はて)” の例文
どこか北海道のはてへでも行って君太郎と一緒に世帯を持って生涯を送ってしまおうかと、胸の迫るような感慨に打たれたのであった。
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
人と自然と、神の創造つくり給える全宇宙が罪の審判のために震動し、天のはてより地のきわみまで、万物呻吟しんぎんの声は一つとなって空にちゅうする。
そしてそのはてには一本の巨大な枯木をそのいただきに持っている、そしてそのためにことさら感情を高めて見える一つの山がそびえていた。
蒼穹 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
夜のやみは雨にれた野をおおうていた。駅々の荒い燈火は、闇に埋もれてるはてしない平野の寂しさを、さらにびしくてらし出していた。
……もう書くのが面倒になった、この手紙を君が読む頃はもう僕はこの世にいまい、はてしない海原が、僕を待って騒ぎたてている。
極北の神秘「冥路の国セル・ミク・シュア」は実在せり! エ・ツーカ・シューは死体のまま橇を駆り、晦冥かいめいの吹雪をつき氷のはてへと呑まれたのだ。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
鎌をいてその上に腕をくみ合せ、何処を見るともなくきょとんとした眼つきをして、はてしもなく種々いろいろなことを思いだしていた。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
減らして目出度めでたく大団円になるじゃないか、俺だって青い壁のはてまで見たかったんだが、そのうちに目が覚めたから夢も覚めたんだ
火星の芝居 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
どこかとんと見当もつかないほど遠くの方に、まるで世界のはてにでも立っているように思われる交番の灯りがちらちらしていた。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
間もなく、間もなく鉄の格子は崩れ落ち、これら監禁されている人々は残らずここを出て、地上のありとあるはてへと飛んで行く。
清澄は安房あわの国の北の端であって、洲崎すのさきはその西のはてになります。いくら小さい国だと言ったところで、国と国との両極端に当るのです。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがてはてしもなく広い砂原へ来ますと、わだちが砂の中へ沈んで一歩も進まなくなりましたから、今度は馬車を乗り棄てて徒歩かちで行きました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ギュヨウをはじめフォルケルト、デッソアール、リップス等々の近代美学がついに戦いのはてに拠るものはすなわちそれである。
近代美の研究 (新字新仮名) / 中井正一(著)
赤や金色や灰色の淡い筋がはじめて地平線をはてから涯までかくした時、彼等は川上によこたわっている町や村かの大きな黒影を見た。
細かな、柔かな無数の起伏を広々とはてしもなく押し拡げて、彼方には箱根山が、今日もまた狭霧さぎりにすっぽりと包まれて、深々と眠っていた。
闖入者 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ここでは月は、まるで大地のようにはてしなくひろがり、そして地球は、ふりかえると遥かの暗黒あんこくの空に、橙色だいだいいろに美しく輝いているのであった。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はてしもない茫漠ぼうばくたる雪原がただ一面に栄光色に輝いて、そのすえは同じような色の空のなかへ溶けこんでいる。雪の大海原。
兎もあれ、われらの眼に映る大洋は、最早はても無く續いてゐる大海原ではなくて、彼岸へ渡ることの出來る大洋である。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この春、ちょうど夕方であったが、木津川へさしかかる前、菜の花の咲き乱れた遠いはてに、伊賀の古城が夕映ゆうばえをうけて紫色に燃えているのを見た。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
……御厨の前の幕をかかぐる時、神体は見えざれども数千人の人々は声を揃えてサンタマリヤを唱う。その唱命は海の彼方の異国のはてにまで響きます。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もの音の杜絶とぜつした夜半、泥海と茫漠ぼうばくたる野づらのはてしなくつづくそこの土地のあやしい空気をすぐ外に感じながら、ひとりでそんなことを考えていると
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
此海やはてし知られね、この荒れや測り知られね、初夜しよや過ぎて、また後夜ごやかけて、闇ふかくはねふる千鳥、この雨を、また稲妻を、ひた濡れて乱るる千鳥。
その高館たかだちあとをばしずかにめぐって、北上川の水は、はるばる、瀬もなく、音もなく、雲のはてさえ見えず、ただ(はるばる)と言うように流るるのである。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其処にははて知らぬ蒼穹さうきゆうを径三尺の円に区切つて、底知れぬ瑠璃るりを平静にのべて、井戸水はそれ自身が内部から光り透きとほるもののやうにさへ見えた。
橋の上に立つて緑野の中へはて知らず白くけぶつてく下流を見渡した時、ヹルサイユきう運河キヤナルなどは児戯だと思つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
と、はてしのない緑の平原と雲の色が、放浪の孤独とやるせなさにむせんで見えた。俺は吐息と いきをついて女をみた。
苦力頭の表情 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
そしてもし王侯が——とモンテスキウは曰う——今日ヨオロッパにおいて同様の暴威を振うならば、北方に駆逐され、宇宙のはてに閉じ込められた諸民族は1
(夢みるように)……遠い、遥かな夢の野に、あてどもなく、はてしもなく、ただ彷徨さまよいあるく彼でした。………
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
舟は彼のからだとともにはげしく揺れ、空には星が輝き、そうして彼らははてしのない淋しさの中へ出ていった。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
ながれの女は朝鮮に流れ渡つて後、更に何處いづこはてに漂泊して其果敢はかない生涯を送つて居るやら、それとも既に此世を辭してむしろ靜肅なる死の國におもむいたことやら
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そして遠い所を見渡すようにしていたが、見当さえも定めかねた目にず映じたものは、時空のけじめを超えて、はてしもなくうごめく世界の獣の如き幻影である。
今朝けさふと、雨上りの草の庭を眺めてゐて、海をおもつた。それもはてしないひろい大洋が戀しくなつたのだ。
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
黒檀こくたんの森茂げきこの世のはての老国より来て、彼は長久の座を吾等のかたはらに占めつ、教へて曰く『寂滅為楽』。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
おほいなる都會をうづつくさうとする埃!………其の埃は今日も東京の空にみなぎツて、目路めじはてはぼやけて、ヂリ/″\り付ける天日てんぴがされたやうになツてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
前夜、ねむられぬ頭は重く、はてしないみどりの芝生しばふに、初夏の燦然さんぜんたる風景も、眼に痛いおもいでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
これに反して、唯神に導かれる如き心持で創作するものは常に感情の雨にうるおいはてなき林に遊ぶような心持がある。私はこの方を採る。(『玉藻』、二八、三)
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
二進にっち三進さっちも行かないぬかるみだし、身を切るような風、ふぶき、行けども行けどもはてしない道のり。
これでははてしない話で、結局は三十一日も来て、除夜の鐘でも聞いてからになるのではないかと危ぶまれた。いや、心の裏はさうと決めかかつてゐたのかも知れない。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
海は、はろばろとはてしもなく、濃紫こむらさき色にひろがっていて、何処からか、海鳥の啼音なきねがきこえてくる。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
いつのまにか元どおりな崩壊したようなさびしい表情に満たされてはてもなく君の周囲に広がっていた。君はそれを感ずると、ひたと底のない寂寥せきりょうの念に襲われだした。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
世界、宇宙という事です。十方と同じ意味で、無限の空間、はてしない世界ということです。要するに三世十方とは、「無限の時間」と「無限の空間」ということです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
いやもつと遠くへ——バルチク海のはてまで行かう。出来るなら人間の居ないところまで行かう。北極に住まう。そこでは太陽の光はただ斜に地球をかすつて行くだけだ。
ぐらりとかしいだ船を踏みつけるようにして、ひょうぼうはてしないくらやみの海を、ひろがった河口の先にしげしげと見入るのであった。彼は、ぶるッと身ぶるいをした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
堕ちつめて行く路のはてにこの青年の献身が拠りどころであり得ることも考へられるのであつた。
母の上京 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
みてゐると、瞳といふものの圓みが人間の持つてゐる比類のないはてしない、廣漠な領域を意味してひろがる。その球盤のきれめを見きはめようとしてゐる、鹽氣のない海。
はるあはれ (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
荒寥こうりょうとした高原の、はてしない崖縁を、僕らは、どこへ行くとも知らず、とぼとぼと歩いていた。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
私はいろ/\な勞働や行商などをして、雪の多い寒い北の島國を、はてから涯へと彷徨ひ歩いた。私はすつかり放浪に慣らされてゐた。私は家のことも彼女のことも想はない。
雪をんな (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
いつの原始むかしから湛え始め、いつの未来まで湛え続くとも判らぬ海。はてしも知らぬ海。あらゆるものを育みそだて、あらゆるものを生きて働かせ、あらゆるものを葬り呑んで行く海。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
けれどその代り、はてしもない大洋と、限りない蒼空あおぞらと、それから、波も、風も、オゾーンも、元気な水夫達の放埒ほうらつな生活も、すべてはみな、叔父の若さを養うのには充分であった。
天竺てんじくはてから来た法師で、昼こそあのように町を歩いているが、夜は墨染の法衣ころもが翼になって、八阪寺やさかでらの塔の空へ舞上るなどと云う噂もございましたが、元よりそれはとりとめもない
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)