さび)” の例文
そうすると、すげた中身の廻りに空気が入らないからさびが来ない。それをうまく拵えるようにさせる。又柄を削るのも難かしい。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
わづかうかゞひ得たり、この芙蓉の根部より匐枝ふくしを出だしたる如き、宝永山の、鮮やかに黒紫色に凝固せるを、西へと落ちたる冷魂の、さびにおぼろなる弧線を引いて
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
「正に一言もねえ——と言いたいが、番頭さん、お前さんの着物の脇に、重い物を持って破れた跡があったり、金具のさびが付いているのはどうしてくれるんだ」
さびのある低い声で入つて来る客に叮重に挨拶しながら、その度に手を袴の下から出して奥の間へ誘つた。この「さやうで御座ります」といふのが直造の口癖だつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
の近くには黒いさび痕跡あとさえ見えていたが、彼女はそれを右手の指の中に、逆手さかてにシッカリと握り込むと、背後うしろの青白い光線にかざしながら二三度空中に振りまわして
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その坊主頭の盲目のおばあさんが、キンボウとヤイチャンを前にならべて、さびた渋いのどで唄の素稽古すげいこをする。そばで聞いていて二絃琴の唄はすっかり暗唱しているのだ。
「いっつもさびだらけだ! 父ちゃんの指はいっつも銹だらけだ!」と小ジェリーは呟いた。
労働者どもがそんなに威張り出したも誰のおかげだ、義理知らずめと詈っても取り合ってくれず、身から出たさびと自分を恨んで、ひもじく月を眺め、膝栗毛ひざくりげを疲らせた者少なくなかったは
巨鐘おほがねさびのやうなる
寂寞 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
心殘のさびも無く
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
とどこほさびの緑に
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「正に一言もねえ——と言ひたいが、番頭さん、お前さんの着物の脇に、重い物を持つて破れた跡があつたり、金具のさびが付いて居るのは何うしてくれるんだ」
さびのある鍵屋の隠居の声が響いた。しかし誰もすぐに立たうとはしなかつた。身内の者が済んだ後でも順位はおのずからきまつてゐるのだつた。房一のうしろの方で誰か低い声で何か云つてゐた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
六代目菊五郎のそのさびた声が室の外まで聞える。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)