おつ)” の例文
鉄に謝罪るわけはないが親方の一言に堪忍がまんして私も謝罪りに行きましたが、それからおつなものでいつとなく鉄とは仲好しになり
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
文三はグット視下ろす、昇は視上げる、眼と眼を疾視合にらみあわした、何だかおつ塩梅あんばいで。それでも文三は渋々ながら坐舗ざしき這入はいッて坐に着いた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「女房を? そうさね……何だかおつりきに聞えるじゃねえか、早く一人押ッ付けなきゃ寝覚ねざめが悪いとでも言うのかい?」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
またその時、おつう悪黙りに黙ってしまって、ふと手の着けられぬまで、格子の中が寂寞ひっそりして、薄気味の悪いほど静まった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さても可愛いこの娘、この大河なる団栗眼どんぐりまなこの猿のようなつらをしている男にも何処どこおつなところが有るかして、朝夕慕い寄り、乙女おとめ心の限りを尽して親切にしてくれる不憫ふびんさ。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ナントおつ出来でかしたではござらぬか、此詩このし懐中くわいちうしたれば、もんたゝいておどろかしまをさんかとは思ひしが、夢中むちう感得かんとくなれば、何時いつ何処どこにても、またやらかすとわけにはかず
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
通り掛かりの参詣さんけい仲間の人たちが、ふと目を附け、これはおつだ、妙だといってる中に、何んとなく好奇心にそそられて、その赤蜻蛉のを私に一本、その蝶々のを私に二本というように
二部は工科で僕は又建築科を択んだがその主意が中々面白い。子供心におつなことを考えたもので、其主意と云うのはずこうである。自分は元来変人だから、此儘このままでは世の中にれられない。
落第 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
立上つて唐紙明けにかゝりながら一寸後向いて人の顔へおつに眼を呉れ無言で笑ふは、御嬉しかろと調戯からかつて焦らして底悦喜そこえつきさする冗談なれど
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
へん、おつう旦那ぶりやがって笑かしやがらい。こう聞いとくんねえ、わっしアね、お嬢さんの下さるんなら、溝泥どぶどろだって、舌鼓だ、這い廻ってめるでさ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そういうところゆえ、その後或人の周旋で某省のじゅん判任御用係となッた時は天へも昇る心地がされて、ホッと一息きは吐いたが、始て出勤した時はおつな感じがした。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お隣りは宝珠院ほうじゅいんというお寺の庭に接しているから、充分ゆとりもあり、庭はまたお寺の地所十四、五坪を取り入れてなかなか広く、お稲荷いなりさんのほこらなどあってなかなかおつだということです。
「オヤおつなことを言うね、も一度言って御覧」と眼を釣上げて詰寄るだろう。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
隱し車に乘る表にたちて見るもの子供まじりに十四五人あり梅花道人我身に受けてグツト氣張り車やれとおつな調子なり妻籠つまご宿しゆくにて晝餉したゝ馬籠まごめの峠なれば車は二人曳にんびきならでは行かずそれもなか/\遲し馬にて越させ玉へと宿やどの主の心付けに荷を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
独語ひとりごつところへ、うッそりと来かかる四十ばかりの男、薄汚うすぎたな衣服なり髪垢ふけだらけの頭したるが、裏口からのぞきこみながら、おつつぶれた声でぶ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わらかしやがらあ。あたらしいくつ穿いたとおもつて、おつおれ他人たにんにしやがる。へん、してくんねえ。」
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ええどじょうで無くッてお仕合せ? 鰌とはえ? ……あ、ほンに鰌と云えば、向う横町に出来た鰻屋ね、ちょいとおつですッさ。久し振りだッて、おごらなくッてもいいよ。はははは
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
なるほど、自然の色を持った若葦の浅緑の生々いきいきした葉裏などにその夏虫のとまっている所は、いかにもおもしろい。おつでもあり、妙でもあって、とても、市中の玩具屋おもちゃやを探して歩いてもある品でない。
長蕪ながかぶてッて、ここら一体の名物で、おつに食えまさ、めしあがれ。——ところで、媽々衆のことづてですがな。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
然し相手が相手である、伊達政宗である。おつな手を出して来たぞ、あやしいぞ、とは氏郷の家来達の誰しも思ったことだろう。皆氏郷の返辞を何と有ろうと注意したことであろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「これは、どうだ。おつだろう」
ふけた事をいって、まず遊ばない算段をしながら、川添の電車道を、向う斜めのおつな横町へ入ってく。……
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ハハハ、そうよ、おつ後生気ごしょうぎになったもんだ。寿命じゅみょうきる前にゃあ気が弱くなるというが、おらアひょっとすると死際しにぎわが近くなったかしらん。これで死んだ日にゃあいい意気地無いくじなしだ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おつな人たちが住まっていた。
こうだに因ってと、あるよあるよ。白魚しらおをからりッとり上げて、たかつめでお茶漬が、あっさりとしておつう食わせる。可いかい。この辺に無かったら、吉造を河岸かしへ見にやんな。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北に峨〻たる青山をとおつなことを吐き出す勝手三昧、やつちやもつちやの末は拳も下卑て、乳房ちゝの脹れた奴が臍の下に紙幕張るほどになれば、さあもう此処は切り上げてと源太が一言
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
おつなことをいふやうだがなにかねなかをんな出来できねえと相場さうばきまつて、すつぺら坊主ばうずになつても矢張やツぱ生命いのちしいのかね、不思議ふしぎぢやあねえか、あらそはれねもんだ、ねえさんねえ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
清吉そなたは腑甲斐無い、意地も察しも無い男、何故私には打明けて過般こなひだの夜の始末をば今まで話して呉れ無かつた、私に聞かして気の毒とおつに遠慮をしたものか、余りといへば狭隘けちな根性
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
富沢町さんと申して両国の質屋のだんが、ちょっとおつな寸法のわかい御婦人と御楽おたのしみ、で、おおきいお上さんは、苦い顔をしてござったれど、そこは、長唄のお稽古ともだちか何かで、お桂様は
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ホホホホホとくだらなく笑うところへふすまの外から、お伝さんと名を呼んでお連れ様と知らすれば、立ち上って唐紙明けにかかりながらちょっと後ろ向いて人の顔へおつに眼をくれ無言で笑うは
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おつにからんで言懸くれば、それと察してとどろく胸を、押鎮めてぐっと落着き
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気のぬけたラムネのようにおつうすますナ、出て行った用はどうしたんだ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「一思いに好男子、粉にする処だっけ。勿論、私がこうして御近所に陣取っていれば、胴切どうぎりにされたって承合うけあい助かる。洒落しゃれにちょいとかれてみるなんぞもおつだがね、一人の時は危険だよ。」
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
清吉そなた腑甲斐ふがいない、意地も察しもない男、なぜ私には打ち明けてこないだの夜の始末をば今まで話してくれなかった、私に聞かして気の毒とおつに遠慮をしたものか、あまりといえば狭隘けちな根性
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
御存じの方々は嘸ぞ苦々しく候べく、知らぬ人にはおつなるべく候。
逗子より (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
女は生れさえすりゃ誰でも処女だ、純潔だのに、一人で純潔がって廓の売色を、けがれた、ただれた、浅ましい、とその上に、余計な事を、あわれがって、慈善家がって、おつう済まして、ツンと気取った。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
張出した軒並を引込ひっこんで、おつに薄暗い軒下の穴から、こうのぞく。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(咽喉?)……と其奴がね、おつさげすんだ笑い方をしたものです。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、おつ仰有おっしゃいますね、おつなことを。何ですッて、」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、おや、おつなことを、」といって、すましたもの。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「とうとうおつな寸法になりましたぜ」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おつからむ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おつなことを
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)