ほっ)” の例文
これ実に祭司長が述べんと欲するものの中の糟粕そうはくである。これをしも、祭司次長が諸君に告げんとほっして、あえとがめらるべきでない。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
暗闇の仲間ほど、じつは心から服したい人間中の人間をほっし、また心からうやまいたい光明をつよく求めているものかとも思われる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
委員G「そんなことに気を使う必要はない。わが国ユー・エス・エーは必要とする物を何時でもほっするときに取る権利があるんだ」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
削らざればすなわち朝廷の紀綱立たず。之を削ればしんしたしむの恩をやぶる。賈誼かぎ曰く、天下の治安をほっするは、おおく諸侯を建てゝその力をすくなくするにくは無しと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
でもわたしのほっしていたのは火ではなかった。それは食物であった。わたしはうちの者がスープをうところをながめて、だんだん気が遠くなるように思えた。
当時とうじ幕府の進歩派小栗上野介おぐりこうずけのすけはいのごときは仏蘭西フランスに結びその力をりて以て幕府統一のまつりごとをなさんとほっし、薩長さっちょうは英国にりてこれにこうたがい掎角きかくいきおいをなせり。
少年しょうねんは、じっとして、いえにいられなくなって、こうさけぶと、そとほうしました。しかし、自由じゆうほっするかれたいして、だれもとがめるものはありませんでした。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その才能が、僕にある、と日本一の新劇俳優が、うっかり折紙をつけてしまった。ああ、喜ばじとほっするも得ざるなり。しめたものさ。僕には才能が、あったのだ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
論者文字を改めて通用に便びんせんとほっし、あるいは平仮名を用いんとい、あるいは片仮名を用いんと云い、あるいは洋字に改めんと云い、あるいは新字を作らんと云い
平仮名の説 (新字新仮名) / 清水卯三郎(著)
ロミオ あの石垣いしがきは、こひかるつばさえた。如何いか鐵壁てっぺきこひさへぎることは出來できぬ。こひほっすれば如何樣どのやうことをもあへてするもの。そもじうち人達ひとたちとてもわしとゞむるちからたぬ。
森 主君のほっするところには、絶対に服従する。ふふうむ、絶対に、理も非もなく——。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
エピホードフ ぼくは進歩した人間で、いろんな立派な本を読んでいるが、それでいてどうしても会得えとくできんのは、結局ぼくが何をほっするか、つまりその傾向なんですよ——生くべきか
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「意志だよ、自分自身の意志だよ。これは、権力までも与えてくれる。自由よりもっととうとい権力をね。ほっする——ということができたら、自由にもなれるし、上に立つこともできるのだ」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
外部の力の援けがなかつたならばそこに一つの仕事を形ち作ることは出来なくはないだらうか? その私のほっし求めて居る外部の力の一部分には、あの人も与らなければならない筈である。
脱殻 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
子規子を知らんとほっせば、子規子の議論と子規子の製作とを、突き抜けてじかに子規子その人を見よ、子規子の議論と子規子の製作とは、決して子規子の満足したるものにあらざるなりと。
絶対的人格:正岡先生論 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ほっすると否とにかかわらず、ぼくねんじんの顎十郎がいつの間にか、江戸でこんな大勢力になっているということは、たれもあまり知らない。いわんや、叔父の庄兵衛などが知ろうはずがない。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もしそれ虚妄きょもうなるがごとき、なんぞ信を開明の民に得るにたらん。いわゆる神教政治なるもの、その実は神教にあらずして、愚民を哄騙こうへんするの術なり。蛮王、一詭道きどうをもって万民を統御とうぎょせんとほっす。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
こういう僕もこれより言わんとほっすることについて、みずから反対の例となるの恐れなきにしもあらざれども、言わずにおれば、なおさら悪例の一つとなるに過ぎぬから、しばらく読者の耳をかりたい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
この感覚鋭敏のときにあたり染習せんしゅうせし者は、長ずるに及んでこれをあらためんとほっするもべからざる、なお樹木の稚嫩ちどんなるとき、これを撓屈とうくつすれば、長ずるにおよんでついにこれをなおくすべからざるがごとし。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
行楽何知鬢欲華 行楽こうらくしてなんらんびんしろからんとほっするを
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
声で、もしやと思わぬでもなかったが、あまりにほっしていたものが余りにたやすく目の前におかれた驚きの反作用が奇異な戦慄にもなるのであった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するとかれはわたしのほっしていたありったけの同情どうじょうをわたしにそそいだ。かれはどうにかしてわたしをなぐさめようと努力どりょくした。そして失望しつぼうしてはいけないと言った。
もし、すこしぐらいのいたさを我慢がまんをして、手術しゅじゅつけるなら、十ぶん健康けんこうかえすことができるのを、どうしても、その婦人ふじんは、手術しゅじゅつけることをほっしなかったのです。
世の中のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
芭蕉ほどの名人がその晩年に於いてやっと予感し、憧憬しょうけいしたその最上位の心境に僕たちが、いつのまにやら自然に到達しているとは、誇らじとほっするもあたわずというところだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もしこの赤ペンキを綺麗に落さんとほっせば、抛げつけたる当人の許を訪ねて、ペンキ消し液を乞いうけるに非ずんば、金輪際こんりんざい消えることなし。すなわちその際に、運転手の油をウンと絞るなり。
発明小僧 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
今日此処ここに集まりました人人はあながちクリスト教徒ばかりではありません、されどいずれの宗教においてもこれを云わんとほっするものであります。ただしこれあえて博士の神学でもありません。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
得んとほっせしがかね今業平いまなりひらと世評ある某侯爵はついに子爵の許諾ゆるし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
把酒南楼夜欲残 南楼なんろうに酒をり よるのこらんとほっ
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しょうんとほっせばまず馬を射よ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかもその正成は微力だし、また、現況の家庭以上に、正直、何をとほっする欲望もない凡人だった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分じぶんは、もうなんにも刺戟しげきほっしない。またたいした欲望よくぼうもない。ただ、平静へいせいにじっとしていたい。この電燈でんとうが、自分じぶんであったら、自分じぶんは、どんなに幸福こうふくであろう……とおもったのでした。
と、赤羽主任は、何故か悠然ゆうぜんと構えて急ぐことをほっせぬもののようである。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ああ、伸びんとほっするものは、なぜ屈しなければならぬのか!
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わたしたちのほっしているのは火とねつであった。
子どもが、ほっしる物を、鼻さきに見たように、秀吉の顔に、ぱっと、意欲の血が赤くさした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんという単調たんちょうで、変化へんかのない光景こうけいであったでしょう。よくも、電燈でんとうが、こうして、おな光景こうけいらし、またつめているものだとかんがえられました。しかし、老工夫ろうこうふは、休息きゅうそくほっしていた。
「お前がそれをほっするなら……」
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)