“さび”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:サビ
語句割合
42.2%
30.3%
19.9%
1.7%
1.4%
1.3%
0.6%
0.4%
佐備0.4%
0.2%
0.1%
寂漠0.1%
山葵0.1%
左臂0.1%
幽寂0.1%
0.1%
0.1%
瑣尾0.1%
荒廃0.1%
衰微0.1%
0.1%
鉄錆0.1%
錆味0.1%
(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
忘れていた武家の住居すまい——寒気なほどにも質素に悲しきまでもさびしいなかにいうにいわれぬ森厳しんげんな気をみなぎらした玄関先から座敷の有様。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
不思議ふしぎあねは、まちなかとおって、いつしか、さびしいみちを、きたほうかってあるいていました。よるになって、そらにはほしまたたいています。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こうしたゴシック風の古い建築物の内部にあっては、その中に置かれた羅馬旧教風な金色にさびた装飾もさ程目立っては見えなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さらでだに虫の音も絶え果てた冬近い夜のさびしさに、まだ宵ながら家々の戸がピタリとしまつて、通行とほる人もなく、話声さへ洩れぬ。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
わづかうかゞひ得たり、この芙蓉の根部より匐枝ふくしを出だしたる如き、宝永山の、鮮やかに黒紫色に凝固せるを、西へと落ちたる冷魂の、さびにおぼろなる弧線を引いて
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
物暗き牢獄に鉄鎖のさびとなりつつ十数年の長きを「道義」のために平然として忍ぶ。荘厳なる心霊の発現である。兄弟は一人と死に二人と斃る。
霊的本能主義 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
氷の塊かとも見ゆる冬の月は、キラキラとしたさびしい顔を大空に見せてはをれど、人は皆夜寒に怖ぢてや、各家戸を閉ぢたれば、まだ宵ながら四辺寂として音もなし。
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
しかし声は少しさびを帯びた次高音になっているのである。
木精 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「留守か。では爺、そちが下赤坂しもあかさかの城へひきつれて行け。そして物具もののぐ奉行の佐備さび正安へ渡すがよい。さきにも諸職の工匠たくみが入っていること。正安が心得おろう」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
午後の日影が黒みがかつたどぶの水の上にさびしくさした。
百合子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
黒吉は、こうしたさびしい時には、何時までも、独りでいたかった。独りでならば、一生懸命、こらえられる泪も、優しい慰めの言葉をかけられると、却って、熱湯となって、胸の中を奔流するのだ。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
眠元朗は全く明瞭はっきりすぎるくらい明らかな寂漠さびしい風表かざおもてっているような顔をしていた。——しかしかれは黙ってむしろ気難しそうに口をゆがめて返事をしなかった。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
山葵さびのきいたのを口にふくむと鼻の裏側をキュッとくすぐられる、あの一種の快さ、あれにちょっと似た不思議な爽快そうかい感を与える声で、少なくとも私には少なからず魅力的であった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
槐葉前蹤を期し難し、と云って、少し厭味いやみを云って置いて、柳枝左臂さびに生ずべしと、荘子を引張り出してオホンと澄ましたところなどは、成程気位の高い公任卿を破顔させたろうと思われる。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雨はやみ、風は起らず、鳥も歌わない、虫も鳴かねば、水音も聞えぬ、一行のきょうじ声が絶えると、しんとして無声、かくも幽寂さびしき処が世にもあろうかと思われた。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
そのとき麗姫の顔にはさびしいとも恥かしいとも云い切れない複雑な表情が走った。支離遜はかつて彼女にこんな表情の現れたのを見たことが無かった。
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
風流人の浦島にも、何だか見當のつかぬ可憐な、たよりない、けれども陸上では聞く事の出來ぬ氣高いさびしさが、その底に流れてゐる。
お伽草紙 (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
今一人は父を流離瑣尾さびの間に認識して、久しく家に蔵匿ざうとくせしめて置いた三宅氏の後たる武彦君である。私は次に父を弁護してくれた二人の名を挙げる。丹羽寛夫君と鈴木無隠君とである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
クッキリと黄色い光線をびている甃石の上は、日蔭よりも淋しかった。青空も、往来も、向う側の家々も、黒眼鏡を通して見るように明瞭はっきりとして、荒廃さびれて見えた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
それがために佐竹の原はたちまちにまた衰微さびれてしまって、これから一賑わいという出鼻をたたかれて二度とち上がることの出来ないような有様になり
いくら惡人あくにんでも、親子おやこじやうはまた格別かくべつへ、正直しやうじきなる亞尼アンニーは「一寸ちよつとで。」とそのをば、其邊そのへんちいさい料理屋れうりやれてつて、自分じぶんさびしい財嚢さいふかたむけて
津軽海峡の鉄錆さび色の海の中へ突き出した孤独な岬の上に建っているこの「灯台の聖母修道院ノオトルダム・ド・ファール」にもこんな風に気ぜわしい春がくる。
葡萄蔓の束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おのずからな人間の錆味さびが、彼には、古天妙こてんみょう釜肌かまはだのように自然身についていた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)