さび)” の例文
風流人の浦島にも、何だか見当のつかぬ可憐な、たよりない、けれども陸上では聞く事の出来ぬ気高いさびしさが、その底に流れてゐる。
お伽草紙 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
氷の塊かとも見ゆる冬の月は、キラキラとしたさびしい顔を大空に見せてはをれど、人は皆夜寒に怖ぢてや、各家戸を閉ぢたれば、まだ宵ながら四辺寂として音もなし。
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
此の、ひきむしられるようなさびしさの在る限り、文学も不滅と思われますが、それも私の老書生らしい感傷で、お笑い草かも知れませぬ。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
あんまり小さく醜くせているので、さびしくなって、おおぜいの人の前で泣いてしまった事さえございました。
ヴィヨンの妻 (新字新仮名) / 太宰治(著)
お母さまのおとむらいも、とっくに済ましていたのじゃないか。ああ、お母さまは、もうお亡くなりになったのだと意識したら、言い知れぬさびしさに身震いして、眼がさめた。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)