独身ひとりみ)” の例文
旧字:獨身
其奴そいつを此処へ引摺り出しておくれ、私も独身ひとりみじゃアなし、亭主ていしゅもあるからそんな事をされては亭主に対して済みません、引出しておくれよ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
誘惑したことか! ……では独身ひとりみとなったと知ると、同じような種類の若武士どもが、手を変え品を変え立ち代わり入り代わり!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かれは清川お通とて、親も兄弟もあらぬ独身ひとりみなるが、家を同じくする者とては、わずかに一にん老媼おうなあるのみ、これそのなり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おとよは独身ひとりみになって、省作は妻ができた。諦めるとことばには言うても、ことばのとおりに心はならない。ならないのがあたりまえである。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
もう一つは、遠い昔に妻をうしなって久しく独身ひとりみの生活をつづけていた彼は、江戸へくる途中からすでにお万を自分の物にしていたのであった。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
独身ひとりみりましたが、それにはふか理由わけがあるのです……。じつは……今更いまさら物語ものがたるのもつらいのですが、わたくしにはおさなときから許嫁いいなつけひとがありました。
「おらは、どこさも行がねえもは、婆さん。一生家にいで、独身ひとりみで、叔母様ではあ、この家にいで稼いで助けるもは。おら、どこさも行がねは。」
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
独身ひとりみの女ぎらい、なんかと納まってみたところで、今こうして女の白い顔をながめて眼尻に皺を寄せているところ、おやじまんざらでもないらしい。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
昔のまだ独身ひとりみ時分のように読んでいる書物の中に、身も魂も打ち込むということはできなかったが、それでもまだこの方法が酒もたしなまず賭事も好まず
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
殊に年とった、金持で独身ひとりみの伯父などというものは、子供をそばに置くことをいやがって、遠くの方から、その子の様子を見守っていたりするものです。
十九にもなつて独身ひとりみでゐると、あまされ者だと言つて人に笑はれたものであるが、此頃では此村でも十五十六の嫁といふものは滅多になく、大抵は十八十九
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
本田のぼると言ッて、文三より二年ぜんに某省の等外を拝命した以来このかた吹小歇ふきおやみのない仕合しあわせの風にグットのした出来星できぼし判任、当時は六等属の独身ひとりみではまず楽な身の上。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
これは絵師の家であると云ふことは前に聞いたことがあるので自分は知つて居た。そしてその絵師が独身ひとりみの変り者であると云ふことも何故なぜだか知つて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
三十男の遊び盛りを今が世の絶頂つじと誰れが目にも思われる気楽そうな独身ひとりみ老婢ばあや一人を使っての生活くらしむきはそれこそ紅葉山人こうようさんじんの小説の中にでもありそうな話で
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「いえね、貴方あなたにお別れすれば、独身ひとりみでも居られないしと思つて、嫁入口を捜しに往つたんですわ。」
霜兵衛さんだけは感心なえらひとだ。自分の真情は既に嬢様に献げたから、自分は生涯妻を娶らず、永く独身ひとりみで清く送つて嬢様の安寧幸福を神に祈ると云つておるさうだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
さうですから、自分の好いたかたれて騒ぐ分は、一向差支さしつかへの無い独身ひとりみも同じので御座います。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
先刻さっきもお話ししたとおり、私は他に手頼たよる者もございません体でございますから、いずれ奉公なり何なりいたさねばなりませんが、女の独身ひとりみで、彼方此方しておりましては
花の咲く比 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
暫時独身ひとりみでいたとき、乏しいながらも二階借りをして暮してゆけたのは一週に幾時間か、よその学校へ裁縫を教えにいって、すこしばかりでもお金をとる事が出来たからで
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
なかなかお嫁さんがまらないために三十まで独身ひとりみでいた位だったそうだが、その前の年の暮にチョットした用事で大阪へ行くと、世間でいう魔がさしたとでもいうのだろう。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あはははは。まだ、独身ひとりみだというじゃないか。意気地がないな、いつまでも
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「子供どころか、まだ独身ひとりみだ」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此の作左衞門のせがれ長助ちょうすけと申して三十一歳になり、一旦女房を貰いましたが、三年ぜんに少し仔細有って離別いたし、独身ひとりみで居ります所が
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おまえさんの壮年としで、独身ひとりみで、情婦がないなんて、ほんとに男子おとこ恥辱はじだよ。私が似合わしいのを一人世話してあげようか」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
番頭の金兵衛は十一の年から津の国屋へ奉公に来て、二十五年間も無事に勤め通して今年三十五になるが、まだ独身ひとりみで実直に帳場を預かっている。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
汪克児オングル 姫一人を思って、今まで独身ひとりみをお守りなされた大王様のおさかずきじゃ。めでたい、めでたい!
世の中には結婚したがつてゐる男も少くはなからうから、その人達のために言つておくが、諸君が独身ひとりみで通したからといつて、失望する女はまさか二人とはあるまい。
……それを思えば、あなたは独身ひとりみになれば、何うしようと、足纏いがなくなって結句気楽じゃありませんか。そうしている内にあなたはまた好きな奥さんなり、女なりありますよ。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
問『まあそれはおどくなおうえ……わたくしきくらべて、こころからおさっいたします……。それにしても二十五さい歿なくなられたとのことでございますが、それまでずっとお独身ひとりみで……。』
口癖のような母の頼みをしりぞけて、せめて内地勤務になるまでもう少し独身ひとりみで勉強していたいと私が我を張っていたばっかりに母の生前、なんの喜びも与えずに死なせてしまったかと思うと
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
自分が二十五にもなつて未だ独身ひとりみで居るのを、人が、不容貌ぶきりやうな為に拾手が無かつたのだとでも見るかと思つてるからなので、其麽そんな女だから、へやへ行つても、例の取て投げる様な調子で
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
本願寺さんのおひいさんは、本願寺さんのでおきたいと、京都の人たちは惜んでいるというのも、いつまでもあの麗人がお独身ひとりみでと、案じているというのも、結びあわせてみると、卑俗な言いかただが
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
飲んだら手前酔ったまぎれに、わしは身を固める事がある、わしは近日の内商人あきんどに成るが、独身ひとりみでは不自由だから、女房になってくれるかと手か何か押えて見ろ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そちが悪あがきをすると云ふも、一つにはいつまでも独身ひとりみでゐるからのことぢや。この間もちよつと話した飯田町の大久保の娘、どうぢや、あれを嫁に貰うては。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
外に姉さんもなんにも居ない、さかりの頃は本家から、女中料理人を引率して新宿停車場ステエション前の池田屋という飲食店が夫婦づれ乗込むので、独身ひとりみ便たよりないお幾婆さんは、その縁続きのものとか
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
独身ひとりみの謹直家だからもちろん実子ではあり得ない。では養子だろうというに、そうでもない。棄児すてごかといえばこれまたしからず。じゃあ何だということになると、実は何でもないのである。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わしか……わしつまもなく、またもなく永久えいきゅう独身ひとりみいたる竜神りゅうじんじゃ……。竜神りゅうじんなかにはったかわものときとしてないではない。げんにそなたの指導役しどうやく老人ろうじんなども矢張やはわしのお仲間なかまじゃ。
惣「それなら何も心配なさるな、若い者が死ぬなんと云う心得違いをしてはいけぬ、無分別な事、独身ひとりみなればうでもなりますから私のうちへ入らっしゃい」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そればかりでなく、自分はお朝の菩提のために一生独身ひとりみでいるつもりであるから、おまえも思い切ってくれと云い出したので、おかんは狂気のようになって、男の変心を責めた。
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
口のうちで、「御自分が独身ひとりみだと思って、ちとお焼芋の方だ。どうもならねえ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勘「独身ひとりみで煙草をきざんで居るも、骨が折れてもう出来ねえ、アヽ、おめえ嫁に子供あかんぼうが出来たてえが、男か女か」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから大津屋へ出入りの女絵かきは、孤芳こほうという号を付けている女で、年は二十三四、容貌きりょうもまんざらで無く、まだ独身ひとりみで、新宿の閻魔えんまさまのそばに世帯しょたいを持っているそうです。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
治「家内は無いのです、手前のさいは五年ぜんに歿しまして、それからは独身ひとりみで居ります、へえ、至って手狭ではありますが、ちっとお立寄を願いとうございます」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
若いときから二、三人の亭主をかえて、今では独身ひとりみで暮らしているが、絶えず一人ふたりの男にかかり合っているらしく、親類の家へ泊まりにゆくというのも嘘かほんとうか判らない。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お前さんがお独身ひとりみでおいでならおっかさんぐるみ引取って女房に貰いたいと話をしにあげた所が、もう粥河圖書と云う人へ縁組が出来たと聞きましたから、それは結構な事だ
彼はいつまでも独身ひとりみで気ままに暮らしていた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お前さんは独身ひとりみだから余程よほど遊ぶてえ事を聞いたが、詰らないおあしつかって損が立つばかりではなく、第一身体でも悪くするといけないし、それに余程よっぽどもう遅いよ、たしか一時でしょう
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今は独身ひとりみで嫁を探してる身体、まだ年が三十七と云うので盛んでございまする。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
長「冗談じゃアない、全くだ、わしは三年まえに家内を離別したて、どうも心掛けの善くない女で、面倒だから離縁をして見ると、独身ひとりみで何かと不自由でならんが、お前は誠に気立が宜しいのう」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お前の執成とりなしいから、旦那は己が来ると、新吉手前てめえの様に親切な者はねえ、小遣こづけえを持って行け、独身ひとりみでは困るだろう、此の帯は手前にる着物も遣ると、仮令たとえ着古した物でも真に親切にして呉れて
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)