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犇
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ひし
ふりがな文庫
“
犇
(
ひし
)” の例文
朧月
(
おぼろづき
)
に透して見るまでもなく、
磁石
(
じしやく
)
と鐵片のやうに、兩方から駈け寄つた二人が、往來の人足の
疎
(
まば
)
らなのを幸ひ、
犇
(
ひし
)
と抱き合つた時
銭形平次捕物控:218 心中崩れ
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
車夫のかく答へし後は
語
(
ことば
)
絶えて、車は
驀直
(
ましぐら
)
に走れり、紳士は
二重外套
(
にじゆうがいとう
)
の
袖
(
そで
)
を
犇
(
ひし
)
と
掻合
(
かきあは
)
せて、
獺
(
かはうそ
)
の
衿皮
(
えりかは
)
の内に耳より深く
面
(
おもて
)
を
埋
(
うづ
)
めたり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
昏々
(
こんこん
)
と眠っているお祖父さんの顔を見ていると、かなしさ心ぼそさが
犇
(
ひし
)
ひしと胸をしめつけ、身もだえをしたいほど息苦しくなった。
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
お父様……何にも
仰有
(
おっしゃ
)
らないで! と娘は
犇
(
ひし
)
と私の手に
縋
(
すが
)
り付きました。今は真夜中で侍女たちはみんな昼の疲れで眠っております。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
ちょうど小雨がこぼれて来たし、各〻
裃袴
(
かみしもはかま
)
なので、同じ邸内のお長屋へ帰るにしても、傘よ履物よと誰彼の名を呼んで
犇
(
ひし
)
めいている。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
▼ もっと見る
大陸の暗い炭坑のなかで
犇
(
ひし
)
めいている人の顔や、熱帯の
眩
(
まぶ
)
しい白い雲が、騒然と音響をともないながら
挽歌
(
ばんか
)
のように流れて行った。
死のなかの風景
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
一同はこの右近を喬之助とばかり思いこんで、何しろ、室内に
犇
(
ひし
)
めき合っているのだから、こうなると、多勢のほうが不利である。
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
さそくに後を
犇
(
ひし
)
と閉め、立花は
掌
(
たなそこ
)
に据えて、
瞳
(
ひとみ
)
を寄せると、軽く
捻
(
ひね
)
った
懐紙
(
ふところがみ
)
、
二隅
(
ふたすみ
)
へはたりと解けて、三ツ
美
(
うつくし
)
く包んだのは、菓子である。
伊勢之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
其れ
夕飯
(
ゆふはん
)
よ、其れ顔洗ふ湯をとれ、と台所を
犇
(
ひし
)
めかして、夜会の時間は午後八時、まだ時もあれど用意は早きが宜しと、早速
更衣
(
かうい
)
にかゝりぬ。
燕尾服着初めの記
(新字旧仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
そして、この
西班牙
(
スペイン
)
的な群集・西班牙的な乗物・西班牙的な騒音!——それがどうだ! 今や
犇
(
ひし
)
と町の一方をさして渦まいて往く。闘牛場へ!
踊る地平線:07 血と砂の接吻
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
犇
(
ひし
)
と胸に迫ったから、それが、白雲の
面
(
かお
)
に、見るに忍びぬ、一脈の傷心の現われを隠すことができなかったものに相違ない。
大菩薩峠:31 勿来の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
「亘!」深井も思はずさう云つて、息子の身体を
犇
(
ひし
)
と引寄せた。涙が縫ぐるみの
虎斑
(
とらふ
)
を伝うてぼろぼろと落ちた。…………
虎
(新字旧仮名)
/
久米正雄
(著)
その提燈のあかるい光の中に
犇
(
ひし
)
めく群衆、真っ赤な中へ真っ黒に大頭と大きく書いた看板、金箔うつくしい熊手、鳥居に立添えたカサカサの笹
浅草風土記
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
徒らに
只
(
ただ
)
犇
(
ひし
)
めいている間を、わが退屈男はいとも自若として押し進みながら、珠数屋の大尽の囚われ先はいずくぞと、ひたすらに探し求めました。
旗本退屈男:04 第四話 京へ上った退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
大門が開いたんでございますよ、太郎丸の屋敷の大門がね! それいよいよ打って出るぞ! お役人達が
犇
(
ひし
)
めきました。
任侠二刀流
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
重太郎はお葉の枝を我が胸に
犇
(
ひし
)
と
押当
(
おしあ
)
てた。お葉は重太郎の枝を我が袖に
抱
(
いだ
)
いた。重太郎の眼には涙が見えた。お葉も何とは無しに悲しくなった。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
その界隈にこの頃たつ家は、いずれもぐるりをコンクリートの塀で
犇
(
ひし
)
とかこって、面白いこともなさそうに往来に向って門扉も鎖してしずまっている。
犬三態
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
そして急にそれを抱きかゝへる如く
犇
(
ひし
)
と胸に押し当て、接吻し、又それを
恭
(
うや/\
)
しく台の上に置くと手を合はせて拝んだ。勿論彼女は其場に引き立てられた。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
地上には無数の長靴と空間には
驢馬
(
ろば
)
が
犇
(
ひし
)
めいていた。新らしく創設された図書館の書棚はプロレタリアの童話とマルクス学の書簡によって占められていた。
恋の一杯売
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
その
実
(
み
)
を
犇
(
ひし
)
と
護
(
まも
)
らなん、その歌の一句を、私は深刻な苦笑でもって、再び
三度
(
みたび
)
、
反芻
(
はんすう
)
しているばかりであった。
乞食学生
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
與吉
(
よきち
)
は
壁
(
かべ
)
の
何處
(
どこ
)
ともなく
見
(
み
)
ては
火
(
ひ
)
の
附
(
つ
)
いたやうに
身
(
み
)
を
慄
(
ふる
)
はして
泣
(
な
)
いて
犇
(
ひし
)
とおつぎへ
抱
(
だ
)
きつく。おつぎは
與吉
(
よきち
)
を
膝
(
ひざ
)
へ
抱
(
だ
)
いて
泣
(
な
)
き
止
(
や
)
むまでは
兩手
(
りやうて
)
で
掩
(
おほ
)
うて
居
(
ゐ
)
る。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
津村と村井とは、互に後れるのを恐れるように、
犇
(
ひし
)
めきながら部屋の中に這入って、扉をピッタリと閉めた。
殺人迷路:10 (連作探偵小説第十回)
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
それで電話をかけるにしても階下の
内儀
(
かみ
)
さんを裝つて欲しいと千登世に其意を仄めかした時の慘酷さ辛さが新に
犇
(
ひし
)
と胸に
痞
(
つか
)
へて、食物が咽喉を通らなかつた。
業苦
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
私はそこへ、ガクッと
頸
(
くび
)
を折ると、熱い頬を押しつけた、そして、
犇
(
ひし
)
とその濡れた垣を抱しめた……。と同時に、不思議にも
込上
(
こみあが
)
るような微笑を感じて来た。
腐った蜉蝣
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
それなのに、私は枕の上に身を投げて、財産という重荷に
犇
(
ひし
)
がれ、悩まされぬいているのだ。しかも、その財産というのは、大部分私のものじゃアないのだ。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
その翌日も引き続いて
犇
(
ひし
)
と胸を締めつけていた憂慮、寝台へもぐり込んでからも夢魔のように夜じゅう自分を苦しめた問題、———あの時はあんなに急迫した
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
三時頃になつて、お八重が先づ一人源助に
伴
(
とも
)
なはれて出て行つた。お定は急に淋しくなつて七福神の床の間に腰かけて、小さい胸を
犇
(
ひし
)
と抱いた。眼には大きい涙が。
天鵞絨
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
見せかけの情実の座へ押し上らうとして
犇
(
ひし
)
めき合ふのを、身のほとりに感ぜずにはをられないのだ。
母たち
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
銀色、白、黒の機械、器具のとりどり様々の恰好や身構え……床の上から机の端、棚の上まで
犇
(
ひし
)
めき並んでいる紫、茶、乳白、無色の
硝子
(
ガラス
)
鉢、又は暗褐色の陶器の壺。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
私は思はず身顫ひして本能的に私の
盲目
(
まうもく
)
の、しかしいとしい主人に
犇
(
ひし
)
と縋りついた。彼は微笑んだ。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
船中の人々は今を興
闌
(
たけなわ
)
の時なりければ、
河童
(
かっぱ
)
を殺せ、なぐり殺せと
犇
(
ひし
)
めき合い、荒立ちしが、
長者
(
ちょうじゃ
)
の
言
(
げん
)
に従いて、皆々
穏
(
おだ
)
やかに解散し、
大事
(
だいじ
)
に至らざりしこそ幸いなれ。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
雪崩
(
なだ
)
れ出した工女の群は、出口を目がけて押しよせた。二方の狭い出口では、
犇
(
ひし
)
めき合った工女たちがひっ掻き合った。電球は破裂しながら、一つ一つと消えていった。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
ましてその夜、少女の周囲に
犇
(
ひし
)
めいていた日本人たちの視線を、憶えているはずはあるまい。
昼の花火
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
それを中心に幾千幾万の旗やプラカードや、数知れぬ群集が立ったり坐ったり
犇
(
ひし
)
めいている。
妻の座
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
この時既にすさまじく
犇
(
ひし
)
めく物音濁れる波を傳ひ來りて兩岸これがために震へり 六四—六六
神曲:01 地獄
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
犇
(
ひし
)
めき、微妙につながり合ひ、その或る時は軽快に、或る時は重々しく、何かはつきりしてゐるかと思へば混乱し、——さういふ得体のしれない経過のせゐだつたのである。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
故意に、
法水
(
のりみず
)
が音を押えて、
扉
(
ドア
)
を開いた時だった。その時レヴェズは、煖炉の袖にある
睡椅子
(
ねむりいす
)
に腰を下していて、顔を両膝の間に落し、その
顳顬
(
こめかみ
)
を両の
拳
(
こぶし
)
で
犇
(
ひし
)
と押えていた。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
媒妁
(
なかだち
)
の役目相済んだつもりで納まって居ると、
神田
(
かんだ
)
の料理屋で披露の宴をするとの事で、連れて来られた車にのせられ、十台の車は静かな村を
犇
(
ひし
)
めかして勢よく新宿に向った。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
さすがに
犇
(
ひし
)
めいてはいるが、早急に討手の人馬が、城外へ押し出す様子は更になかった。宮内は手持ち
無沙汰
(
ぶさた
)
になって、ただうろうろと、その辺を歩く外にすることがなかった。
討たせてやらぬ敵討
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
太い根曲り竹の藪が深山榛や樺の類を
犇
(
ひし
)
と抱きすくめて、絡み合った小枝が網目よりも細かい。矢でも鉄砲でも来いとはこのこった。そこへ人間がぶつかったのだから堪らない。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
と突然、火のようなセーニャの泣き声が起った。セーニャは両腕を
犇
(
ひし
)
とその顔にあてた。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
卑しい利得一点張りの本屋や画商やが朝から晩迄
犇
(
ひし
)
めき合う雑然たる長屋区域Q街の一隅の屋根裏の部屋にとぐろをまいていた頃、次郎蔵の懐ろに巨額の上演料が転げ込んで来た。
放浪作家の冒険
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
私はいつの間にか、これから三里の道を歩いて次の温泉までゆくことに自分を予定していた。
犇
(
ひし
)
ひしと迫って来る絶望に似たものはだんだん私の心に残酷な欲望を募らせていった。
冬の蠅
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
しかし、私たち親子の一心が通ったものか、とにかく、親子は
犇
(
ひし
)
と抱き合いました。
幕末維新懐古談:14 猛火の中の私たち
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
義仲も今日を最後とこれを迎え撃ち、東国勢は義仲を討たんと互いに
犇
(
ひし
)
めきあった。
現代語訳 平家物語:09 第九巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
「そしてあらゆる
犇
(
ひし
)
めき、あらゆる闘ひは主なる神における永遠の安らひである。」
ゲーテに於ける自然と歴史
(新字旧仮名)
/
三木清
(著)
迢空
(
ちょうくう
)
さんが姫に考えさせた「朝目よし」の深い意義が彼が身にも
犇
(
ひし
)
と伝って来るからである。姫の抱懐する心ばせには縦横に織り込まれる複雑な文彩が動いている。創造の意義である。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
心
傲
(
おご
)
れる市民の、君の
政
(
まつりごと
)
非なりとて
蟻
(
あり
)
のごとく塔下に押し寄せて
犇
(
ひし
)
めき騒ぐときもまた塔上の鐘を鳴らす。塔上の鐘は事あれば必ず鳴らす。ある時は無二に鳴らし、ある時は無三に鳴らす。
倫敦塔
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
女は死物ぐるいに藻掻きだしたが、男は離さばこそ、なお
犇
(
ひし
)
と締めつけて
暗中の接吻
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
境遇
(
ところ
)
は
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
を
映
(
うつ
)
すとやら、
自分
(
じぶん
)
が
現世時代
(
げんせじだい
)
に
親
(
したし
)
んだのとそっくりの
景色
(
けしき
)
の
中
(
なか
)
に
犇
(
ひし
)
と
抱
(
いだ
)
かれて、
別
(
べつ
)
に
為
(
な
)
すこともなくたった
一人
(
ひとり
)
で
暮
(
く
)
らして
居
(
お
)
りますと、
考
(
かんがえ
)
はいつとはなしに
遠
(
とお
)
い
遠
(
とお
)
い
昔
(
むかし
)
に
馳
(
は
)
せ
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
犇
漢検1級
部首:⽜
12画
“犇”を含む語句
犇々
犇放