たゞ心にこゝぞとおもふ所その坪にはづれし事なしといへり。
同じ住むを目的めあてとするも、その道のいかにかたく、いかに惑い多く、またいかに達し難き道門であるかは、つぶさにご体験あったことと存ぜられる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其日、丑松は学校から帰ると直に蓮華寺を出て、平素ふだんの勇気を回復とりかへす積りで、何処へ行くといふ目的めあても無しに歩いた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
世高は何の目的めあてもなくその街をとぼとぼ歩いていると、前方むこうから一人の老婆が酒壷さけどくりを持ってきたが、擦れ違うひょうしに見るとそれは施十娘であった。
断橋奇聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あかり目的めあてに駆けつけると、洋燈ランプは少し暗くしてあったが、お杉は端然ちゃんと坐ったまま、そのまげ、そのくし、その姿で、小鍋をかけたまま凍ったもののごとし。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きょうは帰ろう、明日は発とうと思うのだが、大次郎ここに何か目的めあてがあるらしく、しきりにその日を待つようすで、いっかな腰を上げようともしない。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その時から、武士は生活の目的めあてを変へねばならなかつた。もう自分には探し求める人がなかつた。国許くにもとへ帰つても、仇敵を討たなかつた彼は仕官出来ないだらう。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「下手人は、この千兩箱を目的めあてぢやなかつたんでせうか——持つて行かないのはどうしたことでせう」
渡りこえ水戸みと樣前を左りになし壹岐殿坂いきどのざかを打上り本郷通りを横に見てゆけども先の目的めあてなき目盲めくら長屋ながや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もともとが金を目的めあてに貰った婿であるから、月日の経つに従ってお常は又四郎を邪魔にし出した。お熊は勿論彼を嫌っていた。忠七も蔭に廻って色々の智慧を吹き込んだ。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
吾等われら何時いつすくはるゝといふ目的めあてもなく、なみまるゝ泡沫うたかたのあはれ果敢はかな運命うんめいとはなつた。
左様そうかと申して再び東京へ帰りましたところで、これとても何う探したら分ろうという目的めあてが付きませんので、あゝ困ったな、己もこまるがお若さんはさぞ難儀をしていなさるだろう
時々、自分は何か一足飛いつそくとびな事を仕出かさねばならぬやうに焦々いらいらするが、何をして可いか目的めあてがない。さういふ時は、世の中は不平で不平でたまらない。それが済むと、何もかも莫迦ばか臭くなる。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)