さび)” の例文
一段高い廊下の端、隣座敷の空室あきまの前に、唐銅からかねさびの見ゆる、魔神の像のごとく突立つったった、よろいかと見ゆる厚外套、ステッキをついて、靴のまま。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
物暗き牢獄に鉄鎖のさびとなりつつ十数年の長きを「道義」のために平然として忍ぶ。荘厳なる心霊の発現である。兄弟は一人と死に二人と斃る。
霊的本能主義 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ここでわれわれは身を投げるか、弁慶の薙刀なぎなたさびとなるか、夜鷹に食われるか、それともまた鍋焼うどんに腹をこしらえて行手の旅を急ぐかである。
おほよそ手の觸るべきもの、目の視るべきもの、いづれか死滅せざらん。されどペトルスの刀いかでかさびを生ずべき。寺院の勢いかでか墮つるあるべき。
世間は気次第で忌々いまいましくも面白くもなるものゆえ、できるだけは卑劣けちさびを根性に着けず瀟洒あっさりと世を奇麗に渡りさえすればそれで好いわ、と云いさしてぐいと仰飲あお
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
うしたことか傍にあるのは、持ち慣れた、磨き立つた、好く油を引いた鳥銃ではなくつて、古い銃身には一面にさびの附いた、撥条はじきの落ちた、を虫の喰つた鳥銃です。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
綻びた下から醜い正体が、それ見た事かと、現われた時こそ、身のさび生涯しょうがい洗われない。——小野さんはこれほどの分別を持った、利害の関係には暗からぬ利巧者りこうものである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
丸いもの! おおかた一つのさびだらけの銭! そのほか瀬戸物のカケラが二つ三つ出て来た。
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
八畳の座敷に余るようなさびを帯びた太い声がした。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
さびが附いて貨幣の値が出るのだ。
世間は気次第で忌〻しくも面白くもなるもの故、出来るだけは卑劣けちさびを根性に着けず瀟洒あつさりと世を奇麗に渡りさへすれば其で好いは、と云ひさしてぐいと仰飲あふぎ、後は芝居の噂やら弟子共が行状みもちの噂
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
さびのある、りんとした声がかかった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)