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淋
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さび
ふりがな文庫
“
淋
(
さび
)” の例文
君があの連中と一緒に遊び廻つてゐて、いつ行つてもゐないのみか自ら書かないやうにでもなると、僕は非常に
淋
(
さび
)
しい気がするんだ。
良友悪友
(新字旧仮名)
/
久米正雄
(著)
忘れていた武家の
住居
(
すまい
)
——寒気なほどにも質素に悲しきまでも
淋
(
さび
)
しい
中
(
なか
)
にいうにいわれぬ
森厳
(
しんげん
)
な気を
漲
(
みなぎ
)
らした玄関先から座敷の有様。
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
と、一
茶
(
さ
)
もいっていますが、たしかに叱り手のないことは、
淋
(
さび
)
しいことです。
大人
(
おとな
)
になればなるほど、この叱り手を要求するのです。
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
岡山地方に行くと、今は
淋
(
さび
)
しい田舎となった古城址の近くにも、また繁栄している大小の御城下にも、ともに
山下
(
さんげ
)
という地名がある。
地名の研究
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
江戸を一歩一歩と離れるのは、それだけ故郷に対して一歩一歩と
淋
(
さび
)
しくもあるが、京へ一歩近づくほどに、
酒
(
こいつ
)
がよくなるのは有難え。
大菩薩峠:38 農奴の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
▼ もっと見る
あの女は今夜僕の東京へ帰る事を知って、笑いながら
御機嫌
(
ごきげん
)
ようと云った。僕はその
淋
(
さび
)
しい笑を、今夜何だか汽車の中で夢に見そうだ
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
一 「
淋
(
さび
)
し」といふこと思ふべからず。見ぬ世の人を友とするも得。淋しと思はゞ家職の
文
(
ふみ
)
を開け。千万の多事急務、その内にあり。
上杉謙信
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「ええわ、ほんまに。近頃の傑作やわ。………若い女にせんと、年増にしたのんが、ええ考やったわな、
淋
(
さび
)
しい感じが出て。………」
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
不夜城を誇り顔の電気燈にも、霜枯れ
三月
(
みつき
)
の
淋
(
さび
)
しさは
免
(
のが
)
れず、
大門
(
おおもん
)
から
水道尻
(
すいどうじり
)
まで、茶屋の二階に
甲走
(
かんばし
)
ッた声のさざめきも聞えぬ。
今戸心中
(新字新仮名)
/
広津柳浪
(著)
秋
(
あき
)
かぜ少しそよ/\とすれば、
端
(
はし
)
のかたより
果敢
(
はか
)
なげに破れて、
風情
(
ふぜい
)
次第に
淋
(
さび
)
しくなるほど、
雨
(
あめ
)
の
夜
(
よ
)
の
音
(
おと
)
なひこれこそは哀れなれ。
あきあはせ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
彼は自身の頑癬を持った古々しい平民の肉体と、ルイザの若々しい十八の高貴なハプスブルグの肉体とを比べることは
淋
(
さび
)
しかった。
ナポレオンと田虫
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
こりゃてっきり、ツネちゃんもあの関西弁と出来ちゃった、やぶれかぶれの大情熱だと僕は内心ひそかに断定を下し、妙に
淋
(
さび
)
しかった。
雀
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
プストヴァーロフがモギリョフ県へ材木の仕入れに出掛けると、彼女はひどく
淋
(
さび
)
しがって、来る夜も来る夜も眠らずに泣いていた。
可愛い女
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
姪たちのいたずらかと思って、そのことを云うと、「あなたが
淋
(
さび
)
しいだろうとおもって、慰めてあげたのです」と妹は笑いだした。
永遠のみどり
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
けれどその愛する女弟子、
淋
(
さび
)
しい生活に美しい色彩を添え、限りなき力を添えてくれた芳子を、突然人の奪い去るに任すに忍びようか。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
二人の上に何か災難でも振りかかって来ない限り、私たち母子は、
淋
(
さび
)
しいながらも親しみ深い生活を続け得るだろうと考えられた。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
ただ、どんなに多くの召使に
囲繞
(
いにょう
)
せられても、母のない身の
淋
(
さび
)
しさだけが、いわば唯一の淋しさだったということができましょう。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
周三はまた、「
何點
(
どこ
)
か俺の
生母
(
せいぼ
)
に似た
點
(
とこ
)
がある。」と思ツた。で何となく
懐慕
(
なつか
)
しいやうにも思はれ、また其の
淋
(
さび
)
しい
末路
(
まつろ
)
が
哀
(
あはれ
)
になツて
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
「
淋
(
さび
)
しい炉辺に、勝ったことのない三番勝負にことごとく勝つことを望みなから——」と友人がその頃の彼の生活を記録している。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
東京旧市内の、震災の大火にあわなかった地域には、その後発展した新しい大東京の場末などよりも、
遥
(
はる
)
かに
淋
(
さび
)
しい場所がいくつもある。
暗黒星
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
御維新になろうと云う
直
(
す
)
ぐ前でしたろうか。私は、自分の暮しが、何となく味気ないような
淋
(
さび
)
しいように思い始めて来たのです。
ある恋の話
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
部屋が、そして寄宿舎全体が
淋
(
さび
)
し過ぎた。おまけに、なんだか底の知れない泥沼に踏み込みでもしたように、深谷の挙動が疑われ出した。
死屍を食う男
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
その時私は妹が私を
恨
(
うら
)
んでいるのだなと気がついて、それは無理のないことだと思うと、この上なく
淋
(
さび
)
しい気持ちになりました。
溺れかけた兄妹
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
それはあたりがあまりに暗黒であるのと、太陽にしても星にしても、暗黒の広い空間にくらべて、あまりに小さくて
淋
(
さび
)
しいからであろう。
三十年後の世界
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
なんて教えて
下
(
くだ
)
すッたんだけど、まさか、こんな洗い
曬
(
ざら
)
した着物五拾銭も借さないでしょうのに、私とても
淋
(
さび
)
しくなってしまった
魚の序文
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
少しは
淋
(
さび
)
しい気がするかしら。でも、
何故
(
なぜ
)
それがそんなに一生懸命にならなければならない問題なの。あの人にはあの人の世界があるわ。
青いポアン
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
彼の眼の前には暗い
淋
(
さび
)
しい世界があった。彼はいきなり欄干に足をかけて飛びこもうとした。と、後から声をかける者があった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
『えゝ、
無責任
(
むせきにん
)
なる
船員
(
せんいん
)
!
卑劣
(
ひれつ
)
なる
外人
(
くわいじん
)
!
海上
(
かいじやう
)
の
規則
(
きそく
)
は
何
(
なん
)
の
爲
(
ため
)
ぞ。』と
悲憤
(
ひふん
)
の
腕
(
うで
)
を
扼
(
やく
)
すと、
夫人
(
ふじん
)
の
淋
(
さび
)
しき
顏
(
かほ
)
は
私
(
わたくし
)
に
向
(
むか
)
つた、
沈
(
しづ
)
んだ
聲
(
こゑ
)
で
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
小父さんはお婆さんも独りで
淋
(
さび
)
しかろうと言って、四五日横浜で遊ばせた弘を復た東京の方へ連れて戻った。ポチだけを残した。
桜の実の熟する時
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
衛門 そうしますと、文麻呂様は
淋
(
さび
)
しそうに
微笑顔
(
わらいがお
)
をなさって、「衛門、……あのひとはもう遠い所に行ってしまったのだよ。」
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
水車が休んでゐる時は松はひとりで
淋
(
さび
)
しく
奏
(
かな
)
でた。その声が
屡々
(
しば/\
)
のこと私を、父と松林の中の道を通つて
田舎
(
ゐなか
)
から出て来た日に連れ戻した。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
浜之助には、国もとから連れてきた妻があった。しかし、その妻は病身で、二人の間には子もなくて、
淋
(
さび
)
しい夫婦なかだった。
花を持てる女
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
それに、こうして下宿屋を移り歩いていたというのは、つまりベシイ・マンディは三十三になっていて、
淋
(
さび
)
しかったのである。
浴槽の花嫁
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
彼女として別に珍らしがる程のことでも無いが、思い
做
(
な
)
しか昨日オンフルールで会った彼女は一層いつもより
淋
(
さび
)
し気に見えた。
ドーヴィル物語
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
どちらを見ても甚だ陰気で
淋
(
さび
)
しい感じであつた。その間へ大黒様の状さしを掛けた。病室が
俄
(
にわ
)
かに笑ひ出した。(三月十九日)
墨汁一滴
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
しかし寄る年波とセント・ビタス・ダンスをする習慣があったためすっかりからだを悪くしたので、だんだんお客をなくして
淋
(
さび
)
れてしまった。
株式仲買店々員
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
アッシャー家の主人とただ二人だけでこうして過した多くのもの
淋
(
さび
)
しい時の記憶を、私はいつまで心にとめているであろう。
アッシャー家の崩壊
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
主水は勘当になり、湯島のお長屋を出て青山
権田原
(
ごんだわら
)
の借家に移った。竹の垣根に野菊が倒れかかり、野分のあとのもの
淋
(
さび
)
しい
風情
(
ふぜい
)
をみせている。
鈴木主水
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
自分があの
淋
(
さび
)
しい星の上にたった独りで立って、まっ暗な・冷たい・なんにもない世界の夜を眺めているような気がする。
悟浄歎異:―沙門悟浄の手記―
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
と先刻は、鉄を断つ勢いを示したにもかかわらず、その紅琴が、なぜかもの
淋
(
さび
)
しく
微笑
(
ほほえ
)
んで、一
艘
(
そう
)
の小船を仕立てさせた。
紅毛傾城
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
呉羽之介は不思議にも、先程の恐ろしい出来事と今聴く
淋
(
さび
)
しき
看経
(
かんきん
)
の声とに頭が
擾
(
みだ
)
され、今迄の来し方を思い出しました。
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
と、いうように何も明白に順序立てて自然に感じられるわけでは無いが、何かしら物苦しい
淋
(
さび
)
しい不安なものが自分に
逼
(
せま
)
って来るのを妻は感じた。
鵞鳥
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
砦の裏山から、ほう、ほうという
淋
(
さび
)
しい梟の鳴声がきこえて来た。——お糸はふと、両手をまるく重ねて唇へあてると
梟谷物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
青くなって
震
(
ふる
)
えたのを見て「やっぱりそれも夢だったよ」と仰って、
淋
(
さび
)
しそうにニッコリなすった事がありましたッけ。
忘れ形見
(新字新仮名)
/
若松賤子
(著)
蕭条
(
しょうじょう
)
として降る秋の
淋
(
さび
)
しさが主になりますからその陰気の感じは十分にありますが、同時にその壁を洩る煙までが何だか陰気臭くなってしまって
俳句とはどんなものか
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
茫
(
ぼん
)
やりとおなじ水の面を眺めている夫は何を考えているのか、少しも生気というものがなく顔は青みをふくんで
淋
(
さび
)
しい以上の淋しい感銘であった。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
そうして片手を椅子にかけたまま、謹んで私の返事を待っているらしい。その頬も白くなって、唯、可憐な
淋
(
さび
)
しい風情を示しているばかりである。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
五十歳くらゐな男で、赤い髪を長くのばし、
髭
(
ひげ
)
のないやせた顔に、なんだか
淋
(
さび
)
しさうな
微笑
(
ほほゑみ
)
をうかべてゐます。エミリアンはへんな気がしました。
エミリアンの旅
(新字旧仮名)
/
豊島与志雄
(著)
見
(
み
)
るとその
辺
(
あたり
)
は
老木
(
ろうぼく
)
がぎっしり
茂
(
しげ
)
っている、ごくごく
淋
(
さび
)
しい
深山
(
しんざん
)
で、そして
不思議
(
ふしぎ
)
に
山彦
(
こだま
)
のよく
響
(
ひび
)
く
処
(
ところ
)
でございました。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
あまり
淋
(
さび
)
しいので、昔は嫌いなものゝ一にして居た
蓄音器
(
ちくおんき
)
を買った。
無喇叺
(
むらっぱ
)
の小さなもので、
肉声
(
にくせい
)
をよく
明瞭
(
めいりょう
)
に伝える。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
淋
漢検準1級
部首:⽔
11画
“淋”を含む語句
御淋
淋漓
薄淋
淋巴腺
口淋
淋巴液
心淋
鮮血淋漓
淋巴
物淋
味淋
慷慨淋漓
墨痕淋漓
裏淋
淋病
溌墨淋漓
淋巴質
淋代
白味淋
光淋屏風
...